第2話襲撃

どうして、、


どうしてこんなことになってしまったんだ。


僕が一体何をしたっていうんだ?


僕は、僕は何もしてない。


それになぜ僕のアバターが街を襲う?一体何がどうなっているんだ?


「速報です。昨夜何者かがハルシステムのセキュリティを破ぶり侵入し暴走させたとみられています。」


速報をみて僕は背筋が凍った。


「わしはこの街に来て少しだからよくわかってないがこのアバターのシステムがこの街を支えていると考えていいのかの?」


僕はジャックの質問に答える余裕もなかった。冷や汗がダラダラと溢れ出て心臓がバクバクなっている。


まさか、いや、違うに決まっている。あれはテストって言ってたし。そう思っていないと自分を保てなかった。まさか本物じゃないはずさ!


僕の一生の中で、この生きてきた二十年間の中でこんなに心臓が動いてることがあっただろうか?


誰かに言ってほしい。お前のせいじゃない、あれは別の誰かがやったことで君とは全く関係ないと!

昨日のテストは本当にセキュリティを図るためのテストであった!何故かわからないけど君のアバターが悪用されているだけですって!


「おい、大丈夫か?汗ビチョビチョじゃぞ?何をそんなに怯えとる?」


「えっ?!い、いや、なんでもないですよ!!」


だいたいなんでこいつが僕の部屋に来たんだっけ?色々な事が起こりすぎてなんのことやらよくわからなくなってきた。


一体僕の周りで何が起きている?たしかナントカの組織が僕を狙っているとか?何故?なんで僕を狙う?その組織のせいじゃないのか?今起きているこの現状は!?


「ふむ、街ではとんでもない事が起きているみたいの。パニック状態じゃ!これも奴らの仕業なのか、はたまた別の事件か、お主はどう思う?」


「はぁ、はぁ、はぁ」


「おいおい、質問してるだけじゃぞ?大丈夫か?息が荒くなっているが、落ち着け!大丈夫じゃ!奴らに狙われているといってもわしがいる!守ってやる!安心しろ!街の事はまだわからんが調べていけば自ずと解明されていくさ!」


「どうすれば、どうすれば、」


「お主、テレビを見てから様子がおかしいのぉ、一体何を知っている?」


ジャックは鋭い目で僕を見つめる!その視線はまるで僕の全身を縛るように、僕は一瞬にして体が動かなくなる。


蛇にカエルが睨まれたみたいに全く動かない。


「ち、ち、ちが、違う!違うんだ!ぼ、僕、僕は、僕は何も、何も、何も知らない!な、なにも、なにもしてない!」


僕が慌てて答えてたその瞬間、パリンっと窓を割り人が侵入してきた。


その姿は明らかに武装しており両腕には鉤爪のような武器が備わっている。敵意をこちらに向けている。


一体誰だ?何者だ?何が起きてる?


「うぁぁぁ」


僕の喉から変な声が出る、自分の声じゃないみたいだ!


一瞬だったと思う。すぐさまジャックが刀に手をかけて踏み切る。


その様子はさながら侍の一騎打ち、決闘の様に見えた!


その初めて見る光景に僕は息を飲む。きっと一生忘れられない光景になっただろう。今僕の目を移植したらこの光景が焼き付いているんじゃないかってぐらい衝撃的な光景だった!ある意味とても絵になるシーン。


敵の鉤爪がこちらを向く前にジャックが刀を振り抜き、敵は 宙に散った。血が吹き出し重々しい音とともに床に倒れる。


あまりの速さと出来事に僕の頭は追いつかなかった。人が切られて倒れた。初めて間近で見る人の死に驚きを隠せなかった。


「し、し、し、死んだ!ひと、人が!人が死んだ!」


「思った以上に早くきたの。しかも明らかな敵意を持って!こりゃただ事じゃなさそうじゃ」


何故かジャックは嬉しそうであった!


こいつ正気じゃない、人が倒れて死んだというのにこの平然とした顔。いや、そもそもこいつが切ったんだけれども。


「な、な、何も殺す事なかったんじゃないか?!」


僕は勇気を振り絞りながらジャックに伝える。話し合う道もあったかもしれないだろう?


「阿呆、あんだけ武装しておいて話し合いするつもりで来てると思うか?明らかな敵意と殺意じゃ!お主の頭はお花畑か?それにわしがここにおらんかったら、ここに転がってるのはお主の方じゃ!」


「ーーーーッ!!」


そう考えるとすごく恐ろしい事態に巻き込まれているのかもしれない!僕の頭はどうやら本当にお花畑の脳みそをしていたようだ!


僕は狙われていてさらに殺されようとしていた?なんで?見ず知らずの奴に殺されなければならない?

どうしようもないニートだけど人に恨まれるような事はしてこなかったつもりだ!


するとすぐさま廊下から足音が聞こえてきた。


「退いてろ!!」


すぐさまジャックが僕を突き飛ばしながらキッチンの方へ隠れた。


玄関の方から一斉に射撃が始まった。部屋中に発砲音が鳴り響く。


「うぁぁぁぁあああ!なんなんだよぉーー!もぉー!僕の部屋がめちゃくちゃだぁ!」


しばらくすると発砲音は聞こえなくなった。どうやら攻撃は止まったみたいだ!あちらはこちらの様子を伺ってチャンスを狙っている!こんなのアクション映画でしか見たことねーよ!普通に生きてて銃なんて見た事ないし、まさか自分の部屋に銃弾が打ち込まれるなんて想像もしてなかった!まともな殴り合いの喧嘩ですらした事ないのに!


ジャックがハンドガンで牽制し膠着状態に入った。


「ど、ど、どうすればいい?なぁ!僕達は助かるの?!ねぇ!なぁ!」


「どうやら敵は二人!アサルトライフルを持っとる。どうにか隙を作らんと倒せん。」


こいつなんで敵が二人とかもわかってるんだよ!何者だこいつ?そういえばさっき特別ナントカって言ってたけど結局よくわからなかった。でも少なくとも僕を守ってはくれている。それだけでこいつが信頼できる人間なんじゃないかって思ってしまう。


「す、隙?!隙なんてどうすれば出来るんだよ!」


どうしようもないほどパニクる僕とは裏腹に冷静なジャック。逆にそれが余計に僕を焦らせる。


心臓の音が今までにないくらい早く鼓動している。 今日心臓が破裂して死ぬんじゃないか僕!!さっきの焦りとは違う意味で心臓がバクバクだよ!今日で何回心臓を痛くすれば気がすむんだ!


「ところでわしには特殊な能力があってのぉ!」


は?こんな時になにを言っているんだこの男は?能力?急な漫画の展開に追いつかないぞ僕の頭は!今日はそれ以外に僕の頭を混乱させる事象が多すぎるんだからな!


「まぁそう言うなよ!わしはなぁ!他の物質を他の生物に化けてさせるとこが出来る!」


人の心読まないで!ドヤ顔で言われても逆に腹立つんだけど!!こんな時に!ふざけやがって!なめてんの?おちょくってんの?安心させたいの?分からんわ!


「まぁ百聞は一見にしかずじゃ!よう見とれ!」


そう言うとジャックはさっき割れた窓ガラスに手をかざした!


すると割れたガラスの破片が次々にネズミに変わっていった!


「なっ!な、なっ!な、は?はっ?」


ネズミたちは全員黒い帽子を被っていた。どうやらこいつのオマージュらしい。


僕は驚きを隠せない。一体目の前で何が起きた?ファンタジーか?こんなのアニメや映画でしか見たことない。


ジャックがネズミたちに話しかける。


「頼むぞお主たち!敵は二人!お主たちが攻撃し、敵がお主たちに目がいっているすきに、わしが仕留める!作戦名は命を大事にじゃ!いいな!無謀に突撃しないで仲間を大切にの!」


「チュー!!!!!」


ネズミたちが全員敬礼している。なんか可愛いな!


よく見るとネズミたちの爪や牙がガラスの破片になっていた!


「気づいたかのぉ?動物の身体能力に元の物質の性能が加わる!これがわしの能力の真骨頂じゃ!」


こいつ一体何者だ?なんでこんなことが出来る?僕夢の中にいるんじゃないかな?こんなの普通の人間じゃない!おかしい!


「チュー!!!」


ネズミたちが一斉に玄関の方に向かっていった!ネズミたちは素早い動きで敵の足元に近づき飛びかかる!


「なんだこいつら?!」


「ぐぁ!噛まれるぞ!気をつけろ!一体どこから湧いて出て来やがった!」


ネズミたちは足や、腕に噛み付いていく!


敵はネズミたちに翻弄されて隙だらけ!


その隙にジャックはハンドガンを構えて飛び出す!


「じゃーの!隙ありじゃ!」


バン!バン!と銃声が2発響き渡ると敵は倒れていた。


「ご苦労じゃったお主たち!お疲れ様!」


ジャックが指を鳴らすとネズミたちは一斉にガラスの破片へ戻っていった!


「な、な、なんなんだよ!お前!!!一体何者だ!一体何が起こっている!?もうわけわかんない!」


なんだか泣きそうだ。これからどうすればいい?僕の部屋ぐちゃぐちゃだし、街はパニック状態だし、何故か僕のせいみたいになってるし、怖い奴らには狙われるし。


僕はこれからどうなっていくのだろう、老い先真っ暗な気がしてきた。


「もともと真っ暗じゃったろ?ニートくん!」


またしても人の心を読みやがって!ほっといてくれ!今の状況よりはマシだったわ!


「それに何者だって言われてものぉ、さっき名乗ったじゃろ!」


「んなこと聞いてんじゃねーんだよ!僕の部屋で死人は出てるし、ガラスがネズミになるし、魔法の世界に行ったみたいだ!」


なんだよさっきのあれは!ガラスがネズミになったんだぞ!意味わからんわ!ちゃんと納得できる説明を求む!その権利くらい僕にはあるはずだ!


「まぁ気にすんなよ!飴ちゃんやるからさ」


「気にするわ!スルーは出来ないわ!飴でなんかで納得できるか!!!!」


ちくしょぉ、どうするんだこれから。どうすればいいんだぁ。


「にしても奴ら、いきなりお前さんを狙ってきやがったの。しかも殺しにかかってきとる。今回人数は少なかったにせよ、奴らはプロじゃ!素人に相手できるレベルではない。わしがいなかったら確実に死んでたな。奴らに狙われる理由とかわからんか?何か思い当たることとかの。」


「んなこと言われても、全く身に覚えが、、僕完全に一般人だし、ニートだし、奴らにとって価値のある人間とは思えない。」


自分で言ってて悲しかったが、本当にこんな危ない連中に狙われる筋合いはないのだ。でももしかしたらあの事と関係があるならばあるいは?


「そういえばさっきのニュースで慌てていたな?それに関しても何もないのかの?」


うぅぅっ!それに関しては目を逸らしたい。少し思い当たる節があるがなんかの誤解だと思い続けていた。でも僕はジャックに助けてもらった。命の恩人だ!ここは話しておいた方がいいのかもしれない。悪い奴ではなさそうだし。


一応僕はジャックに昨日の出来事を話した。ハルシステムのセキュリティのため、ハッキングテストを行った事!その経緯を!


「なるほどのぉ、意図的に嵌められたかもしれんな。」


え?嵌められた?意図的に?誰に?さっきのやつらにか?


「可能性は高いじゃろうなぁ、奴らがお主を狙う理由はわからんが、この街のパニックの件、そして奴らが襲ってきたタイミング!偶然とは思えん。何かしらの繋がりがあるはずじゃ!奴らはこの街を狙っているのかもしれない。」


この街を狙っている。そして事件に巻き込まれている。こんなことになろうとは全く思わなかった!


「もしかしたらお前さんが作った新しいシステムに関係するのかもしれないのぉ。お主のアバターが他のアバターを吸収しているように見えたが?どうじゃ?」


「・・・・・」


いや、まさか、僕はただこんなシステムがあったらいいかもしれないと思ってやっただけだ、、でも類似している。


「しかしまぁ、全くもって軽率な行動じゃなぁ。愚かにも程がある。普通そんな怪しいバイト受けるか?いや、こんな生活してるからこそこーなったんやろうな。」


ジャックは呆れながらに言う。


返す言葉もない。


「しかしそのハルシステムを奴らが狙っていたとしたら辻褄があう。」


「今のハルシステムの暴走はお前が起こしたもの。つまり今のシステムを熟知し全てを知っているのはお前じゃ。このシステムを止められるのもお前と言う事じゃ。そのハルシステムのセキュリティわ唯一破った奴じゃ!警戒するか、万が一が無いように消しに来たという事じゃ!奴らはプロじゃからの!不安分子は消しておく!まぁでも可能性は低いがな。本人を目の当たりにすると。」


嫌だ!僕は!死にたくない!僕は悪くない!だって知らなかったんだ!そんなことなんて!奴らが企てたのなら僕は巻き込まれただけだ!なんでそれで命を狙われなければいけない?こんなことに僕は関わりたくない!


「ぼ、僕はどうすればいい?し、死にたくない。捕まりたくもない!!どうすればいいですか?!」


僕は見苦しく叫んだ!必死に助かりたいと!逃げたいと!


「・・・・・」


そんな僕にジャックは何も言わない。静かにこちらを見ている。


「そ、そうだ!この街から出よう!もうこの街に関わらなきゃ奴らに狙われる必要もないし!ね!ね!!!!ね!」


僕は誰かに肯定して欲しかった。慰めて欲しかった!お前が悪いんじゃないと!


「・・・・・」


それでもジャックは何も言わない


「なんとか言ってくれよ!なぁ!なぁ!知らないよ!僕が悪いんじゃないじゃないか!巻き込まれただけじゃないか!なんでそんな目で僕をみるのさ!」


「呆れるわい。そーやって逃げていたんじゃな、お前は!いっつもいっつも逃げ回り、他人に責任をなすりつける。口先ばかりは一丁前に正論をかざし自分の心を潤す。」


ジャックは僕をまくしたてる。責め立てる!僕が目をそらしてきたものを次々と目の前に突き立てる!


「この街から逃げてどーする?この街の人達はこのままほっておくのか?自分さえよければいいのか?奴らにこの街を乗っ取られたりしたら犠牲になるのは街の人達じゃぞ?」


やめてくれ!


「それを自分は関係ない、自分は悪くないからと一人でのうのうと逃げるのか?」


やめてくれ!やめてくれ!


「だいたいお主がセキュリティを突破なんてしたからこうなったんじゃないのか?真面目に働いておればこんなことにはならなかったんじゃないか?」


やめろ!やめろ!やめろ!


「実に滑稽!!異世界転生ものばかり読んでいるようじゃが、今の現状から逃げ出し他の世界で無双か?今の現実で戦えない奴がどこに行こうが上手くいくわけなかろうが!!!甘えるな!!!」


うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!


「お前に!!!僕の!!!何が!分かるって言うんだ!!!」


「さぁの、全く分からんわ!分かりたくもないしの、」


「だったら偉そうに上から物言うんじゃねーよ!自分はエリートで偉いってか!街を守ってヒーローか?」


「・・・・・」


「みんながみんなお前みたいだと思うなよ!上手くいかなくて逃げたくなるようなことがあるんだよ!お前みたいにそんなに前を向いて生きてるわけじゃない!お前みたいに失敗もしてきた事もない、挫折も知らないような奴が一番嫌いだ!」


ジャックは静かに聞いているこちらの話をそっぽを向かず真正面から受け止めている。


「お前の方が正論ばっかかざしている!おれはお前みたいには戦えないし、怖いものは怖い!死にたくない!逃げて何が悪い!お前なんかにとやかく言われたくない!お前に俺のことはわからない!」


「お主のことは全く知らんが、お主こそわしの何を知ってると言うんじゃ?」


「ーーーーーーッ」


返す言葉がなかった。


「もちろん、怖いものは怖いし、死にたくないのは当たり前じゃ!別にそれを責めているわけではない」


「・・・・・」


「ただ自分から逃げるな!!!」


怠惰を貪り現実からは逃げて、心は一丁前だと見栄をはる。とても惨めだ!ジャックの言葉が心に突き刺さり抜けない。目を逸らしてきた真実を突きつけられ、もう逃げられないぞと叩かれた気分だ!


なんだかすごい惨めな気分だった!自分がとてつもなく小さな人間に見えた。


僕は俯く。顔があげられない。


しばらく沈黙が続いた。


するとジャックから切り出す。


「とりあえずお主が狙われておる。ここの地元警察に保護してもらう方がよかろう。そこまで送ろう。後はこの事態を説明し罪を償うのじゃ」


僕は深く頷く。


「マンションの下にバイクを停めてある。行くぞ!」


僕達はエレベーターが動かなくなっていた!ここにもハルシステムの影響が出ていた。現状本当に暴走しているのだと再認識した。エレベーターは動かないので階段で降りた!


僕の部屋は七階の角部屋!久しぶりに階段を使ったような気がする。


バイクはこの街では旧式のガソリンで動くバイクであった!この街ではもうガソリンは使わない!全て電気である。それにハルシステムを繋ぎアバターに目的地を指示するだけで自動運転になる。


ニュースを見た限りまだ個人アバターまでは乗っ取られてないが公共機関はだいぶやられていた。


にしても人の運転するバイクなんて久しぶりだ!少し緊張する。ジャックは僕を乗せ走り出した


 ニューパラスタウンの中心街へと向かった。


走ってる途中ずっと心の内がズキズキと痛かった。





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