第6話切断された謝罪

 大原詩織は憂鬱な気持ちで教室に入った、生徒たちは冬のような冷たい眼差しを詩織に向けた。

「それでは国語の授業を始めます、教科書百八ページを開いてください。」

生徒達はとりあえずページを開いた。

「えー、ではここの音読をしてくれる人。」

 しかし生徒たちは、大原を無視している。

「誰か音読してくれる人・・・・。」

「おい、誰か女神林の相手しろ・・。」

 北野が小さい声で周りに呼びかけたが、誰も出なかったので北野君が音読することになった。

「はい、北野君ありがとう。」

 しかし北野は愛想が無い態度で席に戻った、というより全生徒が愛想のない態度である。

『みんなまだあの事気にしてる・・・、どうしてあんなことをしてしまったんだろう?』



 ここからは大原の言う『あの事』について説明しよう、事の発端は十月の初めに遡る。大原は同期で親友の音野から、「あなたのクラスの生徒が、私の授業をないがしろにしている。」と告げられた。最初は信じられなかった大原だが、音野に「授業の感想アンケートを取らせたら?」と言われ、翌日の総合の時間に「全科目の授業についてどう思っているか?」というアンケートを取らせた。そして全生徒のアンケートを確認すると、音楽の所だけ「音野先生が酷い、何とかしてほしい。」という感じの文章が全てのアンケート用紙に書かれた。親友が酷い授業をするはずがないと思った大原は、生徒達がわざと書いていると思い込み、衝動的な行動に出た。

「えっー、音野先生の怒鳴り声が酷い・・・そんな訳あるか。注意する時、金切り声を出すのを辞めてほしい・・・女の子なのにヒステリーが分からないの?リコーダーを壊されたことがある・・・それ、本当なの?」

 生徒達は突然、音楽の感想の所を読んではアンケート用紙を破り捨てる音野に衝撃を感じた。しかも音野の声は、可愛い顔に合わないほど冷たい。そして大原は全てのアンケート用紙を破り捨てると、突然怒鳴りだした。

「何でこんなこと書くの!!あなた達は音野先生をないがしろにしているのは聞いていたけど、本当だったとはねえ・・・。こんなの音野先生が見たら、ショックで倒れてしまうわ。全員、すぐに書き直しなさい!!」

 そう言って音野はすぐに予備のアンケート用紙を生徒達に渡した、しかし全治は「これは何かある。」と直感し、ある行動に出た。そして再度アンケート用紙を集めて確認した大原は、全治を呼びだした。

「全治君、私の話を聞いていたの?」

「はい、だから一字一句丁寧に書きました。」

「字が読めるかどうかじゃないの!内容を変えてほしいの!!」

「どんな風にですか?」

 ここで全治はいつも本音を聞き出すため、相手の顔をよく見た。

「それは、音野先生の評判が良くなるようによ!!」

「今の僕の気持ちでは、そのようなことは書けません。」

「それでも書かなきゃダメなの、教えて貰っている恩は無いの?」

「今の音野先生の授業では、恩を感じることはできません。」

「何てこと・・・、あなた達は最低のクラスね!!」

 大原が叫んだ時、突然アルタイルが現れた。アルタイルは鷲の羽をした、天使の姿をしている。

「最低なのはあなたの方よ・・。」

「アルタイル・・・どうして出てきたの?」

「元教師として、言いたいことがあります。」

 アルタイルは驚きで声も出ない生徒や大原をよそに、大原に話を始めた。

「生徒の気持ちを認めず音野とかいう一教師の名誉を守るとは・・・、さては貴方と音野には何か関係があるのではないでしょうか?」

「な・・・無いわよ・。」

「でも前に、音野先生と友達だって言っていたよね?」

「・・・だからよ・・・、私は友達を助けたかったの!!」

「教師の倫理より、友達を助けることは許されません。」

「うるさい、黙りなさい!!」

 大原がアルタイルを殴ろうとした時、全治は大原の拳を腹で受け止め腕を掴んだ。

「えっ・・・どうして・・・?」

「あなたに質問があるからです、大切な事を捨ててまでも守りたい親友は、本当の親友ですか?」

 そして大原は、床に崩れ落ちて号泣した。



 それからの流れは、全治と大原は校長先生に事の全てを説明、そして音野の授業評価の操作と授業中の悪行が校長先生の耳に入る、校長先生は音野に激怒、三学期の初めに音野が他の学校に移動したという事になった。

「もう、友達が嫌になったわ・・・。」

 音野は学校を去る時、大原に「使えない友達ね・・・。」と捨て台詞を吐いた、そして大原と音野は絶縁した。


 放課後、全治は北野達と話していた。

「そういえば、最近音楽の授業が楽しくなったね。」

「三浦先生か・・・。声が高くてオネエみたいだけど、音野先生よりは凄くいいな。」

「そういえば北野君、音野先生に壊されたリコーダーは?」

「ああ、校長先生が責任取って弁償してくれた。」

「よかったね、でも皆もういいんじゃない?」

「何の事だよ、全治?」

「大原先生の事、もう許してもいいんじゃないかな?」

「全治はいいのかよ・・・、お腹殴られたんだぞ?」

 北野の言葉に周りのみんなは頷いた。

「うん、それに大原先生もすっかり反省しているようだから。」

「まあ、全治が言うなら仕方ないか。」

 北野達は頷いた。



 その頃、大原は気落ちしながら仕事していた。

「私、神林みたいに教師辞めようかな・・・・?」

 音野の一件から、大原はクラスの生徒達に嫌われた。そしてついたあだ名が「女神林」、何故大原なのに神林なのかと去年の忘年会で愚痴っていたら、校長が五年前の話を聞かせてくれた。

「実は神林という男の教師がいて、全治の並ならぬ才能に嫉妬して、全治に対して冷遇していた。そして五月の授業参観の時、神林は事前に親が来れなくなったら連絡するようにと生徒達に伝えた。全治も言う通りにしたが、なんと当日に神林は全治を多目的室に隔離して、自習させたんだ。私が自習している全治を見つけ、神林を問い詰めたことでこの事が発覚したんだ。その後神林は、懲戒免職処分になったどころか家族から人としての信用を失い、故郷に帰ったそうだ。」

 大原は自分も神林みたいな末路を辿るのでは・・・と思い、教師としての自信を無くしてしまった・・・。


 そして下校の時刻、大原が廊下を歩いていると高須黒之に会った。

「あら、高須君。」

「大原先生、授業は大丈夫ですか?」

「ええ、大丈夫よ。」

「そうかな?クラスの生徒はすっかり、大原先生への信用が一切無いみたいだけど・・・?」

 黒之の言葉は大原の心に深く刺さった、黒之は神の力で大原を絶望させようとしているのだ。

「で・・・でも、信用は取り返して見せるよ。」

「いや、あなたはすでに取り返しのつかない事をしてしまっている。もう生徒達の前に現れるべきではない。」

「私は教師を続けるわ!!」

「ふーん、でも二度と誠実な授業は不可能だろうけどね。」

 大原は絶望で声が出ずにその場で崩れ落ちた、黒之はニヤリと笑みを浮かべて去って行った。


 翌日、全治が学校に行くと救急車が校門前に停まっていた。全治が教室に入ると、伊藤と北野が大慌てで全治に言った。

「全治君、大原先生が自殺した!!」

「えっ、この学校で?」

「ああ、どうもこの教室から飛び降りたらしい・・・。」

 ここは学校の三階、自殺するには十分な高さだ。

「でも、どうして自殺を・・・?」

 結局、この日の授業は中止となり下校になった。全治が歩いていると、追い抜く黒之にこう言われた。

「よかったね、これで君のクラスは平和だ。」

 不敵に笑う黒之に、全治は黒之の悪行を察し、心に怒りが芽生えた。



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全能少年「看破と転生と質問」後編 読天文之 @AMAGATA

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