第85話 巡検士

 俺はこの短期間で真正カンザク王国とプロバイダル王国、ヒアリ国、オーマン国の四つの国をほぼ手中に収めたと言っても過言ではないのだ。

 この四か国が政治的にも経済的にも有機的に活動が出来るようにするため、連合国家を誕生させたのだ。

 俺達の住むインドラ大陸の名前からインドラ連合国と命名したのだ。

 インドラ連合国の最初の行事が1年後のオーマン国における国王の白神虎の戴冠式をオーマン国の王都で行うこと。

 そしてその1ヶ月後には、ヒアリ国の女王のルウの戴冠式もオーマン国とヒアリ国の国境にある仮戴冠式を行った出城で行うことにしたのだ。

 これらの行事は各国に通知したのだが、問題は両国とも亜人国家ということだ。

 どうしても人類対亜人の人種問題が表面化して、案内状を送っても戴冠式出席を拒む国家が多数出てしまったのだ。

 使者が死者になって戻ってくる等の事は無かった。・・・国交断絶どころか宣戦布告になるのだ。

 その断った国は礼儀としての返礼品を送ってくるが、それは返礼品というにはあまりにも御粗末でわずかばかりのものであった。

 オーマン国の隣国のサンドウルフ王国も亜人国家ではあったが出席を断り、返礼品も送ってこなかった。

 サンドウルフ王国の外貨取得がオーマン国からプロバイダル王国に向かう商人や旅人に対する通行税がその多くを占めていたのだ。

 それが今回のオーマン国からプロバイダル王国へ直接行ける運河の建設によって途絶えたのだ。

 今更ながらサンドウルフ王国が道路を整備して通行税を下げてもそのルートを使う商人や旅人はいなかった。・・・無駄な出費でまたサンドウルフ王国の国王は腹を立てている。まあ~このルートの道路も砂嵐で沈むので維持管理が大変で無駄な出費がさらに嵩むのだ。

 サンドウルフ王国はその名の通り軍狼が起こした砂漠の国家だ。

 軍狼は魔の森にもいて、その大将軍狼がインドラ大陸の軍狼の長であったがサンドウルフ王国を築いたことで国王の軍狼が軍狼の長を主張して没交渉の状態になっていった。・・・サンドウルフ王国の国王は良く言えば唯我独尊、悪く言えば聞く耳を持たないのだ。・・・この国も何をしでかすか分からないので注意しなければならない。

 戴冠式の出席に関してはインドラ連合国自体の経済や国力を増強していけば、このような事態にはならなかったと思うのだ。

 インドラ連合国の国力をあげる手始めとして、インドラ連合国といっても各国は独立しているのだが、その中心的な存在であるインドラ連合国の首都をプロバイダル王国やヒアリ国、オーマン国ともに近い南カンザク地方城にすることにした。

 インドラ連合国の首都になる南カンザク地方城に運河を利用して船で下見に行くことにした。・・・ユリアナとセーラの二人やセレスとクロの二人にとっても父親や弟等が亡くなった分離独立紛争発生の場所であり良い思い出の地では無いのだ。四人とも少し悲壮な顔をしている。

 城塞都市近くにあるカンザク大河の船着き場に船をつけたのだった。

 双子都市とも呼ばれるように城塞都市と南カンザク地方城は地図上でも近く、くっ付くようにして建てられている。

 城塞都市の城門を抜けると見えてくるのが南カンザク地方城で、今後は

『インドラ王城』

と呼ぶことにしたのだ。

 このインドラ王城のある谷間に入るには、城塞都市を通らなければならず。

 今までに俺以外に破られたことの無い鉄壁な城塞都市であった。

 この城塞都市を抜けるとインドラ王城がカンザク山脈の山肌に一部が洞窟の迷路のように掘られて谷間の一部のように造り上げられている。

 インドラ王城の前にある南カンザク地方で起こった分離独立紛争で亡くなった方々の墓碑銘の前に献花を行い冥福を祈る。

 不吉な地ではあるが、ここにインドラ連合国の国会議事堂や各国代表者の宿舎がつくられていくことになった。

 カンザク山脈は、宇宙エルフ族の宇宙船が落ちた時に衝撃により出来た山脈で、壁のようにそそり立つているのだ。

 ほぼ垂直なこのカンザク山脈の頂上には北カンザク地方山岳警戒所と同様に南カンザク地方山岳警戒所を開設して、常時50人以上の警戒員が詰める事にしているのだ。・・・当初の目的はプロバイダル王国やヒアリ国、オーマン国の監視予定で開設しようとしたのだが、開設前にこの三ヶ国を攻略してしまい、インドラ連合国の首都防衛と警戒員の訓練用に開設したのだ。

 ここの警戒所は巡検士を目指す者の訓練校であり北カンザク地方山岳警戒所と同様に転移装置がすぐ使えるので、警戒員は巡検士見習いの更に下ということで、巡検士見習い補の身分にした。

 三ヶ国がインドラ連合国の仲間入りしたと言っても、未だに真正カンザク王国内やプロバイダル王国内の政情不安で反乱分子や夜盗盗賊の類が跳梁跋扈ちょうりょうばっこしているのが現実なのだ。

 こいつらを早期発見して退治することによって、真正カンザク王国やプロバイダル王国の治安が確保され、ひいてはインドラ連合国全体の安定に繋がることから必要なことなのだ。

 支配領地の広さではインドラ連合国は、ヤマト帝国と遜色がない程の広大な領地を所有しているのだ。

 それは真正カンザク王国には魔の森が領地内にあるからだ。

 魔の森は宇宙エルフ族の移民船が撃墜した衝撃で造山されたカンザク山脈で丸く囲まれた地域で、その大きさはほぼヤマト帝国の本国の領地ほどもあるのだ。

 インドラ連合国という広大な領地を持つ巨大国家がいきなり誕生したのだ。

 問題点を上げるとすれば領地は広いが人口が極めて少ない事だ。

 広大な魔の森は魔獣や魔獣植物が横行する地域であり、住民は宇宙エルフ族の移民船の乗員と俺たち家族が住んでいるくらいなのだ。

 宇宙エルフ族の移民船の乗員は、ほぼ冬眠状態で住民がいないのも同じ状態なのだ。

 何はともあれ、いきなりインドラ連合国という巨大国家が誕生したことから、当然他国から警戒されるようになった。

 警戒されるということは、インドラ連合国内の実情を知ろうと他国の諜報員が色々なかたちで侵入してくるようになったのだ。

 特に真正カンザク王国やプロバイダル王国に諜報員が入ってくる。・・・国の体裁としても人類が多数居住して文化も高いと思われているからだ。他国では亜人国家のヒアリ国はサンドスネークの大量発生で国民の全てが死滅して一応インドラ連合国が支配している。ヒアリ国は砂漠国家で利用価値がないと思われている。もう一つのオーマン国は亜人国家で文明の程度が低く人種差別の問題から他国からは諜報員が入っていないのだ。

 諜報員の巣窟である他国の外交官施設が堂々とプロバイダル王国の王都に大使館や領事館として建ててきた。・・・プロバイダル王国のセレスの戴冠式に他国の外交使節団が来た際の置き土産みたいなものだ。

 まあ~他国の大使館や領事館を建てるということは仲良くしようと言う表れだ。それに他国の諜報員が一ヶ所にいてもらった方が監視がしやすい。

 大使館や領事館を建ててきた国にはお返しとばかり、こちらもプロバイダル王国の大使館をその国の王都に建てさせてもらっているのだ。

 大使には未だに俺がセレスの女婿でプロバイダル王国の国王であることが不満な上流貴族を充てた。

 他国への島流しみたいなものだ。・・・大使にした不満分子の貴族どもめ!言動には注意するように忠告し、誓書・・・(身分の剥奪や財産の差し押さえの同意書)まで書かせたのだが・・・。

 大使館の他の職員の大半は俺の配下の者だ、俺に大使の言動が連絡される。

 大使の中にはプロバイダル王国に不利になる条約を結ぼうとしたり、戦争に誘導しようとする馬鹿がいる。

 あれ程言動には注意するように忠告したのに、すぐさま大使を本国に呼び戻して誓書の通り、大使の身分剥奪、貴族の身分剥奪と財産の差し押さえが行われていった。・・・青い顔をしているのじゃないよ!身か出た錆!

 馬鹿丸出しの大使がドンドン交代させられる。

 おかげでプロバイダル王国から不満分子が一掃できた。

 馬鹿丸出しの不満分子の元貴族どもが集まって反乱を企画した奴もいたが、こいつらは一掃されて鉱山奴隷として働かされている。

 まあ~マシなのは、俺に子供達を連れて来て、お家の復興を願い出た者だ。

 貴族の子供でプライドだけは高い、俺に不満を持った貴族の子弟なので、俺の目玉の施策の一つである王立幼年学校に行っていないのでほとんどが文盲だ。

 貴族は文字が読めなくても、文字の読める者を雇えばよいという変な感覚だ。

 これが識字率を悪くしている原因でもある。・・・中には変わり者で読書に勤しんでいる貴族の子弟がいるが、その変わり者の貴族の親は殆どが俺の支援者だ。

 貴族の子弟どもが、同い年どころか年下の農民の子供達が本を読んでいるのを見て呆然としている。

 これではお家再興どころか邪魔なだけだ。

 王立幼年学校に通ってもらって努力のほどを見ることにした。・・・結果は無残だった。魔法が使える者は優遇できたが、他の者は・・・。

 他国からの諜報員には旅商人に身をやつして侵入してくる者がいる。

 旅商人は商業ギルドの管轄で情報が入ってこない!

 商業ギルドは国とは独立の機関であり、旅商人等の保護を目的としているので情報は渡せないと言う。

 ついでに言うと商業ギルドは税金も納めていないのだ。

 インドラ連合国では通行税を取らないが、他国では商業ギルドから税金を取れない事もあって高い通行税を課しているのだ。

 色々な形でインドラ連合国に侵入してくる他国の諜報員に対応するのが巡検士部隊というインドラ連合国がつくりあげた諜報機関なのだ。

 当初の目的は真正カンザク王国やプロバイダル王国内を巡って地方領主の悪政や盗賊の退治ということから始まった。

 国を巡るということで巡検士(巡剣士)と命名して、職務上、殺生与奪の権利まで与えられているのだ。・・・今では巡検士で統一だ。

 巡検士はベックさんを総隊長にして、ヤシキさんなど古参の部下が勤めている。

 古参と言っても5、6年の間柄なのだが。

 その巡検士部隊員は他国に侵入して情報を持ち帰っても来るようになった。

 インドラ連合国としても最大の関心事は、仮想敵国のヤマト帝国の次期皇帝、豚皇太子の状況についてだ。

 当然なことだがヤマト帝国に侵入したインドラ連合国の諜報機関、巡検士部隊によって豚皇太子の状況は調べられているのだった。

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