6章ー28:【精霊本舗】の呪物倉庫と、眷霊種魔獣の侵入

 食後すぐ、命彦達は神樹邸を後にして、【精霊本舗】へと移動した。

 梢とミツバは依頼所で業務を終わらせてから快気祝いの宴会に参加するため、夕方まで別行動である。

 子犬形態のミサヤを頭に乗せた命彦が【精霊本舗】へ入店すると、すぐに従業員達が嬉しそうに顔をほころばせて集まって来るので、命彦は従業員達にちやほやされつつ、心配してくれたことについてしっかり礼を言い、エルフ女性を探して、店舗棟の地下1階へと降りた。

 昇降機が宴会用の椅子や机の運搬に使われているため、階段で地下1階へ降りた命彦達。

 階段傍の昇降機の目前にポツンとある扉を開けると、舞子が視界に飛び込む景色を見て、感嘆の声を上げた。

「ふわー……」

 扉の先には一面に農場があり、森とも思える木々や草原、未造成の平地があったからである。

「上の商店と比べると、明らかに広過ぎる地下空間ですけど、これって〈秘密の工房〉と同じですよね?」

「ああ。この空間は《亜空間生成の儀・真式》で、地下1階の室内に収納された別空間だよ。空にある太陽は、魔法で作り出した幻影だが、現実空間の日の出日の入りに対応して動くんだ。気温も適温で固定してるから、植物も育ちやすい。野菜や果物も採り放題だぞ?」

「いいですねぇー、羨ましいです。しかし、それにしても広い……どのくらいあるんですか?」

 舞子の問いに、きょとんとした命彦が魅絃に問うた。

「さあ? 厳密に測定したことってあんの、母さん?」

「んーどうかしらねえ?」

「亜空間自体は縦横高さが6kmで設定したって、お祖母ちゃんが昔に言ってたわよ?」

『マイトの言うとおりだとすれば、土や森を移植してカサが減ったとしても、相当広いですね』

 命絃が思い出すように語り、命彦の頭の上のミサヤが《思念の声》で語ると、舞子があんぐりと口を開けた。

「ろ、6km! ひええ……」

「うふふ。普通はまあ驚くわよね? 私もそうだったし」

「【精霊本舗】の店舗棟は、3階から5階と地下階が、《亜空間生成の儀・真式》で別空間を封入しとるから、見た目の想像を超える室内空間を持つんよ」

「3階から5階の社宅階とかは室内に村があるからね、初めて見る人は腰抜かすよ?」

「む、村ですか……あはははは」

 乾いた笑みを浮かべる舞子を見て苦笑しつつ、命彦達はエルフ女性を探した。

 地下1階入り口傍にある農場の、さらに先にある未造成の平地にいたエルフ女性は、数人の従業員達と一緒に平地に特設舞台を作り、食卓を運ぶように指示したりと、忙しそうであった。

 魅絃が声をかけると、営業部長のエルフ女性はすぐに気付く。

「ソルティア」

「これは魅絃様。若様に姫様と、メイア様達も」

 エルフ女性が嬉しそうに笑みを浮かべた。

「応援に駆け付けたで?」

「ありがとうございます。それでは早速ですが、メイア様と空太様、勇子様にはお手伝いしていただきますね? メイア様は特設舞台の方をお願いします。空太様は3階の社宅階で、従業員の家族達と宴会用の料理の制作にあたってください。子どもらもそちらにいますので、美味しい料理をお願いします」

「ふおおお、美味しい料理を作って見せますとも!」

 空太が嬉しそうに言う横で、エルフ女性は勇子に告げる。

「勇子様は力仕事をお願いします。机と椅子を私の指示通りに皆と配置していただき、その後は舞台機器も運んで欲しいのです。あと、料理の保温機器も運ぶ必要があります。お願いできますか?」

「了解や」

「あ、あの私は?」

 1人だけ呼ばれずに困惑する舞子へ、エルフ女性が苦笑して言う。

「申し訳ありません、実は舞子様は戦力外です」

「せやねえ、店のことも知らんことの方が多いし」

「お使いしてもらおうにも、迷いやすいものね?」

「言われてみると戦力外だ」

「あ、ううー……確かにそうですけど」

 しょぼんとする舞子へ、メイアが励ますように言う。

「舞子、命彦達にくっ付いて、店内を見回って来ればいいわ? ここの構造を頭に入れてくれれば、次から手伝ってもらえるからね」

 舞子が顔を輝かせると、魅絃がくすくす笑って言う。

「あら、良い考えね。それじゃあ、舞子ちゃんは私達と一緒に行きましょうか?」

「あ、はい魅絃さん。それでは一緒に行かせてもらいますね。よろしくお願いします、命彦さん」

「おう。んじゃ、とりあえず1番下の地下4階倉庫から順に上がって行くか」

「そうね。下の方が挨拶する人数も限られてるし」

『今は〔採集士〕の従業員達がいませんからね? あと、マイコに気を付けるべき場所を教える意味でも、良いかもしれません』

 そう言って命彦達は地下4階を目指し、歩き出した。


 階段で地下4階まで降りると、舞子は魔力を感じて足を止めた。

「気付いたか、舞子?」

 足を止めた舞子に、命彦が問う。

「は、はい。凄い魔力の気配が、前方の扉から漂って来ます」

 舞子の視界には、幾つかの仕事机が置かれた区画と、その区画の後ろにある分厚い扉が映っていた。

「ここはウチの店に所属する、〔採集士〕学科を修了した魔法士達の仕事場で、今回は祖父ちゃん達がこの階の従業員を全員連れてっちまってるから、本来は顔見せに来る必要はねえんだが、今後舞子はウチに出入りすることもあると思うから、一応店のことを教えるために訪れたんだ」

「はい!」

 命彦達が仕事机の区画を通り過ぎ、扉を開けると、その先を見て舞子が絶句する。

「こ、これは!」

「ようこそ、【精霊本舗】の素材倉庫室へ」

 そう言う命彦と舞子の視界には、数十mの棚が数百と屹立する景色が映っていた。

 地下1階と同じく、室内に亜空間を設定して実際の部屋よりも遥かに広い空間を持つ倉庫。

 その倉庫ではひたすら棚が整列し、棚にはそれぞれ箱が収納されていて、1つ1つの箱には魔力を感じる素材が山盛りに詰め込まれ、結果的に箱1つずつから凄まじい魔力を感じられる状態であった。

 数十体のエマボットが倉庫室の見回りをしているのか、扉を開けるとすぐに命彦達の方へ寄って来る。

 命彦達が手を上げると、店の人間と認識したのか、警備エマボット達はすぐに散開して行った。

「素材倉庫はウチの従業員だったら誰でも入れる。市場で販売すれば高い値打ちが付く素材もあるから、一応エマボットを巡回させてるが、巡回の目的は警備よりも、この先に行かせねえための抑止だ」

「抑止?」

 問い返す舞子へ、命絃や魅絃、ミサヤが補足する。

「素材よりも遥かに価値の高い魔法具が、店舗棟1階や開発棟にはゴロゴロあるでしょ?」

「本当の意味で防犯対策をするのであれば、そっちの方へエマボットを配置するわ、普通はね?」

『つまり、ここのエマボット達に与えられた役目は、建前上は防犯ですが、別の役目があるのです』

「は、はあ?」

 倉庫室を歩きつつ魅絃達の話を聞くが、いまいち釈然とせず、周囲を見回す舞子へ、先を歩く命彦が足を止めて言う。

「ここだ」

「……? うっ!」

 命彦の足を止めた先を見て、舞子は眩暈めまいを覚えた。

 舞子の視線の先には扉があり、その扉の先から、寒気を覚えるほどおどろおどろしい魔力を感じたのである。


「気をしっかり持て、引き込まれるぞ? 魔力を全身に廻らせろ」

「は、はい!」

 命彦に注意され、舞子が魔力を操作すると眩暈は治まった。

「ここが舞子ちゃんを地下4階へ連れて来た理由よ?」

「素材倉庫のさらに先にある、呪物じゅぶつ倉庫だ」

「じゅ、呪物? 初めて聞いたんですけど、どういうものですか?」

 呪物が分からず首を傾げる舞子に、無知ねえとばかりに肩を落とした命絃とミサヤが言う。

「呪物っていうのは、呪詛を秘めた素材のことよ」

『〈悦従の呪い蟲〉を憶えていますね? 他者の魔力を吸い、魔血を吸った者の魔力を感じると、歓喜の迸りで同化した者に悦楽の地獄を与える。ああした呪詛の効果を、素材時点で有しているのが呪物です』

「ここにあるのは、その呪物でもとびきりマズいモノばかりだ。魔法で人為的に作られた呪詛じゃねえ。生物が死ぬ時に抱いた憎しみ、負の想念を、身体の一部に残し、呪詛と化したモノが隔離されてる」

「呪物について具体的に言うと、魔獣の残留思念が骸の外に出ず、骸の内に籠り、ごく一部分へ凝縮されたモノのことよ。残留思念が濃縮され、負の想念だけで呪詛を形成し、素材に残った。そう言えば分かるかしら?」

 魅絃の説明を聞いて、舞子の目に理解の色が宿る。その舞子へ、命彦が語った。

「迷宮で魔獣の討伐をしてる時にも、呪物は稀に出現する。〔採集士〕学科を修了した魔法士以外は、普通は呪物を持ち帰れねえから、特に価値もねえし、通常はその場で消し炭にされるんだが、13年前からウチの祖母ちゃんは呪物の研究もしてる。どの魔獣がどういう呪詛を死に際にかけて来るのか。その魔獣の種族が残す呪物を研究することで、呪詛を解呪する研究をしてんだよ」

 命彦の発言に魅絃が俯き、命絃やミサヤが心配そうに命彦を見た。

 舞子も気付く。13年前と言えば命彦が3歳の頃。命彦の実母が死んだ年であると。

 命彦の祖母、結絃が呪物の研究を始めたのは、命彦の実母が呪詛で死んだからだと、舞子も気付いたのである。

 命彦は肩に乗るミサヤを見てフッと表情を緩め、魅絃達に言った。

「姉さんと母さんはここで待っててくれ。舞子に呪物をパッと見せて、すぐ戻るから」

「分かったわ」

「気を付けてね?」

 命彦が小さく首を縦に振り、振り返って舞子に言う。

「舞子、短縮詠唱でいいから《陽聖の纏い》と《水流の纏い》を2重に展開しろ」

「は、はい! 包め《陽聖の纏い》。包め《水流の纏い》」

 舞子が薄い白と青の2重の魔法力場で身を包んだことを確認し、命彦も同じ精霊付与魔法を使って、自分と肩に乗るミサヤを包み込んでから言った。

「この魔法力場が防護服代わりだ。この扉の先にあるモンには、絶対に触れんじゃねえぞ?」

『狂い死にますからね』

「は、はい!」

 この日初めて危険を感じた舞子は、表情を引き締めて、命彦達に続いて扉を潜った。

 途端におぞましい魔力の波動が魔法力場とぶつかり合う。

 整然とした棚には、赤黒い爪や牙、魔獣達の身体の一部が置かれており、それらを目にした舞子は逃げ出したい衝動に駆られた。

 特に1つだけある机の上に置かれた、舞子の腕ほどもある爪は、見た瞬間に後ずさるほどの恐ろしさを感じた。

 本能が受け付けず、視界に入れるのも身体や心が嫌がっている。そういう類のモノであった。

『マヒコ、マイコがもう限界です』

「分かった。出るぞ」

「……」

 呪物が放つ呪詛の効力にあてられ、舞子は答える気力も失せており、フラつきつつ首を振る舞子に肩を貸して、命彦達は呪物倉庫を出た。

「舞子ちゃん、平気?」

「は、はい。吐きそうでしたけど……うぷ!」

 数十秒ほどで呪物倉庫を出た舞子が、その場でうずくまったため、魅絃が舞子へ近寄り、背を擦った。

 命彦が顔色を失っている舞子へ言う。

「さっきの気配は憶えておけよ? 迷宮でああいう気配の呪物を見たら、迷わず消し飛ばせ。触れたら終わりだと思え。あと、俺やメイア達に倉庫から素材を取って来るようにお遣いを頼まれた時も……」

「絶対に、ここへは近付きません! というか、常日頃は倉庫の前に〔採集士〕の従業員の方達がいらっしゃるんですよね? その方達に、目的の素材を取って来てもらえるよう頼みます! あそこには2度と入りたくありません!」

 打てば響くようにすぐ返答する舞子。余程嫌だったらしい。

 その舞子を見て楽しそうに笑った命絃が、命彦に問うた。

「聞き分けが良いわね? それが賢明よ。……ところで命彦、[陰龍ヤトの爪]はどうだった?」

「また力を増してたよ。3カ月前に入った時より、明らかに呪詛の効力が高まってる」

『そろそろ真剣にどうにかした方がいいと思いますよ、アレは? 高位魔獣でも、いえ、眷霊種魔獣でさえも、素手で触れればただではすみません。それだけの力を秘めていると感じました』

 命彦達の会話を聞き、舞子も問う。

「あの、それって机の上にあった、あの呪物のことですか?」

「ああ。10年前に祖母ちゃんと祖父ちゃんが討伐した魔竜種魔獣【陰龍】が残した爪だ。陰闇の精霊と高い親和性を持つヤトは、討伐後に必ず残留思念が出現し、場合によってはその場で思念が霊体種魔獣と化して、骸に宿って不死種魔獣としても甦る可能性も持つ、魔竜でも特にしつこい部類の相手だったんだが……」

「お祖母ちゃん達が倒したヤトからは残留思念が全く出て来ず、気付けば1本の爪に残留思念が濃縮されて、呪物化してたらしいわ。その後10年間、アレはお祖母ちゃんの主要研究対象として、この部屋にずっとあったのよ」

「今じゃ、倉庫内の呪物の呪詛まで取り込み、ますます呪詛の力が増してるわ。呪物倉庫の扉は、魔力を遮るように作ってあるんだけど、それでも年々少しずつ、呪詛の魔力が扉から漏れて来てるし」

 魅絃の言葉を聞いて、命彦が少し不安そうに言う。

「今度祖母ちゃんに相談しよう? 早めに処分した方がいい。従業員や子どもらも怖がってるし」

「そうね。さあ、目的も果たし、さっさとここを出ましょう?」

 【精霊本舗】で唯一の危険領域を舞子に教えた命彦達は、魅絃に急かされる形ですぐに素材倉庫室を出て、地下3階に上がった。


 地下3階は【精霊本舗】で使う機械類の制御室であり、男女2人ずつの従業員がいて、快気した命彦の顔見せもすぐに終わった。

 そのまま地下2階に上がると、魔法具の試験運用を行う修練場が広がっており、ここでも男女2人ずつの従業員がいて、顔見せがすぐに終わる。

 地下1階へと戻り、エルフ女性ともう一度合流すると、魅絃がポマコンで時刻を確認した。

「あら、もう11時ね? ソルティア、お昼ご飯はどうするの?」

「今回は宴会の用意に時間を取られる分、各従業員が隙間時間を見付けて、個別に休憩を取るように言っています。私もそうするつもりですが?」

「じゃあ、私から皆に差し入れをさせて? 食堂で働いてる店の子達も宴会料理を作ってるんでしょう? ということは、皆簡単にお昼ご飯を済ませる筈。宴会前とはいえ、それは可哀想だわ。お弁当を買いに行きましょう」

「い、いえ、魅絃様、それは!」

 慌てるエルフ女性を笑顔で制止して、魅絃が舞子を見た。

「いいのいいの。そうねえ、舞子ちゃん、お弁当を買いに行くの、手伝ってくれる?」

「え、あ、はい! 私でよろしければ、是非お手伝いさせてください!」

 魅絃からの突然の申し出に、舞子は嬉しそうに応じた。

 戦力外と言われたことを気にしていたらしい。仕事がもらえて、役に立てることを喜んでいる様子であった。

 その舞子を見て苦笑しつつ、命彦も言う。

「俺も行こうか、母さん?」

「それは駄目よ。命彦にはまだ店の子達への顔見せが残ってるでしょ?」

「あ、そうだった」

「心配ご無用です、命彦さん! 魅絃さんと私が、皆さんのお弁当を買って来ますから!」

 お役に立ちますと、目で訴える舞子に命絃が水を差す。

「〈余次元の鞄〉があるから、別に母さん1人でも行けるでしょうに……」

「残念でした。私の〈余次元の鞄〉は容量一杯一杯でもう入りませーん。ということで舞子ちゃん、頼りにしてるわよ?」

 魅絃が命絃をからかうように言って、舞子の肩を叩いた。

「ウチの店の子達はよく食べる子が多いから、1人2つずつで計算して、600個もあれば足りるわね」

「魅絃様……そうですね。それだけあれば足りるかと。お気遣いありがとうございます」

「ろ、600個ですか! お弁当、入り切るでしょうか……」

 魅絃に頭を下げるエルフ女性の横で、舞子が自分の〈余次元の鞄〉を心配そうに確認していると、命彦が問う。

「舞子、鞄に入れてるモンは?」

「えと、運動着と学校の教科書類やポマコン、筆箱にマグマフィストと、あとは〈魔傷薬〉が3本ですね?」

「全然余裕じゃねえか。弁当1200個でも入るぞ」

「そ、そうですか? 良かった」

「それじゃあ行きましょうか? 亜人街にね、贔屓にしてる美味しいお弁当屋さんが幾つかあるのよ」

「はい!」

 命彦達に見送られ、舞子は元気に返事して、魅絃と一緒に【精霊本舗】を出て行った。


 舞子達が【精霊本舗】を出た頃。

 関西迷宮【魔竜の樹海】の第3迷宮域では、影に潜んで眠っていた黒髪の眷霊種魔獣サラピネスが、ようやく目を覚ました。

『随分寝たものだ』

 影からぞわぞわと浮き上がるサラピネスへ、突然出現した虹色の裂け目から地面に降り立った、灰髪の眷霊種魔獣サギリが思念で言う。

『ふふふ。それだけ万全の状態にしたかったのだよ。……で、【魔晶】の方はどうだ?』

『見れば分かろう? あと少しだ。貴様に伝えた人間の小娘の記憶で言う、1時間か2時間ほどだろう』

『それだけあれば十分だ。神霊魔法を使う小娘と竜殺しの小童を喰らい、腹を満たしてから、ゆるりと宴の始まりを見るとしようか』

『ああ。では、転移するぞ?』

 サギリが空間の裂け目を一瞬で作り出し、サラピネスとサギリは虹色の裂け目に吸い込まれて、姿を消す。

 数秒後、サラピネス達が降り立ったのは、三葉市の商業地区に立つ、とある高層建築物の無人の屋上だった。

『着いたか。ふふふ、うようよいるぞ、人間どもが』

 屋上の端に移動し、数十m下を見下ろすサラピネスが笑う。

 そのサラピネスへ、亜人街のある方角に視線を送ったサギリが思念を発した。

『小娘の記憶が確かであれば、この近くに……言ってる傍から我が記憶を転写した小娘と、その小娘の記憶にあった、竜殺しの小童の母親を見付けた』

『ほう? ……あれか、こちらも把握した。我が狙う小童と小娘を一度に引きずり出す、餌に使わせてもらおう』

『では、我はその様子を特等席から見させてもらおうか』

 ニヤつくサラピネスにそう伝え、瞬時に出現した虹色の裂け目に消えるサギリ。

 サラピネスが見る視線の先には、亜人街の弁当屋で多量の弁当を購入する舞子と魅絃の姿があった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る