第134話 クーデター

 女帝カサンドラの戴冠式後の戴冠式と結婚の披露の為のパレード当日は、好天に恵まれた青空の一日であった。

 パレードを見ようと人出が集まることが予想されるために、一度模擬的にパレードを実施して攻撃可能地点や問題点を抽出していった。


 あまり兵士を前面に出して、帝都民との友和の妨げならないようにするという方針であり、柔和に対応するという事で前面に出ているのが、ほとんど全てが女性兵士になっているので数が少なくなっている。

 こわもての男性兵士は一般庶民に扮してパレードを見ている。

 女性兵士だけが警護するというような情報はさりげなく、クーデター計画を立てた公爵や伯爵の耳に届くようにしてあるのだ。


 戴冠して女帝となったカサンドラと俺との結婚をヤマト帝国の帝民に知らせるパレードの当日、出発の準備のためにヤマト帝国の帝王城門前の車寄せに、ヤマト帝国とインドラ合衆国の紋章が重ね描きされた10頭立ての防弾防爆仕様の馬車が横付けされる。

 ヤマト帝国の百官の居並ぶ中、俺が女帝カサンドラの手を引いてその馬車に導くのだ。


 女帝カサンドラは、お腹のふくらみを隠せるような一際豪華な白いウエィデングドレスに王冠ではなく、簡易ではあるが女帝を表す宝石に彩られた豪華なティアラと金銀宝石が鏤められた首飾りをして現れた。

 カサンドラの豪華なティアラも首飾りの宝石の一部は魔石で防御の付与魔法が込められている。・・・貴金属の彫銀の技術が向上しており細かな細工が際立っている。テイアラや首飾りに彫られた地位を表す紋章自体でも護符の力があるのに宝石を付けると効果が倍増するみたいだ。

 女帝カサンドラの手を引く俺はインドラ連合国の大統領で、元帥を表す元帥服に身を包んで進んだ。

 当然俺の右胸の徽章の宝石も同様である。・・・徽章自体も紋章みたいなものなのでカサンドラのティアラや首飾りと同様の効果があるようだ。

 廃棄帝も俺の元帥服に興味を持ったので、色違いで作ってあげた。

 元皇帝を表す徽章にも、その防御の付与魔法が込められた魔石を取り付けているのだ。


 ヤマト帝国の帝王城の前庭に訪問使節団とヤマト帝国の百官が居並ぶ、帝王城の城門が開く。

 最初の10人程の騎馬部隊がパレードの開始を告げるラッパを吹きながら出発するのだ。・・・騎馬部隊といえば、以前は馬が荷車のような無蓋の馬車を引っ張るもので、本人が馭者役も兼ねる場合と別に馭者が乗る場合がある。

 今回の騎馬部隊は真正カンザク王国やプロバイダル王国と同じように馬具を使って本当に馬に乗ることになった。


 ヤマト帝国では乗馬自体がいまだに一般的では無いのだ。

 ただ軍隊内部でも、いままで騎馬軍団といっても無蓋の馬車によるものが普通だったのだが、騎乗による騎馬軍団の有用性は十分知られており、今後は騎乗による騎馬軍団がつくられていく事になっている。 

 俺が持ち込んだ馬具も軍隊以外ではいまだ普及されていない。

 その持ち込んだ馬具の鐙などが装飾されて美しくなった。・・・これはドワーフ親方や技術者集団の賜物である。


 戴冠して女帝となったカサンドラと俺との結婚をヤマト帝国の帝民に知らせるパレードが始まった。

 そのパレードを知らせる合図を聞いた帝都の住人達が新たに女帝となるカサンドラを一目見ようと集まって来た。

 ヤマト帝国の近衛部隊千人が銀色に光り輝くお揃いの鎧を着て、ヤマト帝国の国旗を付けた槍を掲げて整然と馬に乗って続く。


 騎乗の近衛部隊の後ろを軍楽隊が続いてくる。

 軍楽隊は戴冠式の当日にも式場でその音色を響かせていた。

 軍楽隊の奏でる演奏は、今後勇壮な行進曲ばかりでなく色々な音楽のジャンルへと広がって行くだろう。

 帝都民達は初めて聞く勇壮なヤマト帝国の国歌を演奏をしながら歩く軍楽隊を興味深げに見ていた。


 軍楽隊の後ろには前世の女性によるカラーガード隊を真似て作り上げた、カラーガード部隊が続く。

 カラーガードに選ばれた女性達は、最初は足が丸見えになる服装を嫌がった。

 服装も繊維産業が盛んになったおかげで統一した制服が出来るようになってきた。

 脚が丸見えになる服装を嫌がらなかった数人の女性に再度自分たちが着るカラーガード隊の制服をデザインさせた。

 そのデザインの中から何点か採用し、採用したカラーガード隊の制服を脚が丸見えになるのを嫌がらなかった数人の女性に着てもらい、ヤマト帝国帝王城内を歩いてもらった。

 脚が丸見えになるが、意外とキリリとした服装が好評で、最初は嫌がった女性達を始めとして、すぐに50人程のカラーガード隊が集まって出来上がった。


 嫌がらなかった最初の数人が白色の制服を着てヤマト帝国の帝国旗を持って先頭を歩く。

 その後ろにヤマト帝国の国の色、ナショナルカラーの青色の制服を着て同じくヤマト帝国の帝国旗を持った50人のカラーガード隊が続いた。

 カラーガード隊は、女官や女性の近衛隊員にも人気の職業になっていった。

 カラーガード隊にいたことで大物貴族から婚約を迫られて弱ったという女性が続出したこともあいまって、更に人気を押し上げた。・・・脚に釣られたか⁉


 カラーガード隊の後ろに女帝のカサンドラが読み書きを教えて、ビラを読み上げる事が出来るようになった特別親衛隊の五十騎が続く、その後ろが俺達の乗る馬車が続いていく。

 その後ろが廃棄帝の身を守る十人の傑物の護衛兵達だ、鋼の綱をより集めて鍛えたような肉体を誇る将軍服・・・(以前のような野暮ったい服でなくインドラ連合国の将官服に似せた黒い将官服)を着た隊長以下、思い思いの武器を手に持って従来の二頭立ての無蓋の馬車に自らが馭者役として乗って進む。


 廃棄帝の十人の傑物の護衛兵達に守られるように廃棄帝の乗る馬車が続く。

 その後ろに残りの特別親衛隊の五十騎が続く。

 さらにその後ろに、千騎の親衛隊が続く。

 彼等は従来の騎馬隊である二頭立ての無蓋の馬車で進む。

 最後尾にはパレードの終了を告げるラッパ隊十騎が続く。


 実は、その後ろに百人程の巡検士部隊が道路の清掃員に身をやつして、清掃しながら続いている。

 清掃員は、先日にパレードの予行演習を行い、パレードの予定のビラを撒いて道路が汚れた事に端を発する。

 またパレード参加者が乗る多数の馬の襤褸により、道路が汚れたので清掃員として後方を続いていく。


 クーデター計画書に記載された襲撃予定地の広場に近づいてきた。

 クーデター計画によれば襲撃予定地の広場を囲むようにして建つ10軒の各屋根に、それぞれ1名の弓兵による狙撃者と魔法使いがいる予定になっている。

 その10軒の各屋根に配置されたクーデター計画に加担した旧皇后派の弓兵と魔法使いを、忍者六人衆や三羽烏、そしてシズルが班長となった分隊がそれぞれ制圧し逮捕したと巡検士部隊の大隊長に連絡が入る。


 今度は襲撃予定地の広場へと向かう目ぼしい15本の路地にはクーデター計画に加担した旧皇后派の百人づつの兵士が一般的な庶民風の服装をして、手に手に武器を持って待機している。

 15本の路地に百名づつで千五百名もの兵士が手に手に武器を持っている。

 これでは見つけて下さいと言っているようなものだ。

 その上、御丁寧にクーデター計画書のとおり、全員が同士討ちを避けるため右腕に亡くなった皇后が好きだった黄色のハンカチを巻いているのだ。・・・クーデター計画書を手に入れなくても、これだけの事をすればすぐばれてしまう!


 クーデター計画書によると、広場を囲むようにして建つ10軒の屋根の上にいる弓兵が射た弓矢の攻撃がクーデターの開始の合図だ。・・・以前にも書いたことがあるが何処の帝都、王都でも弓矢などの飛び道具を使うことは反乱の意志ありとしてそれだけでも一族郎党全て死刑になるほどの犯罪なのだ。

 猟師等が帝都や王都に入る時は弓から弦を取り外されるほどなのだ。


 広場を囲むようにして建つ、その10軒の各屋根を制圧した巡検士部隊の分隊員が俺達の乗る馬車が襲撃予定地の広場に入ると直ぐに、俺達の乗る馬車に目がけてやじりの無い安全な弓矢を射かけてくる。・・・弓矢に鏃を付けてあっても馬車に取り付けた紋章の護符の力が発動して弓矢は弾き飛ばされる。

 弓矢が俺達の乗る馬車に弓矢が射かけらたのを見てクーデター計画に加担している旧皇后派の黄色ハンカチを右腕に巻いた兵士達が、わらわらと隠れていた15本の路地から俺達の乗る馬車に向かって殺到してくる。


 先を進むカラーガード隊を守るように、パレードを見ていた群衆の一部が一般庶民の衣服を脱ぎ捨てて、ヤマト帝国の紋章の付いた兵士の服装になって現れる。

 俺の後方をついて来ている廃棄帝の乗る馬車の進路も塞ぐようにして前を進んでいた五十名の特別親衛隊が立ち塞がり、それを応援するようにヤマト帝国の紋章の付いた兵士が現れる。

 広場の周りにいたパレードを見ようと集まっている群衆の大部分は、手に手に武器を持ち群衆をかき分けるようにして殺到してきたクーデター計画に加担した旧皇后派の兵士達に驚いて逃げ散る。


 その場から逃げる群衆を安全な場所に誘導する沿道を警備していたヤマト帝国の女性兵士達がいる。

 残った群衆の一部が一般庶民の服を脱ぎ捨てるとヤマト帝国の紋章の付いた兵士の服装になって俺の馬車を守る。・・・どちらかと言うと一般民衆を守りながら、クーデター計画に加担した兵士達を逃がさないように、俺の乗る馬車に誘導するような動きをしている。


 ヤマト帝国の紋章の付いた兵士達は、向かって来るクーデター計画に加担した旧皇后派の兵士達を迎え撃つ構えを見せる。

 クーデター計画に加担した旧皇后派の兵士達は悟られたと思い撤退のために、元居た路地に戻ろうとするが。

 その路地の後方から、ヤマト帝国の重装備の盾兵が姿がすっぽりと隠れる程の大きな盾と槍を構えてひたひたと押し進んでくる。

 これによりクーデター計画に加担した旧皇后派の兵士達に逃げ道が無くなり、もはやこれまでと思ったのか、俺達の乗る馬車に向かって殺到してくるのだった。

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