第6話 2日目B:聞き出すべき情報


「『特別な情報』……?」

 ボクは尋ねた。

「はい。 包み隠さず言いますと、我々は彼女が“未来からタイムスリップしてやって来たのではないか”と考えています」

「タイムスリップ?」

「あ、いえ……、今のは少し言い過ぎました。 しかし彼女の持っている情報は“それの類(たぐい)”であるのです」

 意味が分からなかった。

「つまりはどういう事なんだい?」

「えーとですね……」

 助手君はボクから一度視線を逸らしてみせると、向き直っては言い辛そうにこう言った。

「私が直接“その内容”を言う事は出来ませんが、彼女は“未来の知識を有している”のです」

「未来の知識?」

「はい、そうです」

 助手君は言う。

「それはとても人類にとって“有益な情報”であるのです。 けれども彼女はその情報を“我々に伝えようとはしない”のです。 そこで『組織』のメンバーの中からは『暴力や薬物等を用いて吐かせるべきだ』という意見もありました。 しかし“上の方”は彼女との“友好関係を築き続ける事”が“利益である”と考えて、そこで“対話”という形式によりその情報を手に入れたいと考えています」

 確かに“彼女”は意志が強い(固い)ように思われる。 と言うか今、ボクは“犯罪まがいの事”を聞かされているのでは無かろうか?

 ボクは尋ねた。

「ちょっと待ってくれ。 “その情報”が“どんな情報”であるのか知らないが、これは合法的な事なのかい?」

「はい、特に問題はありません。 私達がタチバナ先生に“この施設に泊まり込みをして貰っている事”と、彼女に“この施設にて暮らして貰っている事”は“同じ事”であるのです。 法律に則った(のっとった)行為であるのです」

 “嘘くさいな”とボクは思った。

 ボクは尋ねた。

「そこまでして“彼女の情報”は“手に入れるべき情報”であるのかい?」

「はい。 聞き出すべき情報が『はい』か『いいえ』で済むものならば“とても話は早い”のですが、例えば聞き出すべき情報が『何かの設計図』であったり、『10万文字近くにもなる文章量』であった場合、情報の欠損が発生するのは避けられません」

「そう、だね……」

 まるで「はい」か「いいえ」で済むのなら“暴力や薬物を使っても構わない(かまわない)”といった物言いだった。 いや、既に“それらを行った後”であるのかも知れ遣らない。 それ故“彼女”は助手君の事を嫌っており、彼女の性格(頭?)が“アレ”なのは“それの後遺症”という可能性も無くはなかった。

 ボクは尋ねた。

「ところで彼女はいったい何時(いつ)からここの『施設』に居るんだい?」

「えっと……。 いちおう“一週間ほど前から”という事になっています」

 この娘は“嘘を吐くのが下手”なのだろうか? それとも“悪意の無い存在”であるのだろうか……。 ボクは少しだけ“嫌になっていて”くれていた。

「それじゃあ次の質問だ。 以前に君は(ボクに)“彼女との面会は7日以内で済むよう”言って来た。 どうして時間制限を設けるんだい? “話の聞き出し”が目的ならば“付き合いは長い方が良い”んじゃあないのかな?」

「そうですね……」

 そう言うと、助手君は少し考え事をしてその後に、

「でしたら彼女は“飽きっぽいから”という理由で如何(いかが)でしょうか?」

 と、「にっこり」笑顔で微笑んだ。

「…………」

 寸間(すんかん)。

「ま、良っか……」

「先生……?」

 しかしまあ“どうでも良いような話”であった。 実際に“一週間以内に情報を聞き出さなければならない理由”があったとしても“どうでも良いようなお話”だった。 ボクは頼まれた仕事をするだけである。

「それじゃあ朝食を持って来てはくれないかい。 いい加減にお腹がすいてしまったよ」

 そしてボクは助手君に対してこう言った。

「ボクはアナタを疑わない。 ボクは“淡々と仕事をするだけ”……。 そうだろう?」

「はい♪」

 助手君は「にっこり」笑顔で了承をした。

 と、ボクはベッドの傍ら(かたわら)にあった「チャイナマーブルの入れられたビン」が目に留まり(とまり)、こう言った。

「そうだ。 ここに置いてある“キャンディー”は好きに食べても良いのかい?」

「あ、はい。 先生の大好物だったって伺って(うかがって)います」

 ボクは「誰にそんな話を聞いたんだ?」と思いはしたが、敢えて(あえて)尋ねる事も無いでいた。

 そしてボクは助手君からは視線を逸らし、助手君もまた

「それでは失礼致します」

 と、ボクへと一礼をしてその後に、静かに部屋を後にした。


 朝食を取り終えたボクと助手君の二人は「特別室」の前までやって来ていた。

 助手君は言う。

「先生、準備は宜しいですか?」

「ああ、良いよ」

「…………? どうかなさいましたか?」

 助手君が“ぶっきら棒”な態度をしていたボクへと問うた。

「いや、何でも……」

 助手君は“かわいい顔”をしていたがその本音は知れたものでは無くてあり、最悪“彼女(カーニス)”よりも“裏と表がありそう”だった。

「……そうですか。 それでは先生、先生には今から『特別室』へと入って頂きますが、“彼女”は先生が入室をした後に部屋へと入って貰います」

 昨日も聞いた説明である。

「彼女との面会は『ピー』という音が鳴ってから始まります。 そしてこの『ピー』という音ですが、これは彼女が任意で鳴らします。 先生は室内にて“目を閉じる”等リラックスをしながらお待ち下さい」

 これも昨日聞いた説明である。

「それと先生の身に“何かがあった”と(モニターで)こちら側が判断をしたその場合、昨日と同じように『ピー』と音を鳴らしては面会を中断させる事があります」

「あれは君の仕業だったのかっ!?」

 ボクは声を大きく上げていた。

「あ、はい……。 えっと、『特別室』にある先生のテーブルの下にも『非常ボタン』があったハズです。 先生自らが“会話を切り上げたい”と思った場合にはボタンを押すようお願いします……」

「ああ……分かったよ……」

 助手君は少し萎縮をしていた。

「それと……」

「それと……?」

 助手君は言う。

「先生の部屋へと届けられている御食事ですが“要望にお答えする”そうなので、晩御飯の内容は『ナースコールにて伝えて下さい』だそーですよ♪」

「あ、ああ……考えとくよ」

 ボクは『今このタイミングにてそれを言うのか?』と怪訝(けげん)な顔をしてみせた。

 そしてボクは切り替える。

「それじゃあ行ってくる……」

「お気をつけて~♪」


 女は笑顔で「ひらひら」と手を振りながらに男の事を見送った。

 寸間。

「さてと……」

 そして男が部屋へと入って姿を消すと、女は営業スマイルをやめていた。


 「特別室」の内側は相も変わらず「無音」であった。 “あちら側”の部屋には“彼女”の姿は未だ無く、ボクは「部屋を仕切っている壁」の方へと近づいてみては、嵌め込まれている「ガラスで出来た壁」を通して“あちら側”の部屋を覗いて(のぞいて)みせた。 そこには“こちら側”と同じくに「テーブル」と「イス」が置かれてあって、「テーブル」の上には「マイク」と「飲み物」、それと「チャイナマーブルの入れられたビン」が置かれてあるのが見えていた。 ボクは「ガラスで出来た壁」に対して“手を振って”はみせたのだけれど、“ガラスで出来た”この「壁」は“反射”をする事が無いでいた。

 その後ボクは席(イス)へと座り、彼女の登場を暫し(しばし)待つ。

『そう言えば彼女の“本当の声”はどんなんなんだろう……』

 部屋の“こちら側”と“向こう側”は「壁」にて完全に仕切られていては“音が伝わらない造り”になっており、互いに「マイク」を通しての会話を行ってみせていた。 昨日はその事を忘れていて“彼女の声は知らない”と結論付けてしまっていたが、「彼女の声」は“変声機を通した声”である可能性があるのであって、「本当の声」はどんなんなんだろう……と空想事をしてみせていた。

「…………」

 それから少ししてボクは「ゆっくり」と目を閉じた。 そしてココロを落ち着けたかしらと思えた頃に「ピー」という小さな音が聞こえて来ては、ボクは両目を開けていた。

「お…は…よ…う♪ タチバナ君♪」

 目の前には「ウェーブ掛かった黒髪の乳のデカイ女」が居て、ボクへと微笑み掛けていた。 「彼女の声」は何と言うか「小悪魔っぽく子犬の様なヘビに似た様な声」だった。

 ボクは言う。

「おはようカーニスさん。 早速だけど(質問)構わないかな?」

「なぁに?」

 助手君の話ではこの部屋には「隠しカメラ」が仕掛けてあるのだそうだった。 けれどもボクは尋ねてみせた。

「実はボクは君から『とある情報』を聞き出すためにココへとやって来てるんだ。 その事を予め(あらかじめ)伝えて置くのがフェアであるって思ってね。 で、だ……。 『組織』によると君は“スゴイ情報”を握っているらしくって、しかし“暴力や薬物を使っての情報の聞き出しは行わない”というのが『組織』の方針であるらしい。 そこでボクに対しては金を払って君のもとへと寄越してみせて、“情報を聞き出したいと考えている”……のだそうなんだ」

「フムフム……」

 彼女にとって“ボク”という存在は“カウンセラーの様に思われている可能性があるのだろう”と考えた。 そこでボクは正直に“話してみよう”と考えた。

「これは“ルール違反”であるかもしれない。 けれども直接もって君へと聞こう。 『君の持っている情報』というのはいったい何であるんだい?」

 ボクは直接的に尋ねてみせた。

「…………」

 すると彼女は少しだけ目を閉じては頭の中身の整理をすると、次いで(ついで)大きな目を開いてはボクへとこう言って来た。

「私も正直に教えてあげる。 そうね……、それは『若返りの秘術』であったり、『次世代破壊兵器』であったり、『小児ガン患者の半数ぐらいを救い遣る術(すべ)』であるだとか♪」

 彼女は笑顔でそう言った。

 どうやら“これらの情報”が、ボクが「聞き出すべき情報」であるらしかった。

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