第143話 反撃

 巨大なヤマト帝国を5つの地方統治国家として分割統治して、その5つの地方統治国家を集めて合衆国化させようとしたところで、その地方統治国家の一つである西ヤマト州に隣国である軍事国家のサンガス王国が攻め込んできた。

 それに呼応するように西ヤマト州内に巣食う不平貴族が反旗を翻したために義姉カレンの率いる西ヤマト州軍は挟撃され一敗地にまみれた。

 そのために軍を率いていた州長である義姉カレンどころかその子供達も消息が分からなくなってしまった。

 俺はヤマト帝国内で活動している巡検士部隊から


「サンガス軍が西ヤマト州に侵攻した。」


との凶報を聞くやいなや、参謀である産後の妻達を従えて西ヤマト州に応援に向かうことにした。

 産後の妻達にとっては産まれたばかりの我が子から引き裂かれるのだ。・・・う~んそれを思うと胸が潰されるがこれは我がインドラ連合国家に対する挑戦でもあるのだ。


 俺が率いる応援部隊のその数は10個師団約12万人を従えて向かった。

 俺達が西ヤマト州に向かって進撃すると、斥候(巡検士部隊が中心に活動)よりサンガス軍の現状報告が入ってきた。


「西ヤマト州への応援部隊が送られたのを受けたサンガス国軍30万人は戦線を縮小、西ヤマト州の国境付近まで撤退した。」


というものだ。

 敵軍の情報収集に斥候(巡検士部隊)が力を発揮する。

 ただ今のところ俺の義姉カレンの安否はいまだ確認が取れていない。

 義姉カレンの心配をしている時に、三羽烏の一人サスケから朗報が入った。


「三人で斥候のため移動中、雨に祟られたので、近くの洞穴に入って雨をやり過ごそうとしたところ、傷を負った義姉カレンが幼い子供二人を抱えるようにして倒れているのを発見した。」


というものだ。

 それで一番足が速く身軽な三羽烏の一人サスケが篠突しのつく豪雨の中を俺の指揮所のテントまで走って来たのだ。

 俺は、サスケに熱い飲み物と乾いた着物に着替えさせる。

 サスケの着替えが終わったところで義姉のもとまで案内させる。

 雨の中、サスケがまた走って行こうとするので呼び止めて


「俺がお前を背中に背負って風魔法で空を飛ぶ。

 この雨で大型の猛禽類も龍種も飛ばないので、空を飛んでも安全だ!

 速く背に乗れ、お前は背中から俺に方向を指示しろ。」


と言ってサスケを背負おうとする。

 サスケが嫌がったが知ったこっちゃない!

 それに俺の顔、義姉の心配で鬼のような面相になっていたようだ。

 妻達も見たことが無い面相をしたこんな俺を執成とりなすことが出来ない。  

 あきらめてサスケがおっかなびっくりで俺の背中にしがみつく。


 転移魔法は一度行ったところでしか使えない、気持ちは焦るが風魔法での移動が移動手段の中でも格別に速い。

 雨は風魔法のシールドで防ぎながら飛ぶ。

 サスケの指し示す方向に向かって豪雨の中を飛ぶ、背中のサスケが


「あれ、あれがそうです。」


と指し示す先に岩影から洞窟が見えてきた。

 上空を飛んだので本来ならさほど時間がかかっていなかったのだが、義姉カレンの安否の不安と焦燥で時間がかなりかかったように感じたが何とか義姉の倒れている洞穴に辿り着くことができた。

 薄暗い洞窟の中に入る。

 三羽烏の残りの二人は焚火もたかないで何をしているのだろうと歩を進める。


 洞窟の中では義姉は意識が朦朧もうろうとしているためか、子供を守ろうと説得している三羽烏の残った二人サイゾウとダイスケに剣を向けている。

 二人からすれば、傷を負った姫将軍を呼称する義姉カレンであっても、あっと言う間に制圧することが出来るが、俺の義姉を無体に制圧する事が出来ないので弱っている所だった。

 俺は焦燥で時間が長く感じたが、さほど時間がかかっていなかったのだ。


 俺が洞穴に入ると一番先に義姉の上の息子カリュードが守ろうとする義姉の手を振り払うようにして


「あっ!叔父さんだ!

 叔父さん、お母様が怪我をして大変なんだよ!」


と言って俺にしがみついて泣き出した。

 義姉も俺に気がついて、持っていた剣を落とすと、緊張の糸が切れたのか、くたりと倒れてしまった。

 俺は慌てて医療ポットを魔法の袋から出すと、その中に義姉を抱き上げてそっと入れる。

 医療ポットの情報から大きな怪我が何か所かあるようだ。

 それでも命にかかるほどの深傷ではなかったが、その怪我からくる貧血と疲労で気を失ってしまったのだ。


 医療ポットで義姉の治療をする間に、俺は人数分の椅子と机を出すと、三羽烏や子供達にクッキーやケーキを出して紅茶を振る舞う。

 三羽烏の面々は遠慮していたが義姉の命の恩人だ。

 その中でも雨の中を連絡してきたサスケが俺から距離をとりたがる。・・・う~んそうか義姉を思う焦燥で妻も引くような鬼のような面相になっていたからだ。

 俺は鬼のような面相を直そうと顔をぐりぐりとする。

 それを見て甥っ子達が笑い出した。


 これで場が和んだか皆椅子に座ってクッキーやケーキを頬張り始めた。

 西ヤマト州の州長である義姉カレン達を発見して保護した功績は大きい。

 クッキーやケーキ、お茶などは当たり前の事だ。

 それよりも軍隊だ、階級社会だ、一つでも階級が上がればよいだろう。


 この世界で軍隊で言えば最小単位の分隊を指揮できる曹クラス、3個分隊で小隊でその指揮をする尉クラス、さらに3小隊で中隊としてそれを指揮する佐官クラスだが三羽烏をそのうちの佐官クラス少佐に任官させるつもりだ。


 一番早く少佐に任官できるのは、22歳以上で士官大学校を優秀な成績で卒業することだ。

 俺は、戦時特別任官を適用して、まだ15歳なるかならないかの王立幼年学校に在籍中の三羽烏を特別に少佐に任官したのだ。・・・子飼いの子供達だからまあいいや!

 ただ、彼らが若くして上級士官になり、命令系統に混乱を生じさせるわけにはいかないので、今後は三羽烏は俺直属の巡検士部隊にしたのだ。


 治療が終わったのか、義姉カレンの入っていた医療ポットの蓋が開いた。

 その医療ポットからぼんやりとした感じで、義姉カレンが起きだした。

 いくら医療ポットで怪我のあとも残さずに治療したとはいえ、体に残った疲労は抜けていないのだ。

 起きだした義姉カレンを柔らかいソファーに座らせて、彼女の前にもクッキーやケーキ、お茶を出してのんびりさせる。


 戦時下と思えないお茶を飲む静かな時間が過ぎていく、ただ雨が


『ザアザア』


と降っているのが洞窟内にいてもわずかに聞こえてくる。

 ステータス画面の地図で確認しても、この篠突くような雨を利用してまで攻撃を仕掛けようとするサンガス軍はいないようだ。


 義姉カレンが怪我の傷は綺麗に治ったが、その戦闘で着ていた制服が襤褸雑巾のようになっている。

 一息ついてその襤褸雑巾の様な制服を新しものに変えるので洞窟の奥へと向かう。

 義姉カレンの着替えに遠慮したのか、まだ大雨が降っている中を三羽烏は本来の斥候の仕事に出ていった。


 義姉カレン達を発見したこの洞窟は陣を退き直したサンガス軍からほど近い。

 彼らが戻ってくるまでの間、しばらくは洞穴内で義姉カレン家族の体力回復に努めることにした。

 三羽烏はこの雨の中、任務の斥候に出て、しばらくすると必要な情報を抱えて戻って来た。

 雨が小降りになってきたので、全員を連れて一気に転移で西ヤマト州の前線基地の指揮所用のテントに戻った。


 敗戦で一時は敗残兵となっていた西ヤマト州の州兵であったが、工兵隊出身の貴族によって集められ、また、応援に俺が軍を率いてきたことを聞きつけてなのか敗残兵達が三々五々集まって来ていた。

 また、心ある領主達が領民を説得して義勇軍を立ち上げ、領主が義勇軍を率いて参集してきている。

 彼等には


「姫将軍こと義姉カレンは無事だ。」


との噂を流してある。

 それで、集まって来ていた西ヤマト州の州兵や義勇軍の士気が一気に高まっていった。

 西ヤマト州に州長の姫将軍こと義姉カレンが無事な姿を現せば、さらに西ヤマト州の戦意が意気軒昂となるだろう。

 その思惑に同意した義姉カレンは、更に煌びやかな将軍服に身を包み、無事の様子を見せるため、集まった西ヤマト州の州兵や義勇軍の間をゆったりと馬に乗って進む。

 さらにその後ろから一時は義姉カレンとともに行方不明になった子供達家族を乗せた馬車が続く。


 彼等の士気は否が応でも高まった!

 逆襲の好機である。

 俺はサンガス王国にはなった巡検士部隊の情報や、俺のステータス画面によってサンガス王国国内の状況を確認する。

 ほとんどのサンガス王国国民がサンガス軍の侵攻作戦に参加しており、本国の王都サンガスには、国王とほんの一握りの老兵による守備兵しか残っていなかった。

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