第126話 ヤマト帝国女帝の誕生

 俺がインドラ連合国の首都で保護していた義妹カサンドラがヤマト帝国の女帝となったことから、ヤマト帝国とインドラ連合国は不可侵条約を締結することになった。・・・ヤマト帝国のトップが変わったのだ、それに伴う変化だな。

 また通商条約も契約書が交わされて陸路や海路からの通行が自由になった。

 ただ海路だけはインドラ連合国の独占的な事業だ。

 インドラ連合国以外では巨大な武装豪華貨客船や護衛戦艦をつくりだす造船技術がないうえに、その心臓部とも言うべき内燃機関の代わりの湖竜や海竜、大亀を使うことも出来ないのだからだ。


 今のところ帆船としたは、オーマン国とプロバイダル王国の間の運河を運航している三本マストの白鳥丸は全長52メートル、運河の関係で幅9メートル、マストは上甲板から30メートル程もあり運航速度は約9ノット(時速約16,7キロメートル)だ。

 これを湖竜より大きい海洋生物が跋扈する海に浮かべればそいつらの餌食になるだけだ。


 俺は前世の〇〇大学工学部卒業だが、卒業研究として運輸省の船舶技術研究所という所まで行き研究していた。

 それが新たな帆船技術として大型商船を海で運航する研究だ。

 前世の現在でも、その新たな帆船の技術で大型商船がまだ海で運航されていないということは、実用化の課題が多いのだろう。

 前世でも困難なものをこの世界で実用化することは無理だろうな。

 

 海が駄目なら陸路だ、カサンドラが女帝となる前に俺の保護の元、インドラ連合国の首都に大使館の大使として赴任していたことがある。

 カサンドラがそこで目にしたものが、インドラ連合国の首都の真直ぐな石畳の道路網であり、そこを走る真円のゴムタイヤを付け、板バネどころか油圧のサスペンションを付けた快適な乗り心地の馬車そして馬に直接乗る姿だった。


 今までの荷車に毛が生えたような馬車で振動が直接体に響く地獄の乗り物が快適になっているのを見て驚いていた。また馬に乗るという場合は、裸馬にそのまま乗るか、一頭立ての前世のローマ時代の戦車のような乗り物に乗ることを言っていた。

 それが馬に乗る時は馬具をつけて優雅に馬を乗りまわし、買い物に行くときは貴族の紋章が彫られた馬車に乗って出かけるのだ。

 カサンドラは海運業は無理だと早めに見切りをつけて、ヤマト帝国内も同様に荷馬車や駅馬車等の流通産業に力を入れて発達させる事にした。


 流通産業が発達すると経済が活性化されていき、都市間の人の行き来が容易になって来た。

 ところがそれに水を差す者が出てきた。

 さすがに巨大国家であるヤマト帝国では地方領主の力が強く、無駄に自領内に関所を造っては高い通行税を取ろうとしたのだ。・・・一時的に地方領主の懐を肥やしても、帝国民の怨嗟がつのり、結果的には自分の首を絞める事になるのだが。


 インドラ連合国の地方領主については、真正カンザク王国では北と南のカンザス地方の衝突の際において、またプロバイダル王国が真正カンザク王国に攻め込んだ際において地方領主が滅んでしまい、そのほとんど地方領主の領土が王国の土地になったこともあり道路造りや道路整備は比較的容易にできた。

 残った地方領主の領土内においては、地方領主から土地を買い上げたり、買い上げられない場合は、関所は無駄な通行税を取る場所ではなく、夜間の通行を禁止する関所兼宿場町を造らせていった。


 関所兼宿場町は、通行税より以上にその地方領主の懐を温かにして、そこを拠点に村から町へと発展していった。

 それがその地方、ひいては国の発展、繁栄にも役立ってくれるのだった。


 新たに女帝となったカサンドラも地方領主の横暴に手を焼いているのが現状だ。

 これはヤマト帝国の弱体化の現われでもあるのだ。

 せっかく、俺のインドラ連合国に仲間入りをして、巨大な統一国家が出来つつあるのに、このままではヤマト帝国が瓦解して戦国時代のように群雄割拠の状態になってしまう可能性がある。


 弱体化したヤマト帝国の力を向上させるためには、同盟を締結したインドラ連合国が開発した護衛戦艦の機密、特に大砲について調べる事が有用であると考えた旧皇后派の宰相が間者を放ったのだ。

 このヤマト帝国の放ったほとんどの間者については未然に捕らえたとの巡検士部隊の連絡を受けている。


 インドラ連合国と同盟国になったといっても、ヤマト帝国が急激な科学技術の向上を行い大砲を手にする事は、我がインドラ連合国との軍事バランスが崩れる状態になるのでこれは良くない。

 軍需産業や軍需工場などで特に機密を要するもの、例えば大砲は勿論の事、護衛戦艦の造船技術等が流出する事を恐れて、それらのものは今回の旅で発見した三日月島に移築しすることにした。


 三日月島の軍需施設等の移築発展のためしばらくの間、ベックさん夫婦を指揮官に任命したのだ。

 二人の間に出来た三人の子供達も王立幼年学校に入学して手がかからなくなったので任命する事にした。

 二人の間に出来た三人の子供達の成績は学年トップだそうだ。

 王立幼年学校は全寮制ではあるが、週末は王宮にある転移装置を使って三日月島にいるベックさん夫婦のもとに遊びに行っているようだ。


 三日月島には軍需施設の他には巨大な南国のリゾートホテルを真似た建物が屏風のような高い山肌に埋め込まれるように立ち並んでいる。・・・浜辺沿いに建てようとしたが、ここは台風の通路なのか台風シーズンになるとよく台風が通過する。

 その台風であっという間に浜辺沿いに建てた家は良くてガラス窓が粉砕され、悪ければ建物が吹き飛ばされたり、バラバラになったりしまう。

 それで山沿いにと建物が移動を重ね、ついには山肌に埋め込まれるようになっていった。


 軍需工場や港湾施設も三日月島の両端で山脈が海にへと消える場所が、波に削られた自然な大穴が開いている。

 その二ヶ所の大穴を活用して、山脈内を堀削り取って武装豪華貨客船や護衛戦艦等が何艘も収容修理ができるドックにした。

 確かに風魔法で上空にあがって三日月島を見おろしても、ドックに入った武装豪華貨客船や護衛戦艦の姿が全く見えないのだ。


 不足がちな電力事業については、何とか海流発電施設を増設して凌いでいるという状況だ。・・・巨大なロボット蟻がいたダンジョンで見つけた発電システムは宇宙エルフ族の技師さん達が張り付いて分解し、解析して新たに造り上げようとしているが、どうやら反物質エンジン等と言うというとんでもない装置で下手をすると、この惑星が消し飛ぶので、どうしても慎重になってしまうのだ。


 山肌に埋め込まれたリゾートホテルの隣には、リゾートホテルと同様に山肌に埋め込まれたような巨大図書館を建てた・・・穴を掘った。

 巨大図書館の書籍は地下に眠る宇宙エルフの円型宇宙船に積載された巨大図書館の本を、紙の文字の本にしたものだ。

 その作業は書記官型ゴーレムを造って書き写してもらっている。

 また巨大図書館に併設して俺の子供達用の学校を建てた。

 俺の子供たち専用といっても、幼い俺の子供達ばかりではなく、アリサ公爵令嬢を始めとして、豪商から預かった双子の兄妹や、カボサン王国の国王から預かった兄妹等も、常夏の海を満喫するとともに、ここで宇宙エルフ族の高度な科学技術等を学んでいる。


 学問という点においては、ヤマト帝国の女帝になったカサンドラはヤマト帝国では才媛と呼ばれて将来を嘱望されていた。

 カサンドラはインドラ連合国の首都に大使館の大使として過ごしている間に、才媛と呼ばれていた自分自身が色々な面で劣っている事に気付けされたのだった。

 女帝となったカサンドラは俺がヤマト帝国から放逐されてから生まれたので、俺よりも四つ年下で、蝶よ花よと育てられ、その時代の淑女としての教養は身につけているものの、本当の意味での教養の不足をインドラ連合国の首都にある王立幼年学校の生徒の姿を見て痛感させられたようだ。


 カサンドラの今まで受けていた教養は、誰かに本は読んでもらうもので、文字を読むことも書くこともできなかった。

 自分よりはるかに幼い王立幼年学校の生徒たちが自分自身で本を読んだり、文字を書いたりする姿を見て恐怖を覚えた。

 それに数学の授業や理科や社会科の授業でも衝撃を受けた。

 数学の授業での足し算や引き算についても、今まで、物の売り買いではコインを出して1ギリ、2ギリと積み上げていたものがあっと言う間にその計算ができる。

 彼女は教養の必要性を実感させられた。教養の差は国力差になる。


 教養の差は国力の差になると身に染みて感じたヤマト帝国女帝カサンドラは、インドラ連合国の首都にある王立幼年学校魔法分校の特別教室を卒業後、士官学校の最終学年に編入していた。


 女帝カサンドラは今後将来的にもヤマト帝国で子供達の学び舎として帝立幼年学校を造くる事を決意した。

 帝立幼年学校を造った場合、何が必要なのかを学ぶために士官学校の最終学年に編入しているが、その思いが強かったので、士官学校の隣に建つ士官大学校の王立幼年学校の教員課程の特別授業も受けて勉強をする事にした。


 転移の出来ない女帝カサンドラに転移装置の存在を明かして自由に使えるようにすることはまだ出来ないので、職務を終えたカサンドラを俺が迎えに行き士官大学に転移で連れていき特別授業を受けさせている。

 その横にはカサンドラ付きの女官になっている能天気二人娘のマリンとマリヤがついて来ている。

 三人が特別授業を受けて空腹のままヤマト帝国の帝王城に戻すのは忍びない事から、夕食時には俺達の住む王城に連れて来て、妻達と夕食を囲むことが良くあるようになったのだ。


 カサンドラを夕食に呼ぶと俺の妻達は好い顔をしない。・・・何故か能天気二人娘も同様なのだ。

 カサンドラがすぐ俺に

「スグルさ~ま、スグルさ~ま。」

と鼻声で甘えてしな垂れかかるからだ・・・⁉

 俺の妻達の頭に幻の角が生えている!

 ユリアナとセーラの二人がカサンドラが甘える様を見て、とうとう切れて武道場にカサンドラを連れ込んだ。

 ところが、打ちのめされたのがユリアナとセーラの二人の方だった。

 能天気二人娘もユリアナとセーラの二人に対峙したが互角の腕前だった。


 ユリアナとセーラの二人は今度は練兵用のグランドにカサンドラを連れ出して魔法で勝負をしたが、これはユリアナとセーラの二人が圧勝した。

 能天気二人娘も今度も対峙したが、僅少でユリアナとセーラの二人が勝ったようだ。

 妻達の中で最強を誇るモンが武道場で三人を同時に相手をしてやる。

 三人がかりでも、まったくモンには剣が届かなかった。

 白愛虎が今度は三人を同時に相手をする。

 白愛虎に遊ばれているが、よく三人とも善戦していた。

 俺は、こっそりと隠れるように、そこまで見ていた。

 妻達がカサンドラ達の腕前を知ろうとするだけで虐めていないようなので、俺は見るのを途中で切り上げて俺専用の風呂にはいりにきた。

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