第8話・聖婚
様々なことが思い出される。結婚式の前で緊張しているからに違いない。
彼から
ともあれ、彼からの
「文字通り永遠を生きよう。君に病める時など訪れさせない。もちろん君の意思こそが至上であるけれど、君が僕の唯一であるのは君がどんな選択をしようと変わらない」
というもの。彼自身がかつて病床にあったゆえの、どこまでも賢く優しい、とても彼らしい言葉選び。とても嬉しく感動したけれど、聞いてるとなんだか無性に笑い出したくなる言葉だった。もちろん答えは、「はい」一拓。正確には、
「はい。そのお言葉、何にもかえがたい喜びでございます。謹んで承りますわ、殿下」
と口にした。彼と一緒なら永遠なんて少しも怖くはないから。だから私は喜んで、結婚と同時に、人を止めることをも承諾した。
ちなみに私も彼も
『もちろん、あなた以外を私が選ぶわけないじゃない。これからも末永くよろしくね。そ、その、ロタール、ずっと、ずっと一緒にいようね』
『!! とうとう僕を呼び捨てで呼んでくれたね。もちろんさ、君が望むならこの星が終わるまで、いやこの世界が終わりを迎えるまで共に生きることを約束するよ』
『あ、愛が重い……。うん。夫婦になるならと思ってね。私もロタールと一緒にいられるよう精一杯努力するよ』
『あまり無理をするともたないよ、君は自然体で僕と一緒にいてくれればいい。さあ、大事な大事な誓いの口付けを』
と子どものようにどたばたとした念話のやりとりがあったりもする。正式に結婚を承諾するまでは彼を呼び捨てにするのは恐れ多いのもさることながら、気恥ずかしくもあったのだ。そして想像以上に重く深く、されどもそれゆえに慕わしい彼の愛をも
なお、誓いのくちづけは本当に甘かった。
『さあ、これで君も僕と一緒に永遠を生きられる。もう逃げたくったって離しやしないよ』
『あなたになら捕まったって構わないわ』
私の心はもうとっくのとうに、すっかりこの愛しいスライムに食べられてしまったに違いない。
初夜は間違いなく今晩だけれども。その日の晩はただ小さい頃のように二人抱きしめあって寝たっけ。相変わらず彼はひんやりとしていた、と私は彼の身体の感触を思い出す。
今私と彼は互いに手をとりあっているが、両方とも礼服の手袋をしているためそれぞれの皮膚の感触はよくわからない。きっとひんやりと気持ちよいのだろうな、と私は思う。じかに触れたくても我慢だ、たぶん今宵はいやというほど触れられる。
彼と私の目が合う。人間であったころから元々青い目だったが、スライムのラムネと完全に一体化して色味がラムネの色へと代わった。微妙な変化ではあるから、多くの人は気づかなかっただろうけれど。人間時代の色も決して嫌いではなかったけれど、今の彼の目の色はとても好きだ。
ラムネ色に私の顔が映り浮かぶ。先ほどまでの緊張は通り過ぎた。はっきりとは見えないが、彼の瞳の中の私は微笑を浮かべているように見える。
彼の目は単純な青ではない。よく見ると虹色の泡のような細かな光の粒が散っている。必要ないはずだが、人間であったときの習慣そのままに彼は瞬きをした。そして私とくちづけを交わす。
よく晴れていたのに途中夕立に降られるといった
その夜も二人で存分に甘いときを過ごした。そういう欲求はほぼ無いというが、彼は自分の身体を存分にいかし、あれやこれやと私をまさぐった。好奇心で動いていた幼い頃とほぼ変わらない気もするが。永遠の代償に、彼と私の間には恐らく子どもはうまれないだろう。けれど彼といられるのなら全く後悔は無い
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