第54話 中央領地の反乱

 プロバイダル王国の北の領地の場合と同様に南の領地の農業改革を行った。

 南の領地は暖かい地域で、農業が盛んな地域なので開拓開墾する場所についてはもうほとんど残っていない。

 それで農地の土壌改良や変形の田畑を効率の良い四角いものに変えて、生産性を向上させたのだ。

 農業の方法も改善させる牛や馬が犂を曳いて田畑を開墾させたり石器時代の鍬や鎌などを鉄製品に変えていくことだ。

 これで今のところ国の根幹の産業、農業が発展するだろう。


 ある程度南の領地に対する目途が立ったところで、この地域を担当していたジロウさんに任せて、プロバイダル王国の王都の近く、俺達は中央の山賊の治める領地に向かったのだった。

 南の領地で腕を繋げたりして助けた守備隊長のシンディが恩義を感じて、女王セレスに臣下の礼をとって同行を願ったのでこれを許可した。

 北の領地から南の領地までプロバイダル王国を横断するように、直線で石畳で舗装された道路は完備されているので通行は楽であるはずっであった。


 ところが、再度南の領地から中央領地に向かって通行しようとすると道路に勝手に地方領主が所々で関所を造って通行料を徴収しているのだ。

 この通行料で当然、プロバイダル王国の新女王セレスと各領主との間に問題が発生した。

 領主は領地を使って道路を造ったのだから、王国からの道路の使用料の支払と道路使用に基づく通行料を徴収できると言い。

 この道路は女王セレス自らが造ったので通行料を取ることを禁ずると主張する。


 領主とすれば、未開の地で整備されていない領土であっても、少しでも国に取られるのは腹の立つことなのだ。

 それで女王セレスは道路を普通に造った場合の費用を領主に請求したのだ。

 当然、この道路を造るのは国王が通るのだから、本来は臣下である領主の仕事であり、領民を集めて賦役で造らせても良かったが土魔法で俺達が造ったのだ。

 領主はその額を見て愕然としていた。

 その心の隙をついて、女王セレスは妥協案として開通した道路を領主から買い上げをおこなった。

 当然未開地の二束三文の価格での買い上げだ。


 さらに領主には通行料の徴収は禁止したが、関所は残すことを許可した。

 関所は魔獣や獣が徘徊する夜間通行を関所で禁止して、関所付近に宿場町を作ることを提案したのだ。

 わずかな通行料を取って通行を妨げるよりも、今後人通りが多くなれば領地の発展に寄与するはずだからである。

 そんなことを繰り返して、やっとの想いで、中央の反乱軍の治める領地に辿り着いたのだ。


 この中央領地はプロバイダル王国の王城の近くで本来なら最初に鎮圧すべき領地であったが、反乱の首謀者が比較的どころか他領が模範にすべき程の領地経営をしているので、風雲急を告げた北と南の領の反乱に対応していたのだ。

 中央領地の反乱の首謀者は豪農の娘で、本人はと名乗っているのだった。・・・領主を僭称していないのだ!


 この反乱の切っ掛けは、亡くなった中央の領主が領民への高額な税金をかけたことに端を発した。

 首謀者の豪農の娘の父親は、中央の領地の中でも人口も多い有力村長であり、付近でも有数の豪農で、更には貴族の地位を持つていた。

 貴族の地位といっても、父親が大規模な農地の開拓開墾に成功し、その際に発生した大規模な魔獣や魔獣植物の攻撃に豪農の娘の手助けもあり、大きな被害も無く退治したことにより、その褒美として貴族のなかで新たに創られていた騎士爵というものが与えられたのだ。


 貴族に与えられるのは、この世界でも公・候・伯・子・男の五つの爵位のみであったが、時代の流れと共に功績のあったものに一代限りの名誉職として騎士爵を設けたのだった。

 当然名誉以外は、騎士爵の爵位を受ける受爵の儀以外での王への面会や、受爵の儀に際し与えられる報奨金や、他の爵位を持っている者が貰っている月々の手当て等も何も与えられない最低の地位であった。


 その豪農の父親が高額な税の取り立てに減税を願い出てきたのだ。

 豪農で一応貴族の地位を持ち、領民に人気が高い父親を疎ましく思っていた中央領主は、諫言に来た豪農の父親をその場で捕まえたのだ。

 捕まった豪農の父親は何の抗弁も許されないままに、ある事無い事の冤罪の罪を着せられ、さらに反逆の罪を被らされて、その日のうちに斬首の刑に処せられてしまったのだ。

 豪農の父親の首は中央領主の館の前にある広場にさらされてしまった。


 豪農の父親の訃報を聞いた豪農の娘は踊り子の姿に身をやつし、中央領主の館に入り込み、その美貌と武道で鍛えているが肉感的な踊りで領主を魅了して、中央領主を寝所に引き込んだのだ。

 豪農の娘は、中央領主を寝床に引き込み、亡き豪農の父親から貰った守り刀で中央領主の心臓を一突きしようとしたが厚い脂肪に阻まれてしまった。

 太っているが腕力が強い、手負いとなった中央領主が、豪農の娘が持つ守り刀を取り上げようと反撃してきた。


 もみ合ううちに、はずみで豪農の娘の右目付近が切り裂かれてしまった。

 しかしながら、その返す刀が偶然にも中央領主の首に当たったのだ。

 刀の刃が中央領主の頸動脈を切り裂いたのだ。

 中央領主は寝所の白いシーツを自分の赤い血の海に変えながら沈んでいった。

 中央領主の首の傷が致命傷となって、豪農の娘は中央領主の首を取ることができたのだった。


 豪農の娘は美貌を誇った右目付近には大きな刀創の痕が残った。

 そこから血を垂れ流し、右目も守り刀の切っ先が当たったのか白濁してしまって凄味を持った顔で、首から血を滴らした恨みの籠った顔の領主の首を右手に高々と掲げて領主の館の城門の上に立つと、

「豪農の父親の仇を討った。」

と言って、領主の首を領民にさらしたのだった。


 豪農の娘は、今まで悪徳領主の圧政に苦しんでいた領民達が、悪徳領主の首を取った功によって領民の支持を得たのだ。

 領民の支持により、豪農の娘は中央領主の領土をとして統治する事になったのだった。

 彼女が治める、この領地は田畑に植物が青々と実っており領民の顔も明るい。


 三羽烏の一人がどこからともなく現れて、俺に耳打ちする

「この反逆者は、4公6民を守って、よく領地を統治している。」

と伝えてくれたのだ。

 それでか、道すがらの領民達は俺達の身分を知ると敵意を剥き出しにしている。

 この様子では一波乱あるのではないかと思って中央領主の館に到着する。


 中央領主の館の前には、領民達が中央領主の館を守るように何人も集まっている。その領民達は俺達を見ると片膝をついて臣下の礼をとった。

 中央領主の館の門扉が大きく開かれ、門の中央には血に染まった踊り子の衣装を着た反乱軍の頭の豪農の娘が自らを縄をうって俺達を向かい入れた。

 それを見たプロバイダル王国の新女王セレスが近づく、反乱軍の頭の顔を見ると右目付近には大きな生々しい刀創の痕があり、右目も白濁している。


 この刀傷は前の中央領主を寝床に引き込み命を取ろうとした際に、前の中央領主の反撃により受けたまだ新しい傷である。

 これなら治癒できる!

 新女王セレスが女山賊の顔を両手で包むと暖かな聖魔法の治癒魔法が発動する。

 みるみるうちに刀創の痕が消えていき、白濁していた右目からも白濁が無くなっていき瞳が輝いて右目でものが見えるようになってきた。


 その治療が終わると、新女王セレス自らが女山賊の縄を解き、前中央領主が死亡しているが地位を剥奪し、中央領地を王国の直轄領とすると宣言した。

 また、反乱軍の頭の豪農の娘については、

 中央領主のであり地位を僭称していない事。

 中央領主の首を取ったのは父親の敵討ちで、治安が良くなく、法も整備されていないこの世界では世の手本になる行為である事。

等をあげて新女王セレスは無罪を言い渡した。

 さらに罪が無いどころか、善政により中央領地を豊かにしていた事を功績としてあげて、そのまま中央領地の代官とすると宣言したのだ。


 命を取られると思っていた新代官となった反乱軍の頭の豪農の娘は新女王セレスにしがみついて泣いていた。

 領民達の歓声が響いた。

 顔面の傷が無くなり元の美貌に戻り、グラマーな肢体を持つ新代官にプロバイダル王国の貴族達からプロポーズが相次いだ。

 北と南、中央の領地の問題が解決された。


 残った不法に重税を課税を課している者や、山賊や盗賊問題、反乱等で領地を乱しているなどの問題のある領主67名がこれで64名になった。

 問題があるとされた64名領主のうち領主60名が、自らの罪を認めて直ちに女王セレスに臣下の礼を取って、税率を4公6民にする等領地の安定を図った。

 反省の様子がない残り4名の領主の領土にプロバイダル王国軍を派遣する。

 王国軍の数は5千名と少数だが精鋭であり、直ちに領主を捕縛して身柄を拘束して、地位を剥奪して私有財産を没収していく。


 新女王セレスの巡視活動により道路網が完備され、プロバイダル王国軍の進軍速度が速く4名の領主は瞬く間に捕縛されてしまったのだ。

 4名の領主の領地はプロバイダル王国の直轄地となった。

 領主で60名の臣下の礼を取った者には、税を払えず、奴隷や性奴隷にした領民はすべて領主の私有財産で身柄を買い戻させ身分を元に戻させた。


 とぼけて奴隷や性奴隷にした領民の数を少なく申告していた者は、いつのまにか俺の部下になっていた奴隷商が、奴隷の組合を通じて奴隷や性奴隷になっていた者を調べ上げていたのだ。

 不正行為を行っていた領主に加担していた奴隷組合員には高額な違約金を支払わせた。

 また、不正行為を行っていた領主により奴隷や性奴隷になっていた者には奴隷の身柄を買い戻させて身分を元に戻したうえに高額な見舞金を支払わせた。


 その後の巡検士の調べにより買い戻した奴隷を自領の農奴にしたり、性奴隷として玩具にしている領主もいたのだ。

 やはり60名の領主達の中には表向きだけは、プロバイダル王国の新王女セレスに臣下の礼をとって従うふりをしていたが、私腹を肥やす領主が半数以上の32名ものぼった。

 その32名の領主すべてが領民に対しての税率を4公6民が6公4民になっており納税金を横領して、私腹を肥やしていたのだ。

 徴税官等もグルになって書類を改竄かいざんして、あからさまにはわからないようにして私腹を肥やしていたりもしていたのだ。


 あまりにも質の悪いこれら32名の領主に対しては、プロバイダル王国軍が攻め込んで領主や、これらの悪事に加担していた徴税官を捕縛して身柄を拘束して、領主や徴税官の地位を剥奪して、彼らの私有財産没収した。

 この32名の領主の領地も王国の直轄領地にした。


 領地はある方が良い。手柄をあげた部下の為にも必要であり、開墾や納税の手本にもなるからだ。

 プロバイダル王国の農地についてもよく調べていくと異常に痩せている。

 俺達が直接鎮圧した北や南の領地以外では木の精霊や土の精霊達の数も異常に少ない。

 見つけた木の精霊や土の精霊に尋ねると

「土自体に栄養が無い。」

と言われた。


 以前の真正カンザク王国の場合と同じで肥料を撒いたりしていないようだ。

 農民に聞いても

「土地は耕して野菜類や魔獣植物の野菜もどきの種を蒔くだけで、肥料と言うのは何ですか?」

と逆に尋ねられる始末だ。


 農業の方法自体についても、石の鋤や鍬で田畑を耕しているだけだ、牛等を開墾の道具に使っていない。

 プロバイダル王国においては牛が犂を引いて田畑を耕しているところを見たことも無いからだ。

 牛等を家畜として飼っていないのだ!いるのは馬ぐらいで荷車や地獄の馬車を引かせるのだ。

 そのうえ魔獣は精がつくと言って喜んで食べるが、牛や鶏の卵等は特別な時にしか口にしていないのだ。

 そう言えば牛乳やチーズ等の乳製品を飲んだり食べたりもしていない、これは研究課題の一つだ。

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