終章-15:コズエの采配と、拮抗から劣勢へ
動揺する魔法士達へ迫り来る魔獣達を間一髪で堰き止めたのは、ミツバが指揮する空陸の魔法機械達だった。
「姉さん、魔法士達へ指示を!」
40機の〈ツチグモ〉達や、同じく40機の低空飛行で突っ込む〈オニヤンマ〉達に殺到する、600体以上の魔獣達を見て、我に返った梢が眼下の魔法士達へ指示を飛ばした。
「は、そうだった! 全員
「「了解!」」
【迷宮外壁】に装備された拡声器をミツバが作動させ、叫ぶ梢の指示を広く伝えると、魔法士達が動き始めた。
梢の横にいた勇子と空太も、【迷宮外壁】から地上へ飛び降りて、魔法士達に合流して率いて行く。
戦局が動き始めたが、600m先に浮かぶサラピネスは、梢と共に【迷宮外壁】の上に立つメイアだけを視線に捉え、思念で言った。
『見付けたぞ小娘? 貴様との戦いを心行くまで楽しむために、我はこの場に現れたのだ。その血肉を今すぐにでも存分に喰らいたいが、どうにも貴様を味わい尽くすには、少々邪魔者が多いようだ。我の手でさっさと掃除しようとも思うたが、今し方面白いことを思い付いたぞ? こうすれば【魔晶】を放り出した言い訳もできるだろう。我が母神よ、とくとご覧あれ!』
サラピネスが突然喜悦の表情で目を閉じ、神霊の魔力を集束させる。
梢の横にいたメイアが、サラピネスの行動を訝しんだ。
「面白いこと? 神霊結界魔法で防御を固め、力を蓄積してるのが面白いの? 瞬時に凄まじい効力の魔法を使えるのが、神霊魔法の利点の筈。それが力をタメるってことは、より制御が難しい効力を持つ魔法を使うつもりということ? ……はっ! 空間干渉か! 多量の魔獣をこの場へ一気に転移させるつもりよ、梢さんっ!」
至高の魔法系統たる神霊魔法でも、さすがに空間や次元そのものへの広範囲干渉・操作には、少し手間がかかる。
同じく神霊魔法を使うメイアは、サラピネスの思惑に気付き、梢に警告した。
「あそこまで防御を固められたらすぐに妨害するのは難しいわ! 多数の魔法士と集束攻撃する必要がある」
「それじゃあ私が神霊魔法で!」
「先走ったら駄目よ! あんた1人が出て行ったら、そのまま神霊魔法の打ち合いが始まるわ! そうすれば多分あっちの思うつぼよ? 命彦が来るまで我慢して! 私達を相手に1人でも戦える筈の眷霊種魔獣が、わざわざ他の魔獣を使う意味を考えて! 私達をじわじわと精神的に追い詰めるために、魔獣を転移させてるのよ。思惑に乗っちゃダメ! 防衛線を構築するのが先決よ。こっちの陣形が整えば、多勢の魔獣達も相手にできるわ」
メイアの警告を聞いた梢は、
「探査型の学科魔法士は別の指示を出すわ! 〔探索士〕は探査魔法で魔獣の行動把握よ! 戦力の厚い群れを探して注意喚起! 〔採集士〕は思念伝達網を構築し、私に繋いで! 〔探索士〕の情報は全て私に送ること、いいわね? あと〔忍者〕、魔法幻影を魔獣の群れに突っ込ませて、同士討ちを誘って! 相手は別種の魔獣同士の寄せ集めよ! 引き合わせて攻撃させれば、勝手に同士討ちが始まるわ!」
指示待ちだった魔法士達もその半数以上が動く。
梢の指示によって、その場にいた魔法士の9割近くが動き、それぞれの魔法学科ごとに分かれて、同じ魔法学科の者同士で、1つの学科部隊を作って指示通りに行動する。
当然学科部隊ごとに人数差はあるが、それを考慮した上で、梢は総指揮を執るつもりだった。
一部取り残された魔法士達も梢は忘れておらず、その魔法士達にも指示を出す。
「先に指示した魔法学科以外の義勇魔法士は、ここで部隊を再編するわ。私の周りに集まって!」
取り残された魔法士達が自分の傍へすぐ集まると、梢は目敏く実力がある魔法士を選び出し、周囲の魔法士達に言い聞かせる。
「そこの弓型魔法具持ちの女性魔法士、貴方は限定型魔法士の〔
取り残された魔法士達は、18種の代表的魔法学科以外の魔法学科を修了した魔法士達であった。
それぞれ使える魔法にクセのある学科魔法士達であるため、梢は前衛・後衛・治癒専門に彼らを分けて、魔法士部隊の編成を行う。
「よし、分かれたわね? 遠距離攻撃ができる魔法士部隊をイ組、治癒魔法が使える魔法士部隊をロ組、接近戦に自信がある魔法士部隊はハ組と仮称。イ組とロ組は後衛に配置、ハ組は前衛に配置よ!」
全魔法士の部隊編成と配置が終わったのは、魔法防壁が【迷宮外壁】を覆うように建ったのと同時であった。
サラピネスが目を開け、新たに魔獣を2000体ほど空間転移させる。
しかし、梢は怯まずに声を響かせた。
「間に合った、防衛線の構築は完了したわ! さあ、打って出るわよ! 〔騎士〕の学科魔法士は前衛で、結界魔法を展開! それと同時に〔精霊使い〕と〔神司〕、イ組の学科魔法士は攻撃魔法を使用して、魔獣を駆逐せよ! 前衛は後衛の魔法攻撃が始まったら、魔法機械と一緒に後退。攻撃が途切れたら前進して再攻撃よ、交互の攻めで波状攻撃を仕かけるわ!」
探査魔法で脳裏に入って来る情報を確認し、全魔法士に指示する梢へ、ミツバが言う。
「姉さん! 軍や警察の防衛線を突破して、新たに1000体近い魔獣が進攻して来ます!」
「あーもう! 〈ツチグモ〉と〈オニヤンマ〉の半数でその魔獣達を攻撃させて! こっちに来るまでに、できる限り数を減らすのよ!」
「了解しました」
ミツバの指揮する〈ツチグモ〉の半数が、前衛から後退して【迷宮外壁】に登り、壁に設置された電力供給装置と機体を有線で接続する。
三葉市の地下には核融合発電施設があり、そこから電磁投射砲と荷電粒子砲を連射するための電力を供給してもらうのである。すぐに〈ツチグモ〉の砲撃が始まった。
鼓膜を震わす砲撃にも負けず、梢が叫ぶ。
「右側、魔法防壁が揺らいでるわよ! できるだけ効力が高く持続させやすい移動系魔法防壁を作って、幾重にも重ねるの。魔法防壁を広域に展開すれば、その分効力は落ちるけど、効力が落ちる分は手数で補って! 特に〔騎士〕、頭数が多いんだから〔僧侶〕より守備に貢献してよ!」
魔獣の攻撃魔法も次々に飛んで来るが、魔法防壁で受け止め、壊れた魔法防壁の代わりがすぐに構築された。
後衛からの魔法攻撃と、前衛の魔法攻撃が途切れずに魔獣達を攻撃し、魔獣達の進攻を防ぐ。
そこかしこで同士討ちを始める魔獣達も現れ、混乱する魔獣混成群。
サラピネスに先手を取られ、不利に置かれて始まった戦闘だったが、ミツバの助力も得つつ、梢はどうにか五分へと戻していた。しかし、戦場に拮抗をもたらした梢の顔に、余裕は皆無であった。
一方、前衛で精霊付与魔法を身に纏い、戦っている勇子は、〔採集士〕による思念伝達網によって梢の指示を聞き、言われたとおりの作戦行動を実行しているが、危機感を感じていた。
「あかん、どんどん魔獣が出てきよる。あいつの妨害をせんと、ジリ貧や!」
「「同感ですわ」」
勇子のすぐ横には、同じ〔闘士〕学科の魔法士である【ヴァルキリー】小隊の双子がいた。
「あんたらかい! 魔獣との戦闘にかこつけて、ウチへの報復にでも来おったか? そりゃあ!」
「見くびるのは止めていただけるかしら? 【魔狼】小隊に手を貸すのは死ぬほど嫌ですが、私達にも魔法使いの一族として、魔法士としての誇りがあります! せいっ!」
「はあっ! どういう魔獣が相手であれ、この都市を害する者があれば、滅ぼすのみ。自分達の住む街を背にして、退くつもりはありませんわ。お嬢様も都市のために戦えと、そう命じられましたもの」
同じ〔闘士〕の学科魔法士として、互いの動きが分かるのか、勇子の左右について、魔法力場を纏う武具型魔法具を振るい、ゴブリンを次々に
勇子が少し感心して、眷霊種魔獣を見つつ問うた。
「ほう? んじゃ、同じ6位階の学科魔法士として、意見を聞いたろ。ウチは、眷霊種魔獣の神霊魔法をまず妨害すべきやと思っとる。あんたらどう思う?」
勇子の視線の先いる、眷霊種魔獣サラピネスは神霊魔法による空間転移を続け、どんどん魔獣を送り込み続けている。
メイアとの戦いを楽しむため、そして自分に与えられた役割を果たすため、魔獣を転移させ続けるサラピネスのせいで、どれだけ波状攻撃をして魔獣を葬っても、次から次へと魔獣が押し寄せた。
【ヴァルキリー】小隊の双子が言う。
「勿論そうすべきだと思います。幸い、戦局は拮抗している。あの神樹梢という女性の指揮で、少しだけ事態が好転しました。今だったら、〔精霊使い〕の学科魔法士数十人がかりで、《四象精霊砲》の一斉攻撃ができる筈。そうすれば、神霊結界魔法も打ち破り、他の魔獣の輸送も妨害できるでしょう」
「問題は、一部の〔精霊使い〕が《四象精霊砲》の構築に入ることで、波状攻撃が一時的に弱まり、私達前衛にかかる負担が増すこと。そして、実際に眷霊種魔獣の魔法を妨害し得たとして、どうやってその後の眷霊種魔獣の行動を食い止めるのか、です。特に後者の問題は解決が難しいでしょう」
「確かに。現状、アイツが魔獣の運搬係をしとるから、まともに戦わんで済んどるけど、いざ運搬係を止めた時、あるいは止めさせた時に、どう対処するかは一番の問題や。メイア1人で戦ったら縊り殺される。命彦、はよ来いや! そおいっ!」
「むうんっ! メイアと言うのは〔魔工士〕の少女ですね? 彼女がどうして眷霊種魔獣と戦うのですか?」
「それに、あの地味小隊長もです。彼らが戦っても瞬殺されて終わりですよ?」
「ぬふふ。そういやあんたら知らんかったね? まあ、あのアホが来れば分かるわい。メイアが全力出して、あのアホも全力出せば、多分ウチらは勝てる……勝てる筈や」
拮抗状態から、また劣勢に追い込まれつつあるのに、笑っている勇子を見て、双子は不気味そうに距離を取った。
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