第68話 豪商の館にて
オーマン国のキツネの宰相夫婦による反乱はライオンの近衛隊長の一振りによって終わったのだ。
そのキツネの宰相の妻を切ったライオンの近衛隊長に王城の隣に建つ豪商の館に俺達は案内されていくのだ。
先を歩くライオンの近衛隊長の身長は俺と遜色がない2メートル近い大男で、腰に下げた両刃の剣は銅製ではなくて鉄製でキツネの宰相の妻の首を一振りで切り飛ばせる業物だ。・・・手入れをしていない!せめて血糊ぐらい拭けよ‼
折角の業物が錆びてしまう。
皮製の鎧も、一枚の革に頭を入れる穴を開けて被り、両脇を縛る簡素なものだ。
それでも肩当の鉄製の金属プレートを鋲で留めているのだが、その金属プレートや鋲に何か描いたり形作ろうとしている跡が見える。
金属の肩当に訓練の際わざと相手の剣を当てて、動きが止まった相手を倒しているのであろう、金属プレートや鋲がボロボロである。
惜しい事に、業物の剣と同様に、折角の金属プレートや鋲の芸術品が壊れてしまっているのだ。・・・真正カンザク王国以外では初めて見る芸術品だ。
誰が作ったのだろう。
そんなライオンの近衛隊長に連れられて豪商の邸宅を進む。
この豪商の館の主は、俺達どころか近所に住んでいたエルフ族やドワーフ族そして人族の商人が逃げ込むのを傭兵を使って助けていた人だった。
その豪商宅のただただ広いだけの応接室にライオンの近衛隊長に案内されるのだ。・・・芸術性の無いこの世界では広さだけが権威の象徴になっているのだ。
堅い丸太を切っただけの木の椅子が二十以上並ぶ、大きな武骨な丸い木のテーブルが中央にドーンと置かれている。
応接室と言っても柔らかいソファーやカウチも無い、本当に広いだけで装飾品の絵画や彫刻も無い無機質な空間だ。
芸術はこれほどの豪商宅でも、何処かに置き去られてしまったようだ。
応接室の解放された窓から、建物で四角く囲われた回廊の中に広い中庭が見える。
中庭の中央には噴水の跡が見えるが壊れているのか水は出ていない。
中庭に咲く花々が唯一この応接室に彩を見せてくれるのだった。
広い応接室の隅に白愛虎の入った医療ポットを設置する。
床はコンクリートの打ちっ放しのような模様も無い土間に木の板を床に置いてあるのだ。・・・所々フカフカとして木の板が歪んでいるのだ。
外の回廊が土間になっており、その延長線上に応接室があるから、そのような構造だとわかるのだ。
しばらくしてその広い応接室に入って来たのは豪商と正妻、正妻と良く似た双子の兄妹、屋敷の従業員達だった。
豪商も正妻も服装は貫頭衣に毛が生えたようなものを革製の紐で縛り、重そうな金銀財宝を身につけているのだ。
正妻だと思ったのは、最初に玄関で出迎えてもらった時に、豪商の隣に並んでいた事と何人かいる妾の中でも一番重そうな金銀財宝を身につけていたからだ。
その金銀財宝が重いのでメードが五人がかりで運んでいるのだ。・・・しかし、貫頭衣も何だが、金銀財宝といっても芸術性の無い金板や銀板に穴を開けているだけだ。
もう少し芸術性を高めて付加価値をつければ良いのに。
これも、毒苔によってある一定の年齢での知能が急激に衰えてくる事による弊害なのだろうか?・・・ライオンの近衛隊長の革の鎧の肩当のように芸術を追い求める者はいるはずなのだが。
豪商の正妻は俺の妻達の服装や襟元を見ている。
妻達の服装は貫頭衣に毛が生えたようなお粗末なものではなく、俺の前世の記憶を基に、妻達が最近研究している色とりどりの布を使って作ったドレスや動きやすいパンツや上着を着ているのだ。
ベルトもそうだ、一般的にはバックルが無いので、革の紐で縛っているだけなのだ。
かたや俺の妻達は、宝石を
襟元のネックレスも細かな模様が彫られて芸術性の高い物になっているのだ。
豪商の正妻から見れば垂涎の的である。
豪商も首から下げた重そうな金銀財宝と俺の妻達のネックレスとを見比べている。
ちなみに豪商の首から下げた重そうな金銀財宝を屈強な男性の従業員が十人がかりで運んでいるのだ。
オーマン国では重い金銀財宝を身につけて客を出迎える仕来たりがあるそうだ。
正妻との間に出来た双子の兄妹、正妻の方とよく似ていて可愛らしい子供達だ。
二人とも同じ髪型で同じような貫頭衣を着て、金銀財宝を首から下げているのだ。・・・彼等にはメードが一人づつ付いて金銀財宝を運んでいるのだ。
応接室の大きな円卓に豪商のメード達に導かれてそれぞれ指定された席に、招かれた俺達が座ると同席した近衛の隊長のライオンが口を開く
「私は近衛の隊長として、先王の白虎様の代からお仕えする者です。
王城のキツネの宰相の残党討伐の為出て行かなければなりません。
それでも、今回のキツネの宰相の反乱について、私が知る限りの事情を御説明します。
私は、キツネの宰相夫婦や守備隊長の大熊と職務的に反目して確執を持っていたのです。
先王の白虎様が、白愛虎様と白神虎様と言う二人のお子様を授かったあたりからお話します。
二人のお子様を授かったその僅か数週間後には、白虎様は理由もなくいきなり愛人と称される虎王と姿を消してしまったのです。
そのうえ残された、白虎様の二人のお子様達が日も置かないうちに、行方不明になったことに不審を覚えていたのです。
当時私は、白虎様の側仕であったキツネの宰相夫婦と責任の
また、白虎様が行方不明になっり、亜人国家の特殊性で政局が安定していないために王位を何時までも空位にしておくわけにはいかなかったのです。
亜人国家の特殊性とは、亜人族は魔獣から進化した者と言われており、種族を大切にしているので種族間で反目する事が多いのです。
それで当時白虎様の宰相だったウサギの国王が王位に就いたのです。
ウサギの国王が王位に就くと直ぐに、国王の一人娘のルウ様も、亜人狩りにあって忽然といなくなったことに更に不審を深めたのです。
この王都内で生まれたばかりの赤子がいなくなったり、亜人狩りに会うなどあってはならないことなのです。
王城で王族を守る立場の我々近衛も、不審者が王都内を動き回らせた守備隊としても職務怠慢を問われても不思議はなかったのです。
王都内で亜人狩りが起こったことで、私と守備隊長の大熊との間で責任の擦り付け合いをして対立していったのです。
それに今までの確執に火がつき近衛と守備隊とが武力衝突にまで発展しそうになったのです。
それに決着をつけたのが、政治的な主導権を得たキツネの宰相夫婦でした。
キツネの宰相夫婦もまた、白虎様が王位の際は側仕えと務めており、ウサギの宰相が国王になった事から、キツネも側仕えから宰相へとなったのです。
私はいなくなった白虎様や白愛虎様と白神虎様の御姉弟、ルウ様を探し回るので目障りになってきたのでしょう、私を砂漠の王国ヒアリ国との関係が悪化したという名目で、国境付近の出城に追いやられてしまったのです。
私を国境付近の出城に追いやった隙に、キツネの宰相夫婦と守備隊長の大熊が私の家族を人質に取って
『何時でも家族の命を奪えるのだぞ!』
と脅してきたのです。
私は国境付近の出城に追いやられる前に、友人である人族の豪商にキツネの宰相夫婦に脅されて家族を人質にされた事を告げたのです。
それに以前から白虎様や白虎様のお二人の御子様達が行方不明になったことや、ウサギの国王の一人娘のルウ様が亜人狩りにあって以降、行方不明になったことについても相談を持ち掛けたていたのです。」
とライオンの近衛の隊長は語った。
ライオンの近衛の隊長が語り終えると、豪商が横に立つ執事然とした細い男に何事か囁いた。
執事は出て行くと直ぐにライオン族の女性と子供達を連れ戻って来た。
それを見たライオンの近衛の隊長が小躍りするように喜んでいる。
如何やら豪商の手によって救出された、キツネの宰相夫婦に人質となっていた近衛の隊長のライオンの家族のようだ。
近衛の隊長のライオンが奥さんやお子さん達を抱いて喜ぶと、お城に残ったキツネの宰相の残党を掃討してくるといって、近衛の兵どころか奥さん達も連れて出て行ってしまった。
近衛の隊長のライオン達がオーマン王城内に残るキツネの宰相の残党の掃討に出て行くのを、大きな円卓に招かれた俺達が座って彼等を見送る。
すると、豪商のメード達が飲み物の載ったお盆を持って応接間に入室してくる。
メード達は、大きな円卓に俺達のそれぞれの好みに合わせた飲み物が置かれていくのだ。
俺達のそれぞれの好みの飲み物・・・⁉が置かれた途端、俺が周りを見回すと俺にコバンザメのようにいつも引っ付いて離れない奴隷商が目をそらす。
どうやら彼から俺達の個人情報が豪商に漏れていたようだ。
重そうな金銀財宝を身につけた豪商が口を開く、
「私と貴方様の配下になっている奴隷商とは叔父甥の関係なのです。
その叔父から凄い人と出会って配下に加えてもらったと嬉しそうに話すのです。
商人は商いで他人を見るのです。
特に独立精神の強い叔父さんが手放しで褒めるので、興味を持って色々と叔父さんから聞いたり、直接調べたりしていたんですよ。」
と奴隷商の代わりに答えたのだった。
そして豪商は
「挨拶が遅れました。
私はこのあばら家の
このオーマン国やヒアリ国の建国に尽力したので、この王都の一角に商館を建てる事を許され、この国の代々財務大臣も兼任しているのです。
この国の王は初代の虎王様から始まって歴代の王は亜人族であり、この事から不文律として王になれるのは亜人族でなければならなかったのです。
私がいかな豪商で、この国の財務大臣を務めていても人族である私は王になることが出来ないのです。
私は奴隷商組合をはじめ、各国に色々な商店を出しているのです。
商店と言っても大きな店を構えているのではなく、何人もの私の従業員が荷物を担いで回るいわゆる行商人のスタイルで各国を飛び回っているのです。
それでその行商人の従業員が噂を集めたりして、色々と各国の情報を集めることが出来るのです。
それでは、何処からお話ししましょうか、そうですね。」
と言って近衛の隊長のライオンの話を補足し始めたのだった。
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