第41話 山岳エルフ族救出作戦

 指導的立場にあるエルフ族の族長のアイラを拘束から解放して、俺が火縄銃の発砲を防ぐため水魔法でずぶ濡れにしたアイラの衣服や髪を温風の魔法で乾かし、魔法の袋から椅子やデスクを出してクッキーやケーキ、紅茶を振る舞う。

 アイラも美味しかったのかクッキーやケーキがあっという間に皿の上から消えた。


 気持ちが落ち着いたのかアイラが話し始めた。

「この地にたどり着いた時のエルフ族の先代には、宇宙エルフ族の研究者や技術者が混じっていたのです。

 この洞窟の上層部には、その宇宙エルフ族の末裔が集まって指導的立場になっていったのです。

 宇宙エルフ族の研究者や技術者がいたことから、この洞窟内に群生する苔の毒性や空中に漂う苔の胞子の毒素、異常に知能や体力が低下し人によっては退化してしまうことに気が付き、苔を除去する空気清浄機や安全に苔を調理する方法を見つけだしたのです。


 ただ、この毒苔も分裂して増える時に熱を発して洞窟内を温め、効率よく酸素を発生するために、最初は駆除のため燃やし尽くそうとしたのですが、急激に洞窟内の室温が下がり息苦しくなってしまったのでやめてしまったのです。

 この地に逃れていた他のエルフ族の部族にも毒苔の危険性を伝え調理法や空気清浄機を与えたのですが、毒苔の調理法を無視し、与えた空気清浄機もすぐ壊してしまったのです。


 その後は私達の方でも空気清浄機を修理したり新たに製造するだけの資材も無くなったので、他のエルフ族の部族の知能が著しく低下していき、そのうち言語による意思疎通も出来なくなってきたのです。

 この洞窟に魔獣が時々侵入してエルフ族を襲うので、その時はエルフ族の部族同士共同してその魔獣を時には退治し、追い払っていたのだったのです。

 共同で魔獣に対処する事から武器の供与は私達指導的立場の部族が行っていたのです。


 ところが我々の部族の資材も無くなり、光学兵器はエネルギーが切れて使い物にならなくなり、いつしか火縄銃等に頼るまでに技術力も低下してしまっていったのです。

 また空気清浄機の機能も経年劣化の影響で低下しはじめており、修理する資材も無くなりどうしようかと思っていたところだのです。」

と言うではないか、これ幸いにと故郷の世界樹のもとに行くのはどうかとアイラに話を進める。


 そんな話をしているうちにスライドドアが開いて何人ものエルフ族が出てきた。

 全員疲れたような顔をしており、全員が協議して今回俺が勧めた、故郷である世界樹のもとへの移住の話を受けいれてくれることになった。

 この地に残っていれば、いずれは毒苔の影響で知能が衰えて、最下層にいる知能の衰えたエルフ族の部族のように、獣のように成り果て、魔獣に襲われてゆくゆくは、この地で滅んでしまう暗い未来しか見えないからだ。


 また、エルフ族の部族ごとに分かれて、特別なことがない限り交流を行っていないため、近親相姦の状況が続いている。

 子供がただでさえできにくいのに近親相姦の影響か最近では出生率がほぼゼロの状態が続いており、この地にいる山岳エルフ族自体の存亡の危機にあるのだ。

 指導的エルフ族の部族百人は世界樹の元に行く事に同意しているが、どのくらい毒苔の毒に犯されているかの状態の掌握をしなければならない。


 アイラに案内させて指導的エルフ族の部族の住みかに入ってみる。

 住みかに入って直ぐにある広場に俺の魔法の袋から簡易型の医療ポットを出してアイラに入ってもらう。

 アイラの状態は、やはり毒苔の胞子が空中を漂い、安全に調理されたとはいえ毒苔を食べるという、毒まみれの生活によるものなのか体内には少なくない量の毒が蓄積されていた。

 他の主導的エルフ族にも適時医療ポットに入って治療をしてもらう。

 これらのエルフ族は少なくない量の毒苔の毒素が蓄積されていたが、発症していないので一晩で毒素を体外に排出できるようだ。


 指導的エルフ族の部族の住みかには小さな村の分校ほどの学校施設や図書館施設まで持つていた。

 その図書館の歴史の本を読んでいると、宇宙エルフの2等航海士が率いたエルフ族の末裔らしいことが判った。

 この2等航海士の日記と、これまでの業務日誌が残っていた。


 その日記や業務日誌には

『2等航海士はこの地までエルフ族の内乱の末に逃げてきて、毒に犯される可能性があるが快適な洞窟の中に住むか、外の凍てつくブリザードが吹き荒れる世界に住むかの選択を迫られて、洞窟の中を選び、この毒苔との戦いの日々を過ごしていたらしい。


 200年程前に今までの発電蓄電施設が老朽化して使えなくなったので、風力発電を利用して電気を起こそうとした。

 その際、雷を纏ったサンダーバードが風力発電所を襲い破壊して、さらに毒苔の空気清浄機を破壊してまわった。

 当時はまだ光学兵器のレーザー銃等が使えたのでサンダーバードを撃退しようとしたが、サンダーバードは、レーザーで翼を怪我をして飛び立てなくなり、この洞窟の最下層に逃げ込んで住みついてしまった。


 今までは電力で空気清浄機を使って毒苔の毒を除去していたのだが、風力発電所を造り直すほどの材料や技術も無くなってしまい、残っていた老巧化した小型の太陽光発電のみでは大々的に毒苔の毒の除去が十分にできなくなってきた。

 小型の太陽光発電の電力では指導的エルフ族の住む中央指揮所にある空気清浄機を動かす事しかできなかった。

 それで何とか指導的エルフ族の知能を保っていた。

 その為、指導的なエルフ族の部族と毒にある程度犯されて知能の劣化の影響を受けているエルフ族の部族と、毒に犯されて知能が極端に劣ってしまったエルフ族の部族とに段々と分かれていったのだ。


 怪我を負ってサンダーバードは、この洞窟の最下層に住みつき、知能が極端に劣ったエルフ族の部族を餌とするようになったというのだ。

 指導的エルフ族の部族も自分達の安全のために知能が極端に劣ってしまったエルフ族の部族達を人身御供のようにサンダーバードの餌として差し出してしまった。』

という闇歴史も書かれていたのだった。


 最下層には知能が完全に衰えたエルフ族の部族が住んでいる。

 この部族は最下層に住んでいる魔獣サンダーバードに捕らえられて、その魔獣サンダーバードの餌の状態になっているというではないか。

 指導的立場のエルフ族からも、何とか最下層に住んでいる部族も救い出してはもらえないかと頼まれたのだ。


 ただ知能が少し衰えているエルフ族の最初あった時の言語は三歳程度であり、これより知能が低いという事は遺伝子レベルで退化して猿に近いエルフになっている可能性がある。

 助ける価値があるのだろうか。

 しかし俺はまだ知能が極端に衰えたエルフ族を見ていないのだから、何処まで退化していて治療が可能かどうかはやってみなければわからない。


 それに電気を喰らう魔獣サンダーバード、発電施設を破壊する化け物か!

 こいつは何としても退治しなければならない。

 サンダーバードは討伐しておいた方が将来、工業技術を発達させるためには必要な事だ洞窟の最下層まで行って見るか。


 俺は、洞窟の最下層に住んでいる山岳エルフ族の救出と最下層にいる魔獣サンダーバードの退治に向かうことにする。

 その間に白愛虎達は簡易型の医療ポットで他の指導的な山岳エルフ達の毒素を抜く作業をしてもらう。

 転移装置も備え付けたので毒素が抜けた山岳エルフ族で移住を望む者は世界樹の社務所付近に住んでもらう。


 俺も最下層に向かう前に、指導的立場のエルフ族の受け入れの状況確認のため転移で社務所に向かう。

 転移したついでに洞窟内にあった指導的立場のエルフ族の小さな山の分校ほどの小学校施設や図書館施設等を魔法の袋に入れて運び込み社務所付近に移築した。

 毒苔対策の空気清浄機も宇宙エルフ族の技師さん達に渡して調べてもらう事にした。

 社務所付近では宇宙エルフ族の人々やベックさんやジロウさんが受け入れを行っていく。

 当然住むに際しては、世界樹の周りの土塀内に入らないようにする等の注意事項を徹底してもらった。

 受け入れ態勢も整ったところで、洞窟に転移で戻る。


 俺はアカネと共に簡易型の医療ポットで毒素が抜けたアイラに案内させて、最下層に向かう。

 最下層に向かう途中で小型でサルのようなエルフ達に出会う。

 想定していたとおり、毒苔の影響で最下層のエルフ族の部族は姿形まで変わってしまい、今ではエルフ族とは言えない状況にまで退化してしまっているのだ。


 彼らは俺達を歯を剥き出して威嚇してくる。

 手には動物の骨を持っている。

 どうやら山岳エルフ族以外はモグラのようなもの小型な動物しか住んでいないので、手に持った動物の大きさは人骨しか存在しないので・・・エルフの大腿骨か⁉

 向かってきた一匹を捕まえて、簡易型の医療ポットの中に放り込む。

 分析の結果簡易型の医療ポットでは治療は無理で、医療ポットにいれても治療は無理だと表示された。

 そいつを簡易型の医療ポットからだして放してやる。


 これでは最下層の山岳エルフを救出し知能をあげることはあきらめなければならない。

 サルになったエルフが威嚇や攻撃を仕掛けてきて鬱陶うっとうしいので、見つけたサルになったエルフを風魔法で吹き飛ばして集めて土魔法の石の檻に閉じ込めておく。

 ただこの洞窟内は知能を低下させ、退化までさせる毒苔の完全駆除を行う予定であり、毒苔の焼却処分により洞窟内の温度の低下や酸欠でサルになったエルフ族が死亡、全滅する事も考えられるので、最下層の山岳エルフは世界樹の足元100キロ四方の魔獣や魔獣植物の保護地区に住まわせることにする。


 しばらく洞窟を下ると、俺の守り刀の雷神が

『パチ』『パチ』

と反応する。

 雷神が神獣のサンダーバードに近づいた証拠だと言っている。

 雷神と神獣のサンダーバードでは相性が悪すぎる。

 雷撃は

『敵に塩を送るようなものだ』

と注意もされた。

 火や炎系も効くには効くがこれも相性が悪いようだ。

 俺はアイラに危険だからと言って元の場所に戻ってもらった。


 それからしばらくアカネや雷神と話していると、溶岩が

『コプ』『コプ』

と音を立てて湧いている地底に横になって寝ている魔獣のサンダーバードがいるのを見つけた。

 思っているほど大きくなく俺と同じ位の体長だ。

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