第13話 ルーカスの苦悩

みんなを待っている時間、僕とジャックはリリィさんの説教をどううまく回避できるか模索していた。


「さて、どうやってリリィの説教を回避したもんかのぉ。」


「なぁやっぱり、リリィさん。怒ったら怖い?」


「そりゃもちろん。人生のトラウマが更新されるほどじゃよ。あのボスも泣き叫ぶほどじゃ!」


おいおい、まじかよ!全然任務に関係ない所が一番の難所みたいになってるやん!


「とりあえず、きちんと謝るのがいいんじゃないか?」


「いや、焼け石に水じゃな。あまり効果はないじゃろう。」



「だが、僕達に出来ることなんて謝ることぐらいしかできないぞ!」


「甘いお菓子か、ケーキを用意して献上するのはどうじゃろうか?」


「リリィさん、そんなんで許してくれるの?子供じゃあるまいし。」


「リリィは根っからの甘党じゃ。可能性はなくはない。が許してくれるかどうか、、むむむ。」


珍しくジャックが困ってる。これはこれで見ていて面白いな。まぁ僕も怒られる可能性があるんだが。


それにしてもリリィさん甘いの好きなんだな。イメージとだいぶ違って驚きだ。どっちかっていうとブラックコーヒーを飲んで甘いのなんてナンセンスって言うイメージだった。完全に氷の女王様みたいな存在だと思っていたが、やれやれ、ちゃんと女の子らしいところがあるんだなぁ。


それから色々案を出したがどうにもいい案が浮かばず、運命の時はやってきてしまった。


「よう、すまんの!わざわざ!」


「わざわざ呼び出したんだからきちんと説明してもらうわよ!これで大した事じゃなかったらぶっ飛ばすわ!」


「期待に応えられるよう善処しよう。」


ジャックがリリィさんをなだめるように対応する。きっと大丈夫!だいぶいい情報持ってるし、許してくれるさ。たぶん。


「ルーカスゥ、初っ端からやらかすねぇ〜!期待大だよ!おねーさんは!にしし!」


「いやいや、やらかしてないから!むしろ頑張ってた結果だから!」


茶化してくるオリヴィア。すげぇ嬉しそうな顔してやがるぜ。


「それで?ここは誰の屋敷なんだ?勝手に入って大丈夫なのかい?」


不思議そうにゼルダさんが尋ねる。その答えをジャックが答えた。


「ここ呼んだ理由でもあるんじゃが、紹介しよう!ルーナじゃ!」


「ど、どうも!はじめまして!ルーナです。皆様のお役に立てるかわかりませんがよろしくお願い致します。」


待っている間、ルーナには一応事情を話しておいた。仲間が何人かくる事とタルボットの悪行を止めたい旨を。


みんなこの子はだーれ?って言う顔でジャックを見つめる。


「なぁ、ルーナ。ところでここはタバコ吸っても大丈夫かい?」


全く空気を読まずにそんなこと聞くギルに皆唖然とした表情であった。


「あ、ああ、タバコはリビングの方で。換気扇がありますので!こちらです。」


少し怯えながらも案内をするルーナ。そりゃそうだろう。なにせギルの顔は真顔でもだいぶ怖い。威圧感が半端ではない。僕も最初はビビりました。


それから僕達はリビングに移動してルーナに自己紹介を済ませた。


「では、ここに呼び出した理由を説明しよう。まずルーナについてじゃ!」


「そうね。今のところ気になる点が多すぎるもの。説明してちょうだい。」


リリィさんがやっとかと言う顔で言った。


「ルーナはタルボットに監禁されていた少女で、奴の隙を見て逃げ出してきたんじゃ。ルーナが追っ手に捕まりそうなところをルーカスが助けた。」


「ヒュー!やるじゃない!ルーカス!やっぱり男の子ね!」


「へへへ。当然だよ。へへ」


照れた。ちょっと恥ずかしかった。だいぶ話を簡潔にしていて、ジャックが助けてくれた部分が抜けてるけど・・・まぁいっか!褒めてもらえたし!


「ルーナの話からタルボットは魔石を使って武器を生産し、商いをしようとしておる。」


「武器商人になっているのか!?それがテロリストに渡れば大変なことになるぞ!」


ゼルダさんが驚いた口調で伝える。


「なるほど、それが黒い噂の正体ね。」


「さらに、この町に潜む巨大な力を手に入れようとしておる。」


「巨大な力?」


オリヴィアが不思議そうに聞き返した。


「ここはマイヤーズ博士とルーナの屋敷での。マイヤーズ博士は魔石発見し、研究している人物じゃ!ルーナは孤児で拾われた子じゃが、タルボット達曰く何かのキーらしい。」


「何かって何よ?」


「マイヤーズ博士は研究している過程で魔石の力を解明した。そしてこの町に眠る究極の魔石の存在とそれを手にするためのアーティファクトを発見した。」


ジャックは静かに続ける。


「奴は究極の魔石を手にしてさらなる武器の開発を行い規模を広げていくじゃろう。それはなんとしても止めねばならん。」


「なるほどね。通りで遅くなるわけだ。」


どうやら納得していただいたようです。よかったぁぁ。


「でも、それでも、一言くらい、一通目くらいメールしてもよかったんじゃないかしら。」


あ、ダメだ。回避は不可能でした。


「まぁいいわ。この事についてはまた後で。こっちの情報も共有しておきましょう!」


「私達が調べたところ、タルボットの住んでいる屋敷の場所と明日の夜、そこで金持ちによる金持ち達のパーティーが行われるそうだ。」


ゼルダ組の情報。パーティーかぁ。なんで金持ちはパーティーやりたがるのかね!パリピか!


「どうやら明日はお祭りらしくてな。魔石祭って言うこの町の伝統行事みたいだ。」


ああ、なるほどね、町全体のお祭りですか。どうにもお祭りなどのイベントは苦手だ。友達・・・いなかったからなぁ!こういうのは苦手!!


「それを聞いて、ワタシ達は屋敷の見取り図を手に入れたわ!」


「ちゃんと連携してるぅ。すげぇ」


「普通はね。こうやって連携しながら情報を集めていくのよ・・・ねぇ、ジャック。」


「まぁ、結果オーライじゃな!」


こいつ神経太いなぁ!よくここでそのセリフ出たね!


「ジャックは神経太いねぇ〜!久しぶりだよ?こんなに怒ってるリリィ!まぁアタシはそんなところも素敵と思ってるわよ!ジャック!」


「奴を抑えるにはやっぱり物的証拠が必要よ。奴が生産し所持している武器と取引相手が誰なのか。一番いいのは取引している現場を抑えるのが一番だけど。」


たしかに。取引現場を抑えちまうのが一番手っ取り早いしな。


「何んせよ情報が必要だろう?奴の屋敷に侵入して情報盗めば、事が運んでいく。明日の夜はパーティーだ。昼に侵入するのがいいんじゃねーか?」


キッチンの換気扇の下でタバコをふかしながらぶっきらぼうにギルが言う。


「昼間はやめておいた方がいいと思います。むしろパーティー中の方がいいのではないのでしょうか?」


ここで意を唱えたのはなんとルーナだった。


「何故そう思うのじゃ?」


「普段の警備はとても厳重で、情報を盗むなんて不可能に近いと思います。しかし明日はこの町の金持ち達を集めたパーティー。人の往来があるならばある程度の警備は緩みます。少なくとも侵入はしやすいかと。」


「なるほどね。一理あるわ!」


ルーナの意見に同意するリリィさん。


「あとはどう侵入して、奴からどう情報を盗むかね。」


僕はふと窓の方を覗き込んだ。頭の中で情報を整理しようと思って少し視線を送った。


すると窓の先に黒服達がこの屋敷に向かってきているのが見えた。


「おい!みんな!奴らだ!」


「追っ手じゃな。ここで奴らと1戦交えるとルーナの場所がバレちまうの。」


「でしたら、裏口があるのでそこから出ましょう。」


ちょうど日も落ちてきた頃だ。このまま闇に紛れて行くのがいいだろう。


僕達はなんとか屋敷を抜け出し、レッド地区に戻ってきた。ルーナをあまり外で歩かせておくのも危険だし、隠れ家に行くのかな?


しばらく歩くと大きなホテルの前でリリィさんが止まった。


「今日はここに泊まるわ!部屋を取ってくるから少し待ってて!」


ここに泊まるの!?結構豪勢なホテルゥゥ!経費ですか!?


「隠れ家の方じゃないんだね。」


そんな僕の疑問にジャックが答えた。


「あそこにはベットもシャワーも無いしの。流石にこの人数を泊めるのは無理じゃよ。あくまであそこは会議と武器などの設備があるくらいじゃ!」


「まぁそうだよな。セントラルの方が秘密基地みたいだったからつい。」


リリィさんが駆け足で戻ってきた。表情を見る限りきっと部屋は見つかったのだろう。


んー・・・どうだろう?この人だったもしかして無表情で伝えそうだな。表情を見る限りというか無表情に近いけど。


「部屋は3つ借りれたわ。女子3人、男子を2対2で分ければいいでしょ?ワタシ達は先に部屋に行ってるから。明日の作戦を考えておくわ。各々、情報をまとめておいてね。明日の時間はまたメールするわ!おやすみ。」


そう言ってリリィさん、ゼルダさん、ルーナの3人は部屋に入っていった。


「んじゃ、わしらも行くか。明日も早いしの。ギルとオリヴィアが同じ部屋は地獄になるので、わしとギル、オリヴィアとルーカスでええじゃろ。そんじゃおやすみ。」


そう言ってジャックとギルも部屋に向かっていった。


まぁそうだよな。順当に考えて、部屋が3つならまず女子と男子に分ける!それはわかる。次にギルとオリヴィアは犬猿の仲だ。それは見てればわかる。そしてこの分け方になったと、なるほど、なるほど。


「・・・・・」


「おい、何してんのよルーカス?アタシ達も行くわよ!」


オリヴィアと2人っきりでお泊まりだとぉぉぉ!クソぉぉぉ!迂闊だった!完全に今の今まで女子と認識していた。しかーし、オリヴィアは男の娘である!


しかーーーし!見た目は完全にドストライクおねいさん!ぼ、僕の理性は保てるのか!?


「おい!ルーカス!なかなかいい部屋じゃねーかよ!なぁ!景色も綺麗だよ!」


僕はオリヴィアに手を引かれながら景色を見る。なにこれ、なにこれ。もう景色なんて入ってこねーんだけど!オリヴィアめちゃめちゃいい匂いしたんだけど!そして僕は見逃さなかった。


なんでこの部屋ダブルベッドなんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!


「ねぇ?どうだった?初任務の初日は?いきなりで大変でしょ?」


「え?あぁ、まぁ、ね。1日に色々ありすぎてだいぶ混乱しているところだけどね。」


「大丈夫よ!あんた、初日から女の子を助けたんでしょう?やるじゃない!」


「まぁ、結果的にタルボットに繋がったけど、もし関係なかったら・・・」


「いいのよ。あんたは1人の女の子の悲しみを救うことができたのよ。それは任務に関係ないからとかじゃなくてね。それはとても簡単に出来ることじゃないわ!関係ないからと切り捨てるよりもよっぽど難しいことだわ。」


オリヴィアは僕を優しく気にかけてくれていた。初任務の緊張や失敗をきっと心配してくれているのだろう。先輩として、おねいさんとして。


「なかなか男前じゃない!泣いてる女の子を、困っている女の子を見捨てられないのがあなたよ!それを貫いていきなさいね。それがあなたの正義になるわ!」


「なんかそれ、かっこいいね!」


「でしょう!かっこよくいきましょう!」


「ねぇ、他の人達のことも、もっと知りたいんだけど教えてよ。」


「ちょっとづつでいいのよ。メンバ1人1人話していけば自ずとわかってくるわ。それに、今夜はアタシと、ね。」


え?なに?なに?顔が近い!顔が近い!顔が近い!


オリヴィアはニィっと不敵な笑みで僕をからかった。


「顔真っ赤〜〜!可愛い〜〜!きゃ〜〜!」


めちゃめちゃ笑ってる。この野郎!


「さーてと、アタシ今日汗かいちゃったし、シャワー浴びよぉ〜と!ルーカスは?」


「あ、ああ、僕は後でにするよ!」


「それともアタシと一緒に入る?ねぇ?」


「ば!バカ!馬鹿野郎!な、なに、なに言っちゃってんの!?いみ、意味わかんねーし。」


童貞がモロ出しであった。


「なーに動揺してんの?ルーカスのエッチぃ!なーんって!」


落ち着け!落ち着くんだ僕!オリヴィアは男の子だ!見た目が女の子だが、男の子なのだ!


いや、まてよ、待て待てよ!たしかにジャックが男の娘だと言った。ギルがオカマ野郎って吠えていた。しかし、僕自身でオリヴィアを男と判断しうる物を見ていないでは無いか!胸がないからといって男か?!否!僕はどんなに貧乳でも愛する男だ!胸だけで判断は早計すぎる!


あくまで人からの情報!物的証拠では無い!さっきも言っていたじゃ無いか!


やはりシンボルの確認が必要か!


ここは確認の為、そして今夜僕がゆっくり眠るために一緒にシャワーを浴びに行くべきだったのではないか?


どうする?今から間に合うか?いやいや、さっき断ってしまったし。いやでも、これから入ってもさっき誘っていたのだし問題はないはず!


しかししかししかし!もし!女の子であったならば、女の子シャワー中に全裸の変態男が入って行くことになってしまうぅぅ。


これだけは避けねばならない。いっ時の祝福のためにその後の関係を壊すことなど、今後の生活が地獄と化してしまう。


だがこのムラムラ、いやモヤモヤした感じで朝を迎える事など出来るはずもない!!どうする?どうすればいい?!


ガチャっとバスルームから扉の開く音が聞こえた。


え!?まさか!?ごちゃごちゃ考えていた間にもう出てきてしまったのか!?


「ルーカス〜?空いたわよぉ〜?やっぱりシャワーで汗を流すと気持ちいいわねぇ〜!」


オリヴィアはバスローブの姿で僕の前に出てきた。


そして現在。


ベットの上でオリヴィアに抱き枕にされながら自分の理性と性欲と戦っている男が1人!


結局その夜は、あまり良くねれなかった。




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