幼馴染と格ゲーと壁
春根号
1試合目
俺、陣内恭介は長谷川怜子のことが嫌いである。
2020年、高校生最後の年の夏、俺と彼女はゲームセンターにいた。
黙々と格闘ゲームの筐体を通して、殴り合っていた。これが俺たちなりの対話なんだと信じて。
彼女、長谷川怜子が格闘ゲームを始めたのは2年前だ。
高校入学後、華々しいイメージとはよそに現実のつまらない当たり前の日常に潰された俺は、帰宅部に属し毎日帰宅することに精を出していた。
同じ高校に進学した幼馴染である長谷川はショートカットでおとなしい外見のイメージそのままに、文学部に所属しているそうだが幽霊状態らしい。
帰宅し鞄を置いてリビングのソファーに深く座り全身の力を抜いてリラックスしていると、携帯が短く震えた。重い体を起こし、携帯を見ると長谷川からメッセージが来ていた。
『暇』
「ゲームでもしてろ」
『新作はやり尽くした』
「今度貸してくれ」
『いいけど、今のこの暇を潰す方法を教えろ』
何がいいかと考えを巡らせたが、あまりいい考えが浮かばなかった俺は
「ゲーセンでもいけ、ゲームジャンキー」
と返信した。
そこで返信が途絶えたので、不思議に思っているとチャイムがなった。玄関にいたのは長谷川だった。
「どうしたよ」
「ほら、新作ゲーム」
おうありがとう、と受け取ると長谷川はニヤリと笑って、
「代わりにゲーセン行こう」
長谷川に連れ出された俺は近くにある昔通っていたゲーセンへ向かった。
「で、何するよ」と長谷川に聞くと二人でできるゲームがいいとねだるので、UFOキャッチャーやメダルゲームといったキャッチーでポップなゲームを無視して、格ゲーコーナーへ連れてきた。
「ほら、格ゲーでどうだ。ゲームしてる感もあるだろ」
と、いうと彼女は目を輝かせていた。
「ゲームジャンキーの割にゲーセンこねえもんなお前」
というと、恥ずかしそうに一人で来るのは怖かったと素直に告白したので、とりあえず許した。筐体の前に座らせて簡単なレクチャーをし、ひとまずCPUと戦うモードをプレイさせた。必殺技やコンボについて教えつつ、初心者向けの連打コンボについても教えておいた。飲み込みが早く、モードの後半にはCPUに圧勝していた。
俺はその辺ぶらついているよ、というと何やら寂しそうな顔で対面の筐体を見つめるので仕方なく座った。100円を入れて、乱入する。
NEW CHALLENGER!!
俺と長谷川の1試合目が始まった。
卑怯なようだが昔とった杵柄、このゲームは中学生の頃にやりこんでいてかなり自信があった。初心者相手に大人気なく無双するのも悪いなと思い、コンボをわざと落とすなど適度に手加減をして戦った。最終ラウンド、俺がわざと負けて長谷川がまだゲームできるようにした。
長谷川の顔を見ると、ものすごく表現の難しい顔だった。初勝利の喜びと、悔しさのような顔いろんなものが組み合わさっていた。
「どうよ、初試合の感想は」と聞くと、無言で100円を渡された。
もう一度やれ、ということらしい。推測だが、手加減が気に食わなかったみたいだ。
NEW CHALLENGER!!
2試合目が始まった。
最初から手加減せずに攻めた。スタイリッシュに動く人間のキャラ、そして超能力によって動く非人間的キャラを同時に動かしながらコンボを決めていく。ブランクもあったがコンボを決めきって僕は長谷川に完勝した。
長谷川の顔を見ると、さっきと違い満足した顔になった。立ち上がってこちらにやってきて、楽しそうに今度は勝つと宣言して帰っていった。
「いや、俺を置いていくなよ」
と突っ込みながら、俺はCPUに勝たせてゲームを終えた。急いで、長谷川に追いついた。
2試合
俺 1勝 1敗(手加減あり)
長谷川 1勝 1敗
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