第53話 南の領地の後始末

 プロバイダル王国の南の領主の館にある暗い真黒な地下牢に降りて行く。

 真黒な地下牢には何人もの人が蠢き、血の臭いや異臭が立ち込めていた。

 明り魔法で照らし出された牢内には百人以上もの者が、痩せてぎらついた目をしてぼろ布を纏って押し込められていたのだ。

 その牢の中には二十名程の手足に血の濡れたぼろ布を巻き、手足の無くなった状態の女官や軍人、舌を抜かれた税務官や徴税官が入っていたのだ。


 地下牢に備え付けの罪名を記した書類がここでは整備されているが、罪名が

『反逆罪』

と判で押したように書かれている。

 それ以外に具体的な内容が書かれていない。

 守備隊長のシンディがほとんどの者が南の領主を僭称している長男に諫言したところ、牢に入れられているのだという。


 プロバイダル王国の女王セレスの名のもとに、女性守備隊長のシンディや牢に入っていた人達の無罪を言い渡して、以前の身分の復活を宣言した。

 ついでに、その場で南の領主を僭称していた長男を反逆者とした。

 それにより、今後領主軍が賊軍になり、家宰の率いる山賊軍にセレス配下の巡検士部隊分隊長のジロウさんが加わっている事から、セレス王女の認めた領主正規軍になったのだ。


 長男が率いた領主軍は話し合いの場で、守りの堅い砦から出てきた家宰を倒すことを考えての急襲であった。

 長男は話し合いの場で倒す短期決戦を考えていたことから携行の食糧も持たないで出撃してしまったのだ。

 長男は一部の兵に南の領主の館内にある食糧庫から糧食を持ってくるように命じたが、持ってきたのが新女王セレスからの反逆者で賊軍との名称であった。


 南の領主の館を新女王セレスに抑えられ、またその女王から賊軍と名指しされ、糧食も尽きたことから、新女王セレスの投降の呼び掛けもあり、領主の兵の脱走が相次ぎ領主軍が瓦解していったのだ。

 最後には南の領主の館にいた女性守備隊長が率いる部隊と、俺が新女王セレスの護衛部隊百名を率いて領主の館から進撃を開始した。

 砦にいた家宰の山賊軍は、セレス配下の巡検士分隊長のジロウさんがいる事からと領主正規軍となり、この領主正規軍も砦から討ってでた。

 この両軍の挟み撃ちにより、領主を僭称していた長男とその主な部下を捕縛したのだ。


 領主を僭称した長男とその腹心の部下を領主の館の地下牢の中にいれられる。

 地下牢には領主を僭称していた長男に諫言した為に手足を切られた二十数名の兵士や女官達、税務官や徴税官がまだ残っていて凄い目でにらんでいた。

 領主を僭称していた長男が、地下牢に入れた者達から、私利私欲で税金を横領した等と諫言されたことに腹を立てて諫言した者を

「反逆罪。」

だと言って、すべての者の手足を切り、舌を抜いて牢に入れていたのだ。

 特に税務官や徴税官が諫言をすると

「良く回る五月蠅い舌だ。」

と言って、その舌を抜いたというのだ。


 プロバイダル王国女王セレスは、領主と身分を僭称していた長男に対して、元領主が亡くなった時点において廃嫡として、領主として過ごした期間を無効とした。

 これで長男によって捕らえられて手足を切られ舌を抜かれていた者は正式に無罪放免となった。

 手足を切られ舌を抜かれた者を領主の館の隣にある別館を病院にして入院させたのだ。

 病院には俺達が持って来ていた医療ポット5台を設置したのだ。


 確かに今までは切り取られた直後で、欠損した手足や舌があれば、これを繋げる事が聖魔法で出来たが、半日以上の時間が立ったものは決してつながる事は無かった。

 それが医療ポットと聖魔法によってある程度切り取られて時間が経過していても欠損した手足があれば繋げる事ができるようになった。

 医療ポットが五台しか無いため入れる人は、まずは手足が切られて間もない人で、その手足が残っている人物から医療ポットに入ってもらう事にしたのだ。

 いくら近代医療の最先端を行く医療ポットでも時間が経ち完全には失った手足や舌の完全な再生を行うことができない。

 そのうえ、あまりにも古い手足が残っていても、これを繋げることは医療ポットでも出来ない相談なのだ。


 ところが、切られた手足は領主を僭称していた長男が何を思ったのか、氏名の名札を付けた箱に入れて、氷魔法の付与されている冷凍庫の中に放り込んであったのだ・・・。戦利品のつもりで放り込んでいたらしいのだが(異常だ)。

 冷蔵庫に入れていたとはいえ、手足を繋げるのは、やはり時間との勝負だ。

 そのうえ、守備隊長のシンディから彼女の副官や女官長、税務官や徴税官等の順番で医療ポットで治療をおこなって欲しいと訴えてくる。

 ある程度再生させる治療を俺や俺の妻達が所持していたこの5台の医療ポットで行っても、全員を治療し終わるまでにはかなり時間がかかり、時間経過と共に手足を繋げる治療が出来なくなりそうだ。


 俺は医療ポットを増やすため、転移で魔の森の湖畔の館にある病院に向かう。

 そこには北カンザク地方の山岳エルフに使っていた毒苔対応の簡易型の医療ポット100台以上があるのだ。

 この毒苔対応の簡易型の医療ポットでは、切られた手足や舌を繋げる高度な治療は無理なので、クリスに今度は切られた手足などを繋げる治療や一部でも再生可能な医療特化型の医療ポットに出来ないかを相談する。

 もうクリスは嫁集団ネットワークで状況を知っており、アンドロイドのクリフさんとクリスティーナや修理用のゴーレムを使い簡易型の医療ポットを改造を始めていたという。

 明日の朝には、手足を繋げたり、失った手足などの一部再生可能な医療特化型の医療ポット10台が出来あがるので、それを持って行ってと言いながら俺にしなだれかかった。

 嫁集団ネットワークおそるべし!


 クリスはもう臨月も間もないというので俺に抱きかかえられて眠った。・・・あくまでもご褒美で抱いて寝ていただけだからね。

 山岳エルフの毒苔対応に使っていた簡易型の医療ポットは残り90台以上あり、今後の事もあるので、それら全てを医療特化の簡易型医療ポットに改造するということになった。

 後で、この医療特化の簡易型の医療ポットを量産しよう。


 ただ発電が問題だ。

 太陽光パネルが少なくなりそうだ。・・・それに宇宙エルフ族の高度な科学技術が流出するのも危険だ!

 翌朝、10台の医療特化の簡易型医療ポットが出来上がっており、それを魔法の袋に入れて転移した。

 医療特化型の医療ポットが実用化されて、南の領主の館の別館の病院内部に設置されていく。

 その電源が太陽光発電によるものだ。

 時代の先端を行く技術だが、領民達は聖魔法の付与された魔法のベットだと思われたようだ。

 魔法の世界における勘違いだ・・・。勘違いさせておこう!


 世の中には医療ポット、魔法のベットを盗み出そうとする馬鹿が後を絶たない。

 確かに医療ポット一台売れば、この世界の一国を買えるほどの価値があるからだ。

 価値があっても使用できない電源が無い!使用方法を知らない!・・・からだ。

 医療ポットも簡易型医療ポットも含めてこれで15台に増えた、手足が切られて、間がない人で手足が残っている人を中心に持ちこんだ医療特化の簡易型医療ポットにもいれていく。

 医療ポットと聖魔法によって、15名の者がある程度時間が経過していた欠損した手足や舌が繋がったのだ。

 ただ手足や舌を繋げられたのは、この15人だけだった。

 これ以上は冷凍庫に入っていたとはいえ、時間が経過しすぎている為、手足を繋げても腐り落ちるだけで繋げることはできなかった。


 4日後に真正カンザク王国の湖畔の館の病院に転移して、50台の改造した簡易型の医療ポットを受け取り、それを持って翌日には転移してプロバイダル王国の南の領主の館に戻った。

 再度3日後に転移し残り40台を翌日転移で持ち込んだのだ。

 簡易型の医療ポットの半分50台をプロバイダル王国の北の領地にある病院にも俺が転移で運び込んだのだ。

 ポンポンといくらでも長距離を何度でも転移が出来る俺だからこそ出来る芸当なのだ。

 これによりプロバイダル王国の南の領地も北の領地の医師の負担が軽減し怪我などに対する医療速度が格段に早まった。


 手足が欠損して繋ぐ手足が無いような、その他の者でも医療ポットと聖魔法で欠損部位が一部でも再生されることが出来ることは出来るが完全ではない。

 手足が欠損して諦めていた人々も一部でも欠損した手足等が再生したことにより喜に包まれた。・・・これも一時的なものであるのだが、水を差すわけにはいかない。

 これにより、歓喜に包まれた人々で領主の館は活気に満ち溢れ始めた。


 手足を切られて治療できなかった手足の欠損者については、真正カンザク王国国営企業の一つ義肢装具作成会社の社員が義手や義足を持ち込んで欠損部位との調整をしていた。

 手足を切られ舌を抜かれた人々については、牢内に囚われていた間や医療ポット内で手足を繋げたり、一部手足を再生していた間の日当や見舞金についても没収した南の領主の私的財産で支払われていったのだ。

 このように厳しく適切にプロバイダル王国の北と南の領主を罰して、被害者に対しては日当や見舞金などを支払わせたのだった。


 プロバイダル王国の南の元領主の血族は長男以外いなくなっために領地については王国の直轄領として、代官には反旗を翻して山賊になっていた家宰を任命し、税率も4公6民に改めさせた。

 領主の館内にあった領主の私有財産も没収した。

 捕らえた長男に領主の館内の自室で頭部を飾られて亡くなった女性達の氏名等を確認させていた。

 その頭部の親族にたいして、頭部と没収した領主の私的財産から見舞金をつけて返した。

 俺は頭部の親族に頭部を返還時に長男を立ち合わせたが、親族が怒りに任せて抵抗できずに捕縛されている長男を殴るのは止めなかった。

 長男のやった事は人道的にも許せないうえ、為政者としても人的資源を軽視しすぎる。


 元領主が亡くなった時点で廃嫡された長男が領主を僭称していた期間の罪が暴かれていく、次男の母親と後継者の次男と領民の多数の若い子女に対する殺人の罪や傷害の罪などで領民の見守る中で絞首刑に処した。

 長男の遺体は領主の館の前に吊り下げられた。

 娘に連れ去られ玩具にされて、後方不明になっていた家族が長男の遺体に向かって石を投げつけている。

 1ヶ月後ボロボロになった長男の遺体を荼毘にふしたのだった。

 プロバイダル王国の南の領地は、このような処置と全領民に対しては税の軽減をしている等のうわさを聞いて、今回の戦いで敗残兵になり山賊や盗賊になっていた者は原隊に復帰し、重税で農村から逃散して山賊や盗賊になった者も元の農村に戻り始めたのだった。

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