第125話 宇宙から来た蟻

 俺は新たに発見されたダンジョンの探索とダンジョン内に巣食う魔獣の討伐をテン・ムスタッチの冒険者ギルドから手紙の依頼を受けて現場に赴いた。


 俺はとうの昔に3Sランクで魔王と同じほどの実績を上げているが、俺と敵対する魔王がつくりあげた冒険者ギルドだ、簡単には3Sのプラチナカードはくれないだろう。

 3Sのプラチナカードを貰えば冒険者ギルドの大幹部だ。

 冒険者ギルド内の発言力が強まる。

 魔王が

「獅子身中の虫」

である俺に何故このダンジョン討伐を依頼してきた意味が分からん!


 そういうわけで本来は冒険者ギルドの依頼を受ける義理は無いのだが・・・。

 そう言えば今回は手紙のやり取りだけで冒険者ギルドには顔を出していない。

 これが終わったらテン・ムスタッチの冒険者ギルドにでも顔を出すか。

 状況によっては2Sランクの冒険者でテン・ムスタッチの新たな領主として冒険者ギルドを解体して新たな冒険者ギルドでもつくるか!


 問題のダンジョンには蟻が住みついており探索に入った冒険者がその蟻の蟻酸で追い払われていたのだ。

 う~ん、蟻酸こいつが厄介で皮膚は溶かす、肺は痛める、目に入ると失明する可能性まである代物だ。

 ただ蟻酸が燃えやすいという欠点がある。

 それで俺は蟻酸を逆に火魔法で火を付けて風魔法で軍隊蟻にぶつけることにしたのだ。


 俺の前にダンジョンに入っていた冒険者にも火魔法を使える者がいたはずだが、洞窟内で火による攻撃は酸欠を招くので躊躇したのかもしれない。

 俺のように複数の魔法を同時に使える者もまずいない。

 火魔法使いと風魔法使いが力を合わせて同時に魔法を発動させるのも至難の業のようだ。

 それを思うと、う~ん俺もだいぶ化け物じみたな!


 自分の放った蟻酸が火炎放射器のように軍隊蟻に襲い掛かって燃え上がる・・・蟻酸は火に弱い、良く燃える。

 ところが軍隊蟻は燃え上がるのだが、表面だけが燃えているだけだ!

 体に火を纏わり付けながら軍隊蟻が平然と俺に向かって進み出てきた。


 俺は向かってきた一匹の軍隊蟻の首を抜く手も見せずに守り刀で切り飛ばす。

 首から血の代わりに火花がパチパチと飛び散る。

 それに切り飛ばされた首と胴体が消えない。・・・ダンジョン内の魔獣は泡のように消えるのだが?

 ステータス画面でダンジョン表示が出ないわけだ。

 こいつはやはり恐竜の住む島で見つけた干からびてミイラ化した女王蟻の眷属だな⁉

 このダンジョンは宇宙から来た蟻達の住み家だったのだ。・・・冒険者ギルドにはどう報告しようか?


 俺は落ちた軍隊蟻の首を持ってダンジョンから逃げ出した。

 ダンジョンの外には軍隊蟻は出てこれない・・・出てこないようだ。

 俺が外に出ると蟻の巣穴はしばらくすると間接照明も消えて真黒になった。

 普通のダンジョンでもダンジョン内で発生した魔獣は外には出てこれないのだが、この蟻の巣穴の蟻はロボット蟻なので外に出れると思うが、テリトリーを守るようにして外には出てこないようだ。


 俺が持って出てきて、まだパチパチと火花を散らす軍隊蟻の首を見てクリスも俺と同意見で

「ロボット蟻のようだ。」

と言う。

 どうやらこの蟻の巣穴は以前、恐竜の住む島で見つけた干からびてミイラ化した女王蟻の眷属が造ったようなのだ。

 クリスがロボット蟻の頭部を分解するのを子供達が興味深げに見ていた。


 これで俺が持ち出した軍隊蟻の首によって宇宙からきた蟻が、この地に蟻の巣穴を造ったと証明されたのだ。

 これで普通のダンジョンで無いことが確定した。


 普通のダンジョンで無い為に当初の目的のダンジョン内での子供達のレベルアップはできそうも無い。

 それでも、この蟻の巣穴に入れば、子供達のもう一つの目的の聖魔法以外の攻撃魔法を使えるようになるかもしれないのだ。

 

 軍隊蟻がロボット蟻なのを見て、こいつらを倒すのは俺の愛刀の雷神を使って電子脳を破壊すれば簡単なのだが、当初の目的の子供達の攻撃魔法の開眼を邪魔するわけにはいかない。

 まずは俺の子供達や預かった子供達に聖魔法のドームを創らせてダンジョン内に入る。

 またダンジョン内に明かりが灯ってウジャウジャとロボット蟻が出てきた。


 その中には外部塗装が燃え上がって赤黒く変色した奴も混じっている。

 ロボット蟻が槍の穂先をそろえて蟻酸を吹きかけてくる。

 蟻酸が子供達が創った聖魔法のドームを滴り落ちる。

 子供達が集まって聖魔法のドームを強化する。


 豪商の双子の兄が何か詠唱をしている。

 小さな火が飛んだ。

 火魔法を放ったのだ。

 蟻酸は燃える!聖魔法のドームの上を流れる蟻酸が燃え上がる!


 すると豪商の双子の妹が風魔法で燃える蟻酸をロボット蟻に向かって吹きつける。

 また水魔法で聖魔法のドームの蟻酸をアリサ公爵令嬢が洗い流す。

 今度はカボサン王国の皇太子と王女が聖魔法のドームを広げるその表面に雷の魔法を纏つかせて広げていくのだ。

 その聖魔法のドームが押し広げられ、さわったロボット蟻の電子脳が破壊されていく。


 聖魔法のドームにれたロボット蟻が頭部から煙を出してひっくり返る。

 子供達が手を繋いで聖魔法のドームを広げ雷の魔法を使い始めた。

 危ない俺まで巻き込まれそうだ転移魔法でダンジョン入り口に飛ぶ。

 俺の妻達がダンジョン内に入ろうとするのを押しとどめる。

 聖魔法のドームの輝きと雷の魔法の輝きが唐突に消える。


 俺が中に入ると俺の子供達や俺の預かっている子供達が魔力切れで倒れていた。

 皆を慌てて医療ポットに入れる。

 ダンジョン特性が無くても魔力は魔力切れを起こすほど使えば魔力量があがる。

 少し年嵩のカボサン王国の皇太子と王女も魔力量が上がったようだ。

 二人はそろそろ魔力量が増える限界の年が近い酷いかもしれないが、魔力量向上の為に魔法を使い続けさせるか。・・・その訓練に俺の子供達を始め他の子供達も付き合ったので、もの凄い魔力量を持つように皆がなったのだ。


 俺が子供達を救出していると、頭から煙を出している軍隊蟻とは形状が違う白色のロボット蟻が何体も出てきて、壊れて倒れている軍隊蟻をその白色のロボット蟻達が運び始めた。

 救出中の俺達を見てもその白色のロボット蟻は攻撃しようとはしてこない。


 どうも任務分担が違う働き蟻のようで、戦いで崩れた壁なども修復している。

 その働き蟻は黙々と壊れた軍隊蟻を通路の奥へと運んで行くのだ。

 医療ポットに入った子供達は金色鎧と銀色鎧に任せて、俺と妻達はその働き蟻の後をついて行く。

 奥は下り坂の通路になっており、所々に蟻の巣のようになった部屋に壊れた軍隊蟻を一体一体運び入れていく。


 その部屋には銀色の蟻が待ち受けていて、運ばれてきた壊れた軍隊蟻が治療台に乗せられて色々な器具を使って治していく。

 その銀色の蟻も俺達を見ても攻撃を仕掛けてこないので、俺達はそれを横目に見ながら蟻の巣をさらに奥へと降りていくのだ。

 遂に蟻の巣の最深部に至った。


 そこには恐竜の住む島で見つけた干からびてミイラ化した巨大な女王蟻と同じ大きさのロボット蟻が鎮座していた。

 その巨大なロボット蟻が動いた。・・・俺達を見て目が光るのだからロボット蟻でしょ!

 巨大なロボット蟻の口がぽかりと開く。

 口の中に砲口が見える。

 その砲口から、とんでもない程の蟻酸が噴き出された。

 風魔法でその蟻酸を取り囲んで巨大なロボット蟻の口の中に押し戻す。


 今度は巨大な腕を振り上げて殴りかかってくる。

 流石に巨大なロボット蟻のロボットアームだ、よけると俺が立っていた場所に

『ドカーン』

という大きな音と衝撃、土煙があがってでかい穴が出来上がった。

 今度はそのロボットアームを横に振る、凄い風が通り抜ける。

 風だけで体がもっていかれそうだ。


 ジリッと巨大なロボット蟻が前に進む。

 黒いコードが巨大なロボット蟻の後ろから伸びている・・・何だこれは?

 俺は振り回される巨大なロボット蟻のロボットアームをかわしながら、巨大なロボット蟻の後ろに回る。

 黒いコードを切り飛ばそうとして止めた。・・・そばに寄っただけで俺の髪が逆立ち、大電流が流れているのがわかる。

 黒いコード沿いに向かって進むとデカイスイッチがある。


 俺はそのデカイスイッチに飛びつくと、ぶら下がる。

 スイッチが切れるガッンという音が鳴り響くと、俺を見る為後ろを振り向こうとした巨大なロボット蟻の動きが止まる。

 それもほんの一時で巨大なロボット蟻がまた動き始めた。


 俺は今度は水魔法で巨大なロボット蟻を氷漬けにして動きを止める。

 纏わり付く氷によってドンドン動きが悪くなり、ついにはさしもの巨大なロボット蟻が氷漬けにされて動きが止まった。

 目の明かりも消えたのでこれで動くことは無いだろう。

 それに巨大なスイッチを切った事によることか全てのロボット蟻が動きを止めた。


 このダンジョン内は宝の山だった。

 何種類もあり何体ものロボット蟻は勿論の事、ロボット蟻の頭脳ともいえる巨大コンピュータを見つけたのだ。

 今のところその巨大コンピュータの解析は進んでいない。

 どうやら宇宙エルフ族や蜘蛛型生物とは違う宇宙からの訪問者なので、彼等とはまた違う科学技術や言語を使用している為か解析がなかなか進まないのだ。


 驚いたのが、このロボット蟻の魔法付与の技術だ。

 金属の板に魔法の付与で浮かべることができる技術を見つけたのだ。

 巨大なロボット蟻を動かすのにも魔法の付与技術を使っていたのだ。

 あの重い巨大なロボット蟻が軽々と動いていたのだった。


 それと極めつけは多数のロボット蟻を動かすことができる大電力を発電できる小型の電気設備を発見した事だ。

 大電力を発電できる電気設備は電力不足で苦しんでいる三日月島に持って行く事にした。


 残った頭の痛い問題は今回のダンジョン踏破について冒険者ギルドにどう報告するかだ?

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