第105話 開戦の準備

 ヤマト帝国がインドラ連合国にアンリケ公国が参加しようとすることに対して鉄鎚を食らわすべく、この地方盟主の泥鰌髭どじょうひげ子爵が中心となり地方の領主軍を集めて行軍が開始されようとしていた。

 それを受けて港に駆け戻った海兵隊員と水兵は、武装豪華貨客船や護衛戦艦の出港と武装を覆うキャンバスの布を取り外す準備をする。 

 モンと白愛虎が艦長、船長として護衛戦艦と武装豪華貨客船に馬で戻り、湖竜も呼び戻すとビットから舫い綱を外して、錨を上げて出港する。

 沖合に出たところで武装を覆っていたキャンバスの布が完全に取り払われ早速主砲等の習熟訓練が始められる。・・・巨大ワニを相手に一度砲撃の実戦経験を積んでいるので手慣れたものである。


 俺はインドラ連合国に参加予定者が全員が座れるほどの大きな机を用意させる。この辺一帯の地図も用意させようとするが地図は無いと言われる。

 地図は軍事機密と言っているが、そればかりでなく、実は地図を作製できるほどの正確な測量技術も無いため地図が無いのだ。・・・しかしどこの国でも地図は軍事機密なのだ。

 オーマン国の閘門こうもんを使った運河を造る際も、地図どころか地形の模型を造ってオーマン国の重鎮に怒られたこともある。


 俺は今では魔力量が十分あるためインドラ大陸全体どころかこの惑星全体の地図をステータス画面で見ることが出来る。・・・ただ、今回の航海中に大陸から見える島はステータス画面で表示されているが、それ以外の島々は発見しないと表示されないし、認識阻害魔法でもかかっているのかインドラ大陸の一部の地域と隣の大きな大陸、アライド大陸と同様に島の形だけで真黒な表示なのだ。

 護衛戦艦には海図とともに、俺のステータス画面で見たアンリケ公国付近の地図を大きな紙に転写してあるので、これを持ってこさせる。・・・出港前に何とか間に合った。

 あまり転移魔法等を使って手の内を明かしたくないのだ。・・・残っている国々や領主も今後どうなるか分からないからな。

 その間に使者としてアンリケ公国に残って集まっていた国王達に、自国の軍備を進め、守りを固めるように特使を派遣させているのだ。

 俺は皆が集まる大きな机の上に、護衛戦艦から持ち込んだ大きなアンリケ公国付近を中心とした明細な地図を広げる。


 一方領主軍の泥鰌髭どじょうひげ子爵は地方領主の集まったアンリケ公国の城において俺からの無礼な仕打ちを受けて怒り狂いながら自領に戻った。

 それは俺がアンリケ公国の公王の別宅で偉そうに机に足を乗せてふんぞり返っている泥鰌髭子爵を見たからだ。

 俺は一目で反りが合わないと思った。

 それにブツブツと

「門前に集まった公都民に無駄な施しをしている、こんな国は攻め滅ぼせばよいのだ。

 無駄な施しが出来るほどには金はあるようだし、この国や隣の小生意気な副地方盟主等と言っているカボサン王国と共に攻め滅ぼせば盟主の地位が安定する。

 俺の支配地の拡張だ。」

等と呟いているうえに、自領に兵や糧食を集めて戦争の準備をしている。

 それらを知って、思わず泥鰌髭子爵の足を払ってものの見事にひっくり返してしまった。

 これだけでも宣戦布告のようなものだ。


 俺は

「インドラ連合国に参入する意思のない人は出て行ってもらおうか、それに兵を集め、糧食を集めて戦闘準備に入っているようだが、お手並み拝見させてもらおうではないか。」

と言って追い打ちをかけてしまった。

 限定的とはいえこれで戦争状態に入ったのだ。


 逃げ帰る泥鰌髭子爵を暗殺することも考えたが、これではインドラ連合国に悪い噂が立ちかねん!・・・騙し討ちは今後の事もある。旧日本軍が行った真珠湾攻撃が宣戦布告前の騙し討ち状態となり

「リメンバー パールハーバー」

の標語の元、米国が一つにまとまって戦いに挑んできたのだ。

 クソ!泥鰌髭子爵を暗殺するどころか、部下を使って陰で守って領地まで無事送り届けるようになるとは!

 それでも、泥鰌髭子爵領、テン・ムスタッチにおける兵士や食糧の集まり状態を直接視認して確認できたから良いか。


 泥鰌髭子爵にはヤマト帝国の皇后派から

「アンリケ公国がインドラ連合国に参加するという情報が入った。

 裏切り者のアンリケ公国の公王に掣肘を加えろ。」

と指示されたのだ。

 ヤマト帝国から新たな地方盟主として就任して、ヤマト帝国からの初めての大仕事の依頼だ。

 これが上手くいけば地方盟主の地位が安定する。

 泥鰌髭子爵の元にどれだけの、付近の領主や小国の王が兵士や行軍の為の食糧を持ってくるかで敵と仲間の色分けがはっきりする。


 最近地方領主となったこの泥鰌髭子爵とはどのような人か?

 この地方最大の領地であるテン・ムスタッチを治める領主で当初は泥鰌髭男爵と呼ばれていた。

 泥鰌髭男爵は俺の開拓開墾政策が上手くいっていることを聞いて、広大で未開な自領の農地を開拓して生産量を上げた。

 さらには最近の好天で豊作が続いた。

 泥鰌髭男爵はこれを好機到来と見た、大量の農作物を貢物にしてこの地方の盟主の地位を手に入れた。・・・貢先は俺と敵対する豚皇太子の母親を中心とした一大勢力に膨れ上がった皇后派と呼ばれる者達である。

 俺がアリサ公爵令嬢を敵陣の中枢部たるヤマト帝国帝都城内から救出したことが皇后派内部において危機感を募らせ、同志を募り、結束力を強めたのだ。・・・敵に塩を送ったようなものだ。


 この地方の盟主は泥鰌髭男爵が拝命するまでは、歴代アンリケ公国の公王、公爵が勤めていた。

 泥鰌髭男爵は盟主の地位の簒奪者ともいえる。・・・これによりアンリケ公国の公王が邪魔でもあり不安なのだ。

 アンリケ公国の公王は、この地方では高位の貴族であり、反面泥鰌髭男爵は最近の好天で豊作になって貢物の力でこの地位を手に入れた成り上がり者であった。

 もし今後凶作にでもなったら、貢物も渡せず地方盟主の地位を取り上げられて、元通りアンリケ公国の公王が地方領主に返り咲くかもしれないのだ。


 その前兆はあるのだ。

 農業の知識がない泥鰌髭は連作を繰り返して、いわゆる連作障害を起こし始めている。

 それに開墾と言っても、鉄製の農機具も無ければ、牛馬を使っての犂による開墾の技術も無い、あるのは昔ながらの石器時代の鋤や鍬だ、これでは手で開墾をしているようなものだ。

 開墾政策には多額の金をつぎ込んでいるが遅々として進んでいないのだ。

 その不安を抱えたまま泥鰌髭は、地方盟主になったうえに男爵から子爵に陞爵されたのだ。・・・金がかかった!残った財力はほとんどない!


 俺がアンリケ公国に向かったとの情報を手に入れた皇后派からの命令により、泥鰌髭子爵は食糧を集め兵士を募り始めた。

 泥鰌髭子爵としては、ここで皇后派に良い処を見せて己の地位を盤石なものにできるという大チャンスなのだ。

 泥鰌髭子爵の領地で集められる兵土は6万弱で、地方盟主として近隣の王や領主に応援を求めて集まるのが4万合わせると10万弱の大軍となった。

 泥鰌髭子爵はこれで強気になった。


 俺に敗れたプロバイダル王国のことは念頭にあったが、泥鰌髭子爵は10万もの大軍を集めたのだ。

 プロバイダル王国国内で集められた兵士はどれだけ集めても2万を少し超える程にしかならず、それを二つの軍団に分けて戦いに挑み敗れたのだ。

 泥鰌髭子爵は俺に巨大な魔法の力があったかもしれないが、プロバイダル王国軍を二つの軍団に分けて力を分散したことが敗因だと考えていたのだ。


 多少兵士を集めるのに時間がかかっても、この当時では最大になるであろう10万の兵士で、裏切り者のアンリケ公国とその仲間になる国を踏み潰してやると心に誓っていた。

 アンリケ公国の公王が泣いて許しを乞うても、許さん!

 公王の目の前で奴の妻と娘を凌辱して殺してやるのだ!

 泥鰌髭子爵はその薄暗い思いと、アンリケ公国の公王と皇后派からは目の上のたん瘤になりつつある俺を亡き者にするとの思いだった。


 泥鰌髭子爵を椅子から転がし落とした時点で、すでに護衛戦艦と武装豪華貨客船の二隻は出港をして沖へと向かっており、外洋に出ると武装を隠していたキャンバスの布が取り外されていた。

 戦争の準備の為である。

 決戦の場所が決められた。

 当初は泥鰌髭子爵が起こした軍を引き付けてアンリケ公国で決戦を行うつもりだった。

 泥鰌髭子爵が起こした軍が攻め込むためにはアンリケ公国の隣国で、公王の従弟が治めるカボサン王国を通らなければならない。

 アンリケ公国とカボサン王国は同盟関係にあり、アンリケ公国に必ず見方する。  

 そのカボサン王国を大軍が襲えば城どころか国自体が滅んでしまう。

 ここを決戦の場所にするのは当然の成り行きだった。


 俺はステータス画面を使って護送戦艦艦長のモンや武装豪華貨客船船長の白愛虎に開戦の予定戦場になるカボサン王国王城の位置や艦砲射撃を行う予定地点の座標を送った。

 初戦でヤマト帝国が度肝が抜かれるほどの大勝納めなければならない。

 泥鰌髭の奴が去るとそれを追いかけるようにカボサン王国に向かう。


 カボサン王国には国王自らが道案内をして、俺とヤシキさん、その部下50人が続く。・・・カボサン王国の国王とすれば心もとない応援だ。今一カボサン王国国王には艦砲射撃が良く分かっていないようだ。

 初めての戦法だから無理も無いか。


 カボサン国王が俺達を案内する形で、一頭立ての馬車を走らせていく。・・・荒れ地を走る馬車はゴムタイヤどころかバネもついていない地獄の乗り物だ!

 カボサン国王の衣装に描かれたカボサン王国の紋章を俺がなぞっておいた。

 これで少しは紋章の力で振動や衝撃を軽減してくれるはずだ。

 その馬車をカボサン王国国王自らが馭者として荒れ地を乗りこなしている。

 膝を柔らかく曲げて荒れ地に合わせて進んでいくその姿は何となく楽しそうだ。

 紋章のおかげで、一昼夜かかるところを疲労が少なかったために一日で俺は決戦予定地のカボサン王国王城に着くことができた。・・・途中で泥鰌髭を追い越したが暗殺でもされると思ったのかビビッていた。

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