3試合目

 2020年、高校生最後の夏。周りが受験だ高校最後の思い出だと騒ぐ中、俺は長谷川に一通のメッセージを送った。

「今週土曜日、15時からゲーセンで」

 それだけのシンプルなメッセージ。返信はただ一言「了解」だった。


 約束の日まで、ただあいつに勝ちたいという意思を純粋に尖らせる。

あいつのこれまでのプレイング、そして成長したプレイングをすべて想像して、立ち回りを考える。

ひたすらコンボの精度を高め、あらゆる状況で最大ダメージを与えられるよう、手に動きを染み込ませていった。


 当日、俺と長谷川は無言で向かいあわせに座り、100円を入れた。ほんの少しコインの投入を遅らせて、あいつに俺がチャレンジャーとして挑む。


NEW CHALLENGER!!


 1マッチ目の結果から言うと、俺は負けた。

成長したあいつの動きは俺の想像の遥か上の上、雲の上にいた。このマッチは捨ててでもあいつの全てをさらけ出させる、と逃げ回りつつ様々な形で攻撃を仕掛けた。ことごとく芸術点が入りそうなまでに躱されてしまった。結果として、コンボを決められた俺のキャラは倒れてしまった。

 次を取らないといけない、という焦りの中、あいつの立ち回りの隙や弱点を考えて攻めていくと、俺の思った以上に攻撃が入り普段失敗しがちなコンボが成功したこともあって、2マッチ目はなんとかもぎ取ることができた。

 

 最終マッチ、俺はもう何も考えずにただ勝つことだけを意識した。邪念と雑念が消えた中で見えてきたのは、一つの勝ち筋だった。

 俺が今まであいつに教えてきたことは綺麗な攻撃だった。コンボであれば最初から最後まで、きれいに繋げることで最大火力が叩き込めると。

無論、コンボを失敗することは当然あるが、『意図的に』コンボを失敗させて次のコンボを再始動させることは教えていない。

 コンボ主体のゲームではいわゆる補正というものが存在する。補正によってコンボ中のダメージを抑制し一方的なゲームになることを抑えている。補正切りとは意図的にコンボを止め、次のコンボをすぐさま始めることで大きなダメージを与えるテクニックだ。

 無論、あいつが知らないわけがない。知識として知っているはずだ。だが、俺が使う様は一度も見せてはいない。俺自身コンボを決めていくことが大事だと考えていたからだ。あいつが対応できない可能性は僅かでもあるはずだ。


 最後のマッチが始まり、気づくとあいつの猛攻に追い込まれていた。ミスが許されない状況にまで追い込まれていた。昂りを抑えて冷静に相手の技を見切ってガードをしていく、その刹那わずかに見えた隙で俺のターンをもぎ取っていく。

 あいつのガードを崩すように攻撃を畳み掛け、コンボをするチャンスを奪い取る。どこで仕込むかを意識しつついつもと変わらないようにコンボを繋げ、そして最後の最後に補正切りをした。


 結果は割愛するが、この1試合が終わった後、あいつはものすごくいい顔をしていた。集中が解けて弛緩した表情筋、楽しそうな表情、幼馴染の俺が久々に見るぐらい笑顔だった。


2501試合

俺   500勝 1987敗

長谷川 1987勝 500敗

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幼馴染と格ゲーと壁 春根号 @halroot

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