第52話 北の領地から南の領地へ

 北の領地での税収入の根幹となる農地の改良や開墾などの体制の道筋は見えてきたが、肝心の農民の数が少ないのだ。

 まずは、領主から税金代わりに奴隷商に奴隷や性奴隷として売られていた農民を没収した領主の私有財産で買い戻した。

 買い戻した奴隷や性奴隷になっていた者や領主により農奴になっていた者については、いつの間にか俺にコバンザメのように引っ付いて離れなくなった奴隷商に奴隷の身分の解除等の手伝いをさせる。

 俺は、これでも奴隷商に対して安くない手間賃を支払っているのだ。

 辛い奴隷や性奴隷になった人々にも日当や見舞金を支払った。


 これだけの支払いをしてもなお、領主や村長等から取り上げた私有財産の半分以上が残っている。・・・どれだけ私腹を肥やしていたのか?

 識字率の向上も喫緊の課題だ、プロバイダル王国立の北プロバイダル地方王立幼年学校を北の領主の館の隣に建てた。

 また領主の守備兵や女官等に対する、職業訓練学校を兼ねた将兵学校を幼年学校の隣に建て、グランドや図書館等の施設を共有させた。

 これで子供達の識字率だけでなく、一般兵や女官等の識字率の改善がされていくだろう。


 将兵学校には、職業訓練学校の役割も兼ねているので性奴隷として扱われていた女の子達が看護婦の資格や調理師の資格を習得のため多数の人が入校した。

 この北の領地の運営に対しては巡検士部隊分隊長のヤシキさんと部下二人の巡検士、病院や学校の教官には文官の医師と女官の看護婦、領内の農地改革指導のための兵と文官にこの場を任せたのだった。

 この世界の経済の中心である農業の改善や、政治制度の改善等ある程度北の領地の運営などにも目途が立ったことから、南の山賊の対応に向かう事にした。


 俺達は、ヤシキさんの巡検士部隊の分隊にいた忍者の一人岩影や三羽烏の一人そして、新たに加わった山賊の親分のジャックを連れて南側の山賊の対応に向かう事にしたのだ。

 南側の山賊の対応については中央の領地よりも現場の状況が逼迫している、との巡検士部隊長のベックさんから連絡があったからだ。

 それで連絡のあった南側の領地に先に向かう事にしたのだ。


 今回も南側の領地に向かって、真直ぐなプロバイダル王国を縦断する直線道路を造りながら進んでいく。

 プロバイダル王国の南側は北側に比べて気候も温暖で、農業に適しており人口も多い地方だが、今回のカンザク王国に侵攻した戦争のためと称して、高い税率を領民に課している。

 プロバイダル王国の南側の領地の山賊の頭につては、派遣された巡検士分隊長のジロウさんから元領主の家宰の20代のまだ若い男性であると連絡が入った。


 ジロウさんからの連絡によると

『事の発端は、南側の領主が8公2民というひどく高い税を戦時中とはいえ領民に課したうえに、その税を支払えない領民を農奴にしたり、奴隷商に売り払ったことから、家宰の男性が領主に諫言かんげんをしたのだった。

 諫言された領主が怒って家宰に切りかかって来たため、切りかかってくる領主の刀を奪い取ろうともみ合っているうちに、誤って領主を害してしまい領主の館から逃げ出して、貧困な領民等と語らって峻険な山に砦をつくって立てこもっている。


 現在の南の領主は、領主が家宰に害されたことから領主の長男が勝手にその地位についていわゆる僭称せんしょうしているのだ。

 殺害された以前の領主からは国に対して正妻の子である次男を跡継ぎとするという届け出がされていた。

 妾腹の長男と正妻の次男は歳が近いせいか反目し合っており、特に長男は次男に比べて待遇が悪く、次男を跡継ぎにするように届け出が国に出されたことから、将来は次男の部下か、悪くすれば領地から放逐されると思って悩んでいたのだ。

 家宰が領主を害したことから、次男が国の届け出を理由にして領主の地位に付いてしまう。

 これでは先がないと思った長男は、家宰が領主を害した騒ぎに紛れて領主の正妻とその次男を暗殺してしまったのだ。

 長男は、この二人の暗殺も家宰のせいにしているのだ。』

という事だった。


 長男は領主だと言っているが、いくら戦乱の後でプロバイダル王国の力が衰えとはいえ、プロバイダル王国国王に許可を取ったり、プロバイダル王国国王より任命されたわけではない僭称であることから、それだけでも罪になるのだった。

 長男は亡くなった前の領主より強欲で、戦乱も終わったことから、プロバイダル王国女王セレスの通達で税率を4公6民にするように言っているが、プロバイダル王国の通達を無視して戦時と同様に8公2民の高税率のままにしているのだ。

 そのうえ若い女を見ると領主の館に連れ込んで犯してしまう。

 その若い女の悲鳴が数日続くが、その後に領主の館の裏から棺がひっそりと出されていた。


 この領主も山賊に身を落とした家宰に、すべての罪を擦り付けようとしているが家宰の作った砦は峻険な山に囲まれて攻め込みにくいうえに頑丈であった。

 そのため、領主軍も直ちには落とすことが出来ない状況で、にらみ合いが続いているが徐々にではあるが家宰の山賊が押されているのだ。

 峻険な山々に囲まれた頑丈な砦に閉じこもっていても、蟻の這い出る隙もなく領主軍に周りを固められて、兵糧攻めにあっているため、腹をすかせた山賊が砦から抜け出そうとして捕らえられては殺されていくのだった。

 徐々に家宰配下の山賊の数が減らされているのだ。

 このままでは、山賊軍が打ち取られるの時間の問題だった。

 

 ここの担当の巡検士部隊分隊長はジロウさんは、まずプロバイダル王国の新女王セレスの使いだとして両陣営に停戦を呼び掛けて、両軍の話し合いの場を設けた。

 両軍、話し合いの場の席に着くのは双方5名として仲裁役にプロバイダル王国の新女王の名代としてジロウさんが席に着いた。

 当然、妥協する気のない両陣営の話し合いは平行線をたどった。

 しばらくして焦れたのか、南の領主を僭称する長男がいきなり立ち上がり、外で隠れ潜んで待機していた南の領主の総兵力三百名の部下を使って山賊軍側に襲いかかったのだ。


 この場の仲裁者であるジロウさんは、南の領主の非をあげて止めようとするが、衆寡敵せず南の領主軍に攻撃を掛けられ山賊軍と共に砦に落ち延びて、砦に立て籠もったのだ。

 プロバイダル王国の新女王の名代としてジロウさん仲介役として、南の領主を僭称する長男の領主軍と元南の領地の家宰が率いる山賊軍との間に戦闘の口火を切って落とされたところで、俺達は南の領地の領主の館の前にたどり着いたのだ。

 南の領主の城門は開け放たれたままであった。


 城門を開け閉めする門番どころか、この戦闘で南の領主を僭称する長男は決着をつけるつもりか、領主の守備隊等も含めて全軍三百名を率いて山賊軍に襲いかかっているところだったのだ。

 俺達は開け放たれた城門をくぐって領主の館に入ると、留守番の為の古老が待ち受けていた。

 古老は昔、亡くなった南の領主の下で以前働いていた旧家宰

(・・・何と山賊軍として砦に閉じこもっている家宰の叔父さんで、男の子供がいなかったことから娘婿として招き入れ、彼を家宰にして南の領主の元に勤めさせていたのだ。・・・)

として勤めていたことから、南の領主を名乗る長男から急遽呼び出されたのだそうだ。・・・旧家宰の男が働いている時は、南の領主を僭称する長男がずっと不満を抱いており、このような反乱を起こさないように注意していた事が、逆に信頼を得て呼び出されたそうだ。

 超迷惑そう!


 その古老にセレスの身分を告げると、ホッとしたような様子になって古老は領主の館の鍵を渡しながら、館内の部屋の配置を説明すると、孫の顔を見てくる等と言って外に出て行ってしまった。・・・山賊となった女婿とは仲が悪いわけでもないので何とか助けられないかと留守番を引き受けていたのだ。

 俺達は留守番も居なくなった南の領主の館の城門を閉めた。


 まずは、古老から教えられた領主の館の領主の部屋に向かうことにした。

 領主の部屋の鍵を開けて扉を開けると死臭が漂い、室内に怨念が立ち込めているではないか。

 領主の部屋に入ると幾つもの女性の頭部が棚に飾られ俺達を恨めし気に見ているのだ。

 部屋の中央のベットには右腕を切られ、そこを汚い布を巻かれているが引き締まった体をした、全裸の女性が奴隷の首輪を着けられて出血のためか気を失って倒れていた。 

 奴隷の首輪を見てアカネが思わず自分の首をさする。


 まず切られた女性の右腕を室内の中を探す。

 隣室の棚の中に切られてまだ時間がたっていない右腕を見つけ出したので、魔法の袋から医療ポットを出して、女性と一緒に右腕を入れる。

 今まで聖魔法では切断直後から半日以内であれば、切断した手足があれば繋げる事が聖魔法で出来たが、半日以上の時間が経過したものは、決して繋がる事は無かった。

 それが医療ポットと聖魔法によってある程度時間が経過していても欠損した手足があれば繋げる事が出来るようになったのだ。

 俺達は治癒魔法も併用して右腕を繋げる治療をする。


 医療ポットと俺達の治療魔法で2時間もしないうちに彼女の右腕が繋がった。

 彼女は医療ポットの中で気が付いた。

 医療ポットの透明な蓋に驚き、そこから出る時には、右腕がもとに戻ったのを見てさらに驚いている。

 プロバイダル王国の魔法が出来る貴族は全て集められ、魔の森の戦いに駆り出されて殲滅されたのだ。

 また治癒魔法を使える魔法使いは、ほんの数人しかいなかったのだが・・・魔の森の戦いで全く居なくなってしまったのだ。


 彼女の切られた右腕を探しているうちに、彼女の奴隷の証文も見つけ出した。

 見つけ出された証文から彼女は

「シンディ」

という名前で、女性ながら領主の館の守備隊長だったのだ。

 奴隷の証文の契約の条文をよく読んでから、俺は証文の所有者の欄に

『真正カンザク王国 国王 ヤマト スグル』

と新たに名前を記載する。

 すると奴隷の首輪がシンディを引きずるように立たせて、俺の方に無理やり歩かせてくる。

 俺は聖魔法で首輪を外し、証文は魔法の火で焼いてシンディにもう自由だと告げる。


 シンディは

「私は先代の領主から剣の腕を見込まれて領主の館の守備隊長に若くして任命されたのです。

 長男は自分で言うのも何だが美人であり、男勝りで剣の腕も立つ私を自分のものにしようと以前から何度も誘っていたのです。・・・悪い噂が絶えない長男の誘いを断り続けていたのです。

 私は守備隊長の役目についていながら、家宰に先代の領主が打ち取られて責任を感じていたのです。・・・・・・。

 今度は、領主を僭称している長男の行いがあまりにも酷いので諫言しようと、面談を申し込んだのです。

 

 その面談の最中にこっそりと長男は睡眠薬をお茶に入れて、そのお茶を私に飲ませたのです。

 眠った所を長男の自室に連れ込まれ、抵抗をされないために奴隷の首輪を巻き、さらには抵抗できないようにと利き腕の右腕まで切られてしまったのです。

 睡眠薬の薬が切れて、右腕の痛みで目が覚めた私を見た領主は、痛みで苦しむ私を玩具おもちゃにしようとしたのです。


 玩具にされそうになった私を救ったのは、プロバイダル王国の新女王セレスの使いが、両陣営に停戦を呼び掛けて来たということだったのです。

 プロバイダル王国の女王セレスの使いは、両軍の話し合いの場を両軍の中間地点に設けるというのです。

 話し合いのため堅い守りの砦から山賊軍が出てくると聞いた領主は、決着をつけるためあわてて領主の館にいた全ての軍勢を引き連れて出て行ったところで、腕の痛みと出血で気を失ってしまったのです。」

と話した。 

 シンディは切られた右腕をさすりながら、今までの経緯を説明した。

 さらに、シンディは領主の館の地下牢に多数の諫言した者が他にも囚われていると言うので、シンディを案内に地下牢に降りていくのだった。

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