第135話 クーデターの後始末

 女帝カサンドラの戴冠式と俺の結婚式の披露パレードの途中、クーデター計画のクーデター予定現場でクーデターが実施され馬車の馬が解き放たれ、俺達の乗る馬車だけがポツンと広場の中央に取り残されている。

 それを見れば罠だと思うはずだが、必死の形相でヤマト帝国の紋章の付いた兵士を掻き分けるようにして、馬車に向かって来るクーデター計画に加担した旧皇后派の兵士達の姿は哀れでもある。


 クーデター計画書のとおり、襲撃現場にはクーデターを現場指揮する五名の下級貴族も参加している。

 現場指揮していた彼らは、千五百名ものクーデター計画に加担した旧皇后派の兵士達がヤマト帝国の紋章の付いた兵士を掻き分けて、前を遮りものも無いかの如く俺の馬車に目がけて殺到するのを見て、これで勝ったと思っているのか気を抜いて見物をしている。

 目標の馬車に向かって群がるようにしてクーデター計画に加担した旧皇后派で腕に黄色いハンカチを捲いた兵士が団子のように集まり、これでクーデターが成功して、俺の首があげられるのを直接見ようと督戦していた下級貴族達も近寄ってきたのだ。


 督戦していた下級貴族が目にした者は、旧皇后派の最初の兵士達が俺達の乗る馬車に一番槍を付けたかに思われた時、俺の守り刀の雷神が雷鳴を轟かせ、雷光を発して、稲光があたりを包みはじめる。

 俺の乗った馬車を中心にして、ちょうど広場の大きさ半径百メートルの範囲で雷神を使った。

 あっという間に旧皇后派の千五百名もいた兵士達の大半は俺が雷神を使って放った雷光で打ち倒されているか、あまりの惨状を見て腰を抜かしているのだ。

 督戦で見に来た下級貴族も同様の有様であった。


 駆けよって来たヤマト帝国の紋章を付けた兵士達が旧皇后派の全員を武装解除していく、俺は土魔法で石の檻を作り出して督戦のために見に来た五名の下級貴族を除く全員を放り込む。

 現場でクーデターを督戦していた五名の旧皇后派の下級貴族については、掃除人に化けてついて来ていた巡検士部隊員が、あとから檻を載せた馬車を引いてきて、この檻の馬車に放り込む、これで戴冠して女帝となったカサンドラと俺との結婚をヤマト帝国の帝民に知らせるパレード中に起きたクーデターは失敗に終わった。


 現場でクーデターに参加していた旧皇后派の兵士達千五百名を武装解除して、手枷足枷をして首の鎖で数珠つなぎにする。

 それをヤマト帝国の紋章を付けた兵士達が、ヤマト帝国の帝王城に連れて行く。

 捕らえられた督戦の為に現場にいた五名の旧皇后派の下級貴族を檻を載せた馬車に入れてパレードの最後尾に連れて歩く。

 その馬車を清掃人に身をやつした五十人程の巡検士部隊が守りながらパレードを再開するのだった。


 その檻を載せた馬車に向かって民衆が時折、石を投げつけてくるのだ。

 馬にはヤマト帝国の紋章が描かれた馬衣が掛けられているので石は当たらないが檻の中に入っている貴族はひどい状態だ。・・・あまり貴族と民衆の間に根差す階級格差社会の不満を煽ってはいけないので、彼等も途中でヤマト帝国の紋章の付いた兵士に守られて帝都へ連れていった。

 俺とカサンドラは何事もなかったように民衆の歓呼の声に応えるように馬車の中から手を振りながら進むのだった。


 クーデターが実行されると同時に、今回のクーデター計画に加担した急進派と呼ばれた旧皇后派の15箇所の貴族の屋敷を、クーデター現場にいたのと同様なヤマト帝国の重装備の盾兵を中心にして貴族の屋敷を包囲し、中に居る住人全てを制圧逮捕していく。

 ヤマト帝国の重装備の盾兵の中身は急遽インドラ連合国から集められたアオイの子供達が乗るガーディアンゴーレム達だ。


 このガーディアンゴーレムは、多少腕のたつ程度では傷一つ付けられない代物だった、ただ今回のクーデター計画の首魁公爵邸を守る用心棒の一人を除いては。

 俺は切られたガーディアンゴーレムに乗るアオイの子供の悲鳴が聞こえた

『公爵邸前、助けておとうさん!』

と。

 その声が聞こえたと思った途端、俺はアオイの子供の声の聞こえた公爵邸の城門前の道路の現場に転移していたのだ。・・・今回のクーデター計画書に書かれている旧皇后派の15家についてはこっそりと下調べをしてあるので、一度行った事がある場所として転移魔法ですぐ駆けつけることが出来たのだ。


 今回のクーデター計画の首謀者の一人、皇后の義理の兄弟で公爵の身分に陞爵した男の邸宅だ!

 現場に転移で駆けつけると用心棒がいた。

 細身で長身の男の用心棒がぼんやりと立っていた。

 用心棒の両手は金属の小手をはめ、片手には怪しげな光を放つ細身の長剣が握られていた。

 彼の前には手や足をバラバラに切られているガーディアンゴーレムが2体転がっていたのだ。


 転移してきた俺の姿を見るとアオイの子供達二人が、ガーディアンゴーレムの頭部の目から這い出てきて、涙を浮かべながらピョンピョンと飛んできて俺の肩に捕まる。

『あいつ、変な技を使うから気を付けて!』

と注意してくれたのだ。

 アオイの子供達も色々と切られていたのか、真新しい手足になっている。


 細身の男は俺を見てニヤリと笑うと

「玩具を相手にするのは飽きたところだ。お前相当強いな!」

といって八相に構えた。

 俺は俺が鍛造した業物のうち、幅広な剛刀を魔法の袋から抜き出して構える。


 対峙した細身の男が薄笑いを浮かべながら俺に向かって駆け出してくる。

 俺は背に嫌な汗が流れ出ると、細身の男に違和感を覚える。

 違和感の正体はガーディアンゴーレムが持っているはずの盾が無いのだ!・・・ヤマト帝国の紋章と防備の付与魔法、それに鋼で出来た鉄の塊の盾を持っていたはずなのだ!

 俺は向かって来る細身の男に風魔法を咄嗟にぶつける。細身の男は風魔法に押されて城門の壁に激突するはずだった。

 ぶつかるはずの壁が直径3メートルほどの穴が開いて、男は公爵邸内の前庭に不思議な笑みを浮かべたまま立っていた。・・・ガーディアンゴーレムが持っていた鉄の塊の盾が消えたのがそのせいなのだ!


 俺は城門に出来た壁の大穴を通って奴のいる前庭に入る。

 前庭にいた奴が再度、八相に構える。

 奴の八相に構えた細身の長剣の柄から禍々しい気配が滲み出てくる。

 この気配の正体は魔石、あの真黒な魔石だ。

 あの真黒な魔石が起こした黒い爆発と同じようなものが、限定的に小規模だが起きて城門の壁に穴を開けたのだ。

 ガーディアンゴーレムの持っていた、ヤマト帝国の紋章と防備の付与魔法、鉄の塊のぶ厚い盾が無くなったのはこれが原因なのだ。


 俺も剛刀の剣先を奴の左目に向かってピタリと付けて構える。

 ゆっくりとした時間がお互いを包んでいく。・・・お互いが隙を探し、動きを呼んでいく。

 先に仕掛けたのは奴だ、奴は八相の構えから右手一本で俺に向かって細身の長剣を飛ばす。

 見切りでは十分余裕のある距離だった。その剣先がスルスルと伸びて俺の面に向かってくる。

 奴は左手を離す時、右手が柄頭一杯までの位置にくるように押し出したのだ。柄一本分くらいが伸びて俺の面を襲ってきた。


 後ろに俺は余裕を持って大きく下がる。

 ところが奴の剣先がさらに俺を追ってくるではないか!

 奴の右腕が伸びたのだ!すんでの所で切られるところだった。・・・奴の金属の小手に仕掛けがあるようだ!

 奴の細身の剣は、俺の後退する残像の面を切りながら、俺の喉元にピタリと剣先が止まる。


 そのまま突きに変化する。俺は体を捌いて奴の伸び切った右腕を切る。

『ガッン』

という小手の金属を切断する音が聞こえると、奴の金属の小手ごと右腕が切れて地面に落ちる。

 その切られた右腕からは血の一滴も流れ出ない。


 奴は左手で、細身の剣を握ったまま切り落とされた右腕をとりあげると、今度は左手一本でその細身の長剣を握った右腕を鞭のように振り回し始めた。

 左腕の金属小手も何か仕掛けがあるのか、細身の長剣を握った右腕を鞭のように振り回している間に時々金属小手をはめた左腕が伸びて俺に向かって来る。


 奴が焦れて俺の面に向かって長剣を振り落として来た時、俺は体を捌き奴の伸び切った左腕に向かって剛刀を落とす

『ガッン』

という音と共に、細身の長剣を握ったままの右腕を掴んでいた、奴の金属の小手ごと左腕も切られて地面に落ちる。


 奴は切られて血も出ていない両腕を振るうと、肩先から切られた両腕が落ちて、今までの奴の肘の長さ位の新たな手が生えた。いや、今度は奴の本当の腕だ。

 奴の両腕は肘位の長さしかなく、極端に短かったので、バランスを取るために金属の腕、ロボットアームを着けていたのだ。

 そのロボットアームを細工して腕が伸びるようにしていたのだ。


 奴は切られて地に落ちた真黒な禍々しい気を放つ魔石の刀の柄をロボットアームが無くなった今、生身の短い奴の腕で掴んでしまったのだ。

 刀の柄から黒い禍々しい霧が湧き出して奴を包んでいく、このままでは禍々しい気を放つ真黒な魔石の力に取り込まれて魔人になってしまう。・・・下手をするとこのまま禍々しい気を放つ真黒な魔石による爆発が起きるかもしれない。

 俺は両手が短くなり奴の間合いが近くなったことから、黒い霧に包まれそうになっている剣を持つ奴の両手を簡単に両断する。

 剣を持ったまま奴の両腕が落ちる。


 何を思ったのか奴はその剣の柄を口で咥えたのだ。

「南無!」

俺はやむなく奴の首を切り落とす。


 その時何処からともなく、一見カラスのような大群が現れて、奴の剣を咥えた首ごと持ち去っていく。

 咄嗟にそのカラスを一羽切り落とす。

 地面に落ちるとそれはカラスではなく、小型の蜘蛛型生物がカラスのようなロボットの中に入って飛翔していたものだった。

 魔王は蜘蛛型生物をも従えているのか?

 魔王や蜘蛛型生物との戦の日が近づいてきているのかもしれない。

 俺は今回のクーデターの首魁公爵邸の用心棒を倒してから、急いで結婚式のパレードに戻ろうとした時、クーデターの首魁公爵邸から一人のインドラ合衆国の士官学校の制服を着た女生徒が出てきたのだった。

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