第80話 既存のギルドとの対立
人類が多数を占める真正カンザク王国やプロバイダル王国と、亜人類が多数を占めるオーマン国とヒアリ国を傘下に治めた俺は、人種問題という壁とぶつかってしまった。
四か国が効率よく有機的に発展しようとしているインドラ連合国としては、人種問題を解決するためにも精神的支柱が必要になってくるのだ。・・・中世ヨーロッパでのキリスト教の十字軍による遠征やイスラム教の片手に剣片手にコーランみたいなものだ。
それを思うとインドラ連合国が一枚岩になるためには、やはり思想宗教の統一が必要になってくる。
土着信仰のような、オーマン国におけるゾンビ騒動によって一国を滅ぼしかけたようなシャーマニズムは思想的、宗教的にも危険だ。
釈迦の解脱のように、宗教は本来
『生老病死』
の四苦の悩みとどのように向き合っていくかということだと思う。
シャーマニズムの
『病』
については、黒魔法では食中毒の場合
「毒には毒をもって制する。」
という考えで治すことが出来るがそこまでだ。・・・下手をするとさらに悪化させ場合によっては死に至る。
怪我人の怪我に対しても小便で傷口を消毒するだの、傷口の止血に泥を塗るだの感染症が起きそうなことをして、死ねば信仰が足りないなどとぬかすのだ。
その上
『死』
については亡き人と思い出を語る等と言ってオーマン国で起きたゾンビの大量発生を招いた。
それらを踏まえてシャーマニズムのような危険な土着信仰を廃して、人類や亜人種は皆兄弟と説く世界樹教を推し進める事にしたのだ。・・・ただ今後の問題として生物的にもイデオロギー的にも全く異質な蜘蛛型生物と対立していくときにこの教えに反する行為をしなければならないのだ。・・・弱ったものだ!
世界樹教の世界観は
『世界の中心は世界樹』
としている。
この世界観を利用して世界樹教に反する者を敵対関係にあるとして他宗教や蜘蛛型生物を廃していくしかないか⁉・・・前世の悪いところを真似するか!
何はともあれ世界樹教をインドラ連合国に広げていった。
世界樹教の中心である世界樹は魔の森にある。
俺は現在、魔の森を魔獣や魔獣植物の保護地域として、王立魔獣公園にしたためカナサキ村からの陸路を閉鎖している。
それで、世界樹教の本宮に入るには、真正カンザク王国の王都にある船着き場から定期船に乗って運河を利用して、カナサキ村を通って魔の森の世界樹の船着き場まで行く事になった。
定期船で魔の森の世界樹の船着き場につくと、そこから世界樹の元の社務所まで片側二車線の大きな道路が造られている。
前世では
『牛に引かれて善光寺参り。』
とか
『一生に一度は伊勢参り。』
等の言葉があるように、
『豪華貨客船で行く世界樹教本宮参り。』
というのがこの世界ではキャッチフレーズになっている。・・・どこかの旅行代理店のようなキャッチフレーズだな。
途中のカナサキ村と言えば、プロバイダル王国との先の戦争の際に開放した性奴隷になっていた女性が集められ、将兵学校に付属した職業訓練課程で看護師や調理師などの資格を習得して村外に出て行った者もいる。
最近では絹織物等の繊維業や染色業の技術を習得する女性が多くなった。
心に傷を負った女性達だが見合いもさせて、結婚も推奨している。
村外に出た者も、縁あって結婚して何人も子供を儲けて幸せに暮らしている者も多い。
写真代りに肖像画をお互いに交換する。
王立幼年学校の卒業生の中の染色や工芸品の絵付けの仕事をしている者の中からも、その肖像画を描く職業的画家を兼務している者も多くなっている。・・・写真と違い結構上手く描きすぎている肖像画もあるが、それも愛嬌だな。
船着き場から世界樹教の社務所まで向かう道路の所々には魔獣の保護地域に入らないように監視所を兼ねた、みやげ屋兼宿場をつくってある。
染色や工芸の絵付けの仕事をしている人が、休日にそのみやげ店の一角で世界樹教の本宮の参拝客の肖像画も描いている。
高価な土産だが肖像画を描いてもらう人も多い。
参拝客の中には、まだ教養のない人間が多く、魔の森の広い土地を見ると自分のものにしたくなるのか中に入りたがる人がいるようだ。・・・船着き場の社務所から本宮までの道を外れると魔獣の保護地域で大量にいる魔獣や魔獣植物に追い回されて、這う這うの体で逃げ戻ってくるのだ。
当然注意はしているのだが、怖いもの見たさというか自分だけは大丈夫と思っている人が多いのか。
禁止しているにもかかわらず入って逃げ戻り、何を勘違いしているのか魔獣や魔獣植物などは殺していなくなるようにしろ等と
魔獣や魔獣植物の保護地区であり、その敷地にみだりに侵入しているので、侵入罪で罰金を取るぞ言われてハッと気が付くような状態なのだ。
これらも教材にして、道徳的なものを広げるのも世界樹教の使命だと思う。
世界樹教の広がりと、国民の懐が適正な税制により暖かくなったことにより、豪華貨客船に乗って世界樹教の本宮への参拝客が多くなってきた。
それは運河の利用客や、運河を利用した交易が盛になることを表しており、船着き場から世界樹教の本宮までの、いわゆる門前町におけるみやげ屋に参拝客が莫大な金を落としていくことにもつながっていった。
これに水を差したのが、国から独立している今までの商業ギルドや工業ギルドだ。
彼等からみやげ屋に横槍が入りはじめた。
人種差別問題の解消のために創られた世界樹教が、別の問題を引き起こしたのだ。
みやげ屋等に商業ギルドが手数料を無理に取り立てようとして、冒険者ギルドの冒険者を雇って取り立てたり、時には脅して店を壊したり、従業員に怪我を負わせる事態がおこったのだ。
俺はそのような蛮行が行われたことに対抗して、冒険者ギルドには、冒険者を使って店を脅したり、壊したりする仕事を受けないことを申し入れた。
また従業員に怪我を負わせた冒険者を厳しく取り締まり冒険者ギルドから除名することもまた冒険者ギルドに申し入れたのだ。
当然今まで冒険者ギルドには世話になっているが、無法を許すほど俺は御人好しではない!
必要ならば四ヶ国にある冒険者ギルドを解体して国営の冒険者ギルドを立ち上げると脅し気味の通達まで出したのだ。
またこの様な蛮行に対応するためにみやげ店等の店舗をインドラ連合国直属の直営店にしていった。・・・資金(俺はオーマン国の地下のダンジョン内でとんでもない程のギリ金貨を手に入れている。それによって、どうやら今まではオーマン国の豪商アブツーラがインドラ大陸の長者番付一位だったのが二位に転落した。)は俺が出しているので真正カンザク王国の直営店だが、四ヶ国が共同体であることを明確に表すためにインドラ連合国の紋章が入った
『インドラ連合国直営店』
の木札を店頭に張り出したのだ。
前世では国営から民営化だったが、この世界では逆に国営化だな!
オーマン国の王都の世界樹教の分社に詣でる新婚旅行も憧れの一つになっている。
プロバイダル王国の港から白鳥のように優雅な三本マストの大型帆船・・・(ネーミングセンスの無い俺が白鳥丸と付けてしまった。)に乗り込み、カンザス大河を出てから、オーマン国の
狭いオーマン国の王都の横に世界樹教の分社の門前町が出来上がり、そこでもみやげ店が軒を連ねているのだ。
そこでもやはり商業ギルドが手出ししたので、インドラ連合国直営店の木札を店頭に出して追い払った。
今回の件で被害を受けているのはオーマン国の豪商アブツーラと言っても良い。
彼はオーマン国の財務大臣という顔も持つので、既存の商業ギルドとはインドラ連合国以外でも商売をしている関係上どうしても完全な対立関係になれないで悩んでいたのだ。
俺がはじめたインドラ連合国国営の販売業、商業と言っても、農機具の販売、酒類や乳製品の販売、乗馬用の馬具類の販売と武器製造販売、そしてみやげ店と最近では繊維関係の店くらいなものである。・・・くらいでもないか、下手な百貨店の品揃えと武器商人だ⁉
かなりなものだ。・・・売り上げも順調に伸びているのだ。国営店と言っても資金は俺の懐から、モノ創りのノウハウは俺から出ているので幾ばくかのマージンが手元に戻ってくるが総額となると、とんでもない金になるのだ。
既存の商業ギルドは、直接物々交換の場所を仕切っていたり、工業ギルドと言っても村の鍛冶屋の注文を取ると言って仲介するくらいだったのだ。
それでも旅商人や商人は商業ギルドに加盟していないと商売が出来ないなどの圧力をかけてくる。・・・オーマン国の豪商アブツーラは旅商人を何人も雇ってインドラ大陸全土に放っているので、この問題で悩んでいるのだ。
世界樹教のいわゆる門前町で俺の直営店や国営の店が出来上がり、既存の商業ギルドや工業ギルドの既得権益を侵害し始めたのだ。・・・だいたい国以外に大きな力がある機関があって国に税金も支払わないで、のさばっていること自体が問題なのだ。
今までは既存の商業ギルドや工業ギルドが主導していた未発達な中世期頃の商業や工業の状態から、インドラ連合が主導的な立場に立って国営化に舵取りをした近未来的な形で商業や工業の発展した今の状況の変化によって、インドラ連合国と既存の商業ギルドや工業ギルドが対立し溝が深まって、亀裂を生んでいった。
門前町のみやげ屋店ばかりではない、例えば今までは、ヤマト帝国の帝都や真正カンザク王国やプロバイダル王国以外では鉄製品は貴重で、一般兵は青銅の武器どころか地方によっては石の武器を手にして戦っていたのだ。
それが、土魔法の成分分析で鉄の精製まで容易にできる事が分かったために、石の武器や青銅器の武器が鉄製の武器にとって変わっていった。
また、同様に革製の鎧や木製の盾がが鉄製の鎧や盾になっていったのだ。
武器もそうだが、以前から使われていた鍬や鋤などの農機具が石器時代の石で出来た代物だったものが、最近では鉄製品に変わっていった。
細々とした村の鍛冶屋だけでは
今までの細々とした村の鍛冶屋が、需要に応えるために大きな鉄工所へと
これを見て工業ギルドもまた大きな
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