第78話 造られる運河と巨大帆船

 俺は帰国のためにオーマン国からプロバイダル王国にむかって道路を造りながら深い緑の森の硬い岩盤を魔法で切り崩しながら進んでいった。

 ある日道路のルートの確認などの為、上空から深い緑の森を見下ろした。

 眼下には山脈に囲まれた盆地の中に深い緑の森が広がる。

 囲まれた山脈から盆地に向かって多数の川が流れ込んでいる。

 その川がちょうど深い緑の森の中央付近に窪地があるのか大きな湖や沼地を形成してカンザク川の支流へと流れているのだ。

 その地形と湖や沼を見て思いついたのだ、オーマン国からプロバイダル王国まで運河を造る事を、前世のパナマ運河のように閘門こうもんを使った大きな船が運航できる人造湖で造る事にしたのだ。

 その方が硬い岩盤を削りながら道路を造るよりも早く工事が終了するうえに、オーマン国からプロバイダル王国まで早く行けるのだ。


無駄話だが、スエズ運河はフランスが産んだ英雄ナポレオンが着工を計画したが、計測ミスで地中海と紅海との高低差が9,9メートルもあるとされて断念した。

 1859年同国のF.レセプスが地中海と紅海の高低差がほとんどないと知り、1869年に長さ162キロ、深さ8メートルのスエズ運河を作り上げた。

 ところが彼は1880年パナマ運河開削会社を設立したが失敗したのだ。

 パナマ運河は98キロで、スエズ運河に比べて短かったが失敗した理由は、硬い岩盤とマラリヤに苦しめられたことによるものと言われている。

 その後は、硬い岩盤を掘ると言う無駄な労力を使わないで、ダム湖を造る閘門こうもん、ロックを用いたことだ。またマラリヤの対策としてアメリカ軍の防疫部隊が水辺の蚊を薬剤散布して殲滅したそうなのだ。

 1859年幕末の頃から1880年は明治13年頃その間にスエズ運河やパナマ運河を造っていたのだ壮大なロマンを感じる。・・・閑話休題。


 前世の知識を利用するとヒアリ国の方がスエズ運河と同様に砂漠地帯であり、掘削が容易だが、肝心の水が無いのだ。

 そのうえゴーレム国家としての宇宙エルフ族の科学技術も使うことのある研究都市国家にするつもりなので運河計画は棚上げにされたのだ。

 オーマン国から緑の深い森を抜けてプロバイダル王国を抜ける道路を造ろうとしていたが、上空から見た地形と、その地域に流れ込む豊富な水量を持つ川を見たことから運河を造る事にしたのだ。

 ヒアリ国の掘りやすいが吸水性がある砂岩質とは違い、オーマン国は保水性に富む硬い岩盤が待っているのだ。

 また窪地の地形を考えて、前世のパナマ運河を造り上げた知識を活かしてダムや閘門こうもんを使った運河を造る事にしたのだ。

 運河を造る事によって、折角造った直線の道路は運河に沈んでしまうかもしれないが、効率を考えると無駄骨とばかり言ってはいられない。

 直線道路をちまちまと造っていたが、この方がなんぼか早い。

 運河造りのために、上空から見た地形を1000分の1の模型を土魔法で造って、この国の王の白神虎や俺の妻達に運河の計画を説明する。

 俺も今一、上空から見た地形だけで上手く運河が出来るか不安だったのだ。

 模型も高低差なども含めてできるだけ精密に造った。

 山脈から流れ落ちる川を水魔法が使える妻達が再現する。

 その川の水が窪地に集まって湖や沼を形成しながらカンザク川の支流へと流れ出し始めた。・・・上空から見た状況と同じだ。

 俺はカンザク川支流へと流れ出る場所に閘門の模型を作って水魔法で流れ込む川を塞ぐ、すると深い緑の森の中央付近に再現された湖や沼を巻き込んで大きな人造湖が出来上がってくる。

 それを見ていた妻達が歓声をあげる。

 その歓声を聞いて、何をしているのかとアリサ公爵令嬢や豪商の双子の兄妹達がやってきて目を輝かせて見ている。

 するとドワーフ親方が率いる技術者集団も見学にやって来た。

 まだ残って俺に協力してくれているオーマン国の土魔法使い達までも集まって来て皆、興味津々で見ている。

 地形の関係で何か所かで水が流れ出て大きく広がるだけでそれ以上水が溜まらなくなる場所がある。

 この場所はダムか堤の建設予定地になるので、その場所には番号と色の付いた板で塞いでいく。

 水が溜まっていくことによって見学していた皆どころか俺も今回作り上げようとしている運河の全容が解ってきたようだ。

 オーマン国の重鎮が駆けつけて、地図どころかこの国の地形を作っているのを見て、これは言語道断の所業だ等と何やら喚いている。・・・地図は国家機密なので腹を立てているのは分かるが、五月蠅いので丁度駆けつけたライオンの近衛隊長に引き渡して、お引き取り願った。

 模型の水は順調に溜まり、オーマン国の王都付近まで水が溜まった。

 これ以上溜めると王都が水没してしまう。

 道路工事を中断した付近まで水を溜めると深い緑の森の10パーセント程が水没する事になるようだ。

 元々湖や沼地を含んだ状態なので、それが3倍ほどの大きさになっただけだ。

 道路工事を止めた地点は、オーマン国の王都まで馬車で半日程だ。・・・造った道路が無駄にならないし、どんな急激な増水が起きても王都が水浸しにはならない距離だ。

 俺の付帯脳にある宇宙エルフ族の知識を使った堤やロックフィル(岩石や土砂を積み上げた)ダムの模型や閘門の模型を造って運河の構造を理解させていく。

 妻達については宇宙エルフ族の付帯脳やステータス画面を持っているので理解が早い。・・・模型を造って見ているのでアリサ公爵令嬢や豪商の双子の兄妹でも理解できたようだ。

 閘門の仕組みを説明する際に、水の上下が解るように船の模型を浮かべて思い出した、運河を造るばかりではなく、運河を航行することが出来る巨大な船を造船しなければならないことを!

 運河はこの地形の模型等のおかげで俺がいなくても取り掛かることができるが、船についてはそうも言っていられない。

 今のところ他の運河で使っている動力は湖竜と大亀だがここにはいない事から、風を利用した帆船を造船する事にした。

 それに風が無くても風魔法で進ませることができる。

 ある程度の大きさが船には無いと、いつの間にか何処からか現れた水生魔獣によって沈められてしまうことがある。

 この水生魔獣はオアシス城壁都市の戦いで苦しめられた、水スライムで、こいつらは合体して巨大化すると小さな船など船ごと包み込んで沈めてしまい、溺れた乗組員を溶かして食べてしまう。

 ただし、ある程度の大きさ以上になると、合体した水スライムは自重で分解して元の小さな水スライムになってしまう。

 水スライムには、火魔法の火をかけるよりも、土魔法の土をかけると土の中に溶け込んで退治できる。・・・何事も経験だ。土魔法しか使えない配下が水スライムに驚いて土を掛けたところ土の中に溶け込んで退治することができた。

 水スライムも一応は魔獣なので魔石を持っているが、小さな針のように細い魔石で、この魔石を水スライムは得物を狩る時には体を広げて得物を包み込みこの魔石を注射針のように打ち込んで倒してから消化していく。

 研究結果により小さな針のような細い魔石には、毒物を注入して獲物を死なせるものではなく、強烈な睡眠効果がある。

 それで最近では、土の中に溶け込んだ水スライムの体の中の小さな針のような細い魔石を集めて、医療の麻酔薬替わり使うようにしている。・・・人や動物どころか魔獣や魔獣植物までも眠らせてしまう程の強力な麻酔薬であることから、悪用を防ぐために厳重に管理はしている。

 この水スライムによっても壊れないほどの大型帆船を造船する事にしたのだ。

 造船施設の場所は丁度道路工事を中止した場所に穴を掘って乾ドックを作る。

 その他にも港湾施設や宿泊施設も造っていった。・・・水がまだ来ていないと何となく間抜けな施設だ。

 水スライムにも負けない大型帆船を俺の付帯脳にある宇宙エルフ族の知識を使って造船している時、航海の技術を学ぶために来ているアリサ公爵令嬢が運河造りではなく乾ドックに見に来た。

 彼女は大型帆船を造船する様を乾ドックに現われては、興味深げに目を皿のようにして作業行程を見て、その様子を大きなメモ帳に書いている。

 アリサ公爵令嬢のメモは微細に図面が描かれている。

 俺がメモを描くのを感心して見ていると、保秘の関係で取り上げられると思って泣かれた。

 お詫びと言っては何だが、鉛筆ではすぐ書けなくなって苦労しているようなので、大きなメモ帳を置く首から下げる画板とゆうより製図版とシャープペンシルを作って渡したらとても喜んでくれた。

 俺の妻達と護衛のヤシキさんの目が痛い!

 その大型帆船は三本マストの帆船として造船している。

 大型帆船はその名の通り、湖竜や大亀を使わないで風で進む船だ。

 三本マストの大型帆船を使うことにより湖竜や大亀に引かせる必要が無いので、この帆船の技術をアンリケ公国にも導入したいと思ったようだ。

 アリサ公爵令嬢の故郷のアンリケ公国は漁業国家とはいえ、沖の大型水生魔獣を恐れて沿岸部を、せいぜい大きくても4から5人乗りの小型船でオールを漕いで漁場を目指して漁業を行っている状況だ。

 それも、沿岸部にも入ってこれる小型の水生魔獣に恐れて、ビクビクしながらの漁業を行っているのが現状だ。

 風の力で進むとはいえ、人力のオールで漕ぐよりも早く進める。

 漁業国家で生まれ育ったアリサ公爵令嬢は漁船員の苦労を知っているので、この小型船を帆船にする為の研究に余念が無い。

 俺は何としても帆船の技術を知りたいと意欲を見せるアリサ公爵令嬢に対して、護衛の任務に就いている俺を怖い目で見ているヤシキさんに造船中の大型帆船の内部まで見せてやるように命じた。

 命じられたとおりヤシキさんとアリサ公爵令嬢の二人は、俺が造った鉄製のヘルメットを着用して、仲良く大型帆船の内部を見学しにいった。

 いつの間にか豪商の双子の兄妹と技術者集団がちゃっかりと予備の鉄製のヘルメットを着用して二人の後ろについて大型帆船の内部を見学しているではないか。

 見学していた技術者集団が馬車やルウの仮の戴冠式場のコテージを見た時と同様にまた、

「フッ」

と鼻で笑うと、俺が止めるのも聞かずに八割がたできた船を皆で分解して組み上げ直し始めたのだ。・・・分解するのを見ていたアリサ公爵令嬢や豪商の双子の兄妹達も楽し気に加わっているので、もはや止める気が途中で萎えた。

 アリサ公爵令嬢は御丁寧に分解した船で今まで見逃した部品を大きなメモに図解し始めた。・・・なかなかのものだ。この世界に生きる今の時代の人とは思えないほどの正確な俯瞰図や分解図面を書き上げている。実物を模写する能力は写真以上で解りやすい。

 ドワーフ親方がアリサ公爵令嬢の図解したメモを横で見ながら何やら説明し、時には二人で首を傾げている。・・・研究熱心は良いのだが船造りはどうなるのだろう。時々二人で疑問点を俺に聞いてくるので説明をする。アリサ公爵令嬢の図解のメモに朱書きされていく。メモを見ているだけで彼女は異能者で天才の一人だと思う。・・・手放したくない人材だ!ヤシキさん頑張れ‼ 

 等と思っていたが、俺が造るとどうしても武骨で実用一辺倒になってしまう船がまたたく間に、白くて優雅な白鳥のような大型帆船に造り直された。

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