第69話 二つの国の後継者問題
俺達はオーマン国のライオンの近衛隊長に豪商の館に案内をされて、オーマン国内で起きたキツネの宰相夫婦の反乱の顛末をその豪商本人から聞いていたのだ。
豪商は話を続ける。
「まず、その魔法の箱に入っている白愛虎様を切ったのは母親の白虎様です。
オーマン国は、白愛虎様や双子の弟の白神虎様が産まれるまでは、二人の母親の白虎様が女王として治めていたのです。
白虎様が統治している間は、今回の事件で亡くなったウサギの国王が宰相の地位にあり、キツネの宰相夫婦は白虎様の側仕えでした。
白虎様は白愛虎様や白神虎様が産まれる前、しばらくの間領内で狩りに出ていたのです。
その狩りから戻ってくると白虎様は妊娠していたのです。
白虎様のお相手の方は領内の深い森に住む、お伽話に出てくる虎王と名乗る男だそうです。
この虎王との間にお子様を儲けたと言うのです。」
『虎王!』
オーマン国の初代国王も虎王であり、ヤマト帝国の祖先にもその名前が出たことがある。
しかし時代が違うので同一人物ではないはずだ。
豪商は話を続ける。
「お子様を儲けてから、しばらくすると白虎様のお姿が見えなくなったのです。
最初の内は、白虎様のお姿が見えなくても、誰にも負けないような力を持つ薙刀を持ち、良く外に出歩かれているので誰も心配はしてはおりませんでした。
そのうち白虎様は虎王と逢瀬を楽しまれているのだろうというような噂まで流れていたのです。
噂は作られたもので、側仕えだったキツネの宰相夫婦がそう説明するので、皆が納得していたのです。
しかし一月、二月と経ち、半年目を迎えると流石に長期にわたって顔を見せないのは可笑しいと皆が騒ぎ立てると、今度は白虎様は虎王と国を捨てて出奔した等と言う話に代わっていったのです。
二人の生れたばかりのお子様方がいるのに、流石にこの話には無理があると思った私は、城の者に金を握らせて情報を集めたのです。
その結果、二人のお子様を産んだばかりの白虎様に、側仕えだったキツネの宰相夫婦は産後の体の滋養の薬だと
白虎様が眠り薬で寝ている間に奴隷の首輪を着けられて、王城の地下深くの石牢に閉じ込められたのです。
普通なら不思議な力を持つ薙刀が、そのような事をさせなかったのでしょうが、
キツネの宰相夫婦によって、素早く奴隷の首輪を白虎様が着けられた為に抵抗できなくなったのでしょう。
そこまでは分かったのですが、王城の地下深くの石牢の場所が杳として分からなかったのです。
王城の地下には大迷宮と呼ばれるダンジョンがあるのです。
私とライオンの近衛隊長はその大迷宮にある白虎様が囚われている石牢の場所を探っていたのです。
側仕えだったキツネの宰相夫婦は白虎様を囚える時機を見て、次期国王の地位に就くことが出来る血縁者で、邪魔な白虎様のお二人のお子様を殺そうとしたのです。
ところが、それを知った白虎様に縁のある女官の一人が白虎様の二人のお子様を連れだしたのです。
キツネの宰相夫婦が、殺そうとしていた白虎様の二人のお子様がいきなりいなくなった事に驚き慌てたのです。
キツネの宰相夫婦が調べると、白虎様に縁のある女官の姿が見えなくなったことから白虎様のお二人のお子様を連れ出したと知れたのでです。
それで、キツネの宰相夫婦は、白虎様の二人のお子様に追手を差し向けて殺そうとしたのです。
追手は女官を殺したのですが、その追手は何も知らない幼子は売った方が金になると白虎様の二人のお子様と女官の息子ともども、奴隷商会を通じて私の叔父の奴隷商に売り渡してしまったのです。
叔父は白虎様の二人のお子様だと分かったのですが、政情不安なオーマン国に連れ戻しても何があるか解らないので、お二人と女官のお子さんをしばらくの間預かるつもりで身近に置いていたのです。
叔父が貴方様に不義理を働いた際に、これ幸いとお二人を貴方様にお渡ししたのです。
貴方様なら二人を安全に育ててもらえると思ったからです。」
と言葉を切って飲み物をすすった。
白愛虎と白神虎の二人が俺のもとに来たのを思い出した。
命がけで二人を救い出した女官と、戦いの最中に不運にも亡くなった彼女の息子を偲んだのだった。
豪商が話を続ける。
「先代の白虎様のお姿が見えなくなったオーマン国としては、いつまでも王の地位を空位にして政情不安にするわけにいかないので、次の国王はウサギの国王が宰相をしていたこともあり王位についたのです。
キツネの宰相夫婦は白虎様の側仕えから、空位となった宰相の地位を手に入れて、
また、ウサギの国王は宰相時代に一人娘のルウ様が産まれていたのですが、キツネの宰相夫婦は今度もまた、ルウ様を亜人狩にあって亡くなったことにして性奴隷として奴隷商に売り払おうとしたのです。
そのうえウサギの国王の正妻や第二妃達にも、今後ウサギの国王との間に子供が産まれて後継者問題が起きないようにするため、正妻や第二妃達に言葉巧みに騙して薬を飲ませて子供を産めない体にしてしまったのです。
キツネの宰相夫婦は、これでルウの父親が亡くなれば自動的に王の地位が手に入ることになったと思っていたのです。
キツネの宰相夫婦はオーマン国内の地盤固めために、今度はライオン族の近衛隊長と確執があった守備隊長の大熊に金や女性をあてがい骨抜きにして仲間に引き入れて、守備隊を掌握して着々と国内に足場を作っていったのです。
ところが、プロバイダル王国の女王の戴冠式に出席したウサギの国王は、亜人狩りにあって行方不明になっていた一人娘のルウ様を幸運にも見つけ出すことが出来たのです。
実は奴隷商の叔父もルウ様を最初見かけた時は、もしやと思ってオーマン国の私のもとに連絡を寄こしていたのですが、白愛虎様と同様に政情不安なオーマン国に直ぐ来てもらうよりもと思って時機を見ていたのです。
ウサギの国王がルウ様を見つけ出したことから、キツネの宰相夫婦のいつかはオーマン国の国王になるという目標の歯車が大きく狂い始めたのです。
また王城内で働く者からつい最近になってようやく、白虎様が奴隷の首輪を着けられて囚われている大迷宮にある地下牢の場所を聞きつけてきたのです。
場所を聞き出せたのは、プロバイダル王国の戴冠式に出席するために出国したウサギの国王と外交使節団の随行員としてキツネの宰相が同行したためです。
キツネの宰相が外交使節団の随行員として、ほとんどの配下を連れて行く事により警戒が緩くなった事からその秘密を聞きだすことが出来たのです。
大勢のキツネの宰相の配下を連れて行ったのは、プロバイダル王国からの帰り際にウサギの国王を亡き者にするためだったのです。
私から白虎様が地下牢に囚われていることを聞いた近衛隊長と私は、白虎様をプロバイダル王国の戴冠式後にウサギの国王が帰国する、その騒ぎに乗じて救出しようと計画を立てていたのです。
それに流石に現ウサギの国王が国に戻ってくるのに、近衛隊長のライオンを呼び戻さないわけにはいかなくなったのです。
キツネの宰相の妻は近衛隊長のライオンを呼び戻す前に近衛隊長の家族を人質に取り、王城に来た近衛隊長に以前の地位と家族の生命の安全を約束して仲間に引き入れようとしていたのです。
私は商館を守っている傭兵部隊員を使ってキツネの宰相の妻達の手の者によって幽閉されていた近衛の隊長家族を救出して、商館内で匿っていたのです。
私も近衛の隊長のライオンも白虎様の救出に失敗すれば、近衛の隊長の家族ともども国境付近の出城に立て籠もるつもりでいたのです。
私はプロバイダル王国の戴冠式に外交使節団が赴くことを聞きつけて、何名かの目端の利く番頭や丁稚をその一員に加えてもらっていたのです。
それでプロバイダル王国においてキツネの宰相が反乱の罪有りと捕らえられたと連絡があったのです。」
と言って豪商の後ろの大きな鳥かごを指差した。
中には鷹のような鋭い目と、尖った爪を持つ鳥の魔獣がいた。
その鳥の魔獣が一声
『キツネ反乱捕らえられ!』
と鳴いたのだ。・・・初めて目にした伝言魔獣という鳥だった。
伝言魔獣は鳥、それもの鷹のような鋭い目をしている。
一応鳥型なので空も飛べるが、それよりも凄いのが転移魔法が使える事なのだ!
この伝言魔獣の価格は下手な国が一つ買えるほどの希少種だそうだ。
伝言魔獣の足に筒を括り付けて、中に文章を入れて連絡を取り合うことも出来るのだが、文章を書ける者が極端に少ないため、今回のような短い伝言を送るのが一般的なのだ。
その他の方法として、いざという時は伝言魔獣の足につかまって、短い距離なら転移して逃げられるという優れものだそうだ。
自慢気に伝言魔獣について解説した豪商は、
「ゴホン」
と咳払いをして顔を赤らめてから・・・(豪商は、転移魔法を俺や俺の奥さんの何人かが習得しているので、伝言魔獣など必要が無い事を思い出したのだ。)話を続けた。
「国に戻ってきたウサギの国王の外交使節団の中にはキツネの宰相の姿はなく、同行していたキツネの宰相の配下の姿もなかった。
キツネの宰相の妻はそれで、戻ってくるまでの間にキツネの宰相が亡くなった事を知ったのだ。
キツネの宰相の妻が、キツネの宰相の敵を取ると反乱の狼煙をあげたのです。
キツネの宰相の妻は、地下牢に囚われいた先王の白虎様を奴隷の首輪を使って操他のです。
操られた白虎様が貴方様と闘いその後は知ってのとおりです。」
と語ったのだった。
キツネの宰相夫婦の反乱が
ヒアリ国も同様である、今回の亜人国家であるヒアリ国からオーマン国までの旅の結果、真正カンザク王国と国境を接しており、今後脅威になると思っていたヒアリ国自体がサンドスネークの大量発生により消滅したのだ。
そこに住んでいたトカゲの亜人の女王サマティーヌをはじめすべてのトカゲが砂の城ごと消滅してしまったのだ。・・・文字どうり消滅し、今は俺のゴーレム国家として誕生している。
その実情を知っているのは俺達とウサギの国王だけで、オアシスの周りしか有用性が見えず、また何時起こるかもしれないサンドスネークの大量発生に怯えるよりもとウサギの国王は俺にヒアリ国の統治権を譲ったのだ。
その事情を知るウサギの国王もまた亜人国家のオーマン国で、キツネの宰相夫婦の反乱のために殺されてしまっているのだ。
その為に俺が現時点ではヒアリ国の国王と僭称しているにすぎないのだった。
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