2試合目

 2019年冬、ゲーセンから俺は一人で帰っていた。


 長谷川玲子に格ゲーを教えた末路は自分がよく分かっていた。

死にゲーでは幾度となく死を繰り返して攻略し、最終的にRTA(リアルタイムアタック)でもするのかという勢いで効率を極めていくあいつに、対戦ゲームの味を教えてしまえば突き詰めて極めるに決まっていた。

 初めての格ゲーの後、こっそり家庭用のアーケードコントローラーとソフトを買ったらしく、家でもやっていると聞いた俺は、押し入れに眠っていたアケコンを取り出し対抗した。


 ネットでも対戦できるぞ、と長谷川に教えたが「君とやるのはゲーセンがいい」と譲らなかったので、仕方なく付き合ってゲーセンに通っていた。平日は家で練習を繰り返し、土日はゲーセンへ籠もって戦うというスケジュールでひたすらに対戦を繰り返していた。


 実力差で言えばまだ俺が勝っている部分が多かったが、3回やって1回は負けてしまうことがあるほどに、あいつは成長していた。次第に俺の中の焦りが芽生えていき平日の練習時間を増やした。

 それでも実力差のギャップは徐々に詰められていった。


 あいつの成長度合いはとどまることなく、コンボの精度、立ち回り、などが洗練されあいつの実力は俺をとっくに超えていった。負けじと俺も頑張ってはみたものの、過去に格ゲーをやめたときと同じく成長できない壁を自分で見つけてしまっていた。幾度となく知識として勉強し、操作を練習し、これらを繰り返しても「できない」という四文字が目の前に現れる。超える方法すらわからず、ただただ大きな壁として存在していた。

 それでもまだ、俺にとってあいつとの対戦は楽しかった。負け越してようがそれでも成長していくあいつと対戦することはすごく楽しかった。この日までは。


 日課のように長谷川とゲーセンに籠もっていた。

その日の三十試合目ぐらいに差し掛かったとき、俺は大きく負け越していた。連続で二十敗。

エンジンのかかった長谷川のプレイ、負けが重なるプレッシャーに負けた俺。

連敗は必然だった。それでもまだ、「次は勝つ」という意思はあった。

 2マッチ先取のルールの中、かろうじて1マッチをもぎ取りあいつに食らいついて最終マッチ。連戦で疲れたあいつの立ち回りの隙をついてダメージを与えていく。

しかし、体力が半分を切ったところで、高火力のコンボが出せる技を入れられた。もはや諦めて、超必殺技が出るようずっと入力していると、あいつがコンボをミスし、俺の超必殺技が刺さり、俺が勝利した。

 驚いて、あいつの顔見ると複雑そうな顔になっているのが見えた。

「お前、今手加減したのか……」

そう聞くと、長谷川は何も答えなかった。俺は思わず詰め寄って

「俺はそんなお前は嫌いだ」

 そう言ってゲーセンを後にした。


帰路、長谷川へ「お前とはしばらくゲーセンには行かん」とだけ連絡しておいた。

それから、ゲーセンへ行くことはなくなった。


2500試合

俺   499勝 1987敗

長谷川 1987勝 499敗(うち手加減1敗)

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