第21話 魔の森の帝王の真実

 カプセルの中から一糸纏わぬエルフ族の俺達と同年代の美少女が立ち上がる。

 美少女はどことなく中性的で、彼女の長い銀髪が彼女の胸のわずかなふくらみと股間をかくしている。体つきもどこか中性的だ、彼女が

「メインコンピューター、我はクリフ・ハンガード2124世、状況を知らせ。」

と、鈴の音を思わせる声を天井に向けて発する。

『こちらメインコンピューター了解、貴女をクリフ・ハンガード2124世と認めステータス画面を譲渡します。』

 衣服と以前見た事のあるプラスチックの板を持った円柱型のロボットが現れるとエルフ族の美少女に服を着せプラスチックの板を渡す。


 俺のステータス画面がいきなり文字画面それも精霊言語の画面に変わる。メインコンピューターとリンクしているようだ、その内容は

1.M24星雲の蜘蛛型生物14体がメインコントロールルームに侵入、防衛ロボットが反撃約80パーセントが破壊され、残りは行動不能。クリフ・ハンガード2123世が捉えられ蜘蛛型生物のロボトミー手術を受けた模様。


2.魔の森の帝王の門番を負かした者があり船内、メインコントロールルームへの入室を許可した。メインコントロールルーム内で、その者が侵入していた蜘蛛型生物を殲滅したもの。


3.クリフ・ハンガード2123世は一週間の治療カプセル内治療が必要と思われる。行動不能の防衛ロボットは一週間で修理可能。

等、後は引き継ぎ事項らしい。


 エルフ族の美少女は、俺達がステータス画面を見ているのが見えるらしく、そのステータス画面をどこで手に入れたかを聞いてきた。

 彼女にエルフ族の二代目皇帝クリフ・ハンガードからだと言うと

「ちょうど百世代、期間にすれば千年程前にアクシデントから船長が指揮を執れなくなり。二人の船長が同時に存在した、この船の取り決めで、後の代の船長がこの船から出て、エルフ族の二代目皇帝クリフ・ハンガードになった。

 私も先代の船長の怪我が治ってしばらくしてから、船から出る事になると思うのです。その際は貴方方と旅をしようと思うの、私の事はクリフばかりだからクリスと呼んでこれからよろしくね。」

と言ってニッコリと微笑む。笑うと美少女だ!


 戦闘後蜘蛛型生物の宇宙服等の残骸が集められ、科学者らしい乗務員が冷凍冬眠から起こされて、それらを調べ始める。

 蜘蛛型生物については、宇宙空間での戦闘後は、この宇宙船と同様にこの惑星に落ちているが、その後は直接の戦闘などは無く、蜘蛛型生物の生態や武器等についてあまりどころか全く知られていないらしい。

 俺はクリスに広い空間が無いかを聞く、三層ほど下に元は食糧庫だった大空間があり、そこで魔法の袋に収納された

『救命艇:20名乗り、M24星雲の蜘蛛型生物用』

を取り出す。

 直径100メートルを超える20人乗りの宇宙船がグニャリと曲がりながら魔法の袋から出てくる不思議な光景を俺やユリアナとセーラ、クリスと科学者が驚きの目で見つめた。

 クリスや科学者が喜んで

『救命艇:20名乗り、M24星雲の蜘蛛型生物用』

に取り付いて解体し始めた。この宇宙船を調べれば、敵対する蜘蛛型生物の生活様式等の多くの知識を得ることが出来る。


 クリスからお礼にと俺達に

『移民船R-1』

のメインコンピューターの知識を伝えたいと言われる。

 医療用ロボットの付いたポットが三台並んでいる。これを医療ポットと言うらしい。前回のポットと違い異臭や不快な感じがしない。

 俺がポットに入ると守り刀がポットの蓋の上に浮く。

 シュッという音と共に良い香りがしたと思うと気持ちが穏やかになってくる。半覚醒の状態でポットの中で横になっている。

 知識がとんでもない勢いで頭の中に流れ込んでくる。

 俺の左鎖骨にチクリとした痛みがする。

「左鎖骨に付帯脳を形成した。」

と言うメッセージがステータス画面に表示される。

 次にステータス画面がリセット最適化プログラムが開始され付帯脳とリンクする。

 流れ込んできた知識と付帯脳の知識の正誤を調べていく。

 ただ所々虫食いのように知識の欠損がある。宇宙空間での戦闘によってメインコンピューターの一部が破損して修復できなかったようだ。


 身体の適正化プログラムが開始される。健康状態がチェックされ、何やら身体の細胞の活性化や遺伝子操作等が行われているようだ。

 ステータス画面にリンク画面が新たに設定された。

 リンク先は今のところ

『移民船R-1』

とユリアナとセーラ、クリスと設定されている。

 またシュッという音がして良い香りと共に半覚醒状態から目が覚めた。

 蓋がゆっくりと開いていく、ユリアナとセーラの二人の寝るポットの蓋もゆっくりと開いて来た。俺とユリアナとセーラの三人のステータス画面がリンクした。

 彼女達の驚きが直接伝わってきた。

 今までの知識とか教養が過去の前世紀の遺物なのだ。ステータス画面をもらった時もカルチャーショックを受けたがその比ではない。

 石器時代の人間が石の武器で戦っていたのが、ミサイルやロケット、光線銃で戦う世界に放り込まれたのだから。


 クリスのステータス画面が俺のステータス画面にリンクしてきた。個別に俺だけ直接リンクが出来るようだ。

「貴方は、あまりカルチャーショックを受けていないようだが何故なの?」

前世の知識等とは言えない・・・と思っていたら、

「前世の知識ね⁉」

俺は強制的にリンクを遮断する。プライバシーも何もあったものじゃない。クリスが驚いて俺を見る。

 俺の付帯脳から

『宇宙エルフ』・・・(クリス達の種族をそう呼ぶらしい)

では、意識の共有は普通の事らしい。また宇宙エルフの思想感には俺の前世の知識の中によく似た輪廻転生の理論もあるらしい。


 クリスが小声で

「ごめん、意識を遮断したかったら、リンクの画面中の意識遮断の項目を選んでみて、これで、貴方の知られたくない意識は遮断できるは。一度設定してもう一度リンクしてみて。」

俺はステータス画面を開き言われたとおりに設定し、クリスとリンクする。

「ごめん、私も一つ貴方に私の秘密を教えるね、私達宇宙エルフは雌雄同体で誕生するの。私の体もこのままでいれば男性体になり、女性の性器は消滅するの。お願いがあります。私を女性体にして欲しいのです。」

俺は

「その猶予期間は?」

思わず声に出して聞いた俺が馬鹿だった。

「半年以内に私を奪って‼」

等とクリスも声に出して言ってしまった。

 ユリアナとセーラの二人がそれを聞きとがめて、俺達を追求し始めた。クリスがとうとう雌雄同体の秘密を二人に話した。

 俺はユリアナとセーラの二人とも肌を合わせることを約束させられた。


 宇宙エルフの平均寿命が約1000年もあるらしい、その秘密の一つが医療用ロボットの付いたポット、医療ポットに入ることと、宇宙エルフの遺伝子によるものだそうだ。

 俺達も今回、医療ポットに入ったことで遺伝子操作を受けて長命になった、クリスと一緒に旅するときは、医療ポットをクリスの分も含めて四人分プレゼントしてくれることになった。

 先代船長のクリフ・ハンガード2123世だから、単純に200万年前からこの地に根差したらしい。当初は原住民と子作り等をして宇宙エルフの勢力拡大を狙ったが、風土病やウイルス感染等により壊滅した。

 特に酷かったのが、クリフさんがエルフ族の二代目皇帝クリフ・ハンガードを名乗った時である。

 魔の森の帝王内にある、ポットや医療用ポットの数も乗員用のみで限りがある。 

 クリフさんは、この地の風土病を避けるため原住民との間に出来た子供達等を連れて現在の地にエルフ族の国を興した。

 その後クリフさんは罹患していた風土病を他の人にうつさないようにするために滝の裏の家を作ったようだ。


 先代船長のクリフ・ハンガード2123世は当初1週間程度のカプセル治療で脳の損傷個所が治療されると思っていたが、蜘蛛型生物の卵が脳内や神経組織、体内の至る処に産み付けられていて治療は杳として進まなかった。

 虫が人の体の中に卵を植え付ける寄生虫か、そういえば、俺の喉に向かって蜘蛛の中のしわくちゃな醜い顔をした化け物が十字にひらいた口の中から細長い舌のような器官が伸びてきた。それが卵を産み付ける行為なのか。

 俺は思わず喉に手を当てる。

 それを見てクリスが俺を治療用カプセルに押し込む。

 難しい顔をしてモニター画面やステータス画面をしばらく見ていたが、ホッとした顔をして治療用のカプセルの蓋を開ける。

「大丈夫、貴方の体には蜘蛛型生物の卵は植え付けられていなかったは!」

と言って抱き起す時に軽く唇を合わせてきた。

 ユリアナとセーラの二人がその行為を見逃すわけもなく、

「クリスだけずるい。」

等と言いながら二人に熱い口づけをされた。


 俺達は蜘蛛型生物の解剖している場所に行く。

 解剖台に乗せられた蜘蛛型生物について解剖医が、蜘蛛型生物の特徴は水生動物でエラ呼吸をしていることだ。

 赤ん坊程の大きさだがこれで成人であり、頭と思っていた場所が生殖器官で、脳は心臓の近くにある等と説明してくれた。


「救命艇:20名乗り、M24星雲の蜘蛛型生物用」

の解体研究現場に行く。

 技術者が、コントロールルーム内の円形状に並んだ、小さな20個のプールは乗員用で、乗組員は水生動物であったことがわかる。

 プールの水は、この世界の水よりも栄養価が高いがこの世界の人体には無害である等と説明してくれた。


 蜘蛛型生物の使用した銃器が机の上に並べられている。蜘蛛型生物の宇宙服の構造上の問題かリボルバー、回転式けん銃が多い。

 全弾回転式弾倉から発射されると回転式弾倉が自動的に交換され、空になった回転式弾倉が弾薬庫に入り実包を装填後予備の回転式弾倉に回されるようだ。

 銃器を見ていると技術者が撃ってみるかと挑発するように声を掛けてきた。45コルト(コルト45は米軍の自動式けん銃として有名だが、同名のテレビ映画では回転式けん銃を2丁下げていた。古い~‼)とよく似た拳銃を選ぶ。

 身体強化魔法をかける。聴力は抑える。

 実包が装填されているか弾倉を開いて確認する。

 その際銃身の状況も見ておく、から打ちでもしておくか。

 弾倉から実包を抜く、45口径約11,5ミリより少し大きい50口径約12,7ミリだ、反動が凄そうだ。

 的に向かって何度か、から打ちしてから実包を装填する。

 銃の照門、照星を的に合わせて発射する

『ドッ~ゴン』

とものすごい轟音が室内に鳴り響き、銃身が跳起する。それを身体強化で押さえ込む。

 的が粉砕され、壁に大穴が開き外の樹木にも穴が開いた。そう言えば先程の戦いでは相手に一発も撃たせなかった。

 この銃は、もともと頑強で身体強化魔法を使える俺ぐらいしか使えない代物だ。

 俺は銃弾で開いた樹木の穴を木魔法で塞ぐ、外壁は技術者が消火器のようなものを持ち出し噴霧すると壁の穴が塞がっていく。


 俺は机の上に置いてあった同型銃3丁と全ての予備弾や予備弾倉をもらった。

 まだ、蜘蛛型生物の宇宙船の船内や宇宙服に銃器は沢山あるが今のところはこれでよい。

 先代船長のクリフ・ハンガード2123世のカプセル治療が終わるまでの間、魔の森の帝王

『移民船R-1』

の中で住むことになった。

 しかし、宇宙船内での食事は自動調理機で調理されたものだが・・・一般的な味で美味しくない。ユリアナとセーラの二人が時々魔法の袋から食糧を出して夕食を作ると、医師や技術者が食べたそうな顔をする。

 それ以後俺達が時々夕食を作り皆にごちそうする。舌が肥えて俺達がいなくなったらどうするのだろう?

 俺達がいなくなった後は、風土病の事もありメンテナンス人員を残してまた冷凍冬眠に入るそうだ。

 メンテナンス作業も終わったら船長を残して全員が冷凍冬眠にはいるそうだ。

 ほぼ全員が寿命がきており、風土病の悪影響で子供の作りにくい体になり、遺伝子操作などで乗員の人数を確保しようとしているが、年に一人か二人生まれるだけでうまくいかないようだ。


 この宇宙船内には大きな公園がある光を通すチューブにより太陽光がさんさんと照り付ける。

 中央付近には大きな書棚をもつ図書館がある。

 書棚の本はデーターの入ったDVDで、ステータス画面とリンクすると映像でも音声でも楽しめる。

 ハンモックを公園の木に下げて寝て本を読んでいたら。

 クリスにその場所をとられた。

 仕方がないのハンモックスタンドを作って寝ていたら、ユリアナとセーラの二人にもねだられたので作ってあげた。

 気持ちよく寝ている俺達を見て、疲れた顔の医師や技術者にお願いされたので人数分作ってあげた。

 元船長が復帰したのは俺達が魔の森の帝王の所についてから二ヶ月も経ったころだ。それから、元船長にこの二か月間の状況を引き継ぎ船長に復帰してもらう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る