第14話 広がる世界
翌朝、僕はほとんど睡眠なんてものは取れていなかった。
いや、マジであの中でまともに寝れる奴がいるのか?そんな奴がいるなら是非出てきてもらいたい。
僕は寝ぼけ眼を擦り、ボヤけている視界を見渡す。
「あっ!おっはよー!昨日はおねいさんの胸の中でよく眠れたかい?」
「いや、まぁ、おかげさまで。へへ」
ごめんなさい。むしろ余計に眠れませんでした。僕のアドレナリンが、僕のムスコが眠らしてくれませんでした。
僕の視界がクリアになるにつれて、僕は驚きの表情を隠せなかった。
オリヴィアがバスローブを脱ぎ始めたのだ!なんと僕の前で着替えようとしている!!
「ぎゃぁぁぁあ!あわあわあわあわあわ!」
僕は咄嗟に布団に包まり視界を真っ黒にした。
オリヴィアの後姿、いや、背中を見てしまった。なんていうかすごい綺麗な肌してたな。本当男の背中と言うよりは華奢な女の子の背中に見えた。
まずいんじゃないかこの状況。いや、むしろ確認するチャンスじゃなかろうか?
「もぉ〜!何やってんのよぉ〜!いいから早く着替えていくわよ!またリリィに怒られたくないでしょ?」
「あ、はい。着替えます。」
またバカやって怒られたくはないしな。僕だけこんなドギマギすることはないのだ。オリヴィアは意識してないし、これはただ僕が勝手に暴走してるだけなのだ。早く支度しよう。
僕も早々に着替えて部屋を出る。メールでリリィさんから指定された場所に向かう。僕達の秘密基地、愚者の楽園へ。
「おはようさーん!あれれ?アタシらが最後かぁ〜、ごめんねぇ〜!ルーカスが着替えんの遅くて!」
到着した時、すでに僕達以外は揃っていたようだ。ビリか・・・それに僕のせいですか、そうですね、僕のせいでしたね。
「あれ?ルーナは?来てないようだけど?」
僕達が最後だとしたらルーナの姿が見当たらなかった。僕は気になったのでみんなに聞こえるように質問した。
「悪いがルーナには私達の部屋で待機してもらっている。一般の子を巻き込むわけにはいかないのでな。」
「でもルーナは敵に狙われているじゃないですか!1人にしておくのは危険じゃないですか?」
僕はゼルダさんに必死に訴えてしまった。
「大丈夫だ!私が見守っている。この眼でな!」
「一体どういう事ですか?」
「私の能力は、行動型『視る』!キーワードは
「女湯覗き放題じゃないか!!!」
「・・・・・」
「ぶっはっはっはっ!ヒィ〜!ぷぷぷ!よ、よく、欲望丸出しじゃないかぁ〜!アッハッハ!」
オリヴィアが大爆笑していた。いいじゃないかそんなに笑わなくても!男の子だもの!
「私は女なんだが・・・ルーカス・・・」
ゼルダさんが少し悲しそうに僕に告げた。本当にごめんなさい。ついうっかり出てしまった。
ゼルダさんが咳払いをし仕切り直す。
「とにかく、ルーナは私の能力で見守っているから何かあればすぐにわかる。それに隣の部屋にはギルをつけている。すぐ連絡し対処できるはずだ。」
そーいえばギルの姿も見えなかったが、そういう事だったのか!!
「でも、ギルもこの作戦会議に参加しなくて大丈夫ですか?」
「奴はここで作戦を聞くより現地で、その時のタイミングで伝えないと忘れてしまうポンコツじゃ」
ジャックが辛辣に言う。どうもギルの頭の評価は低いらしい。随分バカにされている。いや、ある意味理解されているのか。
「いいかしら?作戦を始めたいのだけれど。」
リリィさんを怒らせる前に僕達は席に着いた。
「ワタシがルーナから話を聞きながら考えたのは、今夜のパーティーに潜入するのが一番だと思うの。」
「やはり、昼間に潜入するのはちと厳しいかの?」
「ええ、夜よりもハイリスクになるわ!夜のパーティーの方が金持ちに紛れて侵入しやすいし、それにもしかしたらタルボット自身にコンタクトを取れるかもしれない。ハイリターンになるわ!」
「して、どうやって取り入るんじゃ?わしらが知りたいのはトップシークレット。そう簡単に口を割るとは思わんの。」
「ルーナの話と噂によると奴はかなりの好色家よ。」
こ、好色家?
「つまり、ハニートラップで行くわ!」
は、は、ハニー、ハニートラップ!だとぉぉぉ!
なんて古典的ながらもステキな言葉!古来より金持ち達はそのトラップに、わかっていながらも、その甘い蜜に、甘い香りに誘われてしまうのだ!
うらやましぃぃぃ!なんてうらやましぃぃぃ奴だ!許せぇぇ!タルボット!許すまじ!
「作戦には、ジャック、ギル、オリヴィア、ゼルダの4人に潜入してもらうは!」
ほほう、つまりハニートラップ役はオリヴィアとゼルダさんか!これは唆る!
「ジャックには金持ちになりすましてタルボットに近づいてもらうわ!そのお付きにオリヴィアとゼルダが付いてもらう。ギルは警備員に。」
「あれ?あの?僕は?」
それにリリィさんはどうするの?自宅待機ですか?
「ルーカスとワタシ、それにルーナは屋敷の近くに車を停めて待機。」
あ、ああ、待機か、まぁ潜入なんて僕無理だしな。そっちの方が全然いいや。
「っと、その前にルーカスには少し手伝って欲しいことがあるわ!」
「え?なんでしょ?」
「これよ!」
そう言ってリリィは置いた。
「あ、I.D.ケース?一体どう言う事?」
「これにジャックの写真と偽造証明書を作って欲しいのよ。この男としてね。」
そう言ってリリィは写真を出した。割と若い目のやる気のなさそうな顔した男だった。
「この男はパリトン。最近起業した男よ、こいつとはもう話をつけてあるからそのまんまジャックの名前で作ってくれて構わないわ!ついでにその社名でオリヴィアとゼルダのも!パーティーに参加する際に、確認があるみたい。持ち物検査も。」
「な、なるほど。つまりこれから早急に作らないとまずいと。」
「そう言う事よ!写真は撮ってあるわ!お願いね。」
ジャック、オリヴィア、ゼルダさんの写真が3枚目の前に置かれた。
「ワタシ達はこれから潜入のための準備に出かけなきゃいけないからよろしくね。タイムリミットは、午後の6時までよ!」
6時までか、今現在で午前10時、ギリ間に合うか!!ん〜!ヘルプ〜!
「それじゃ!よろしくね!」
「しっかりやるんじゃぞ!」
「期待してるわよぉ〜!」
「頑張れ!君ならうまくいくと信じてるよ。」
そう言って4人とも行ってしまった。
ひとりぼっちだ。あ〜〜!マジかぁ!1人で作るんかぁ。寂しものだなぁ。まぁ仕方がないか。それが僕にできる仕事だしな!
でも寂しいな、1人でやんの、だれか話し相手になってくれねーかな。
僕は寂しさをなくすためにルーナのいる部屋に向かった。
コン、コンっと2回ノックする。ゼルダさんになんて言われてるのだろう?出てきてもらえるのだろうか?
ゆっくりドアが開いていく。
「ルーカス!どうしたの?急に?何かあった?特にゼルダさんからも連絡きてないけど。」
「悪りぃ!ちょっと寂しいからここで作業させてくれない?」
「ん?いいよ!ちょうど私も退屈していたところなのよ!話し相手になってちょうだい!」
僕は部屋に入り椅子に座り、作業に取り掛かる。ルーナはベットに座って足をぶらぶらさせている。
「ねぇ?ルーカス、ルーカスはこの町に来る前はどっからきたの?どこで生まれたの?」
「ん〜?ニューパラスって街だよ。」
「どんな街だったの?ルーカスはどんな風に過ごしていたの?」
「街は科学が進んでたなぁ、技術の発展がすごい街だったよ。僕自身は本当にどうしようもない奴だった。ジャックに会うまでは。本当に、思い返すだけでも恥ずかしくなるくらいにな。」
それから僕は、あの街のことや事件のことを話した。ルーナは静かに聞いてくれている。
「そっかぁ、そこでルーカスは生まれ変わったんだね。きっと。私も生まれ変われるかなぁ、、」
「大丈夫さ!この事件が終わったらルーナは自由さ!もう何処へだって行けるよ!」
「ふふ、そしたらルーカスが連れてってよ!私に世界を見せてよ!」
「え?僕かい?僕も話したけど、あの街以外でたことがほとんどないから案内とかできないけど・・・」
「いいじゃない!一緒に世界を回ろうよ!いろんな街見て、いろんなものに触れ合ってさ、なんて言うかな、私の生きていたこの世界はちっぽけなものなんだなって!世界は本当はもっと広くって知らないことだらけで!」
ああ、ルーナは少し前の僕のようだ。小さい世界に閉じ込められていて、きっとその世界をぶち壊して飛び出そうとしている。まぁ、僕の場合は自分で閉じこもって、ジャックに壊されたって感じだけど。
きっと感覚は一緒なのだろう。この退屈な毎日が変わるチャンスなのだろう。
「そうだな・・・この任務が終わったら見に行こう。仕事の合間に見に行こう!いろんな世界を!」
「どこに行こうかしら?私、海が見て見たいの?どう?私、海見たことないのよ。知識として知っているだけ。この町は岩に囲まれているしね。」
僕も海は見たことがなかった。あの街も川があれど海まではない。海を見るためには街を2つほど通り過ぎないと辿り着けないのだ。
「海かぁ、僕も見たことないから見て見たいな。聞いた話だと海ならリゾートの街、パラレルなんて綺麗らしいよ。美味しい料理にウォーターアトラクションが満載らしい。それか、海の生物を見るなら海水都市、ヴィネーバなんていいかも!あそこはたくさん海の生物が暮らしているらしいしね。もしかしたら人魚に会えるかも。」
「いいなぁ〜〜!私期待で胸がいっぱいだよ。この町にもまともにでたことがなくて、ずっと屋敷と奴の檻の中だった。友達もいなかったし。ずっとひとりぼっち。だからルーカスに会えて、本当に会えてよかったわ。ありがとう、ルーカス。」
そう話すルーナの顔を見て僕は作業する手が止まった。
ルーナのその顔が僕には美しく見えた。僕はルーナの希望や未来を見ている顔に魅了されていた。何がどうして惹きつけられるのかはわからないが、どうしようもなく叶えたいと思ってしまったのだ。
「お礼を言うのはまだ早いよ。海を見てそのあともきっと驚くべきことがまだまだあるんだ。世界はうんと広いんだよ!僕らが思っているよりずっとね。」
「そうね。楽しみだわ!ほんとうに、」
僕は作業しながらもルーナといろいろな街の話をした。どこに行きたいとか、これを食べてみたいだの。想像するだけで僕達は楽しくって嬉しかった。
そしてちょうど午後5時ごろみんなが戻ってきた。僕は3時ごろからまた愚者の楽園に戻りなんとか作業を終えることができた。
「おまたせ!どう?完成した?」
「なんとかね、こんなもんでどうですか?」
リリィさんは頷いて上出来よと言ってくれた。
今回はギルがこちらに来ている。ルーナはマスターと一緒に車で待っているそうだ。そして、何故か帰ってきてオリヴィアは嬉しそうな顔をしていて、ゼルダさんはげっそりしていた。何があったのだろう?
「さて、パーティーは6時半ごろから開始だから急いで準備するわよ。ほら着替えて!」
「うぅぅぅぅ、本当にぃぃ?」
「ウダウダ言ってないのゼルダ!あんたがやんなきゃ行けないのよ!」
泣きながらマスターに案内され、着替えに行った模様。続いてオリヴィアとジャックとギルが着替えに行った。
しばらくして4人が出てきた時僕は驚きで声がなかなか出なかった。
「なかなかいいじゃない!これならタルボットも落とせるわね!」
リリィさんが嬉しそうに笑った。ジャックとギルはスーツ姿になり、ゼルダさんとオリヴィアは綺麗なパーティー用のドレスを着ていた。
なんて綺麗なんだろうか!オリヴィのは攻めの赤色のドレスを着ていて、スカートから覗かせる脚がとても綺麗であった。それにオリヴィアの顔とマッチし妖艶な魅力を出している。
ゼルダさんは深い青色のドレスだった。黒髪に青色がとてもマッチしており、また恥ずかしがっているゼルダさんの表情と合わせるとなんともS心をくすぐらせる。
これはやばい、破壊力が満点である。一瞬で落とされるわ!心が!
「しゅごすぎぅぅぅ!ふた、2人とも綺麗すぎだし、可愛すぎる!嫁になってくれ!」
「おい、心の声が漏れてるわい。」
え?嘘!今声出てた?やっべ!
「あーら?何〜、ルーカス?顔真っ赤にして、ぷぷぷ!」
オリヴィアは完全に僕をおちょくっていて、ゼルダさんに至っては声がちっちゃくて何行っているかさっぱりわからなかった。
「じゃ、みんなこっちに来て!」
リリィさんの前にパソコンとスピーカーに、マイクが用意されている。
一体何に使うんだ?
リリィさんの左手に白い光が集まっていく、その光を糸状にし、4人の目に当てパソコンへ、右手も同じようにし、喉をスピーカーへ耳をマイクへ。
「一体何をしているんですか?これは一体?」
「私の能力はね、行動型『繋げる』、キーワードは
リリィさんの能力は繋げる!?
「今、4人の視界をこのパソコンに繋げて、4人が見ている景色をこのパソコンで見ることができるわ!そして4人の子へはこのスピーカーに、こちらで伝えることはマイクから耳に行くわけよ。」
「こ、これで怪しまれずにこっちで指示したりできるってわけですね!」
すごいぞ!金属探知機でも引っかからずに無線も必要ない。潜入にもってこいな能力だ!
「さて、こっからが本番じゃな!」
僕のはじめての潜入任務が今、始まろうとしていた。
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