第35話 真正カンザク王国の産業復興と教育
俺と元南カンザク王国の王女セレスティアと騎馬軍団長クロアティアスは元南カンザク王国の王都を訪れて、元南カンザク王国の安定のために法整備と共に悪徳領主を廃位して王国の直轄領にしたり、戦後復興の為に高い税率を改めて、4公6民等税制度の改善を行ったのだ。
今までの税制の内容は前世の徳川幕府のように農業にだけ税金をかけていたものである。
これを改め、農業だけでなく商業、工業等の売り上げから税金を取ることを進めた。
そのため王国の直轄領では納税の部署の設立と納税管や徴税官等の役人の育成に努めることになった。また各領主に対しても税徴収官を送り納税を促進した。
これにより王国の直轄領では農業の税率も2公8民にまで、将来的には押さえられそうだ。
そのおかげで戦乱で逃散した王国の直轄領では領民が少しずつ戻って来て、領民の手により緑の大地が広がり始めた。
この緑の大地が広がるたびに真正カンザク王国が安定していくのだった。
また、今回の戦争で敗残兵となったカンザク王国の近衛兵達や元南カンザク王国の精鋭部隊の兵士達を呼び戻す必要があった。
カンザク王国側はユリアナとセーラの二人が、元南カンザク王国側はセレスティアとクロアテイアスの呼びかけに応じて戻ってきた。
彼ら敗残兵の処遇にも尽力した。
先ずは日当の支払いである。
『金の切れ目が縁の切れ目』
等という故事もあるくらいだから、日当の支払いは当然である。
死亡者や負傷者についても日当は勿論の事、見舞いの一時金を支払った。
セレスティアとクロアティアスから、死亡者や負傷者には負けても勝っても日当は支払うが、見舞いの一時金など支払った事は一度もないと呆れられた。
ただ、この事が功を奏したのか、何人もの敗残兵が投降してきた。
次にしたことは、敗残兵などに対する
『職業訓練学校』
の設立である。
その職業訓練学校の卒業生で学業が優秀な者や計算の上手い者等を
『納税管等育成学校』
に入学させたが、やはり税金自体についての感覚が無い事と基礎的な学力不足で任官させる者は稀であった。
職業訓練学校では、基礎的な学力不足を補う事を中心にして、負傷兵のための義手や義足の作製は勿論の事、製紙産業、繊維産業の技術や大工等の建築技術、農業技術の習得をさせるのだ。
これらの産業の主体は王国なので全て、国営企業にするつもりだ。
例えば、義手や義足については、イギリスの童話「ピーターパン」に出てくる、あの有名なフック船長の右手の鉤爪(フック)型の義手や、「白鯨」のエイハブ船長の義足などが有名であるが、これではあまりにも不格好すぎるので、できるだけ人の手や足に近い形のものを造った。
治癒魔法の再生魔法を使って、無くなった手足の再生をする事ができるが、大量の魔力を消費してしまうので、あまり一般的ではなく、使用できる人も俺やセーラとセレスティア等と限られているのだ。
再生魔法の使用者が少ないことから、義手や義足を作成させているのだ。
手足の無い者が多い事から需要が多いはずなのに、今までの義手や義足で満足していて需要が伸び悩んでいる。
それで義手や義足の作製、義肢装具作成会社を国営の産業の一つにした。
その目的は、義肢装具士の育成と、義手や義足の素材や義肢装具士の工賃等を引いて、ギリギリ安価にした義手や義足の販売をするのだ。
そのうち需要があるので販売の実績が伸びてくるはずだ。
製紙産業については、今までもカンザク王国の王都で作らさせているが、以前のとおり一般的に普及している獣の皮や木簡等に文字が書かれている。
これは識字率が異常に低く需要が極端に低いせいだ。
真正カンザク王国内の各中心的な大都市に
『王立幼年学校』
を設立し、大きな領主の町には王立幼年学校の分校を設立して識字率の向上に努めることにした。
王立幼年学校は6歳から15歳までの者で、軍直属にして軍人見習いの給料を支払うと言うものにした。
この世界では、子供をすりつぶすように使う、学校に行くだけで給料が支払われるのだ。
大勢の子供の命がこの制度により救われたのだった。
問題は王立幼年学校の先生だ!
貴族等は本は読んでもらうもの、税を集めるのは部下の仕事と、文字もかけない者が多い。
身分の上の者がそうなら下々の者は推して知るべしだ。
一応お抱え学者と呼ばれる人もいるにはいるが数が極端に少ない。そのうえ識字率があがると地位が奪われかねないと非協力的だ。
昔の日本の寺にあった寺子屋等の私塾は皆無である。
この世界の宗教は、どちらかというとシャーマニズム的な古代宗教であり、民衆が知識を持つ事自体に反対している。
教育とは対極に位置しているので、彼等も王立幼年学校の先生には向かないどころか無理だ。
そこで、クリフさんやクリスティーナのようなアンドロイドを造って先生をさせることにしたのだ。
あまりに美男子や美人のアンドロイドの先生をつくったことから、若い男性や女性がアンドロイドの先生に結婚してくれと王立幼年学校に押し寄せてきたのはご愛敬だ。
態勢が整い、王立幼年学校やその分校に製紙の教科書やノートを使わせた。
また、職業訓練学校においても製紙の教科書やノートを使わせて識字率の向上に努めたのだった。
製紙産業も識字率が向上しないと伸び悩む産業の一つなので国営化しているのだった。
義務教育の一環として王立幼年学校を設立したのだが、古い慣習で、子供を虐待し、奴隷のように使役する家庭は未だに多い。
王立幼年学校に入学してきた子供の服装は、ぼろ布のようになった獣の皮を羽織った者が多かった。
それらの者に官服として王立幼年学校の制服を与えた。
当然この制服を売ることは厳禁で、売った者は横領罪になり、買った者は贓物罪として取り締まると忠告していたにもかかわらず、制服を売り払い、生徒を奴隷のように使役し、あまつさえ生徒の給料まで取り上げている家庭が出てきた。
これらの家庭が現れた段階で、教師のアンドロイドと兵士が家族や制服を買った商人を捕縛して罪に問い、生徒は王立幼年学校の寄宿舎に住まわせた。
何度もこのような事が続くうちに子供の虐待が無くなっていった。
繊維産業も発達していない産業の一つだ。
綿花のようなものや、蚕のように繭玉を造る昆虫類がいるが、糸を紡いだりするのは一部農村の秘伝の技術にしてしまい発達を阻害しているのだ。
それで、高価な綿や絹などを使わずに大規模都市に住む住民は勿論の事、農民等も獣や魔獣の衣装を着ている人が多いのだ。
俺は糸を紡ぐ技術、糸車を作って糸を紡いで見せ、その糸を使った機織り機を作って見せた。
これにより繊維産業が飛躍的に技術が向上していった。
糸車による紡績技術の発展は、今まで糸を紡ぐ技術を秘伝にしていた一部農村から苦情があり、火種として残ってしまった。
まだまだ発展途上の産業であり、国営化して技術の向上に努め衣類の販売に務めた。
繊維産業の発展の一歩として王立幼年学校の生徒の制服を作って着せる事を行ってみせた。
この事がきっかけになって、染色技術は勿論の事、繊維産業が発展して、繊維が特産品として他国に輸出されるようになっていくのだった。
農業も焼き畑農業で土地を広げるが、土壌の改良がされるわけではなく、肥料も何もやらないで土地を痩せさせるだけで収穫が年々落ちていた。
土壌改良や輪作を進めさせた。
また、農機具についても木の鍬や木のスコップで作業効率は極めて悪い。
牛馬等が野生で大量にいるのに使っていないのだ。
牛の引く犂を造って、戻って来た敗残兵のうちで農業を志す者に貸し与えて田畑を耕して見せた。
屯田兵制度の前段階である。
牛の方が当然人力よりもはるかに広範囲で作業ができるのに皆驚いていた。
牛馬や農機具の作製と販売、貸し出しはカンザク王国の国営にした。
また、焼き畑農業では大気が汚染されるだけでなく、魔獣や魔獣植物を呼び集め農村自体を壊滅させる恐れもあることから止めさせて、牛馬による土地改良と開墾を進めさせた。
牛馬の糞も鶏の糞は良質の肥料になるのに、使ってもいないようなのだ。
鶏は卵を取って、産めなくなったら食用に回されるだけの様だった。
肥料工場や牧場、養鶏場も国営にして農機具の販売と牛の貸し出しと共に行った。
林業も植林などの考え方自体が無いのか禿山にして、豪雨時に山崩れや洪水等の災害を引き起こしているのが現状である。
林業も育てる産業という感覚が無いので国営化したのだった。
今回は特に林業の状況の確認のため、山道をカンザク王国の王都に向かって歩を進めていた。
そのうえ国王として、領地の街路の整備も重要な仕事の一つになるので、俺達は山間部の山道をわざわざ遠回りになるが進んでいるのだ。
山間部の領主は国王である俺が通る道の整備をしなければならないので、賦役として領民に道路整備をさせているのだ。
俺も領主の館に立ち寄り、賦役に見合うそれなりの対価は支払っていくのだ。
俺が進む山道の進路上、元南カンザク王国とカンザク王国の王都の中間付近の山間部の領主と、糸を紡ぐ技術を秘伝としていた山奥の農村とが結託して反旗を翻したのだ。
山間部の領主は何代も前のカンザク王国の王族の末裔でカンザク王国を立ち上げる際に尽力を惜しまず、功績をあげた結果、独立領主として現在にまで至っていたのだ。
地理的には山間部の領主であり害悪が無いように思われるが、樹木を売り払い禿山にして、山崩れや洪水などの災害が起きても知らん顔をしている厚顔無恥な領主と言われている。
また、この領地には山間部の一部優良な銅山を所有していたが、最近ではその銅山も枯渇し始めて、林業も禿山ばかりにして樹木の販売もままならなくなってしまい財政が立ち行かなくなり始めた。
そのため、今までどおりの裕福な生活を送るため高額な税率を領民にかけていたのだ。
真正カンザク王国の各領主には4公6民の税率をするように公文書による通達が来たにも係わらず、独立領主ということを盾に取り、それを無視して高額な税率を領民にかけ続けていた。
目障りな、真正カンザク王国の国王の俺がセレスティアとクロアティアスの二人を連れて領地近くを通るという知らせが届いた。
当然国王の俺の護衛や道路整備をすることを求めているのだが、領主はこれを
『奇貨おくべし』
と兵を集め、不満を持っている糸を紡ぐ技術を秘伝としていた山奥の農村部の村長に、今国王を殺せば今までどおりの暮らしができると、
問題の独立領主の領地に入ると途端に道が悪くなった。
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