第36話 反乱

 俺の通る道は領主が領民を賦役して街路を整備していたが、問題の独立領主の領地に入ると途端に道が悪くなった。

 狭隘な谷間の細い道を進むと、老婆が一人書状を持って待っていた。

 その老婆が、

「糸を紡いだりするのは一部農村の秘伝の技術、それを盗むのか。」

と言って、長い竹竿にその書状を挟むと俺に向かって突きだした。

 その老婆の目には憎しみがこもっていた。


 俺が立ち止まり老婆の書状を受け取ろうとすると、小石がパラパラと崖の両側から落ちてくるではないか。

 俺は危険を感じて、セレスティアとクロアティアスに声を掛けると前で書状を手渡そうとしている老婆を右手で担ぎ上げると全力で馬を走らせる。

 後方で

『ガラガラ』『ドッシャ~ン』

と大岩が落ちてくる。

 前方の両側の崖の上には人が集まり、岩を落とそうと仕掛けの縄を曳いている。

 俺とセレスティアとクロアティアスも全力で馬を走らせたので、何とかこの仕掛けも突破する事ができた。


 ホットする間もなく、一際大きな馬に重装備を付け重装備の鎧を着た重装備騎士が二体あらわれた。

 重装備騎士は兜の総面をつけて大きな木の槍を小脇に抱えると俺に向かって突撃してきた。

 相手にする必要もないので訴状を持ってきた老婆を抱えたまま重装備騎士の上を馬を捨てて飛んで逃げる。

 俺の後ろを走っていたセレスティアとクロアティアスの二人も同時に馬を捨てて飛んで逃げる。

 哀れなのは俺達が乗って来た三頭の馬達だ、重装備騎士の突撃を受けて撃ち倒されてしまっている。

 方向を変えた2体の重装備騎士が振り返ると俺達に向かって土煙をあげながら突進してくる。

 セレスティアとクロアティアスが両脇の崖に向かって退避する。

 二人の手にはピアノ線のような細い鉄の線が握られ二人は手近な岩場にくくり付ける。

 2体の重装備騎士の乗る大きな馬は張られたピアノ線に気が付いたのか二頭とも頭を下げる。

 二頭の馬はピアノ線の下をくぐり抜けるが、二人の騎士は気付かず、そのままピアノ線の餌食になって首がもげ落ちた。


 前方から100人程の農民が手に手に鋤や鍬を持って俺達に襲いかかってくる。

 俺は抱えていた老婆を立たせる。

 老婆は気丈にも俺に向かって再度訴状を渡す。

 一応訴状を読むも身勝手な事を記載してあり、話にならん!

 それに糸車や機織り機等方法が全く違うが、その方法を無償で教えろ、売り上げの半分を寄こせなどと書いてあるのだ。

 前方の農民が鬱陶うっとうしいので、手に持った鋤や鍬を風魔法で掬い取ると、農民たちを土魔法で檻を造って放り込む。

 ついでに、その老婆も檻に放り込んだ。


 今度は風魔法で浮かせた鋤や鍬をステータス画面に映っている、両側の崖の上にいる敵に向けてぶつけて行く。

 一番偉そうな奴も額に鍬をぶつけて馬から落ちたようだ。

 それに反して器用によけているのが5,6人いるようだ。

 そいつらが高い崖を転がるように飛び降りてくる。

 俺の周りを前世の忍者のような格好をした5人がとり囲む、いやもう一人いる、そいつは一人の背中に張り付いているのだ。

 そいつらが俺に向かって、質量のある棒手裏剣を投げつけてくる。

 刀で受けるとその質量で折れてしまうので杖を使ってはたき落とす。

 背中に負ぶった者と、背中に張り付いた奴が投げた棒手裏剣が、まるで一本の棒手裏剣のように続いて投げつけられてきたので、はたき落とすことも出来ず、体捌きで何とか難を逃れた。


 次は、そいつらが鎖分銅を使って、次々と俺に向かって投げつけてくる。

 俺は投げつけられる鎖分銅を杖で絡め捕っていたが、最後に背中に張り付いた奴が投げた鎖分銅が俺の首に絡みついた。上手いものだ。

 残った4人が間髪入れずに忍び刀を抜いて俺に肉薄してくる。

 忍び刀独特の直刀が俺の体を貫こうと向かって来るのだ。

 俺は鎖分銅が絡みついた杖を捨てて、肉薄してくる4人の忍者達に対して守り刀を抜いてたち向かい、忍者達を討とうとする。

 俺が対峙しようとすると、首に巻かれた鎖分銅で体を崩される。


 このままでは忍び刀に刺されてしまう。

 守り刀の雷神の力を開放する。

『バリ』『バリ』『バリ』

と発光した稲妻が奴らを襲う、しまった!俺の首にも鎖分銅が絡まっているのだ。

 自分の稲妻で自分がやられては洒落にならない。

 俺も耐えるが、鎖分銅を投げつけた奴も耐えているのか力が弱まっていない。

 背負っていた奴が、力尽きてうつ伏せに倒れる。

 背中の鎖分銅を投げた奴は歯を食いしばって耐えている。

『フッ』

とその力が無くなった。そいつも白目を剥いて倒れた。


 俺をここまで追い詰めたのだ。

 どんな奴かと思って見に行くと、そいつはシャム双生児だった。

 近づく間にもう二人とも気が付いたのか、背中と背中が張り付いた形で俺を見つめるキリリとした顔立ちの10代半ばの男女の双子だった。

 大柄な女の背に小柄な男の子が背中合わせに張り付いているのだ。

 俺は医療ポットを魔法の袋から出してシャム双生児を放り込む。

 二人とも雷神による痺れで体が動かず抵抗できなかったので、医療ポットに放り込むことが簡単に出来た。

 俺でも医療ポットの麻酔ですぐ寝るのに、二人とも最初は医療ポットの麻酔に抵抗していた。

 女の子の方がしばらくすると麻酔で眠り、男の子の方はその後かなり長い間抵抗して、医療ポットの透明な蓋越しに俺を睨んでいたが、麻酔の濃度があがりやっと眠ってしまった。

 二人とも健康体で背中の皮膚が繋がっているだけで、大きな血管や神経は共有していなようなので分離は可能なようだ。


 シャム双生児の二人を医療ポットに入れている間に、セレスティアとクロアティアスの二人で両側の崖の上にいた独立領主の兵士達50人を土の牢にいれていく。

 俺はセレスティアとクロアティアスが土牢に入れた独立領主の兵士達50人を受け取り、医療ポットと農民100人を入れた土牢と重装備騎士二人の遺体をそのまま空に浮かべて独立領主の館に向かった。


 独立領主は領主の館の執務室で、俺達3人が切り札の重装備騎士2人と150人もの農民や兵士達に嬲り殺されたと確信して、勝利のワインを傾けていた。

 その独立領主のもとに守備隊長が転がり込んで

「奴が重装備騎士の遺体と、農民や家宰殿と部下を土牢の中に入れて向かってきています。」

等と告げる独立領主は

「何を分からない、世迷い事を言いやがる。」

と言って独立領主は館を守る城門の上に駆け上がる。

 城門の前には土牢に入った農民や部下の兵士を浮かべた俺が立っていた。

 大声で独立領主は

「射殺してしまえ!」

と守備隊長に命令する。


 ずらりと独立領主の館の城門の上に立った守備兵が次から次へと弓矢を放つが、セレスティアとクロアティアスの風魔法で弓矢が絡み取られて投げかえされる。

 独立領主の館の城門の上から守備兵がころころと落ちる。

 俺は医療ポットと土牢を横に置くと、雨霰と降り注ぐ弓矢を風魔法で絡み取りながら、気軽にまるで散歩でもするかのようにして城門に近づいていく。

 俺は木魔法で城門を粉々にする。

 守備兵が弓を捨てて剣を抜くと俺に向かってくる。

 相手するのも面倒なので土魔法で足元を崩していく。

 守備兵がその落とし穴に落ちていく。


 城門を入ると、最後に残った獰猛な顔をした守備隊長は剣を抜いて身構えており、腑抜けた青瓢箪のような顔をした独立領主が腰の剣の柄に手を置いて立ちふさがっていたのだ。

 獰猛な顔をした守備隊長は蛮勇を発揮して向かってきたが、動きが遅く、腕に力が入り過ぎて剣を振り上げる速度も遅い、相手をするほどでもないので、守備兵達と同じように落とし穴に入れて静かにしてもらった。

 独立領主は

「カンザク王国の初代国王様から建国の寵臣として賜った宝剣である。

 控えてこの剣の錆となれ!」

等と言って真赤な顔をして力ずく腰の鞘から剣を抜こうとするが抜けない。

 俺は、独立領主に近づくが、独立領主は剣を抜こうと一生懸命で俺に気が付かない。


 俺は独立領主の頭を殴りつけて鞘ごと宝剣を奪うと鞘を払って見ると・・・。

 これはいけない、いわゆる赤鰯になって鞘に錆が張り付いていたのだ。

 いままで鞘に入れたままで手入れされていなかったのだ、宝剣が気の毒である。

 宝剣から

『魔力を下さい。』

と思念が届く、試しに魔力を流すと錆が飛び散り白銀の剣が現れた。

 宝剣が

『カンザク王国の直接の子孫の元に参ります。』

と思念が残って鞘と共に掻き消えた。

 その宝剣は魔の森の湖畔の館にいる、ユリアナの胸元にいきなり現れたので、ユリアナが驚いていた。


 独立領主の館に入る、館の中は人気がほとんどない。

 邪魔な守備兵や農民、独立領主の兵を館の中の牢にいれようと牢を探す。

 ほぼ領主の館の建て方はどこも同じなようで、あまり変わり映えしない。

 いつもの通り地下牢を見つける。

 その地下牢の中には、今の独立領主の父親や弟達、城の重鎮達が捕らえられていた。

 地下牢の中に捕らえられていた全員を開放して、代わりに捕まえていた独立領主や守備隊長や守備兵は勿論の事、農民や領主の兵達を放り込む。


 牢から出した独立領主の父親は

「最初、私は国王に臣下の礼を取り領地を返して、王国の直轄領になり代官になりたいと言っていたが、嫡男が私や私と意見を共にする者を捕縛して地下牢に入れてしまい、その後は嫡男が領主を僭称していたのです。

 嫡男にとってはこの領地が全てであった。

 そのうえ糸を紡ぐ技術を秘伝とする農村が嫡男の手に入り、わずかばかりの領土が広がり天にのぼる気持ちで国王を襲えば、さらに領地が広がると思って蛮行に及んだのです。」

と言う。


 この程度にしか嫡男は思っていなかったようだ。

『蟹は甲羅に似せて穴を掘る。』

自分の力量がどの程度かわからなかった嫡男は哀れでもある。

 独立領主を一旦父親に戻し、その後この地を王国の直轄領にして父親を代官に任命した。

 反旗を翻した嫡男等は、禿山の植林作業と俺が土魔法で付近を探ったところ、枯渇した銅山の隣の山に優良な銅山を見つけたので鉱山奴隷として強制労働させた。

 また、掘り出して残った土の中にも優良な銅が残っているので取り出す作業をさせた。


 この戦いで強敵だった忍者の六人は嫡男に金で雇われた奴らであった。

 嫡男から俺達は国を乱す悪い奴だと言われて戦いに挑み、戦いに敗れて不貞腐れていたが、俺が国王であることを知って驚いて臣下の礼をとり忠誠を誓った。

 そこで、シャム双生児の二人に

「体を分けることができるが、どうするか。」

と聞いて見た。

 二人とも段々思春期になって、男女ということもあり、不都合なことが多くなってきている。

 それで、二人とも分離手術に同意したのだった。

 彼等六人の忍者は魔の森の湖畔の館でユリアナとセーラの二人の護衛任務に就いてもらうことにした。

 彼等六人の忍者を連れて、カンザク王国の王都からカナサキ村から魔の森の湖畔の館までの間は陸路でしか行く事が出来ないので、陸路を進んだ。

 陸路の横を流れる小川を見ながら、この小川を利用して、運河を建設して内航海運業を発達させたい等と考えていた。今後の課題の一つだ。

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