第87話 アリサ公爵令嬢の出奔
アンリケ公国の公王アンリケ14世は、娘のアリサ公爵令嬢が何かと悪い噂が絶えないヤマト帝国の豚皇太子との婚約を迫られていた。
アンリケ14世は、
「娘を大国の皇太子に嫁にやるのは良いが、その後幸せに暮らしていけるか想像できない。
不義をはたらいた等と言って遺体で戻ってくるかましれないどうしよう。」
「一人娘で跡継ぎの問題もある。
娘は私から見ても美少女に育っており、大人になれば美人の誉れも高くなろう。
娘には好い青年を養子として迎えて結婚させ私の後を託したかったのに、何という事だろう。」
と苦悩し悲嘆に暮れていた。
そんな時、独立運動などで国内がガタついていたカンザク王国を統一し、ヤマト帝国の目論見を見事に撥ねかえして、その手先になったプロバイダル王国まで傘下に治めてしまった人物がいる。
その人物は俺なのだが、もうすでに何人もの女性に手をつけて、正妻、側室がいるのだ。・・・この時代は普通なのだが一人娘を外に出すことを考えれば平静ではいられない。
その情報もあってアンリケ14世は苦悩していたのだ。
それでもプロバイダル王国のセレスの戴冠式に合わせてアリサ公爵令嬢を俺に預けてきた。・・・アリサ公爵令嬢が俺の人となりを見て本人に決めさせたようだ。
その俺が、戴冠式後にはヤマト帝国と領地の広さだけなら匹敵するほどの国家、インドラ連合国を立ち上げたのだ。
アンリケ公国公王アンリケ14世はアリサ公爵令嬢が俺のもとにいることを選んだことに安堵して、更にはインドラ合衆国に加わりたいという内容の密書を持った兵士を俺のもとへ送り出したのだ。
密書を持った兵士はインドラ連合国に来るのには陸路しかないので、どうしてもヤマト帝国内を通過しなければならない。
陸路には何か所もの関所がある。
その密書を持った兵士がヤマト帝国内の関所で捕らえられてしまったのだ。
当然その密書からアンリケ公国に反逆の意志ありとして、ヤマト帝国から幾つもの軍団の進軍の準備が開始されたのだ。
動きは逐次巡検士部隊によって伝えられてくる。
俺のステータス画面でも軍団の動きが見えるのだ。
そのざわついた風韻気から何かあったと思ったアリサ公爵令嬢は、ボディーガードとして常に側にいるヤシキさんを問い詰めた。
ヤシキさんはアリサ公爵令嬢にヒアリ国のサマティーヌ女王から助けてもらった恩義があるために断り切れなくて真実を話してしまった。・・・俺とすれば巡剣士としては失格だが人としては合格だな。
アリサ公爵令嬢はヤマト帝国からアンリケ公国に向けて進軍の準備があると聞いて青くなった。
本当にヤシキさんの目の前で膝から崩れ落ちた。
アリサ公爵令嬢を慌ててベットに運ぶヤシキさんの顔を見ながらも苦悩していたのだ。
ほとんど殺人鬼ともいう豚皇太子からの手を逃れて、知識欲を満たしてくれるインドラ連合国に留学していること。
その国では優しく温かみのある国王夫妻たちと、将来は夫としたいと思う美丈夫で常に私の横にいるボディーガードのヤシキさんから離れることを!
それでもアンリケ公国の公女であるアリサ公爵令嬢の立場とすれば、父王を守り国を守るために、いったんは断っている豚皇太子の婚約を認める代わりにアンリケ公国への進軍を止めるようにするための停戦の使者として一人ヤマト帝国に向かう事を決意したのだ。
アリサ公爵令嬢は、このまま体調が悪いと言ってベットの中に潜り込んだ。
体調が悪いと臥せっていたアリサ公爵令嬢を見舞うために、訪れた妻達によって出奔が発覚した。
それはアリサ公爵令嬢の代わりに寝ていた影武者から
「アリサ公爵令嬢がヤマト帝国に向かった。」
と約一日遅れでその事実を知った。
アリサ公爵令嬢は馬に乗る練習をしたいというので、真黒な黒雲と呼ばれる牝馬を与えてある。・・・乗馬用の馬具はいつの間にか廃れてしまい、俺が馬具を再開発した。それで今までは乗馬と言えば一人乗りの荷馬車に乗ることだったのだ。
その馬は一日千里を走るという程の名馬だ。
無駄話だが、一里は中国では5百メートル、日本では約3,9キロ、一日千里を中国では500キロ、日本では3900キロにもなってしまう。・・・閑話休題。
その名馬に乗って出奔したのだ。ほぼ一日の遅れをとってしまった。
もうすでにアリサ公爵令嬢はヤマト帝国国内にはいり、下手をすれば帝都に入ってしまっているだろう。
俺はアリサ公爵令嬢のボディーガードの任にあるヤシキさんが、馬で慌ててアリサ公爵令嬢の後を追うのを捕まえる。
ボディーガードとして、また不用意にヤマト帝国がアンリケ公国に攻め込みそうだと告げた責任感があるからと言って、今から馬で追っていっても追いつけないのだ。
プロバイダル王国から出奔したアリサ公爵令嬢を追って俺とヤシキさんはヤマト帝国へ転移魔法で向かった。
転移魔法は一度行ったことがある場所でなければ転移できないという縛りはあるが、思い出して欲しいのだ、俺は転生者でヤマト帝国で産まれたことを!
最初に選んだ転移先は俺が連れ出された時に覚えていた城下街を囲む城壁の裏の城門だ。
俺が豚皇太子の皇后の義弟に連れ出されるときには、人通りがない場所を選んだはずだからである。・・・いきなり人が現れれば騒ぎになって守備兵に捕らえられてしまう。
流石思惑通り裏門には人通りが全く無かった。・・・後で分かったのだが、捕まったアリサ公爵令嬢を見に行こうと、帝都民どころか裏門の門番までもが皆表門の方に行ってしまったらしいのだ。
かなり以前の記憶であったが転移出来てよかった。・・・ホッとした!
俺は転移後その足で、俺と因縁浅からぬ仲の奴隷商の館にむかったのだ。
流石にこの奴隷商はインドラ大陸内でも手広く商売をしており当然ヤマト帝国の帝都内にも支店を出している。
商品が人だけに館には地下牢があるのだ。
奴隷商の館には真正カンザク王国巡検士部隊改めインドラ連合国巡検士部隊ヤマト帝国支部を置いてある。
これから先行われるアリサ公爵令嬢の救出騒ぎによっては、俺と因縁浅からぬ仲の奴隷商の館はヤマト帝国に目を付けられている可能性があるので、ここにヤマト帝国の部隊が踏み込んでくる虞があるのだ。
逃げ出す準備だけはしておかなければならない。
それで俺は奴隷商の館に着くと直ちに緊急脱出用の転移装置を魔法の袋から出してその地下牢の一室に設置した。
俺は転移装置を設置した後、その館内から外の状況を確認しようと玄関ドアの取っ手に手をかけたところで表が
俺とヤシキさんが何食わぬ顔で外に出て見ると、周りをヤマト帝国の守備兵に囲まれたアリサ公爵令嬢が俺が与えた名馬の黒雲に背を伸ばしてジッと前を見つめて乗っているのだ。
俺の人よりでかい体は明り魔法で光屈折等を利用したり、認識阻害の魔法で、この世界の平均の身長にしているのだ。
それでも頭からすっぽりと隠れるフードを被っているのは、時々俺の体が良く映らないテレビ画像のように揺らぐことがあり、注目されても顔が解らないようにするためなのだ。
敵国の真中である。
それに先のセレスの戴冠式に俺の姿を描いた皿を引出物として、多数渡してあるので、俺の顔を知っている者がいるかもしれないのだ。・・・この引出物を見た貴族達が自分の姿を飾り皿にして家に飾るのが流行っている。・・・毎度あり!
それはともかく、幼いが馬に乗り、凛としているアリサ公爵令嬢を見て帝都の都民は
「可哀想に、豚皇太子の餌になりに来たのか。
公女様が来てもアンリケ公国の運命は変わらないのに。」
等とコソコソと噂をしている。
俺とヤシキさんは、アリサ公爵令嬢を捕まえた集団を追いかけるように進む野次馬達に紛れてついて行く。
帝王城の城門が開けられ、馬上のアリサ公爵令嬢を連れた守備兵とともに城門をくぐると城門が直ちに閉められた。
閉められた城門の前には屈強な守備兵が槍を片手に城門を守るように立っているのだ。
俺達は表の帝王城の城門から守備兵が少ない裏門にもう一度向かう。
裏門の門番達はまだ戻って来ていなかった。
それでもザワザワと人声が近づいている。
俺は、無骨な大きな石が積み上げられた帝王城の城壁を見上げる。
2歳児だった俺がこの裏門から連れ出されてから18年こんな形で帰郷を果たすとは。
俺はヤシキさんを連れて俺が生まれ育った部屋を思い出して転移してみる。
暗く薄汚れて誰もいない、俺の記憶のとおり一般庶民の住居よりもわずかに良い大きな石を積み上げた部屋に転移する事ができた。・・・皇后が皇帝の寵愛が俺の母親を向いている事を知って、嫉妬と腹いせの嫌がらせでこんなところに住まわせていたのだ。
それだけではない部屋の状況を見ると俺の母親が亜人の一種と思われていたエルフ族だったから冷遇されてもいたのだ。
俺が産まれたのだから皇帝から寵愛はされていたのだろう。・・・俺が産まれてからは皇帝の野郎とんとご無沙汰だったはずだ!
転移は一度行った事がある場所でないと出来ないのに、二度も転移魔法を使えるなどとは、不思議な者を見る目でヤシキさんが俺を見ている。・・・俺が元ヤマト帝国の王太子だったことはユリアナとセーラの二人ぐらいしか知らないのだ。
ヤシキさんにニヤリと笑って見せてから、生まれ育った部屋の扉を開けて外に出る。
『離れ』
とも言い難い薄汚れた石の家の隣に黒く大きな帝王城が建っている。
文明文化の低い亜人国家のオーマン国の王城を大きくしただけで同じように見える。・・・階層を足して仕切りが増えた分部屋数が増しただけだ。
石の家から帝王城に向かう石畳の道が続く、石畳の先の帝王城の木の扉がまるでおいでおいでをするように風に吹かれて
『カタン』『カタン』
と小さな音をたてながら開いたり閉じたりしている。
俺とヤシキさんの二人でその木の扉を潜る暗い廊下が続く、身体強化魔法で視力や聴力をあげる。
誰も見向きもしない打ち捨てられた
『離れ』
があるだけの場所であり、帝王城があまりにも広いためか近くには全く人の気配がしないのだ。
暗い廊下を進んでいくと、地下に続く階段を発見した。
その階段を伝うようにして地下から腐臭が漂って来た。
本来なら行かなくても良かったのだが、好奇心と何か使命感のようなもの引かれるようにして腐臭を頼りに階段を降りていった。
階段を降りる突き当りに扉があり、そこから強い死臭が漂ってくる。
俺がその扉を開けると血の海と多数の細切れの死体が転がっているのが目に飛び込んできた。・・・なにこれグロい!
その中央に不気味な笑い顔を張り付けて座っている豚皇太子がいたのだ。
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