第84話 陵虐の魔王

 インドラ連合各国には王立幼年学校が設けられている。・・・といってもヒアリ国はゴーレム&アンドロイド達の国家では今のところ子供達はいない。

 学校建設の目的は識字率の向上と健康に育ってもらう事であるが、もう一つ目的というか使命があるのだ!

 この世界では幼い子供達も年中無休それも年中無給で働かすことができる貴重な労働力なのだ。・・・しかしま~小遣い位やれよ!服も汚いし!体も臭い‼

 親から過酷な労働を強いられて体を壊してり、体が壊れたと言って捨てられたり、亡くなってしまう子供達も多いのだ。・・・病院にも見せない、そんな親はまた子供をつくればいい等とのたまうのだ⁉

 子供に対する虐待防止法をつくっても守られない。・・・守る気も無い!

 親が子供を守らない世界それで王立幼年学校を造って、この世界では大人と認められる15歳までの子供を保護しようという目的というか使命なのだ。

 当然新たにインドラ連合に参加したオーマン国にも王立幼年学校を建設した。

 オーマン国の多く住むのは魔獣を先祖とする亜人種である。

 亜人種は、力が強く

「力こそが正義である。」

と考えているどちらかというと脳筋集団なのだ。

 単純明快で難しい事を考えたがらないうえに、粗暴なものが多い。

 同種同族の仲間意識が強くすぐ群れたがり、排他的になる。

 そんな亜人族に何とか王立幼年学校の必要性を説いてまわり、子供達を入学させることに成功はしたのだが・・・不味い事が起こった!

 イタチ族の少年達がウサギ族の少年達を教室で襲って何人かを食い殺してしまったのだ。

 その時、白神虎国王は病院で勤務中、体調の異変を感じ取った。

 妻のヨウコさんが餌に見えたのだ。

 彼は目を逸らせて外を見ると、隣の幼年学校から病院逃げ込んでくる傷ついたウサギ族の子供達を見たのだ。

 彼はオーマン国の幼年学校を直ちに閉鎖した。

 しかし、傷ついたウサギ族の子供達を見る目が異常だ!

 彼は後の治療を妻のヨウコさんに頼んで、院長室に閉じ籠った。

 国の治安を担うライオンの近衛隊が動かない!

 というよりも動けなかったのだ。

 定期的に襲う狩猟民族の血の騒ぎが起こるために、凄惨な現場には近づきたくても近づけないのだ。

 彼等もまた血を見て狂ってしまう事になるからだ。

 ヨウコさんの救援要請を受けて転移魔法で俺が駆けつけた時、白神虎もまた血の騒ぎに胸を掻き毟っていた。

 水スライムの魔石(超速攻強力麻酔薬)を使って白神虎を眠らせた。

 今度は一緒について来た白愛虎が俺に襲いかかって来た。

 アカネさんの時のように

 「お~い、白愛虎さん大丈夫か⁉」

等と声を掛けたら半分涙目になって武者ぶりついて来た。

 かなり苦しくて暴れたかったようだ。

 アカネと同様に半狂乱のように体を求めてきたのには・・・。

 白愛虎は半狂乱のように体を求める中で、

「周期的に時々狩猟民族の血が騒ぐことがあっても、これほど苦しいことは無い地脈が乱れているのだ。」

と言って気を失った。・・・ついでに水スライムの魔石を使ってしばらく寝てもらった。

 ウサギ族のルウも目が異常に赤い!

 俺に声を掛けられただけで逃げ回る。

 地脈の乱れか、俺も虎王の血が流れているので何となくわかる。・・・俺には亜人種独特の尻尾は無いけれど、俺に流れる亜人種の血が少し騒ぐのだ。

 このままでは抑えられなくなるのだ性欲、征服欲そして、血を求め、ルウのような弱い亜人種を取って喰らう陵虐りょうぎゃくの心を!

 その乱れの原因となる場所も手に取るようにわかる。

 地脈の乱れが陵虐の心を呼ぶ、陵虐の心で興奮してか、俺は目を血走らせて、その場所に向かって飛ぶように走る。

 狩猟民族の亜人種が俺と同じように目を血走らせて涎を垂らしながら、俺の行く手を遮ろうとするが、俺は殴り飛ばして意識を刈っていくのだ。

 地脈の乱れの原因の場所に近づけば近づくほど血を求める陵虐の心が強まっていくのだ。

 ついにオーマン国とヒアリ国の国境の砦から、国境の川をさかのぼり源流近くの洞窟の中にそいつはいた。

 片翼が引きちぎられた、以前は陵虐の魔王と呼ばれた存在が。・・・俺の血が騒ぐこの陵虐の魔王を喰わなければ喰われると!

 陵虐の魔王を見つめると奴の意識が流れ込んでくる、

「喰ってやる!」

と。

 奴の流れ込む意識の他に奴の情報も流れ込む。・・・相当弱っているのだろう血を求める陵虐の心と飢餓状態で意識がコントロールできないのだ。

 奴はダンジョンで生まれた。・・・本来なら蜘蛛型生物の補佐官として生まれ出ねばならなかったのに、ダンジョンで生まれ連綿と続く前世の記憶はあるものの、悲しいかな陵虐の心が増して、その知能、英知の力を覆い隠していた。

 その姿は前世に伝わる悪魔とよく似て大きな角を持ち背には大きな翼を持つ。

 ダンジョンで生まれた魔物はダンジョン外に出ることはできないのだが、奴はそのダンジョンを抜け出しても泡となって消えることなく付近の村々を襲い、子供まで儲けた。・・・奴の前世の記憶はその子供にも引き継がれた。

 奴はその子供の現魔王と争って片翼を引き千切られて逃げ出して、この洞窟に逃げ込んで回復を待って眠っていたのだ。・・・奴は知らなかったのだ、ダンジョン特性の無い洞窟でいくら眠っても千切れた片翼は治らない事を。

 奴は目を覚ました、治療できない悔しさと、流れ出た血への渇望、血を求める陵虐の心が目を覚まさせる原因となったのだ。

 奴の陵虐の心、血への渇望が呪いのように広がって地脈の乱れとなり、亜人種の中の狩猟民族の血を騒がせているのだ。

 俺が洞窟の前に立つと、奴のどす黒い血への渇望が瘴気のように黒い霧となって漂い出ているのが見える。

 奴が目を血走らせて牙を剥きだして洞窟から出てきた。

 盛り上がった筋肉を持ち、身長は優に3メートルを超えている。

 頭には大きな角が左右のこめかみ付近から生えている。

 その二つの大きな角を両手で掴む、腕の筋肉で膨れ上がって

『ガキッ』

という音共にへし折った。

 奴の瘴気が両手に持つ奴の大きな角を包むと、大きな刀になった。

『ズシャ』

と大きな音をたてながら、洞窟の外の河原に奴が一歩踏み出した。

 途端に奴が見えなくなる。

 奴は飛び上がったのだ。

 その飛び上がった勢いのまま両手の刀を振りおとしてくる。

 俺は身体強化の魔法をかけ、魔法の袋から一本の杖を出すと、奴の両手で持つ刀の平を思い切り殴りつける。

『バキャン』『バキャン』

と金属の割れるとんでもない大きな音が響くと、奴の持つ刀がいずれも柄付近から折れて飛んでしまった。

 流石の奴も両手の折れ飛んだ刀を呆然と見ている。・・・戦いの最中に気を抜くんじゃないよ!

 俺は杖を振った勢いそのままに体を旋回させて奴のデカイ尻を蹴り飛ばす。

 奴は出てきた洞窟の中に転げ込む。

 奴の折れた刀の刃が角に戻っている。

 どうやらこの角は魔力を注ぐと武器に作り替えることが出来るようだ。・・・便利そうなのと後で研究材料にするために魔法の袋に放り込む。どうやら呪われてはいないようだが、禍々しい気を放つ真黒な魔石同様に別の魔法の袋に放り込む。

 奴はノソノソとまた洞窟から出てきた。

 今度は背中に残った羽を引き千切ると槍に変えた。

 その槍を回しながら近づいてくる。

 頭に角が無いので不格好で可笑しく見える。それに少し身長が縮んだか?

 俺は奴の着きだす槍に合わせて、杖先で弾き返す。

 何合か打ち合っているうちに奴は焦れたのか、穂先を弾かれた勢いを利用して槍の石突側(穂先の反対でものによっては槍のようになっているものもある。)を斧の形状にして、回しながら打ち降ろしてきた。

 俺も相手の打ち降ろす槍を受けた勢いを利用して、今度は変化を付けて回しながら奴の「水月」目がけて

「ホッ」

という掛け声とともに突きをお見舞いする。


無駄話だが、「水月」「みぞおち(鳩尾)」急所である。言葉では知っていても部位をあまり知らないと思う。臍ではない、また胸板でもない、肋骨と肋骨が合わさり、その下に柔らかいお腹になる。細かく言うと肋骨が合わさった所に指を置き、そこから柔らかいお腹の指二本目の場所が水月なのだ。・・・閑話休題。

 

 奴が

「グワーッ」

という大声を上げて、槍を手放して吹き飛ぶ。

 なんとまあ、ご丁寧にも再度出てきた洞窟に転がり込んだ。 

 奴はお腹を押さえ苦しそうにしながらも洞窟から出てきた。

 また少し小さくなったようだ。・・・それに奴から漂い出ていた、どす黒い血への渇望が瘴気のように黒い霧が薄くなったように思われる。

 地脈の乱れも心なしか治まり、俺も血への渇望が治まってきたたようだ。

 奴の手放した槍も片翼に戻っているので、これも有り難く魔法の袋に放り込む。

 今度は奴はどんな事をするのだろうと期待感一杯で見ていると、奴は何を思ったのか、片腕を引き抜いた。・・・痛そう!

 その片腕が弓となり、五指が五本の矢となった。

 片腕でどうやって弓を引くのかと思ったら、片足を弓にかけて残った腕で弦を引き絞る。・・・ヘェ~器用なもんだ‼

 等と思っていたら矢が五本俺に向かって飛んできたので、全て杖で撃ち落とす。

 撃ち落とされた矢が指に戻っている。・・・これはグロい!魔法の袋に回収したくない!

 そお思って見ていたら芋虫のように這いながら奴の所に戻って行く。

 その芋虫の後をゆっくり近づき、守り刀を抜き出す。

 奴は弓から腕に戻して慌ててくっ付けている。

 遅いな芋虫の指を踏み潰して、驚愕に目を見開く奴の首を刈り取る。・・・断末魔の悲鳴のように奴の思念が流れ込む。魔王の正体を手に入れた!

 奴がどす黒い泡となって消えていく、それと同時に奴の血への渇望する呪いも嘘のように消えていき、地脈も安定したのだ。・・・どす黒い泡となって奴が消えたのを見て俺も慌てた!

 魔法の袋の中に入れた奴の角や片翼が奴と同じように泡となって消えていないか心配になったのだ。

 魔法の袋の中は異次元の世界なので奴の角や片翼は残っているが、取り出すのはヒアリ国の研究所に行ってからすることにした。

 その後の話だが、ヒアリ国の研究所に魔法の袋を持って行き事情を説明したら、転移装置を改良した研究室を造って何とか魔法の袋から出して研究することになったようだ。・・・遺伝子や生体科学の関係で、その部分の知識が宇宙エルフ族のコンピュータからごっそりと抜け落ちているので上手くいっていない。

 俺は陵虐の魔王を倒したので、オーマン国の王都に向かって駆け戻る。

 転移魔法を使わなかったのは、途中で俺が殴り飛ばした狩猟民族の亜人族の様子を見る為だ。

 地脈が乱れて俺も少し血が騒ぎすぎて手加減ができていなかったように思うからだ。

 殴り倒した亜人族も全て気が付いて正気に戻っているようだ。

 しかし俺が殴りつけたとはいえ、顔の目の周りが赤黒く腫れ上がって皆片目だけパンダのような顔になっている。

 オーマン国の王都に戻ると白愛虎が赤い顔をして俺を出迎えた。

 陵虐の魔王によって血に狂ったとはいえ、ウサギ族の子供を食ったイタチ族の子供をどうするかでもめた。

 少年法の無い時代なので法に照らし合わせて適切に処置した・・・。

 現魔王の正体がどんなものかわかったが、気分の悪い事案だった。

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