第9話・そしていつまでも幸せにくらしましたとさ
そしてまた月日は巡る。
ロタールは戴冠し、あらゆるものごとに通じた賢王陛下として国民に敬愛された。念願の王佐である宰相になったリオネル殿下や、異世界の知識を持つ聖女女史とも協力して少しずつ、少しずつ改革を進めていく。教育を篤くし遍くいきわたらせ、王権を縛る憲法をつくり、民衆と貴族それぞれから代表を募る議会を制定し、国王の責務をも少しずつ減らしていくように。各国とも連携し、政治体制のみならず技術開発も進めていく。その際失われそうな技術、なにより時代の狭間に軋む人たちがいたら、ロタールの分身たちがそっと手を差し伸べて。
時には右往左往、東奔西走しつつ。リオネル殿下と聖女女史の子に、良い意味で幾分か軽くなった王冠を受け渡した。物理的には王冠はロタールが自身の身体の一部を結晶化させて宝飾のいくつかを修復したから少し重くなっているけれど。バレたら怒られそうである。
最後に死を偽装し、静かに王城を抜け出す。もはや老いを擬態でごまかす必要は無い。久しぶりに互いが時を止めた、結婚当初の姿に戻る。
『年齢を重ねたあなたの姿も素敵だったけれど、やはりその姿はまた格別ね』
『ああ。僕も全く同じ気持ちだ。それとようやく窮屈な服を脱いで大きく伸びをしたような心持ちだよ』
『いえてる。これからどこへ行きましょうか?』
『風の向くまま気の向くまま、世界をぐるっと巡ってみないかい?』
『ぜひそうしましょう!』
そのまま私たちは世界中を歩き回った。時には訪ねた場所に分身を残しもした。
ある辺境の村では魔物退治を手伝った。剣も魔法も一流で料理も上手いロタールは村人の尊敬を集めていた。本人は「少しズルしたからね」と照れていたけれど。
北に進むと氷雪の大地、魔力を切れば深く冬眠するはめになるものの、そうでなければ何も問題ない。虹と雷の中間のような極光がきらめく中、思い切り雪遊びをした。
喧騒の街での(普通の)迷子探し。二人別行動をしていたときにそれぞれはぐれた親と子に会い、それぞれを探し回った。親子が再会したときはなんとも言えず嬉しかった。
南に進むと森も海もどんどんといきいきとした美しさを増す。目に付く限りの生き物に擬態してはしゃぎまわった。
集落に伝わる難題に助言を与える。井戸掘りを手伝う。病気の診察をする。
東の砂漠を抜け山脈を越え、何万もの人が暮らす大都市で季節の祭りに参加する。
西の海を渡り、草原を密林を探索し、様々な言葉を覚えては通訳をする。
その土地土地の人と協力してよりよく暮らす手助けをした。素晴らしい景色をいくつも記憶に留めた。
さんざん歩き回って、人跡未踏の山の上、火山の上の湖の底を当面の終のすみかに決めた。人目なく、美味しい水と火山より得られる莫大な魔力。アルケタイプとして大きく膨れ上がったロタールの本体を置くに相応しい場所。ほぼ無敵といえども、わざわざ騒ぎを起こす趣味は無いゆえ。
私は今、ロタールの本体に包まれ眠っている。人間体の私の頭の先からつま先までラムネ色。とても安らかだ。ときおりロタールがさわさわと私を撫でる。くすぐったくて声の変わりに泡が出る。
『ひゃっ』
陽光が翳り、また照り始める。
『君は今幸せ?』
『幸せよ、あなたがいればいつだって』
いつだって、いつまでも。
王子様がスライムと一体化したようですMk.2 有部理生 @peridot
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます