第2話 勇者の教育係をクビになる②

「生き抜いていくための、力…」

「そうです」

「戦う力、魔族を打ち倒す力ではないのか」

「そうです」

「馬鹿な!」


また横槍を入れるのは、先程同様バルガス。


「貴様は何を言っているのか分かっているのか!」


思わずロウに向かって歩み出すバルガスを、両脇の二人が制する。


「やめろ。御前で狼藉を働くつもりか」


バルガスの上手かみては第二大隊長のブレラ、下手しもては魔導教隊長のアルミナスと、二人とも細身の女性ではあるが、彼女らの制止にバルガスは踏み留まった。だが、舌鋒は止まらない。


「貴様、此度の『勇者召喚』の意味を知っているのか!姫が身を削る思いで呼び寄せた異世界人は、我ら王国の悲願に欠かせぬ戦力ぞ!魔族に奪われた領土と人!そして失った王国への信頼!これら全てを取り戻さねばならぬ時に、生き抜く術だと!奴らの力は使う時、使うべき場所にこそ使わねばならぬ!そんなものに割く余裕などない!貴様は何を考えている!!」


その怒りを風に柳と受け流し、ロウは王に尋ねる。


「…王も、同じお考えですか?」


王は黙して答えない。


「彼らは見ての通り、まだ10代の若者です。それも戦いとは無縁の世界に生きてきた『コウコウセイ』という学生に過ぎません。それをこちらの都合で呼び寄せて、さあ武器を取れ、戦え、そして」「ロウ」


リーティアの制止に構わずロウは続ける。


「死ね、と仰るのですか?」


ロウの言葉に場の空気が凍る。

しばしの沈黙の後、口を開いたのは、王でもリーティアでもバルガスでもなく、ここまで一度も言葉を発しなかった王女、フィーネだった。


「そうです」

「…この国に、縁もゆかりもない少年達を呼び寄せて、見知らぬ地で命を捨てさせると?」

「そうです。その罪科は全て私が負います」

「今回の召喚で呼び寄せたのは40人。この全員の命に王女が責を負うと?」

「無為に死なせるつもりはありません。そのための教育であり、訓練なのです」


きつめの表情に覚悟を足して、フィーネが続ける。


「そして、それこそが王家の、そして彼らを呼び寄せたわたくしの責務でしょう」


そう言うと、フィーネは父親に目を向け、王はフィーネの言葉を引き継いでロウに声を掛ける。


「フィーネの覚悟は聞いての通りだ。彼らを死なせるために呼び寄せた訳ではない。むしろ、彼らがこの国で末永く生きていくために今は力が必要なのだ。其方の考えも理解できるが、王としては認められぬ」


ロウは王の言葉に対して、沈黙した。

それは、王や王女の覚悟に感じ入った訳ではなく、


何言ってんだこいつら、と呆れ果ててしまったからである。


親父は親父で、昔から比べるとすっかりしょぼくれてるし、娘は娘で、なんでこんな育ち方しちゃったかなあと、無用な悲壮感に頭が痛いのを通り越して情けなくなってくる。とこうも変な方向に行ってしまうのか。

ロウが複雑な表情で沈黙してるのをどう察したのか、リーティアがロウに向かって、


「ロウ、王の意思に従って彼らの教育をやり直す気はあるか?」


と問うてくる。


「いや、えーと、その…」

「…残念だが、王と王女の覚悟が貴方には伝わらなかったようだな。王?」


苦い表情で王が応じる。


「是非もなかろうな」


改めて周囲を見渡すと、皆一様に王女の言に酔っているようで

これに逆らったり、突っ込んだりすると多分バルガスに握り潰されるんではないかとロウは思い、ついでにいうと、これ以上この居心地の悪い王城に残る理由もないので、そのまま決定を受け入れた。


「B級傭兵ロウ、勇者の教育係の任を解き、王城からの退去を命ず」

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