第123話 北の大地の軍狼

 逐電した豚皇太子のクローゼット内に残されていた、彼の禍々しいコレクションの数々の対応にヤマト帝国の宰相達は苦慮したのだ。

 豚皇太子の行為が世間に漏れて広まれば、ヤマト帝国の権威失墜につながり弱体化しつつあるヤマト帝国が瓦解しかけないのだ。

 コレクションの中にいた行方不明者リストに載っている者の家にはヤマト帝国から口止めの為に多額の慰謝料が支払われていった。

『弱り目に祟り目』

とはこの事である。

 どうしても近親者が判明しないまま残った者の首は荼毘だびにふされたうえ埋葬されたのだ。・・・ただ、俺の母親と豚皇太子の母親皇后の首は見つからなかったので、国葬などは行われなかった。


 俺は、逐電した豚皇太子はヤマト帝国の隣国、魔王配下の魔法使いの国に逃げ込んだという連絡を受けて直ちに巡検士を派遣した。

 3名1グループで忍者六人衆と同じ里の忍者の修行をしていた次代を担う、特に腕の立つ人材を選んで派遣したが、すぐ連絡が取れなくなってしまった。

 腕利きの同じ里の者が連絡が取れなくなったことから、三羽烏や影を名乗る忍者六人衆が後続で魔法使いの国に侵入したいと名乗りを上げた。

 しかし俺は、先行の3人が行方不明になった状況がいまだはっきりとしないので、これを許さなかった。・・・人材の使い潰しをするつもりはない!


 ヤマト帝国と魔王国が国境を接していたことから、ヤマト帝国は国境の警備を増強することになった。

 廃嫡されたとはいえ、豚皇太子がヤマト帝国に魔王国の兵を引き連れて復権を求めてくるかもしれないからだ。

 ただこの場所は、魔王国を守るように聖龍山系と呼ばれる9千メートル級の山々が屏風のように連なっており、魔王国の北にはこの惑星の北極地帯で人跡未踏の氷の大陸が存在している。


 この9千メートル級の聖龍山系を豚皇太子が越えて行ったのだ。

 魔王国の魔王の力量や恐るべし!

 氷の大陸へと続くこの北の大地は北極圏の外れにあるが非常に寒い地域である。

 この地域の植物は草や苔類と針葉樹林が生茂る森が現れる樹木境界線と言われる地域で動物は、馬や軍狼が多数走り回り、この世界では地上最大級の体長20メートル級のヒグマが住んでいる。 

 ヒグマや軍狼はこの地に住む住民には脅威になるので、国境警備隊の仕事はヒグマや軍狼の退治に追われる。

 ヒグマや軍狼の毛皮は大きくて冬の防寒着としても超が付くほど優秀な素材なのだ。

 国境警備隊が増強されたことで、寒さ対策としてもヒグマや軍狼の毛皮が必要になりヒグマや軍狼退治に拍車がかかった。


 この北の大地に住むヒグマや軍狼達は国境警備隊に狩られて数を大きく減らしていった。

 北の大地の軍狼から魔の森に生息する大将軍狼に

「このままでは、北の大地の軍狼がいなくなってしまう。」

と泣きついて来た。

 北の大地の軍狼には人形になれる大将軍狼や将軍狼がいないのだ。

 それはリーダーになれるほどの強い個体がいない事を意味するのだ。

 リーダーのいない北の大地の軍狼達は、殲滅せんめつの危機に至ってしまったのだ。


 今度は俺に対して、魔の森の大将軍狼が

「このままでは、北の大地の軍狼が滅びてしまう。」

とその危機を訴えて来たのだ。

 魔の森に北の大地の軍狼を受け入れることにした。

 魔の森は魔獣の保護地域であり北の大地の軍狼達はこれで絶滅の危機から脱することが出来る。


 俺は一度行った場所しか転移魔法が使えないので、転移装置を魔法の袋に入れて大将軍狼自らが使者となって北の大地の軍狼のもとに行ってもらう事で調整しようとした。

 その大将軍狼から待ったがかかった。

「大将軍狼が縄張りの外に出るのは不味い、大将軍狼の後継者である息子の将軍狼も駄目である。」

と言われたのだ。


 それで白羽の矢が立つたのが、双子の兄妹の妹将軍狼ラミヤが行く事になったのだった。

 体長50メートルにも及ぶ将軍狼が身長2メートルの体になるのだ。

 彼女を背負って一路風魔法を使って北の大地を目指す。

 俺の身体強化の魔法を使って走ると将軍狼よりも速いのだ。

 それに最初は北の大地に一番近い場所に転移で行き、時々見える範囲でショート転移を繰り返したのだ。


 俺が背負った妹将軍狼のラミヤは人形になっても狼の鋭い目つきと狼の尖った耳が特徴的な美人で、尻尾を風に靡かせている。

 毛むくじゃらの腕を俺の首に回して背に乗るのだが、大きな乳が俺の背中に当たって・・・!妻達の幻の角が見えてくる。

 ショート転移も使ったので背中の感触を楽しむほども無く北の大地の軍狼達が生息する森に辿り着いてしまった。


 俺は北の大地で軍狼達が生息する森に転移装置を設置する。

 転移装置から魔の森に救いを求めてきた北の大地の軍狼が現れた。

 ラミヤが将軍狼の姿になると、設置した転移装置から現れた北の大地の軍狼と共に

「ウ~オン、ウウ~オ~ン」

と鳴き始めた。

 流石に将軍狼の遠吠えは迫力がある。

 大地が震える、それを聞いた国境警備隊の兵士が腰を抜かすほどだった。


 北の大地の森から

「ウ~オン、ウ~オン」

と大声をあげながら軍狼が押し寄せて来た。

 将軍狼のラミヤが何事か

「ウ、ウ~」

と言っている。・・・集まった軍狼を説得しているのだろう。


 救いを求めてきた北の大地の軍狼が最初に転移装置に飛び込んで消える。

 それを見て次々と北の大地の軍狼が転移装置に飛び込んでいった。

 それでも、動かない北の大地の軍狼はいる。

 何頭かの若い軍狼と年老いた軍狼等で彼等はこの大地で生涯を終えたいというのだ。

 将軍狼のラミヤに頭を下げると彼は何処ともなく走り去ってしまった。


 俺は転移装置を魔法の袋にしまうと、彼等の過酷な運命を思って、寂しそうに項垂れるラミヤの頭に手を添えて魔の森へと転移魔法を使うのだった。

 北の大地の軍狼の滅亡の危機は遠のいた。

 これ以降ラミヤが人型になって、時々湖畔の館に遊びに来るようになったのは別の話である。

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