本当のこと
実花と葵は、授業が始まるまで、二人で庭に出ることにしました。
「それにしても、となりのクラスだったなんてね」
葵はうれしそうです。実花はそんな葵を見るのがとても楽しくて、にこにことしていました。
「なんか、うれしいな。葵ちゃんとは、友達になれそうな気がする」
実花は、うれしさのあまり、うきうきしていました。でも、今度は葵が少し暗い顔をしています。どうしたのでしょう。
「ねえ、実花ちゃん」
葵は、悲しそうです。
「実花ちゃんは、自分がどうしていじめられるかわかる?」
実花は、そう言われてドキッとしました。実花がいじめられるのは、ほかの子と少し違うところがあったからです。実花の心のすごく奥まったところと、リンゴの木の気持ちが一緒になっているのですから。
実花は、それを話したら、葵がほかの子と同じように実花をいじめるのかもしれないと、怖くなりました。
でも、それは葵も同じだったのです。
「わたしは、実花ちゃんのことが分かるよ。りんごの木の気持ちが分かることも、そのせいでみんなにいじわるされていることも」
葵に言われて、実花はドキリとしました。
「葵ちゃん、どうしてそんなことを知っているの?」
どうしてなのかわからない、それを葵に知らせると、葵は、実花の手を取りました。
「わたしは、かわいそうな人同士手を組んで、いじめっ子にケンカを売ったりはしない。でも、実花ちゃんのことは見過ごせなかったんだ。私はわさび。ワサビの気持ちが分かる、わさびの子だよ。だから、私と実花ちゃんは同じ。でも、ほかの人をバカにしてつながるのなら、それは友達じゃないと思っているよ」
葵がそう言うので、実花はドキリとしました。実花は、心のどこかで、自分たちをいじめている人たちをどうにかしたいと思っていたからです。
でも、実花は葵の言葉で、その考えをあらためました。
「葵ちゃんの言うとおりだね。私、ちょっと、あの男の子たちに、どうにかして私たちのことをわからせなきゃって思ってた。でも、そんな押しつけはいけないし、だいいち、言ったところで分かってなんてもらえないよね。でも、それって一人で戦わなきゃいけないよ。わたしたち、ずっとひとりぼっちなのかな」
実花が落ち込んでいると、葵が実花の手を包み込むように握りました。
「大丈夫だよ、実花ちゃん。実花ちゃんには私がいるもの」
「葵ちゃん?」
葵は、笑いました。きれいな笑顔です。
「私、実花ちゃんがあいつらと同じ、やられたらやり返す人だったら嫌だって思った。だけど、実花ちゃんは、自分が少しだけそう言う考えを持っているって、そこに気付いて直せたよね。そこ、すごいよ。私は、私がすごいって思う人じゃないと付き合いたくないの。実花ちゃんだったらいい友達になれるよね」
葵は、実花の手を放して、右手を差し出しました。あくしゅをしたいというのです。実花は、その手を取りました。
実花は、嬉しくてたまりませんでした。自分に友達ができたこと、その友達が、自分をきちんと見てくれていることがうれしかったのです。
「ありがとう、葵ちゃん」
実花は、差し出された手を握り返して、葵とあくしゅをしました。
その時、葵は手に何か、いつもと違うものを感じました。握り返された手の中に、葵は、何かを握っていました。手を開くと、そこには小さな姫りんごがありました。
「葵ちゃんに、プレゼント」
実花は、嬉しくて、少し泣いていました。実花の手のなかにも、きちんと、小さな姫りんごが握られていました。
ふたりは、その姫りんごをポケットの中に入れて、教室に戻りました。
その姫りんごを、葵は家で食べました。タネが大きくて食べにくくて、少しすっぱかったけれど、葵にはすごくおいしいりんごでした。
小さなリンゴ 瑠璃・深月 @ruri-deepmoon
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