第51話 北の領地の後始末

 俺達はプロバイダル王国にある北の領主の館の城門の門番に

「山賊と賞金首のトモエとその友人を捕まえて来た。

 館の門を開けてくれ。」

と言って城門を開けさせて、次々と馬車をその城門を通り抜けさせる。

 城門の門番は最後尾に乗っている領主の娘の腰の佩剣を見て腰を抜かすほど驚いている。

 門番の脇には何時の間に伝令に出した岩影が立っており首筋に刀を突き付けていた。

 囚われの身の領主の娘の腰に領主の地位を表す佩剣が下げられているのだ!

 領主の娘のトモエが門番に向かってニコリと華のように笑う。

 門番は岩影に首に刀を突き付けられているので、引き攣った笑顔でトモエに対して軽く頭を下げた。


 俺達は馬車や荷馬車を進ませて、城門を入った先にある領主の館の前庭に山賊の入った六台の荷馬車を並べる。

 領主は、自分を傷付け、山賊に身を投じた自分の娘と金になる娘の友人を捕まえて来たと聞いて、嬉しそうに部下の守備兵百人程を後ろから連れて、領主の館から転がるように出てきた。・・・領主自身脂ぎって真丸に太っているのだ。

 領主は転がるように出てくると、後ろからついて来た守備兵に前庭にいた俺達を取り囲ませた。

 城壁の上には弓を持った別働の守備兵20人程が、城壁の上にやっとと言う感じで出てきて俺達を狙っている?・・・弓を持つ手に力が入っていない?


 今度は、俺は領主の館の前庭で俺達を取り囲んだ守備兵達の様子を見ると、守備兵全員がやせ細り、脂ぎって真丸に太っているのは領主だけだった。

 それに俺達を取り囲んだ守備兵は、あまりやる気が無いのか剣を鞘から抜いているのは一人か二人しかいない。・・・それも剣を杖代わりにしている?

 城壁の上の弓兵で弓を引いているのも一人か二人で、あまつさえ狙っているのは領主だ!


 俺は約束の金を払ってくれと領主に言うと。

 領主が門番に

「城壁の門を閉めろ!」

と大声で命じると門番と岩影によって城門が閉められていく。

 領主が

「約束の金、それはお前たちの命で支払え!

 皆の者打ち取ってしまえ!」

等と命令する。・・・本当にこの領主は悪党だ!


 俺は黙って、最後尾の馬車の檻を開けさせる。

 最後尾の馬車の檻から出てきたのは領主の地位を表す佩剣を下げたトモエさんとその友人であった。

 馬車の檻から出てきたトモエさんとその友人をヤシキさんと巡検士の部下三人が守るようにして囲む、さて守備隊の兵士は如何出るか?

 何と!馬車の檻から出てきた領主の娘のトモエさんに対して、取り囲んでいた兵士達が皆膝まづいて臣下の礼をとってしまったのだ!

 領主がそれを見て顔を赤らめて怒り狂い

「何をしておる、こ奴等を打ち取ってしまえ!」

と命令すると、領主の横に臣下の礼をとっていた守備隊長が鞘から剣を抜いて立ち上がり、領主にむけると今度は領主は青くなった。


 堪えられなくなったのか城壁の上に立っていた弓兵の一人が領主に向けて弓矢を放つ。

 俺はそれを見て、これでは顔の真中に弓矢が当たってしまうので、風魔法で少し外してやる。

 領主の頭すれすれに弓矢を飛ばして髪の毛を何本か飛ばしてやったのだ。

 ただでさえ少ない領主の髪の毛に、弓矢で頭に一本の禿げの線ができた。

 領主が腰を抜かし、小便を漏らしたのか地面に水たまりができる。

 俺はそんな領主を触るのもいやなので、風魔法を使ってトモエの入っていた荷馬車の上に置いてある檻に放り込んだ。


 プロバイダル王国北の領主を荷馬車の上に置いてある檻に領主を放り込んだところで、ここで近くに待機していたプロバイダル王国新女王のセレスに登場してもらう。

 門番に城門を開けさせると、門番の横に立っていた岩影が

「プロバイダル王国新女王セレス様、おなあ~り!」

と大声で告げる。・・・どこかの国の時代劇だな。


 新女王セレスが、近くの広場で待機していた100人の護衛部隊と20人の女官部隊そして20人の文官、山賊の親分のジャックや宰相の義理の娘キャサリンを引き連れて領主の館に入ってきたのだ。

 100人の騎馬護衛隊がプロバイダル王国の国旗を槍先につけて先導する中、新女王セレスの乗るプロバイダル王国の紋章が掘られた馬車が続いて門をくぐり、前庭にその馬車が停まると、俺が新女王セレスの手を取って馬車から降ろす。


 俺達が新女王セレスの後方に立ち整列すると、領主の館にいた全員が今度もプロバイダル王国新女王セレスに対して膝をつき臣下の礼をとる。

 檻の中にいた領主がそれを見て、腰を抜かして目を回して気絶してしまった。

 プロバイダル王国の新女王セレスの名のもとに先ず

「領主を解任する。

 領主の私有財産、領地は没収の上、領地は王国の直轄領とする。」

と宣言した。


 領主と山賊50人を領主の館の牢屋に入れようとするが、すでに領主の館のなかの牢屋が満員なのだ。

 それで牢屋に入っていた人の罪名等を確認しようとするが、罪名等を書いた書類が何処にも見当たら無いのだ。

 いくら識字率が異常に低いとはいえ、国に対して領主の相続の手続きや税金の納税額等の届け出る書類に文字が書ける文官を置いておかないわけにはいかない。

 牢の中に文官などの役職についていたいた者など誰かいるのだろう?

 そのうえ牢の中には年若く見目麗しい女性達が何人もいた。この女性達は領民が税を払えない場合に税の代りにといって集められていたのだ。


 糞尿に汚れた領主を馬車の檻から触るのも嫌なので風魔法で引きずり出して、牢まで風船のように浮かべて運ぶ。・・・見た目も風船のようだが見にくい!

 領主に牢の中に囚われていた一人一人の罪名を確認するが、罪名は反逆罪と言う名を借りた私怨により投獄された人が多いのが現状だった。

 牢の中にいた女性達は領民で、税金が払えない代わりに集められ領主に玩具にされ、飽きてきたら性奴隷として売られるところだったのだ。


 まずは領主の玩具にされていた女性や私怨により投獄されている者は、すぐさま牢屋から出して、氏名や身分を確認し、俺達が連れてきた20人の女官部隊や20人の文官部隊が手分けして住民基本台帳を作成し始めた。

 住民基本台帳は、この世界には無い制度だ。為政者とすれば当然どこに誰が何をして住んでいるかぐらいは知っておくべきだ。

 投獄されていた者のなかには領主の家宰や守備隊長そして文官等もいたのだ。


 領主の家宰や守備隊長や文官等が投獄されていた理由は、

領主が、領民に無闇矢鱈に重税をかけて搾り取り、その搾り取った税金を国に

納めないで横領して私腹を肥やしたり、

領主の娘のトモエさんが友人を助けた時と同様に、気に入った女の子のいる領民に殊更重税をかけて税を搾り取り、支払えなくなれば女の子を税金代わりに取り上げて、玩具にする。

その態度を領主に諫言かんげんしたことから投獄されてしまったのだ。


 プロバイダル王国の新女王セレスの名のもとに、領主の家宰と守備隊長、文官等が罪も無く囚われていた事から、無罪を宣言して、全員を元の職に復帰させた。

 住民基本台帳に氏名や身分を聞き取り、投獄された日数を聞き取って、投獄された日数分の日当、一日に兵士に支払う日当を領主の私有財産から支払っていく。

 日当をもらって皆驚いている。

 領主に玩具にされていた女性には、そのうえ見舞金を支払い、俺達が連れて来た文官の中にいた医師や女官の中にいた看護師が検診を行った。

 領主の館の隣に立つ別宅を病院にして体調がすぐれない者を入院させた。

 領主に玩具にされていた女性は、このまま北の領地にいたくないというので、後日、真正カンザク王国のカナサキ村に病院併設の療養所をつくり、そこに住んでもらうことにした。


 今までの状況が確認されたところで、トモエさんを代官に任命した。

 今後、トモエさんが腰に下げていた、領主の証の佩剣を代官の証にすることにしたのだ。

 牢の中には守備隊長や領主の家宰と同様に諫言した数名の文官が文字を書けることから、その身分を復帰させた。

 これにより、領内の領民も呼び集めてさらに住民基本台帳の作成速度があがっていった。


 領内から呼び集められた領民は、ついでと言っては何だが領主の館の隣に造った病院で身体検査も受けてもらった。

 身体検査で判明したことだが、領内の村長などを除く、ほとんど全ての領民が飢餓状態で痩せ細っていた。

 当然肥え太った村長宅も調べてみた、領主と結託して私腹を肥やしていたのだ。

 村長も領主を真似て、税が払えない農民の農地を取り上げて、農民を農奴にしている始末だ。

 罪状が判明した村長から、村長の身分を解任し私有財産を没収して、領主と一緒にこいつらも牢に放り込んだ。

 領内に巣くう悪党どもは退治する。

 領内に溜まった膿を絞り出すのだ。


 痩せ衰えた農民に対して、領主の館や村長宅に税収として集められ死蔵されている農作物を使って領主の館や村長宅で炊き出しを行ったのだ。

 北の領主について裁判が始まった。

 法廷に引き摺りだされた北の領主を見て、娘のトモエさんが変なものを見るような眼になる。・・・友人を性奴隷としようとしたのだから当然だが⁉

「貴方は誰?父では無いは!誰!」

と言い出すではないか。

 横にいた家宰がハッとして、守備隊長に何事か告げると守備兵を数名引き連れて出て行った。


 しばらくすると守備兵が担架に乗せた屍を法廷に持ってきた。

 その屍は太っていたが、すでに死蝋化していた。その屍の面影は法廷に引き摺りだされた北の領主と瓜二つであった。

 この世界ではユリアナとセーラのように双子は忌み嫌われる。

 どちらかが里子に出されたり、酷い場合は幽閉されて一生陽の目を見ることが無い者がいるのだ。


 北の領主が

「見ての通りさ、少しばかり先に生まれたからと言って威張りやがって!

 俺は暗い洞窟の中で朽ち果てるの待つばかりだった。

 転機が訪れたのだ!

 この国の馬鹿王が隣の国を攻めるのに兵や食糧を出せというのだ。

 それを馬鹿兄貴が俺が身代わりで戦地に行けと言いに来たのだ。

 それも領主の身分を表す佩剣まで差し出したのだ。

 その佩剣で馬鹿兄貴の心臓を一突きにして、それから俺が身代わりになっていたのさ、似た顔と領主を表す佩剣を下げていたのだ疑う者は今までいなかった。

 戦地!俺の代りに金と多めの食糧を差し出して有耶無耶にしてもらった。

 後はどうでもすれば良い。短い間だったが随分と良い思いをした。」

と語ったのだ。


 死刑は前領主の殺害と領主の身分僭称等で仕方がないとして、死蝋化した前領主が生きていれば、どんな政治をしていたのだろうか?

 北の領主を僭称していた弟や村長の裁判が粛々と行われる。

 裁判は新女王セレスに任せて、その間に俺は北の領内の農地の現状を見て回わることにしたのだ。

 領内の農地は農業作業効率の悪い変形の農地ばかりだ。

 さらに、ここでも土地改良がされておらず土地がやせるばかりだ。

 屯田兵制度に採用されていた護衛の兵や文官に開墾開拓及び土地改良などの農業指導をさせた。


 山賊の親分のジャックの厳しい掟のおかげで、山賊になった50人は泥棒で押し込んだ先の住人を殺したり、犯したりはしていなかった。

 トモエさんとその友人を襲おうとしたのは賞金につられただけだったのだ。

 山賊の50人は山賊の親分のジャックの命乞いから、護衛の兵の指示のもと開墾開拓や土地改良、牛馬の飼育をさせることにした。

 農民から山賊に身を落とした彼等だから農作業はお手の物だった。

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