第50話 北の領地にて

 俺達はプロバイダル王国の北の領地に向かって直線で石畳で舗装された道路を造りながら馬車を走らせる。

 非舗装路面、岩だらけや土だらけの道路では、いくらサスペンション機能があり真円のゴムタイヤの馬車で走っていても、今までの馬車と同じようなもので、その振動で乗り物酔いはするわ、体中が痛くなったりするわで、地獄のような乗り物に逆戻りになってしまうのだ。


 道路の進路を邪魔する小川や大河にも橋をかけていく。

 今までは旅人は小川では細い安定性のない丸木橋を渡り、大河では両岸に張られたロープを手繰り寄せながら筏のような船で渡るのだが、誤って人が大河に落ちて水生魔獣生物に食べられてしまうことが多かった。

 小川には道路幅と同じ石橋をかけた。

 大河に橋を掛ける時は、真正カンザク王国と同様に今後内航海運業を進めていくうえで、邪魔にならないように船の上に橋を載せる可動橋にしたのだ。

 この当時としては立派な真直ぐな道路が出来上がって行くのだった。


 プロバイダル王国の北の領地の現場には巡検士部隊分隊長のヤシキさんを派遣していた。

 現在の北の領地の緊迫した状況を、ヤシキさんが、そこに巡検士見習いとして手伝いに来ていた三羽烏の一人を伝令として出して、俺に連絡をしてきたのだ。

 連絡を受けた場所は、もう間もなくプロバイダル王国の北の領地に到着するというところで連絡を受けたのだった。


 その内容は

『父親の領主のもとから逃げ出して山賊に身を投じた娘のトモエとその友人に対して、父親の領主が賞金を懸けたのだ。

 山賊に身を投じて抵抗を続けている娘のトモエと、その友人に生死を問わないで一人賞金首として百万ギリ、二人で二百万ギリを掛けたのだった。』

というものだった。


 冒険者予備校の本選の優勝者でさえ優勝賞金が千ギリなのだから、これほど高額な賞金首につられて二人の首を狙ってくる者が出てくるはずだ。

 すみやかに、二人の身柄確保、保護をして、父親の悪行の数々等の全貌を明らかにしていかなければならない。


 心配した通り、トモエとその友人は身を投じた山賊達50人に裏切られていた。

 山賊達50人は山賊の親分が所用でいない事を奇貨として賞金額に釣られて彼女を裏切り、首を取ろうと攻撃を開始したのだ。

 山賊の根城の洞窟内で武道に勤しんでいたトモエと言えども衆寡敵せず、その友人とともに、下卑た笑いを浮かべた山賊達に押さえつけられ操と命を取られそうになっている。

 その状況を見かねた巡検士部隊分隊長のヤシキさんは三人の部下と共に、トモエとその友人の救出を行い山賊達を蹴散らして、トモエと共に山賊の根城にしていた洞窟に立て籠もったのだ。


 蹴散らされた山賊達は今度は根城の洞窟を包囲したのだ。

 アカネはそれを聞いて、義兄らしいといって微笑んでいた。

 俺は後方から洞窟を包囲している山賊50人を一人一人と捕縛していく。

 さすがに10人目の山賊を捕縛した時、残りの山賊達に気づかれて、俺が一人だとわかった山賊達に逆襲を受けた。

 俺は向かってくる山賊達を片っ端から殴り飛ばして気絶させ、土魔法で土の檻を出現させて閉じ込めて行った。


 最後に山賊の親分と対峙したのだ。

 この山賊の親分は所用で出かけており手下の山賊50人が、山賊の親分を頼って身を寄せていたトモエと友人の懸賞金を狙って殺されかけていたことは全く知らなかったのだ。

 ただ根城の洞窟に戻ってくると、俺と配下の山賊達が戦い捕縛されるているのを遠目で見たので、配下の救出の為にさらに急いで戻って来たところだった。


 山賊の親分は、俺と同じ位の2メートル以上の身長を誇る希少な種族となった巨人族の末裔で、虎皮の腰巻に虎の頭を兜にしていた。

 山賊の親分は手にトマホークのような手斧を持っていた。親分はいきなり手に持つトマホークを投げつけてくる。

『シュルシュル』

と音を立ててトマホークが俺の右頬の横を通過する。

 トマホークを投げた山賊の親分がニヤリと笑う。

 俺は咄嗟に勘だけで右に僅かに体をずらす、俺の元居た場所を戻ってきたトマホークが通過していく。


 山賊の親分は腰の後ろに隠し持っていたもう一本のトマホークを投げてきた。

 後方から戻って来たトマホークを恐れて大きく態勢を崩していたら、もう一本の今投げたトマホークの餌食になっていたかもしれない。

 山賊の親分は戻ってきたトマホークも再度投げつけてきた。

 俺は土魔法で土壁を造ってトマホークを受け止める・・・。いや受け止めきれないで土壁が粉砕された。

 なんて馬鹿力だ!

 俺の魔法で作った土塀は鉄の塊ほどの強度を誇っているのだ!


 山賊の親分はこれで仕留めたと思ったのだろう。

 油断したのだ!

 その時俺は山賊の親分の後ろに転移して、その首に手刀を打ち付ける。

 山賊の親分はバッタリと顔面から倒れてしまった。

 山賊の親分が倒れると直ぐに二本のトマホークが飛んできたのには少し驚いたが。

 その二本を両手で受け止めて回収する。

 

 その後山賊の親分を土魔法で鉄の成分だけを取り出して出来た鉄の檻に入れた。

 念のため木魔法の蔦で身柄を拘束しておいた。

 鍛冶師で有名なドワーフ族が土魔法で土から鉄の成分だけ取り出す等しているのを見られたら、鍛冶師を潰すのかと怒られるだろう。・・・フッフッフ(悪い笑いがこみあげてきた)技術の革新になるかもしれない。ドワーフ族には土魔法を使える者が多いはずだ!

 土魔法の土の檻・・・山賊の親分を入れた檻には劣るものの、そこそこ強度のある檻に親分以外の山賊を入れていた。

 個別に入っている山賊の檻を少しずつ寄せ集めていく、最後には全員を一箇所に集めて閉じ込めるまでには、さほど時間はかからなかった。

 俺はさらに檻を狭めて山賊を集めると、守り刀の力を借りて雷撃で集めた山賊を気絶させて武装解除させた。


 その後は俺と俺の妻達が山賊の根城の洞窟内に入って、ヤシキさんとトモエ達を交えて、どのように領主の館に侵入するかを相談することにした。

 その前にトモエとその友人が山賊の親分を助けて欲しいと懇願してきたのだ。

 トモエの友人は

「山賊の親分は元は木こりでした。彼は父親の友人で領主の館から逃げ出した私達をかくまってくれていたのです。

 木こりさんが山賊の親分になるきっかけは、領主の悪政のために領内では盗賊が跋扈して、魔獣や獣が徘徊するようになってきたのです。

 彼が配下にしていたのは、そのような領内で悪さをしていた盗賊で、倒すことは出来ても命を取ることまでできない優しい性格で、いつの間にか倒された盗賊達も配下になってしまったのです。

 また、彼が身につけている虎皮の兜等は村々を襲って人を食べた虎を退治した時のもので、今回の所用も村を襲っている魔獣を退治して欲しいという要求にこたえるためだったのです。」

と説明した。


 俺と俺の妻達はトモエとその友人と共に、山賊の親分を入れた檻に向かう。

 山賊の親分は檻の中で鼾をかいて大の字で寝ていた。

 檻の前で番をしていた兵士は

「山賊の親分が檻の中で気が付いて、蔓の拘束を自分で引きちぎった後、腹が減ったというので食事を与えたら、おかわり、おかわりと言って10人前ほどの食事をとると、今度は腹がふくれたといって寝ているのです。」

と教えてくれた。

 その話を聞いて、俺の妻達とトモエとその友人が噴き出した。


 その華やいだ場違いな笑い声に山賊の親分が目を覚ました。

 俺をジロリと山賊の親分が見ると、小山のような体を起こすと膝をついて臣下の礼をとった。

 山賊の親分が

「俺はジャックという名の木こりだ。

 見ての通り、もう数が少なくなった巨人族の生き残りだ。

 俺はどうなっても良いので、他の仲間の命だけは助けてやってくれないか。」

と言うのだ。


 ジャックと名乗る山賊の親分は人が良いのは良いのだが、人が良すぎて足元をすくわれなければよいのだが。

 俺はジャックの様子やトモエやその友人からの話で、山賊の親分ジャックの人柄に惚れたので、彼を檻から出して、彼のトマホークを返してやった。

 ジャックが驚いてトマホークを受け取り、しばらく返されたトマホークを見つめると、何事か決心したような顔になり、膝をついてトマホークを後ろに置いて再度臣下の礼を取って

「俺を配下の一員に加えてくれ。」

と望まれたので許可した。・・・何はともあれ強力な部下の一人が臣下に加わったのだ。


 今度はジャックも交えて、北の領主の館に入る手立てを考えた。

 領主の館は地方の出城の役目をするために簡単には侵入できない。

 特に、ここの領主の館は北プロバイダル地方の中心的な立場を担っていたこともあり、それに相応した大きな城になっている。

 俺は木魔法と土魔法で出来た檻を載せた荷馬車を六台を作った。

 土魔法で抽出した鉄で檻を造って載せたのだ。

 俺と俺の妻達で土魔法を使って土から鉄だけ取り出して鉄の檻を造るのだ。

 出来上がった鉄の檻を載せた馬車一台につき山賊10人づつ放り込み、最後の一台にはトモエと友人に入ってもらった。


 トモエには父親から取り上げた北の領主の地位を表す佩剣を下げてもらった。

 俺と俺の妻のユリアナとセーラの二人、護衛役の巡検士部隊のヤシキさん達4人は無蓋の馬車に乗って進む。

 まだこの地方では馬に乗ると言っても、馬具も無い事から、無蓋の馬車に乗る事をいうのだ。・・・今後は馬具を売って馬に乗る事を進めよう。

 馬具製造販売か⁉・・・フッフッフ(悪い笑いがこみあげてきた。)これも良い金儲けになるかもしれない!


 この無蓋の馬車や荷馬車を曳く馬は付近にいた軍狼達に頼んで集めてもらった。

 俺が呼び集めた軍狼達にはトモエとその友人どころか山賊達も震えあがった。

 山賊達は、大きなその軍狼達に馬を集めてくるように指示する俺を化け物を見るように見ていた。


 北の領主の館からほど近く、領主の館からは崖や樹木で陰になって見えない広場まできた。

 女王セレスと100人程の護衛部隊や20人程の女官部隊、20人程の文官の随行員、プロバイダル王国の宰相の義理の娘キャサリン、新たに配下に加わった山賊の親分のジャックは荷車や馬車とともに、この広場に待機してもらう事にした。


 俺達は、そこから別れて捕まえた山賊の子分やトモエさんとその友人を載せた馬車とともに領主の館にむかったのだ。

 俺は何を言い出すかわからない五月蠅い山賊50人には守り刀の雷撃でしばらくの間、眠ってもらっている。

 少し派手な真赤な鎧と真白な鎧に身を包んだ、俺の自慢の美人妻のユリアナとセーラが操る無蓋の馬車を先頭に領主の館に近づいていく。


 領主の館の門番への伝令には、領主の館の守備兵等から攻撃を受けても、難なく逃げ戻ることが出来る一番身軽な忍者の一人、シャム双生児の片割れの岩影に頼んだのだ。

 岩影は誰何を受けた、領主の館の門番に

「山賊と賞金首のトモエとその友人を捕まえて来た。

 館の門を開けてくれ。」

と大声で連絡したのだ。

 その後から無蓋の馬車に乗る美人妻のユリアナとセーラの二人の姿を見て鼻の下を長くした領主の館の門番が何の疑いもせずに城門を開けたのだった。

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