第67話 白虎!
旅の最終目的地であるオーマン国の王城に入ったウサギの国王がキツネの宰相の妻の配下になっていた熊族の守備隊長によって首を刎ねられて倒される反乱が勃発したのだ。
それに伴い、今までの人種差別の
俺はこの反乱に乗じて悪逆非道を行う熊族の守備隊を守り刀の雷神の力で撃ち倒していく。
あれほど王都の路上を右往左往して逃げ惑っていた王都民は民家等に隠れ潜んだのか、いなくなり、俺一人が往来に佇んでいるのだった。
それを見た熊族の守備隊兵士が狩猟本能で目をぎらつかせ、捕食の本能に涎を垂らしながら集まって来たのだ。
俺はゆっくりと守り刀を抜き出す、守り刀が俺の憤怒・・・(オーマン国の王城に入ったウサギの国王がキツネの宰相の妻の手によって倒される反乱が勃発し、罪もない幾人ものエルフ族やドワーフ族や人族の血が流れたのだ。)に呼応するように
『バチ』『バチ』『バリ』『バリ』『バリ』
と音を立てて、刀身に稲妻が走り、雷鳴が轟く。
俺は抜き放った雷神にその怒りを込めて俺の周りを雷で焼き払っていくのだ。
その力で俺に近づこうとしていた熊族の守備隊兵士が次々と煙を出しながら倒れていったのだ。
それでも守備隊長の大熊が残った守備隊兵士に俺の周りを取り囲めと指示するのだ。・・・雷神の力は俺の周りに近づけば近づくほど威力を発揮するのだ。
それを見ていればわかるのに、大熊の守備隊長は
「取り囲め!」
等と命令するなど馬鹿者だ!
俺は取り囲んだ熊族の守備隊兵士に向かって雷神の力を一気に開放する。
俺の周りを
『バリ』『バリ』『バリ』『バリ』
と激しい雷の雨が降る。
地面がはじけ飛び、周りにいた守備隊長の大熊や守備隊兵士が真っ黒に焦げて、煙を出しながら倒れ伏している。
その雷神に共鳴するようにして、白い衣を纏った白愛虎によく似た女性が長い薙刀に
『パチ』『パチ』
と雷を煌めかせながら現れたのだ。
雷神から
『姉貴!』
というつぶやきが聞こえた。
女性の持つ薙刀が
『雷女神』
という名で、はるか昔に神話の世界の天帝が打った雷神シリーズの二振りの内の一振りらしいのだ。
雷神が雷女神と出会った事で雷神誕生の秘密を漏らしてしまったのだ。・・・そうは言っても神話の世界の天帝までも出てきたのだ。
それに雷神シリーズということは、他にもよく似た刀があることになるのだ。
そう言えば
『破壊神』
もそうなのか?
雷神が俺の思いにどう答え様かと迷っている、もう何が起こっても驚かないぞ!
『天帝様!どうしよう?』
等と言っているようだ、どうやら雷神からは天帝が見えるようで、もう少し俺が力をつけたら見えるようになるなどと宣っていた。
天帝が鍛造した雷神の姉弟刀である
『雷女神』
と言う名の薙刀を抱えた白愛虎によく似た白い衣を纏った女性をよく見ると、彼女の首には奴隷の首輪が禍々しい気をまき散らして付けられているのだ。
女性は奴隷の首輪に意識をもっていかれたのか、何処かぼんやりとして、虚ろな焦点があまり定まっていない目で俺を見ているのだった。
今回の反乱の首魁であるキツネの宰相の妻が王城の城門の上から
「その男こそが我が夫の敵!
打ち取っておしまい白虎!」
と命令する。
白虎と呼ばれた女性がゆったりと雷女神を構える。
雷女神は薙刀で幅広で厚みがあり、刃渡りも2メートル、5尺2寸6分に及ぶ業物だ、それを軽々と振り回しながら舞うように俺に切りかかってくる。
雷神が
『お互いに打ち合うと、両方とも折れてしまうぞ!
いや俺の方が分が悪いかも?』
と悲鳴にも似た思念が流れ込んでくる。
俺はその思念を聞いて一旦後方に大きく下がる。
雷女神を軽々と振り回しながら白虎が間合いを詰めようと前に出てくる。
俺は、ヒアリ国から手に入れた宝刀
『破壊神』
を抜き出す。
この宝刀は触れる物全てをその名の通り破壊するのだ。
ところが雷神が
『止めてくれ!姉貴の雷女神が壊れてしまう!』
と懇願するようにいうのだ。・・・雷神も『
雷女神を構えた白虎も破壊神を見て、間合いを詰めるのを止めた。
その一瞬をつくように俺と白虎の間に、随行員として連れて来た白愛虎が割り込んだ。
「お母様!
やめてください!」
と声を掛ける。・・・やはり、よく似ていたので母子だったのだ!白愛虎は
「赤子の頃に捨てられていて、母親の顔は覚えていない。」
等と言っても何処かに通じるものがあるのだろうか⁉
ところが、白虎は無表情のまま雷女神を、割り込んできた白愛虎に向けて振り下ろす。
白愛虎は、振り下ろされる雷女神を、俺が与えた紋章を付けた刀で受け流そうとする。
右手で刀を頭上に抜き出して、やや刀に角度を与えて受け流すのだ。
振り下ろされてきた雷女神に紋章の力が発動するが、雷女神の持つ力の方が強かった。
紋章の護符の力が
『パリン』
という音とともに砕ける。
すると紋章を彫り込んだ柄頭や鍔も砕けてしまったのだ。
白虎は委細構わず、そのまま雷女神を打ち降ろしていく。
雷女神の刃が白愛虎の持つ受け流そうとした刀の刃に
『カツン』
という小さな音を立てて食い込んだと思うと、そのまま白愛虎の持つ刀を豆腐を切るように両断していくのだ。
雷女神を受け流そうとして体を捻ってはいるが、そのまま持っている刀が切られてきたために僅かなところで逃げきれなかったのだ。
雷女神が白愛虎の左腕の二の腕に切り込み、そのまま左腕を切り落としてしまったのだ。
左腕を切られた白愛虎が
「お母様...。」
と苦し気につぶやき、切られた左腕を抱えるようにくずれ落ちる。
切られた痕から噴水のように血が噴き出してきた。
不味い、不味いぞ、白愛虎を直ぐにでも医療ポットに入れなければ!
このままでは、切られた腕は繋げても命の元の血が流れすぎる。
俺は、俺が鍛えた日本刀を魔法の袋から抜き出して、白愛虎に近づこうとするが、雷女神を俺に向かって振り回す白虎が邪魔で近づけない。
白愛虎が倒れ伏すと、白虎の無表情だった顔に変化が現れた。
目に涙を浮かべて俺に切りかかってくるのだ。
それに動きが極端にぎこちなくなってきた。
白虎の唇が動き
「私を殺して!」
と呟く。
俺はその声を聞いて、白虎の振り回す雷女神の太刀筋をよんで合わせるようにして動く、早くしなければ、時間がたてばたつほど白愛虎の血だまりが大きくなっていくのだ。
白愛虎の命の灯が揺らいで今にも消えそうに見える。
時間がない!
「南無!」
俺は一声そう叫ぶと、白虎の振り回す雷女神に合わせて、白虎の奴隷の首輪ごと首に刀を落とす。
奴隷の首輪が切れて、白虎が首を押さえながら白愛虎に向かって倒れる。
奴隷の首輪は両断されているが、その首輪から黒い紐のようなものが白虎の体の中に入っているため、ぶらりとぶら下がって不気味に揺れる。
白虎は倒れてから、すこし離れた白愛虎にじりじりと這いながら近づき、その白愛虎の体を
母の愛か、白虎の体が輝いて白愛虎の体に沈んでいく。
それと同時に白愛虎の切り飛ばされた腕も元に戻っていき、その腕には雷女神が握られていた。
白愛虎の横には二つにされた奴隷の首輪とそれに繋がる黒い紐が残っていた。
俺は白愛虎に駆け寄る。
白虎と融合した白愛虎は怪我はなく、げっそりと頬骨が浮くほど痩せこけてはいるが、軽い寝息をたてながら眠っているのだ。
これなら大丈夫だ。
それでもなお念のため、俺は医療ポットを出して白愛虎をいれる。
医療ポットの上に白愛虎を守るように雷女神が浮かびあがる。
医療ポットは激しい出血のための極度の貧血と過労を表示していたのだった。
俺と白虎の闘いの結末をオーマン国の王城の城門の上に立って見ていたキツネの宰相の妻は舌打ちしてから
「えい、この無能が!
ライオン族の兵士共やっておしまい!」
と大声を出して命令する。
王城内の城の前の広場に体格の良い近衛のライオン族の兵士が整然と並ぶ。
城門の上にもライオン族の近衛の隊長がライオン族の兵士を従えてあらわれる。
俺は守り刀の雷神を再び
『パリ』『パリ』
と輝かせる。
ライオン族の近衛の隊長が両刃の剣を腰から
『シャリシャリ』
と抜き出して頭上にあげる。
近衛のライオン部隊に攻撃の命令の為に振り下ろすと思ったが、その両刃の剣は城門の上に立つキツネの宰相の妻の首に振り下ろされた。
キツネの宰相の妻の首がころころと転がり落ちる。
その首を近衛の隊長が踏みつぶしてしまったのだ。
キツネの宰相と宰相の妻による反乱のあっけない幕切れであった。
オーマン国のキツネの宰相の妻による反乱がライオン族の近衛の隊長の一刀で終了したのだった。
そのライオン族の近衛の隊長以下、隊員が膝をついてルウと医療ポットに入った白愛虎に臣下の礼を取る。
ライオン族の近衛の隊長が
「近衛の地位にいながら、この度の反乱を未然に防ぐことが出来なかった事を反省しております。
ここでは何ですので、その商館の中でお話ししましょう。」
と言うのだ。
商館は王城の横に立っている大きな立派な建物である。
王城には高い尖塔が建っており、この商館は人の出入りを考えて、城門や前庭はない造りになっている。
それでも、王城と間違える人が出るほどの大きくて立派なのだ。
その商館に行くのは、未だ王城内にはキツネの宰相配下の残党が僅かだが残っているために採られた措置なのだ。
王城の周りは近衛の隊長のライオンの手配で、キツネの宰相配下が出入りが出来なくなっていた。
俺は馭者役の巡検士部隊に馬車を探して集めて王都の城郭の門前で待機するように指示した。
その後は白愛虎の入った医療ポットを風魔法で浮かべて商館内に入っていく。
医療ポットを運ぼうとライオン族の近衛の兵6人で持ち上げようとして持ち上がらなかったものを俺の魔法の力で持ち上げたので驚いている。
俺は魔法の力だけでなく、普通に俺一人で医療ポットを担ぎ上げることが出来るのだが亜人種は人種よりも力で優っていると思っているので、下手にプライドを傷つけるよりも魔法を使って驚かせた方が良いのだ。
商館内には、いかにも豪商と思われる金銀財宝を身につけた壮年の男性が待ち受けていた。
彼の後ろには、正妻や妾等の何人もの女性と何人かの彼とよく似た子供達やお揃いのお仕着せを着た従業員が並んで出迎えたのだ。
玄関ホールを抜けると王城の謁見の間より広い応接室に通されるのだった。
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