第12話 屋敷と博士

僕達はとりあえず詳しい話を聞くために近くの喫茶店に立ち寄った。なにぶん喉カラカラの僕としては嬉しい限りだ。いや、本当にカラカラ。全身から水分をくれと言わんばかりに僕に訴えてきている。


席についてジャックが注文をしてくれた。


「カフェオレ3つで!」


「あ、あと!水もお願いします!」


甘い飲み物も嬉しいが、今は喉を潤す水か欲しかった。食い気味で言ってしまったかもしれない。


「あの店員に引かれてたの。」


「うるせぇ。喉カラカラで潤したかったんだよ!その後にカフェオレをゆっくり飲みたいんだ!ちょっと食い気味で必死だったかもしれないが、僕にとっては必ず伝えとかなければならないことだったからな!」


「ま、それもあるが、何よりその顔の腫れに驚いてだだろうよ!」


ジャックはニヤニヤしたまま、茶化すように言う。


「あの、お怪我は大丈夫ですか?私のためにありがとうございます。何か、冷やすものをもらいましょう。」


「構わん、構わん。こんなもん湿布でも貼っとけば大丈夫じゃよ!ほれ」


と言ってジャックは僕に湿布を投げる。


いや、お前が大丈夫かどうか決めるなや!それに湿布持ってんのかい! まぁせっかく貰ったんだし貼っておこう。


しばらくして、飲み物が揃い僕は水をがぶ飲みして落ち着いた。


いやぁ〜生き返るゥゥ!最高だ!こんなに水ってうまいものかね!え!喉が乾けば乾くほど水が一番美味く感じるのわかるかな?


人類がどれほど進歩してうまい飲み物を作ろうともやはりお水には敵わないのだろうな。しみじみ思うぜ。


「さて、飲み物も揃った所じゃし、本題に入ろうかの。」


本題・・・彼女はタルボットから逃げてきたとそう言った。タルボットに近づくヒントを彼女は持っているかもしれない。


「タルボットの件について1から頼む。」


「はい、私は約6年間、タルボットに監禁されていました。」


監禁!?なんでこの子が!?


「監禁とは随分物騒な話じゃな?何故お主が?」


「それは私にもわかりません。何故私が監禁されていたのか。」


「お主は一体何者じゃ?タルボットとの関係はなんじゃ?」


「そうですね、まず私の生い立ちから説明します。」


店の騒音があるはずなのにやたら静かに感じる。それほどシリアスな話が始まると僕達は察していたのかもしれない。


「私は孤児でした。親に捨てられたのか、死んでしまったのかもわからない状態でした。そこにマイヤーズ博士という人に私は拾われていきました。」


「マイヤーズ博士と言えばこの町の発展にも関わっている博士と聞くな。確か、この魔石の発見と加工を発案したと。」


「はい、博士は魔石を発見し、魔石の研究をしていました。魔石は7種類あり、それぞれの色で様々なエネルギーを放つ不思議な石です。」


確かそのエネルギーを利用して、町を発展させたんだよな。


「赤の石なら熱のエネルギーを、青の石なら水が湧き出てきたりと。博士は研究に没頭していました。」


「なるほどのぉ、なんとなく読めたわい。おそらくタルボットは博士の研究費を出資し全面的にバックアップをする。そのかわりその石で商品を作りビジネスをする。いわゆるビジネスパートナーになったわけじゃな?」


「その通りです。マイヤーズ博士は私を拾い大切に育ててくれました。どういう理由かはわかりません。家族が欲しかったのかもしれません。」


「私は、博士と幸せに暮らしていました。博士の発明で町も発展し、町は豊かになって、あの時はとても幸せな時間でした。」


「確か、昔は炭鉱の町じゃったかの?石炭が有名じゃったかな?」


「魔石が発見してからは、魔石関係の商品を他の町に売ることによって、この町は大きく発展していきました。」


魔石にはそんな力があるんだな。


「魔石の効果は絶大でした。半永久的にエネルギーを作り続ける魔石はとても便利でした。人のエネルギーを使ってですが、微量でも多くのエネルギーを作り出す事が可能ですし」


「た、例えばどんなものがあるんだい?」


僕は気になって聞いてみた。


「そうですねぇ、例えば、その水もわざわざ川に組みに行ったり、海から組んで塩水を見水にする必要はありません。青岩石のエネルギーを使えば、その石から水があふれて出てくるのです。身近のもので言えば、水道の蛇口などですね。捻れば簡単に出てきますが、それは他の町とは作りもシステムも全く異なります。」


「特にこの町は水には他の町を頼らなければならないからのぉ。」


「他の町とかならやはり電気岩石類の商品は人気ですね。電気が切れることはありませんから。携帯も充電する必要はありませんし、テレビをコンセントにつなぐ必要もありません。電気代を払う必要もありませんしね。」


す、すごくないか!?そんな石がこの町にたくさん存在しているってことだろ?


「話が逸れちまったが、それで?何故その幸せな日々が終わっちまったんだい?およその検討がつくがの。」


「はい、ここまでの事業はうまくいっていました。ですが、裏でタルボットがある計画を進めていたのです。それを博士が気づき止めようとしました。」


「なるほどの、それで奴に消されたか。」


「そうです・・・あの男が博士を・・」


ルーナはタルボットへの憎しみが溢れていた。


「そのある計画ってなんじゃ?」


「ある計画とは裏取引の事です。裏である大きな取引をしたかったみたいです。それが、魔石を組み込んだ武器の取引です。」


武器!?武器の裏取引!あのおっさんが言ってた武器の取引はこの事だな。


「魔石を組み込めば銃に弾は必要なくなってきます。永久的に撃ち続けられる銃などができます。燃える刀なども可能でしょう。」


「そんなのがテロリストに回っていった、大変な事になっちまう。」


「しかしそれはあくまでも対人レベル、国家レベルまでには及びません。タルボットはさらなるエネルギーを求めていました。究極の魔石とアーティファクトを探してました。」


究極の魔石とアーティファクト?


「博士は究極の魔石とアーティファクトについても知っていたみたいです。その秘密を吐かせるためにタルボットが博士を問い詰めました。逆に博士はタルボットの野望を阻止しようと説得していました。」


そして悲劇が起きてしまったのか。


「どういう話が行われていたかはわかりません。しかしタルボット曰く私がキーだと・・・」


キー?キーって一体なんのだ?究極の魔石とアーティファクトの?


「究極の魔石とアーティファクトに関するキーマンって事はかの?」


「わかりません。私自身も思い当たる節はありません。」


「んで、博士が死んでからはタルボットの所で監禁生活ってわけかの。」


「・・・・・」


きっと相当辛かったんだと思う。彼女の表情を見るたび強く思う。博士を失った悲しみ、タルボットに対する怒りが、そして監禁されるストレス。様々な要因が彼女を苦しめたのだろう。


「私はタルボットからたくさんの実験に付き合わされました。それは人体実験と言えるものでしょう。私はタルボットの隙を見てなんとか逃げ出す事ができたのです。」


「そうか、すまんの。辛い話をさせてしまったな。」


「いえ、助けていただいたお礼に皆さんのお役に立てればと」


「さしあたって次は究極の魔石とアーティファクトについてと奴の居所じゃな。」


「タルボットの居所については私がわかります。監禁場所になりますが。それと究極の魔石とアーティファクトについては、何かヒントになればいいですが博士と私が住んでいた家に何かあるかもしれません。研究施設もありますので。」


究極の魔石とアーティファクトかぁ、一体どんなものなのだろう?タルボットが欲しがっている魔石。莫大なエネルギーがあるのだろうか?


「じゃ博士の家に行って見るかの!」


「えっと、博士の家は何処にあるんだい?」


「はい!オレンジ地区の丘の上にあります。中心部からはだいぶ離れているので、本当に何もありませんが。」


僕達は喫茶店を出てオレンジ地区へ向かった。大広場に戻って電車に乗るよりここから歩いて行った方が近いんじゃないかとジャックの提案に乗って僕達は歩いて向かう事にした。


「なぁ、ルーナ、君はこの町の出身なのにあまりこの土地に詳しくないんだね。さっき走り回っていた時も言っていたけれど、なぜだい?」


「私は、オレンジ地区以外にほとんど出たことがないので、レッド地区はあまり知らないのです。申し訳ないです。」


「そうだったんだね。いや、責めているわけじゃないんだ。少し気になったから聞いてみただけなんだよ。」


「正直オレンジ地区もうる覚えなのでうちにきちんと戻れるかも少し不安ですが。」


え〜、それ大丈夫なの?迷子にならないか?僕達。


「まぁなんとかなるじゃろ。この町は大広場に向かって土地がどんどん低くなっておる。下り坂になっておるからの。とりあえずオレンジ地区の上の方を目指しておれば見つけやすいと思うわい。丘の上って言ってたしの。」


「あ、ありがとうございます。見覚えがあるところまでくれば大丈夫だと思うので!」


とりあえず上を目指して歩いていけばいいんだよね?つまり、少し坂を上っていくってことになるんだよなぁ。体力持つかな僕。


あれから数分、どうやら僕達は目的の場所につくことができた。


道中ルーナが迷子になったり、チンピラに絡まれたりして大変だったがなんとかたどり着けた。


「ゼェ、ゼェ、ゼェ、やっと着いたぁぁ」


「やっと帰ってこれた。長かった・・・」


ルーナは少し涙ぐんでいた。そりゃそうだろう、ここに帰りたくて必死に逃げて来たんだ。あの苦しい監禁生活から死に物狂いでここに・・・


「意外と大きい屋敷じゃな!立派じゃ!さすが博士!」


「ご案内いたします。こちらへ!」


ルーナが嬉しそうに手招きをした。家に帰れるのと、早く色々紹介したいのが混ざっているのだろう。


「今度はしっかり案内してくれよの!」


「大丈夫さ!美人ガイドさんに任せておこうぜ!」


「ふふふ!かしこまりました。」


屋敷はそれなりに大きかった。2人で過ごすには大きすぎるぐらいだ。中は荒らされている様子もなく割と綺麗であった。


広間を抜けて2階上がり、書斎へと案内してくれた。


「ここが博士の書斎になります。何か見つかればよろしいですが。」


さすがという研究者の書斎というのは資料で部屋がいっぱいであった。この中から探すのかぁ、さすがに気が滅入りそう。


「ほぉ、人体や加工について、いろんな本が置いてあるんじゃのぉ。」


「博士はここで考えをまとめて、裏手にある研究所で研究していました。」


「なるほど、後で研究所も見てみよう。」


小難しい本ばっかだなぁ〜〜。さっぱりわかんねーや。


ん、この町の歴史とかあるな、これくらいなら読めるかも。


僕は本を取り無造作にめくっていく。


「昔は泥臭い感じだったんだなぁ、博士はこの町に何を感じてたんだろうな。」


この町を華やかな町に変えたかったのだろうか?便利に豊かにしたかったのだろうか?この町の歴史を見て何を感じたのだろう?


めくっていくと、白い紙がひらりと落ちた。


「ん?なんだこれ?」


紙にはFー137古代文明と書いてある。


「きっとFはファイルのことだと思います。書庫にたくさん置いてありますので、博士は研究をファイルにしまってまとめています。」


「そこからあたってみるかの。机の中にあるメモも古代文明関係が多くなってるしの。」


僕達は地下にある書庫に向かい、Fー137ファイルを探した。書庫は少し埃っぽかったがほっとかされている割には綺麗だった。


「あった、あった、あそこじゃ、Fー137!間違いなし。」


早速ファイルを見てみると、


『古代兵器、この地に眠る究極の魔石。力を欲すれば証明せよ。アーティファクトに認められたし者よ!魔石の力、授からん。アーティファクト、太陽とついの存在。太陽が隠れる時その存在を示す。虹に集まりしその力、彼の地に眠る。魔石に光と闇の力、どちらか1つ。光の力、創造を授ける。闇の力、破壊をもたらさん。』


どういう意味だろう?難しくてよくわからんな。さっぱり。


「どういう意味でしょう?私には難しくてさっぱりです。」


「僕もです。こういうのは苦手で、、」


「とんでもない力を持ってるってことだけは確かじゃの!」


オメーもよくわかってないんかい!


「次のページに書かれているのは博士の日記かな?」


ボクは古文書に書いてある場所を探し、ついにアーティファクトを見つけることが出来た。ボクの予想をしていないモノではあった。ボクに驚きと興奮が襲ってくる。とりあえず研究所に持ち帰ることにした。


「博士はアーティファクトを見つけることが出来たんじゃな、そしてそれを持って帰ってきている。もしかしたらこの家にあるかも知れん。」


「でもアーティファクトがどんな形状のどんな大きさかもさっぱりわからないぞ。探すにしたってヒントがなさすぎる。」


「研究所の方も見てみようかの。」


「では、案内します。」


僕達は屋敷の裏手に回った。しかしそこに移るものに僕達は驚きを隠せなかった。


「どうしてこんなことに!一体誰が!?」


「おそらく奴らじゃろう。何かを隠したかったのか、証拠隠滅するためか。」


研究所は全焼していた。残っていたのはその残骸がそこにあるだけ。


「はぁ〜参ったのぉ、お主らはまた屋敷の中を調べて置いてくれ。」


「ジャックは?」


「少し、ここで考え事をまとめてるわい。しばらくしたら戻るよ。」


僕とルーナは屋敷に戻り、探索をし始めた。


「ここはリビングかな?」


リビングは広くキッチン越しにテレビも見れて窓も大きくよく日が入った。大きなソファーに座り、きっと2人でテレビを見てご飯を食べたのだろう。


「よく、博士は料理を作るのですがこれがまた独創的な味で、それについて私が笑うと余計に博士がムキになって料理をしてました。」


「大切にされていたんだね。きっと博士にとって君は宝物だったのだろう。君との日常がきっとなによりも大切だったはずだ。」


「昨日のように感じます。ここで博士と過ごしていた日々が。」


ルーナは押し殺していた感情が溢れ出してしまったのだろう。涙を眼にためてソファに座り込んだ。


僕は黙ってその隣に座った。


「う、う、うっ、うああああ!うああああああああああああああああああああああああああああ!うっう、ああああ、」


ルーナは思いっきり涙を流し僕の肩に顔を埋めた。僕はこんな時どうすればいいかわからず、ただただジッと動かないで見守っていた。


しばらくして、ルーナも落ち着き改めて向き合った。


「ありがとうございます。すいません、肩を随分と、その、濡らしてしまって。あってまだ数時間の人の前で思いっきり泣いてしまって申し訳ない。」


少し恥ずかしそうに、俯きながらそう伝えて、その姿がとても可憐だった。


「いいや、いいんだ!僕も君の体温を感じることができて!むしろこっちこそありがとう!」


テンパって意味のわからない事を言ってしまった。ドン引きものだぞ!やっちまったかな?セクハラになります?


「ふふふ、何だかルーカスさんは博士とどことなく雰囲気が似ています。」


「えっ?えっ?そうかな?実感はないけどね!」


「少しドジっぽくて、でもとっても優しくて、暖かくて、でも時に正義感のある強い意志を持って行動できる人。なんだか博士がいるみたいで安心します。」


そう笑うルーナの顔がとても綺麗で、すぐ顔をそらしてしまった。


なかなか関わらないタイプの女性だ。接し方がイマイチわからなくなってきた。


「ねぇ!他も色々見て見ましょう!博士との思い出をあなたと一緒に見ていきたい。」


そう言って僕の手を引いてルーナとこの屋敷の探索ツアーが始まった。


バスルームや遊び場、中庭を見てさらにルーナの部屋まで案内された。


初めて女の子の部屋に入った瞬間であった。めちゃめちゃドキドキしたなぁ。部屋から可愛さが溢れているもんな。どーゆう現象だよ!


しばらくしてジャックが屋敷に入ってくる。


「おい、ルーカス、ちょっと!」


「ん?なんだよ!」


僕は手招きしているジャックの元へ駆け寄る。手元に携帯を持っていた。


「あんた達、今何時だと思っているのかしら?」


すごい低い声の、明らかに激昂しているリリィさんの声であった。


ヤッベェェェ!スッカリ忘れてた。あれからもう6時間も経ってるよ!3時間もオーバーしちまった。


「みんな集まってるのに、あんた達だけ待っても待ってもずーっと来ない。色々な要因があるからしばらくは待っていたのに、1つも連絡をよこさずずーっと、、、」


アワワ、激おこだよ。どーしよ!ジャックぅぅ!

「すまんかった。リリィ。説教は後で聞くわい。わしも皆の話を聞きたい。だかこちらの事情があって一旦こちらにきてもらいたい。」


「はぁ?なんでこっちが集まってるのにわざわざあんたらの方に行かなきゃいけないわけ?」


怖いっす!リリィねーさん。


「事情は後で説明するわい。頼むよ!リリィ!」


「貸しだからね。ジャック!6時間分と移動させる分の情報は手に入ったと見ていいのね!期待してるわ!」


「場所はメールにて送っておくわい!よろしく頼む!」


「じゃ、後で。」


どうやら恐怖の電話は終わったらしい。まぁこれから恐怖そのものがくるんですけれど。


「さぁ!こっから作戦を考えるぞ!」


「それはどっちの作戦?リリィさん?タルボット?」


「両方」


「了解。」


そのやり取りをなんのことかわからず、呆けた顔でルーナが眺めていた。









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