第40話 山岳エルフ族

 今回の北カンザク地方のエルフ族の隠れ住む山岳地帯の随行のメンバーは汚水三人組改め湖畔の館の三羽烏とシズル、アカネと白愛虎と白神虎とヨウコになった。

 北カンザク地方は山岳地帯は2千メートル級の山々が連なるので雪の降るのが早い、冬山に登るような服装で山道を登っていく。

 少し遅れ気味になるヨウコを白神虎が何かと助けている。

 ある程度のエルフ族が住むという目的の場所は宇宙エルフ族からクリスとモンが妊娠の報告をした際に聞いているが、何世紀も前の情報であり、かなり怪しいが一応その場所に向かって登っているのである。


 山を登るにつれて雪が深くなってきたので、かんじきを履いて雪山を歩く。

 山頂付近になり、アイスバーンになったのでアイゼンを取り付けて進む。

 寒さと高度で息苦しさを感じ始めた。

 随行メンバー八人の周りを風魔法を展開して寒さを和らげながら進む。

 山頂のなだらかな稜線を今度はクロスカントリースキーに履き替えて進む。


 雲がわきあがり天候が一気に悪化する。

 吹雪にあって、雪洞を掘って皆でビバークする。

 魔法の水筒の水でなく、コッヘルに雪を入れて溶かして飲む。冬山を楽しむ。


 一人、ヨウコさんだけが苦しげだ。高山病か?

 医療用のポットを出してヨウコをいれる。

 判定はやはり高山病で医療ポットの気圧があがり酸素を吸わせる。

 その日はヨウコが医療ポットで寝て元気を取り戻した。

 もう少し早く風魔法を展開して気圧をあげていれば良かったと反省する。


 雲が晴れて下界が見えてくる、遠くに湖畔の館のある湖や世界樹が見える。

 反対側にはヤマト帝国の帝王城が芥子粒のように見える。

 上を見ると、山頂付近に何か所かの洞窟が見えてきた。

 俺達は試しに手近にある洞窟の中に入ってみる。

 洞窟は人工の物で、岩肌には鑿で削った跡がある。

 洞窟の中はじっとりと湿っており、急に温度があがってきた。


 入った洞窟は下り坂になっており、壁には湿度と温度の為か光る苔が群生していて明るい。

 下って行くほど温度があがり、汗ばんできたので冬の服装から上着を脱ぎ、そのうち半袖、半ズボンの夏の服装になってしまった。

 入ってから夏の服装になって小一時間程で少し広がった場所に出た。


 そこには、数人の痩せた小柄なエルフ族が住んでいるのが見えた。

 そのエルフ族は貫頭衣を着ており腰には荒縄のような物を巻いている。

 そのエルフ族は俺達の足音に気が付いたのか驚いたように俺達を見つめているのだった。

 そのうち、小柄なエルフ族は槍や弓を持ち出してきた。

 持ち出してきた槍の穂先は石器時代か⁉

 俺達を狙ている弓矢の鏃も同様だ、そのうえ、矢羽根も付いていない。


 文明文化が退化したのか、言葉も

「ウ~、ウ~。」

となにか唸るように声をあげている。

 進化と呼べるのか彼らも洞窟生活が長くなったことからか、目が大きくなって洞窟生活に対応しているようだ。

 何はともあれ食生活が悪いのか痩せすぎだ。


 エルフ族の構えている槍と弓矢を風魔法で取り上げた、ところが風魔法で取り上げる衝撃でエルフ族が皆倒れてしまった。

 体も極端に弱すぎる、倒れた彼らは驚いたように飛び起きて、慌てたように逃げだした。

 土魔法で石牢を作り逃げる彼らを拘束する。

 しばらくするとわらわらと洞窟のあちらこちらの通路から数百人のエルフ族があらわれる。

 彼らの構える武器も風魔法で絡め捕る。

 彼らもその衝撃で倒れてしまう。


 その数百人のエルフ族も石牢で拘束した。

 拘束したところで数十人の男性エルフが持った輿の上に、痩せているが宝石に飾られたティアラを被ったエルフ族の女性があらわれた。

 優雅に輿からその女性が降りてくる。

 輿を持っていた男や俺が作った石牢の中のエルフ達が膝をつく。


 俺がその女性を出迎えると。

 輿の横の護衛と思われる偉そうな男性が

「ウ~、ウ~。」

と何か唸ると、腰に差した石の剣を抜き出して向かって来る。

 ヒョイとよけて、その石の剣を横から叩くと簡単に折れる。

 剣を持っていた偉そうな男性もその衝撃で簡単に倒れて、腕の骨が変な方向に向いてしまう。


 なんだこれは⁉

 弱すぎるどころではない、治癒魔法で男の腕を治す。

 男は凄い顔で俺を睨んでいる。

 男はまた俺に向かってきたので石牢の中に放り込んで置く。

 輿に乗っていた女性が、後ろに向かって声を掛けると、何人ものエルフ族の女性が年代物のテーブルや椅子を運んで持ってきた。

 その後ろから今度も何人もの女性が苔を調理した食べ物を木の盆に載せ、木の器に入った濁った飲み物をテーブルの上に載せていく。

 輿に乗っていた女性がテーブルの上に載せた食べ物や飲み物を食べたり飲んだりして見せる。


 俺達も椅子に座ろうとするが、これは座っただけで壊れそうだ。

 土魔法で椅子を造って座り食べ物や飲み物を手に取る。

 俺の毒鑑定のスキルが発動する。

 ただ毒鑑定のステータス画面内容が

「?・?・危険?危険!」

と表示される。

 手に取って食べようとしていたアカネたちを制する。


 輿に乗っていた女性がなにやら

「ウ~、ウ~、ウ~。」

と言っているがそれを無視して、俺が少しづつ食べ物や飲み物を口にする。

 耐毒性のスキルが発動する。

 毒物のうえに、とても不味い!飲んだり食べたりできるものではない。

 毒物鑑定のスキルが発動される。

 食べ物や飲み物の中には苔が入っており、それを長い間飲食していると、知能や体力が低下させていくのだ。


 これはアカネ達が食べたり飲んだりすれば、この毒に対する耐性が無い分、たちどころに毒に犯されて知能や体力が低下してしまう。

 耐毒性のスキルを持つ俺でも大量に食べると危険だ!

 これは食べることができないので、俺は魔法の袋からクッキーやケーキをだして、水魔法を使って紅茶を入れて出す。

 今度は俺が食べ物や飲み物を振る舞った。

 俺が食べたり飲んだりして見せる。


 石牢の中から偉そうな男が

「ウ~ウ。」

と言っていたが、輿に乗っていた女性が一口食べると美味しくて止まらなくなったのかあっという間にテーブルの上に置いてあったクッキーやケーキを紅茶で流し込むようにして完食してしまった。


 全言語習得能力のスキルで彼女達の言語は理解できるが、単純な単語だけで知能も三歳児程度らしい。

 一度輿に乗っていた女性を医療ポットの中に入れて、体内の毒素の量を計測することにした。

 それを見ていた偉そうな男が大暴れして折角治した腕の骨をまた折ってしまった。 

 痛みで気絶している。

 五月蠅いので、しばらくはそのまま放っておくことにした。


 医療ポットに入れた女性の状態の情報によれば、この毒は遺伝子に働きかけて遺伝子情報を書き換えて、老化を速めたり、知能や体力を低下させるようだ。

 治療方法は、遺伝子が壊れているので毒素を出しても知能程度は個体差にもよるが現状を維持するしかなく、体力の低下については高栄養の物を取らせればもとに戻るらしい。

 医療ポットで体内の毒素の排出と高栄養剤の投与を行った。

 医療ポットの中には1週間程入ってもらった。

 徒労に終わるかもしれないが医療ポットの中では念のため催眠学習も行ってみた。


 その間に暴れまわった偉そうな男を、治療魔法で骨折箇所を治してあげた。

 ただ偉そうな男が石牢の中でまた暴れまわって五月蠅かった。

 1週間程で医療ポットから出てきた彼女は別人のようであった。

 体形も普通のエルフ族に戻っていた。

 そのうえ毒素が抜けたのと個体差のおかげか、催眠学習で少し知能が戻ってきたようだ。

 ただ高度な学習は混乱を招いているようだ。

 今後は基礎的な学習にして見ることにした。


 彼女の名前はアエラという。

 彼女とエルフ族の聖地である、世界樹の元への移住について話し合いを行った。

 偉そうな男は彼女の弟でアキラと言うらしい。

 アエラから、弟のアキラも医療ポットに入れてから話し合いをさせて欲しいというもので、最終的な決定権はアエラが持つが、アキラが納得しなければ半数以上のエルフ族はこの地に残るだろうというものであった。


 一度、湖畔の館に転移して、食糧の準備と山岳エルフ族の状態を医療ポットの情報と共にクリスに伝える。

 今回の状態を改善する簡易型の医療ポットを造れないかを相談する。

 翌日、俺は再度山岳エルフ族の洞窟に戻る。


 アキラを医療ポットに入れる際、また一暴れがあったが医療ポットに入れると催眠ガスですぐ眠った。

 彼の方が毒素が強く10日程医療ポットに入っていた。

 医療ポットから出てくると、困惑と苦悩が垣間見れた。

 野獣のような生活からいきなりこの世界でも基本的な知識を押し付けられたのだ無理はない。


 アエラとアキラを交えて協議を行った。

 その間にアキラに次いで偉い男の治療を医療ポットで行った。

 このエルフ族の教養は毒素を抜いて、世界樹の元に移動してから徐々に行う方が混乱を招かないだろうという事になった。


 ほぼ一月以上をこの地で過ごした。

 毒の原因がこの洞窟内に大量発生している毒苔だと判明した。

 大気の中にも苔なので胞子が漂い、その胞子にも毒素が混じっており、微量な胞子を吸い込んだアカネと白愛虎と白神虎とヨウコも体調不良を訴え始めた。


 洞窟の外に出る。

 冬の高山の激しい猛吹雪が襲いかかる。

 洞窟の少し中で胞子の毒素の影響の少ないところで生活する事にした。

 食糧が底を尽きそうなので、湖畔の館に再度転移して戻る。


 ユリアナとセーラ達、妻を集めて山岳エルフ族の状況の報告を行う。

 クリスには、苔や洞窟内の空中を漂っていた苔の胞子の毒素の解析をお願いした。

 クリスとアンドロイドのクリフさんやクリスティーナが共同で造った30台もの簡易型医療ポットを持って行ってくれと言われる。

 その医療ポットを魔法の袋に入れて翌日転移して戻った。


 洞窟の中に簡易型の大型医療用テントを張り胞子が入ってこないようにした。

 これで寒い洞窟の出入り口から暖かい洞窟内の簡易型の大型医療用テントに入って山岳エルフ族の治療を行うことができた。

 30台の簡易型とはいえ医療ポットを並べて、主な人物から入れていく。

 本当に簡易型なので催眠学習などはできないが、治療後には、それだけで瞳に英知の光が戻る者がいる。

 中には元のままの者の方が多い。


 俺は治療をヨウコと白神虎にまかせて、アエラとアキラに案内させて洞窟内の探検にいく。

 空気中を漂う苔の胞子は前世の普通のマスクで防ぐことができる。

 マスクをする習慣の無かったアエラとアキラは当然のことで、アカネと白愛虎、湖畔の館の三羽烏とシズルも大変息苦しそうであった。


 洞窟内には現在治療中の山岳エルフ族以外に、あと2つのエルフ族の部族がいるそうだ。

 最初のエルフ族の部族が二百名程で、残りの2つのエルフ族の部族は、最初のエルフ族の部族より知能の高いリーダー的な山岳エルフ族が百名程であり、最下層には最初のエルフ族の部族より、さらに知能が劣るエルフ族の部族が五百名程もいるそうだ。


 アエラとアキラに洞窟内を案内させて、洞窟の上に向かって登って行く。

 洞窟の最上部にはリーダー的な山岳エルフ族の部族百名程が住んでいるそうだ。

 この山岳エルフ族の部族から武器の提供や衣服の提供を受けているという。

 数は少ないが本当の意味での山岳エルフ族の中心的な存在のようだ。

 そのエルフから武器などの提供を受けていた場所に向かってアエラとアキラの案内で洞窟を進むが、時々迷子になる。

 やはり、治療前はかなり知能が低かったようで記憶も曖昧でいわゆる行き当たりばったりで進んでいたようだ。


 何とか提供を受けていた場所にたどり着いた。

 ちょっと広めの洞窟の行き止まりで、大きな石のテーブルが置いてあり、誰かエルフ族が来ると、武器や衣服の提供のため数人のエルフが現れるという。

 しばらくすると、洞窟の一部の壁がスライドして開く。

 貫頭衣だが豪華な金色のベルトに銃のような物を下げ、金色の腕輪をした女性を筆頭に、武器や衣服を持ったシルバー色のベルトに銃のような物を下げ、シルバー色の腕輪をした男女10名程が続いて現れた。


 女性はアエラとアキラ以外に俺達のいるのにも気が付く、銃のような物を俺達に向けると発砲した。

 構えた時には、銃だが構造から連射が出来ないのでは?等と思っている間にも俺は土魔法で壁を作りその発砲した弾を防ぐ。

 つき従っていた男女10名も銃を次々と発砲する。

 土壁に土煙があがる。

 俺は土壁を飛び越えて彼女らに向かう、男女10名は洞窟の開いた穴へ駆け込む。


 金色のベルトの女性は弾込めをして、俺に銃口を向ける。

 俺は土魔法で銃口に土のつぶてで蓋をする。

 これで弾が出ない、これで撃つと暴発する。

 女性はそれを知らないのか引き金を引く

『カチ』『カチ』

と音がするが弾が出ない。

 彼女の持つ銃は火縄銃の発展形の火打ち式銃で火が上手く出なかったようだ。

 俺は女性の頭の上から盛大に水をかける。

 これで女性の銃の皿の火薬が洗い流されて撃てないはずだ。

 それでも俺に向かって銃を撃とうと構える女性の手から銃をもぎ取って拘束する。


 通路の出入り口で様子を見ていた男女が彼女を見捨ててスライドドアを閉める。

 土魔法の土塀を元の状態に戻し、拘束した女性の衣服を風魔法の温風で乾かす。

 女性の名前はアイラという?アエラとよく似た名前だと思ったら、アイラが

「代々女性がエルフ族の族長を務め、アイラかアエラを名乗るのだ。」

という。

 ということは最下層のエルフ族に、もう一人アイラかアエラと名乗る女性がいる事になる。

 今後はリーダー的なエルフ族の族長のアイラと移住計画について交渉する事になった。

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