第106話 カボサン国王のつぶやき

 私はカボサン王国の国王でアンリケ公国の公王の従弟にあたる。

 私は年齢も近いアンリケ公国の公王からヤマト帝国を見限り、最近急成長目覚ましいインドラ連合国に参加したいという思いについて相談を受けていた。

 近隣のヤマト帝国の属国や領主もアンリケ公国の娘がインドラ連合国に遊学しており、もしかすればインドラ連合国に参加を希望しているのではないかと思い使者・・・(という名のスパイ)をアンリケ公国にいつの間にか侵入させていた。

 まあその中には俺の隣の領地テン・ムスタッチの領主の泥鰌髭どじょうひげ男爵がいた。


 以前はこの付近の盟主の地位は、ヤマト帝国の帝王の血族であるアンリケ公国の公王が代々引き継がれていた。

 ところが最近では、この泥鰌髭男爵が治める広い領地テン・ムスタッチで作られる作物は好天気が続いた結果、最近では豊作が続きヤマト帝国に増えた収穫量を利用して貢物を増やした。

 増えた貢物によってアンリケ公王から盟主の地位を奪い取ったのだ。

 泥鰌髭も男爵から子爵に陞爵までされている。・・・泥鰌髭男爵では無くて泥鰌髭子爵殿だな。

 今年のヤマト帝国の帝都における新年の集まりで泥鰌髭男爵が子爵への陞爵が発表され、この地方の盟主の地位に就けることが公表された。

 これにより泥鰌髭子爵が公爵家のアンリケ公国の公王よりも上位の位置に立ったのだ。

 公衆の面前でアンリケ公国の公王は面子を潰されたのだ。


 中央での泥鰌髭子爵の評価は高いが、この地方での評価は低い。

 従兄のアンリケ14世がその後、愛娘をヤマト帝国の豚皇太子に人身御供として差し出すことを求められた事がヤマト帝国からの離脱を決定づけさせられたのだ。

 アンリケ公王にインドラ連合国から大男の彼が直接条約の締結に来ると言う。

 連絡をしてきたのがオーマン国の豪商の配下の旅商人だ。

 大男は陸路を止めて、それも化け物が跋扈する大海を越えてくるというのだ。

 もしそんなことができたらこれは見ものだ。

 アンリケ公国にきている使者どもも来訪の噂をどこから聞きつけたのか騒いでいる。


 それが来訪する予定日からなんと2週間も過ぎた。 

 従兄夫婦が愛娘の安否を心配して青い顔をしていた。

 他国の使者は当然失敗して大男もろとも娘も亡くなったと思い帰国の準備をしている。

 そんな時、港の灯台に狼煙が上がった。

 港に巨大水生生物が侵入でもしたのか。・・・報告がきた例の大男の奴が2隻の巨大な船を小型の海竜に引っ張らせてやってきたのだ。それに巨大な海竜とウミヘビを従えていると言うではないか。こいつら一匹でも上陸されたらその地域一帯が壊滅してしまう。


 港に接岸した大男の奴の船を誰も見学させてもらえなかった。

 何やら見たことも聞いたことも無い楽器というもので、良く分からない音楽が奏でられていた。・・・今まで聞いた事も無かったので良いのか悪いのか分からん。アンリケ公国の国歌だそうだ。面白そうなので俺の国の国歌も作ってもらおう。

 俺もそうだが、インドラ連合国に参加を望んだ国々の国・公王や領主はインドラ連合国と同じように稲を中心とした物々交換のような経済体制から金本位制の体制に変えたかった。

 それに経済的にも文化的にも目まぐるしく発展するインドラ連合国に憧れを抱いていたのだ。


 アンリケ公国がインドラ連合国に参加の調印を終えたのか、庭で立食パーティーを始めたのか上手そうな匂いが漂ってきた。

 匂いに釣られてアンリケ公国の公都民が集まって来た。

 何とキングワイルドボアという希少な肉を集まって来た公都民にまで振る舞っている。

 キングワイルドボアの肉なら俺も一度食べてみたいものだ。

 泥鰌髭男爵いや泥鰌髭子爵が集まった公都民を蹴とばしている。・・・奴もキングワイルドボアの肉なら食べたかったのだろう。八つ当たりか?さもしい奴だ!


 インドラ連合国に参加を望んだ使者はアンリケ公国の別邸に集められた。

 その別邸にアンリケ公国の公王に連れられて筋肉質な大男が入ってきた。

 彼はこの付近で一般的に着られている貫頭衣に毛が生えたような服装ではなく、今まで見たことも無い、おしゃれで動きやすそうな真白な制服と言う名の服を着ていた。・・・その制服の胸や肩には色とりどりの飾り物、後で聞いたが胸につけているのが身分を表す徽章と言い肩には肩章と言うのだそうだ。例えば徽章だが宝石が付き金でできており細かい細工が施されている。これは今までに無い技術だ!

それに服の脱ぎ着に使う黄金のボタンが左右に付いている。脱ぎ着に使わない方が飾りボタンだと笑っている。ボタンを落とした場合の替えだと言って服の袋、ポケットと言うところから何個もボタンを出して見せてくれた。細工が凄い、軽いと思ったら土台と美しく飾られた表面とに分かれているそうだ。それに表面の飾りもインドラ連合の紋章が彫り込まれているのだ。


 それに腰に巻いているのは革紐は何だ?縛っていない!縛る代わりに黄金でできたバックルというもので絞められているそうだ。

 腰に巻いている革紐から下げているのは刀か?

 黄金の鎖で刀が下げられている。

 鞘は黒く、漆が塗られて螺鈿と言う技法で美しく飾られている。

 抜いた刀は日本刀と言って、片刃の剣だ!鋳造刀では無くて鍛造刀だ!刃紋が凄く美しく切れ味が凄そうだ。・・・今まで見たことも聞いたことも無い形をしており一目で国宝級だと思った。大男が気前よく別の日本刀を土産だと言って渡してくれた。これも良い出来だ。これ一振りで俺のような小国や小領地が買えるかもしれないのだ。大男の持っている日本刀はヤマト帝国どころか、この大陸いや惑星全体を差し出しても買えない逸品だ!いや眼福、眼福!


 大男の後ろから続く美女もまた女性用の真白な制服を着ていた。

 着ている制服は基本的には大男と同様だ。

 この美女達は大男の嫁集団でブレーン集団だ。・・・真正カンザク王国やプロバイダル王国、最近大男の傘下に入ったヒアリ国の女王もいるのだ。

 この航海中、それらの国々はどうなっているのだろう?・・・聞いてみたら企業秘密と言って笑われた。企業って何だ?分からないものだらけだ⁉

 その後ろにはアンリケ公国のアリサ公爵令嬢が続く、彼女の服装もまたドレスとか言う薄い奇妙なデザインで、頭には薄い金に装飾が施され宝石がちりばめられたティアラという装飾品を被り、首からは重い金板の首飾りから解放されて、ティアラ同様に薄い金に装飾が施され宝石が鏤められていた。・・・アリサ公爵令嬢のティアラや首飾りは今までのクソ重い金属の塊のような首飾りと同等の価値があるように思われた。


 白い制服のような物を着た大男が、室内に入って来て挨拶もせず、ふんぞり返って座っていた泥鰌髭子爵を転がした。・・・ざまあみろ!泥鰌髭子爵の貫頭衣がめくれあがって汚いふんどしが見えた。

 いや待てよヤマト帝国の腰巾着の泥鰌髭子爵を転がしたということは、ヤマト帝国に宣戦布告をしたということか。・・・これは大変なことだ!この部屋にいた全員がヤマト帝国の敵として認定されたのか?首の後ろを冷たいものが流れる。

 それでも泥鰌髭子爵が転がされて片一方の髭が抜けた間抜け面を見れたのは面白かった。


 これを見て仰天した使者のほとんど全ての者が自国に逃げ戻った。

 当然の事だが私はヤマト帝国からはアンリケ公国と同様に敵と認定されている。

 私はアンリケ公国の公王とは従兄弟の関係で、隣国であり今まで兄弟国のように経済的にも軍事的にも同盟してきたからだ。

 大男の二人の嫁と大部分の海兵隊員という赤色の制服を着ていた奴らが船に戻って行った。


 海兵隊員の肩に担いでいたライフル銃とはなんだ?

 大昔には魔銃を使っていたが、それと同じものか?・・・大男が魔銃に興味を持った。何でも知っていると思ったが、知らない事もあるのだ。

 アンリケ従兄が壊れているがと言って魔銃を持ってきた。

 大男と共に嫁集団も魔銃に群がっている。

 嫁のうちのエルフ族?の姐さんがアンリケに直して良いかと聞いている。

 直して良いと聞いた途端、カチャカチャと触って大男から魔石を受け取り魔銃に装着している。・・・直った!まさか何百年か何千年前の代物だ!城の室内の飾りぐらいにしか使えないものだ。


 エルフ族の姐さんが外に向かって構える!・・・エッ!オイ!撃った!

 銃口から光が流れ外の立ち木に向かった。

 立ち木が燃え上がった!・・・話には聞いていたが凄まじい威力だ!

 大男が慌てることなく水魔法で立ち木を凍らせて消火した。・・・水をかけない?氷の膜で酸素の供給を止めて・・・酸素わからん?何はともあれ消化できたのだ。

 驚くことだらけだ、アンリケ従兄が城内にあった魔銃を集めまくって持って来てエルフ族の姐さんに直してくれと頼んでいた。・・・おれもエルフ族の姐さんに城のある魔銃を全部直してもらおう。

 城にある魔銃を使えば・・・何ともならないか多勢に無勢だ。


 それでもその大男は開戦の準備を始めた。・・・何故か自信満々のようだ。

 大男には今も語られる神話がある。それはプロバイダル王国の魔の森侵攻軍の総数1万3千人、そのうち魔法使いばかり集めた5千人を魔法合戦で焼き殺し、その後は王弟軍の残り1万人を壊滅させてプロバイダル王国を傘下に治めたのだ。

 本当かどうかはわからないが、この男を見ていると真実だとは思う。

 それでも泥鰌髭子爵が治めるテン・ムスタッチの動員数は6万、他国を合わせると10万近くにも及ぶ。・・・どうするつもりだ?


 大男がこの付近の地図を準備させた。・・・どこの国にも地図など無い。大昔にはあったのかもしれないが、地図は軍事的に秘密に属するとか言って軍部の中枢部で一括で持っていた。

 ところが何代か前のヤマト帝国皇帝が焚書坑儒と言う奴をやって国中の書籍は勿論の事、地図までも焼いてしまった。

 地図を描く技術もそうだが、地図をつくる測量の技術さえも失われて久しいのだ。

 私も驚いたが、インドラ連合国に参入しようと残っていた国々の代表者も驚いて地図を見つめている。

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