第5話 誕生日

 それから1週間が経ち、おれの誕生日が来た。

 毎年誕生日はカイトとハルが様子を見に来てくれていた。

 今年も来てくれて成長した俺を見て喜んでいた。

 どうやら2人とも王家直属の騎士になったらしく、明日から王の護衛とディルガンド皇国で暴れているドラゴン退治の任務につくらしい。

 これで名前が上がれば貴族となって領地をもらえる。そうすれば俺を迎えに来ることが出来る!と、カイトとハルは嬉しそうに言っていた。

 待ってそれ帰ってこれないフラグだからやめて!と思いつつも2人が嬉しそうに話していたため、せめてと思い教会で手を合わせた。

 カイトと一緒にお風呂に入ることになったため、どうしても聞きたかったことをカイトに聞いた。

「カイトはハルと結婚しないの?」

 お酒を飲んで少し顔を赤くしていたカイトの顔が、まっかっかになった。

「おまえ!ほんと喋れるようになったからってこのっ!!……まぁ帰ってきたらちゃんと伝えるつもりさ。そして2人でお前を迎えに来るからな!!ちゃんとそれまでいい子にしてるんだぞ!!」

 またフラグがたった。のでへし折るためにその日の夜、みんなが寝静まった頃を見計らって、外に出て2人のためにミスリルとオリハルコン、ボアキングのコアで作ったペアのリングを作った。

 鑑定をするとちょうどミスリルとオリハルコンが50%づつ、物理ダメージ軽減95%、魔法ダメージ軽減98%、身体能力50%アップ、全属性魔法威力50%アップというとんでもない付与効果を持ったリングができたのでこれでなにかあっても大丈夫だろうと思ったが、心配だったため教会でお祈りをした。……これは完全に気休めだけど。

 次の日の朝二人が出発する直前に行ってほしくないムーブをハルにした。

抱きついたタイミングでそっとかばんの中にリングと手紙を入れた。

 手紙には

――ふたりとも幸せになれますように。リング親の形見だから大事にしてよね!!――エリク

 とだけ書いてある。字も頑張って下手に書いた。

 2人は俺が言ってほしくないムーブしたのが嬉しかったのか凄くいい笑顔で帰っていった。

 そしてそれ以上に嬉しかったのがカリンがくれた聖剣だ。

 ……聖剣というよりは木で頑張って作ったおもちゃの剣なんだけども。

 本当は誕生日に渡したかったらしいが、カイトとハルが来ていたため渡すタイミングがなかったらしい。

 だから今日渡すということになった。

「エリクにはいつか僕を守ってもらう騎士さんになってもらうんだからこの聖剣を授けよう!!」

 そう言うと聖剣を渡してくれた。

 今ままで親族からしか誕生日プレゼントをもらったことがなかった俺は、初めて他人からもらった、というよりは気になっている人からもらった誕生日プレゼントが嬉しくて柄にもなく喜んでいた。

 ゲーショも嬉しそうに飛び跳ねていた。……見えているのは俺だけだけど。

 カリンの誕生日にプレゼントを渡す際に俺はとある覚悟をしていた。

 別に誰かにこのことを話すなとも言われていないし、ゲーショに確認したけど問題なさそうだったからだが、俺が転生者だと言うことをシスターやカリンに話そうと思っていた。やっぱり俺の年であんな物プレゼントできるようなお金だったり、技術だったりというのはおかしいからね。

 そしてカリンの誕生日が来た。

 カリンの誕生日をシスターと俺で祝ったあと部屋に戻り、カリンに誕生日プレゼントを渡した。

 包装はたまたま落ちていた羊皮紙に頑張って藁を編み込んで作ったリボンをつけたものだ。

 カリンがそれを開けた瞬間凄く嬉しそうな顔をしてくれた。

 カリンのほうが身長が高かったが胸元にはなんとか手が届いたので、ブローチをリボン留としてつけてあげた。

 「ありがとう……これ一生大事にする。宝物にする!」

とカリンは凄く喜んでくれて抱きしめてくれた。

 俺は話さなきゃと思い、口を開いた瞬間だった。

 シスターが慌てて部屋に入ってきた。

「ふたりとも!!逃げなさい!!」

 そう言って後ろを振り向くと、もうすでに後ろには兵士のような傭兵のような連中がいた。

 問題は連中のたちが悪かった。

 いや盗賊とかならまだいい。入ってきたのは王家直属の騎士たちだった。

「やっと見つけました。カリン様何故お逃げになられているのですか?帰りますよ。」

 兵士の中でも偉そうな奴がカリンの手をひいて行こうとしている。

 俺は思わず机の上においてあったカイトからもらった短剣を引き抜き、カリンの前に立ちはだかった。

 兵士の中でも偉そうな奴が面倒くさそうなしかし嬉しそうな声で俺に言い聞かせるように話してきた。

「坊主。この状況下でそれだけの判断をできるのは褒めてやる。けどそんな短剣じゃおれらには勝てない。今はこらえろ。そして俺らと同じ立場になった時もう一回勝負だ。」

 そう言うと短剣を持っていた手を軽くひねられあまりの痛さに短剣を落としてしまった。

 悔しくて悔しくて泣きそうになっているとカリンが落とした剣を拾って、渡してくれた。

「大丈夫。エリクは僕の騎士になる大事な人なんだから。ぼくはいつまでも待ってるから。」

 カリンはそう言うと兵士のもとに向かい、ちらっとこっちを向いて困った顔をした。

 それからすぐ兵士たちはカリンを囲むようにして外に向かって出ていった。

 ただ一人、その偉そうなやつは俺に向かって深々と礼をして帰っていった。

 ひねられた手の痛みはカリンがこそっと魔法をかけて直してくれていたらしい。

 痛みがひいてしばらくすると大事なものを失った喪失感を感じた。

 その後一晩中泣いていたらしい。

 それがわからなくなるくらい悔しくて、情けなかった自分に腹が立っていた。

 次の日からゲーショに頼み、剣術や体力づくりを教えてもらった。

 最初はカリンにもらった聖剣でやっていたが、4ヶ月過ぎた頃から軽すぎて使い物にならない位になっていたので、カイトからもらった短剣に持ち替えた。

 その短剣も半年経つと軽くなったため、ついに自分専用の刀を作ることにした。

 といっても最初は木刀だ。練習用として石樹を使った木刀を生成することにした。

 そしてできた木刀を使い、ゲーショにお願いをして元の世界のインターネットから居合、殺陣等を覚えてもらい特訓をした。

 またそれとは別に薙刀を作った。

 理由としては、昔から加賀獅子を地元ではやっており、薙刀を使った演舞等も行っていた。薙刀はある程度実力を認められていたので自信があったのと、何より薙刀はリーチが剣より長いというところだった。

 基本は二刀流……まぁ二刀流も頼るのは某黒の剣士さんだったり、加賀獅子でもかなりの頻度で演舞していた内容なので、そこからのフィードバックと通常の流派に習った形を組み合わせるものになるのだろうけど。

 ということでまずは刀をしっかり覚えることにした。

 活用する場面が少ないことを祈るが、そんな事も言って入れられない状況になるかもしれない。

 とにかく俺は必死になって特訓ををした。

 そして月日は流れ俺の誕生日が来た。

 毎年と違うところがあった。カイトとハルが来なかった。

 あれだけフラグを立てたんだ。いくら俺が抗ってもだめだったんだろう。そう思うことにした。一応この国では13歳になると軍隊に入るための資格がもらえるそうなので、まずはそこを目指すことにした。

 俺はずっと肉体づくりと剣術の習得に明け暮れていた。

 勉強自体は6歳になったのでしなければいけなかったが、教会で週3回半日勉強すれば義務教育扱い、更には勉強内容が小学1年生レベルを3年かけて覚えるような内容だったため、それ以外の時間は肉体づくりと剣術の習得に割くことができた。

 勉強と肉体づくりを繰り返し行ったためなのか同年代の男の子たちより身長が少し高くなっていた。まぁラッキーと言うかなんというかだが……

そしてまた1年が過ぎ、誕生日が来た。

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