第4話やり過ぎた追跡

 千草全治も小学六年生になり、小学生として最後の一年間を迎えた。全治と黒之のクラスはそれぞれ、新しい先生を迎えた。

「初めまして、大原詩織です!よろしくね。」

 大原は明るい声で言った、クラスのうけは良かった。

「なんか女の子みたいな先生だな、全治。」

「うん、人柄も良さそうだね。

「見た感じ新任ね、ちゃんとやっていけるのかしら?」

 声を出したのは、今は鷲の眷属で前世は有名な女性教師だったアルタイルである。

「まあ、今は大原先生を受け入れよう。」

「ところで、松宮の姿が学校にないけど・・・?」

「黒之から聞いたけど、夜逃げしたそうだよ。」

「松宮さん、そんなに借金してたの!?」

「先生を続ける自信を無くしたらしい、春休みの内に逃げたそうだよ。」

「情けないを通り越して、もう何も言えないわ。」

 アルタイルはため息をついた。


 そしてその日の帰り道、全治は不審者を目撃した。

「あの人、何しているんだろう?」

 全治は不審者を舐めまわすように観察した、白いワンピースにピンクのシャツを着て白い帽子を被っている。服装からして女性なのだが、カジュアルな格好でとても不審者には見えない。

「あの人、ずっとこそこそ動いているなあ・・。一体何をしているのだろう・・。」

 その日、全治は特に気にすることは無かったがその日から、全治はあの不審者を帰り道で毎日見かけるようになった。

「気になるなあ、声かけてみようかな?」

「全治様、行くのですか?」

「うん、僕は疑問を押さえられないんだ。」

 そう言って全治は女性に声を掛けた。

「あの、すみません。」

「きゃっ!!・・・何よあんた。」

「いつもこの辺りで見かけるけど、一体何をしているの?」

「あんたには関係ないわ、向こうへ行きなさい。」

 女性は冷たくあしらったが、ここで引き下がらないのが全治である。

「どうして僕に教えられないの?」

「あなたには理解できない事よ。」

「どうして僕には理解できないと思うの?」

「だからねえ、私は好きなものを見ているの!あなたにはその好きな何かがわかるというの!!」

 女性は全治の質問に苛立ち、声を荒げた。

「分からない、だから質問しているの。」

「ハア・・、今日はもういい・・。」

 女性は根負けして、とうとうその場を去った。

「あれ?どこ行くの?」

「家に帰るの・・・。」

 女性の姿が見えなくなると、全治も家に帰りたくなった。そして家路を再び歩き出した。


 その翌日、全治はまたあの女性を見かけたので、今度は観察することにした。全治も女性と同じく、電柱の陰から見張っていた。そして暫くすると女性はある家の前で止まった、そして何故か家の上の二階の窓をじっと見つめていた。

「何で二階の方を見ているんだ?」

 しかし女性にはその後特に変化はなく、数十分見ていただけでその場を去って行った。

「あの家に何があるんだろう?」

 そう思った全治は、その家のインターホンを押した。

「全治様、気になるからっていきなり過ぎませんか?」

 ホワイトの質問に全治は首を振った、そして玄関に出たのはショートヘアーの美男子だった。

「おや、君は誰だ?」

「僕は千草全治です、さっきこの家をじっと見ていた女性がいました。」

「えっ、来てたのか!?」

「うん。」

「まさかストーカーになっていたなんて・・・。」

 すると全治は美男子の顔をじっと見て質問した。

「あの女性を知っているのですか?」

「ああ、大学の同級生で道子というんだ。同じ講義で出会って道子から告白されたけどね、タイプじゃないから付き合わない事にしたんだ。」

「教えてくれてありがとう、じゃあね。」

「帰り道、気を付けてな。」

 そして全治は美男子と別れて、家に帰っていった。


 そして二日後、全治はいつも通り女性を追跡していた。ただ今回は様子が違う、電柱の陰に隠れることは無くただ目的地に向かって歩いているだけだ。そして目的地についてようやく女性は、電柱の陰に隠れた。

「ねえ、何してるの?」

「うわあ・・・、ってまたあんたじゃない!!」

「道子さんはここで何してるの?」

「ほ・・ほら、好きなものに会いに来たのよ・・。」

「ねえ道子さん、様子が変だったよ。一体何があったの?」

「そんなことは無いわよ、いつも通りよ。」

「じゃあ何で今日はコソコソしなかったの?」

「それは・・・ん?ちょっと待ちなさい。」

 道子は女性の肩に手を置いた。

「今気が付いたけど、あんたどこであたしの名前を知ったの?」

「そこの家の人に聞いた。」

「えっ・・・、てことは、今までずっと私の後をつけていたの!?」

「うん。」

 道子はまだ子供の全治が、恐ろしく見えてきた。

「何でそんなことするの!?」

「だって、気になったらどこまでも答えを追い求めるのが人間だから。」

 道子は全治が異常者に思えた。

「それよりまだ僕の質問に答えて無いよ、何で今日はコソコソしていないの?」

「今日は・・・たまたまよ、たまたま。」

 道子はとりあえず答えた。

「じゃあもう行くね。」

 道子はこの後すぐ近くに隠れて、全治がいなくなるまで待つ魂胆だった。しかし立ち去ろうとした時、なんとポケットに入れていたナイフをうっかり落としてしまった。

「あっ・・・。」

「落としましたよ。」

 全治はナイフを拾って全治に渡した、黙って受け取れば良かったものの道子は企みがバレたと思い、ナイフを受け取ると全治を捕らえて首筋にナイフの刃先を当てた。

「ふーっ、ふーっ、あんたがいけないのよ・・・。あーだこーだと質問するから、あんたが捕まることになるのよ!!」

「全治様、逃げましょう!!」

「ここは私に任せて!!」

「いや、私が行くわ!!」

 眷属たちは慌てふためいている。

 しかし全治は動じない。

「ほら、怖いだろ!!あんたは私に喉元を刺されて死ぬのよ!!」

「僕は死ぬのか・・・どんな気分なんだろう?」

「全治様!!こんな時に疑問を持たないでください!!」

 アルタイルの突っ込みが入った、道子は全治の態度に常軌ではない何かを感じ、ナイフを持った手が震えていた。

「仕方ないわね!!」

 ここでアルタイルが飛び上がって後ろに回り、足で道子の髪の毛を思いっきり掴んだ。

「ぎゃあああ!!痛い、痛い!!」

「ふう、助かったようだ・・。」

 道子はナイフと全治を手放し、甲高い悲鳴を上げた。

「アルタイル、もういいよ。」

「わかりました。」

 アルタイルは道子の頭から離れたが、この時道子の髪の毛を何本か抜いてしまった。その為道子はなおも悲鳴を上げた。

「おい、誰だ!!」

 すると家の中から美男子が出てきた、美男子はただならぬ様子にすぐに警察に通報した。


 それから全治は帰り道で道子に会う事は無かった、あの日道子は警察に連行されていったのだから当然である。道子は惚れたあの男の事が忘れられずストーカー行為をした、しかしあの男に他の彼女が出来た事を知っていまい、逆恨みが抑えられずあの日、男を殺すつもりで家に向かったようだ。全治は道子にもっと質問してみたいと思ったが、眷属たちは全治がまた危ない目に合うのではとヒヤヒヤしていた。

 



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