第19話 精霊と魔の森の門番

 俺達は魔の森にある湖畔の館に戻った。俺は戻るとすぐに滝の裏の家のクリスさんのもとに転移する。

 懸案事項けんあんじこうの紙の製法について調べるためだ。川の水が必要なので湖畔の館側にある田畑の反対側に製紙工房と印刷工房を造った。

 その作業を終えて、湖畔の館に戻ると俺も16歳になった。この1年間で身長が伸びて、とうとう195センチを超える大男になった。


 16歳と言えば、前世では高校2年生か剣道でインターハイ出場を目指して部活と県の武道館で汗を流した辛い思いでしか・・・いや会った、ユリアナとセーラの双子とよく似た美少女で俺の初恋の相手、俺の奥さん、剣道馬鹿の俺に付き合って、剣道の部活を始め、一緒に武道館に行き、帰りにアイスクリームを頬張った、火照った体にアイスクリームの冷たさと甘さが思い出とともによみがえる。・・・俺の奥さんどうしているかな?

 等と思っていたらユリアナとセーラの二人に頬を抓られて

「何ニヤニヤしているの?スケベな事でも考えていたの?」

等と言われた。


 まあいいか、これからの魔の森の開発について二人と相談だ。

 滝の裏の家に行ったついでにクリフさんに魔の森の開発について相談したところ魔の森を開発するのであれば、魔の森の帝王のところに行け、行けば解ると言って具体的な相談に乗ってくれない。

 俺はクリフさんのいう魔の森の状況をステータス画面の地図表示で見てみる。

 ユリアナとセーラの二人のステータス画面では魔力量の関係から魔の森の全景の状況まではまだ見ることができない。

 それで俺のステータス画面の地図表示と彼女達のステータス画面の地図表示をリンクして魔の森の全景の状況を確認する。


 魔の森の中央付近に、魔の森の帝王と呼ばれる高さは3千メートルを超える魔獣植物が存在する。

 その魔の森の帝王を中心にして、半径およそ1,300キロで魔の森を囲むように小高い山脈が円形状に連なっている。ちょうど月のクレーターのようにだ。


無駄話1、半径1,300キロでは総面積が約530,66万平方キロで、世界の国の面積で6位のオーストラリアが769万平方キロ、7位のインドが329万平方キロで、その中間程の国になる。

無駄話2、3千メートル級の山としては、日本では富士山が3776メートルで有名だが、富山県にある剱岳をご存じだろうか?3千メートルに一歩及ばない2999メートルだそうだ。閑話休題。


 ステータス画面の地図でみて見ると、魔の森の帝王の住む場所は、湖畔の館の湖に流れ込む支流をさかのぼる事、馬で約半月程だから約1,200キロの位置にあるらしい。

 魔の森の帝王が魔獣植物の中でも高度な知能を有していて話し合いが行えて、友好も結ぶことができるのであれば、魔の森の帝王までの道程で、無用な魔獣植物との戦いは避けて行かなければならない。


 俺達三人は、俺の作った革製の厚底の登山靴に登山着を着て手にピッケルを杖代りに持つて魔の森の中に分け入る。

 リュックサック何それ、こんな時何でも入る魔法の袋は便利だ。そのうえ魔法の水筒で水は十分に確保できる。

 転移しながら魔の森の帝王の所へ行けばよいと思うだろうが、転移先の足元に魔獣植物があったら地雷を踏むようなものだ。

 それに転移魔法は目視で確認できる短い転移以外は一度行った場所しか行けないのだ。

 そう言うわけで歩いていく。

 馬で行かないのは馬ぐらいでは逃げていかない好戦的な食肉植物と出会うと戦いになる恐れがあるからだ。


 湖の支流に入る。

 足元に注意しながら歩いていると、淡く緑色に根元が光っている草花がある。これが魔獣植物である。これを踏まないようにして進むので時間がかかる。

 俺は二人を抱えて風魔法を使って空を飛ぶことにした。降りる時は、足元に注意しながら降りる。

 あれ?ユリアナとセーラの二人も全魔法が使えるのでは!・・・気が付いて二人を見ると放さないでと、もっと強く抱き付かれた。まあいいや!

 そんなこんなで1日の移動距離は馬が1日移動できる約80キロの半分位の距離になった。

 ユリアナとセーラの二人は新婚旅行みたいなものだからゆっくりと見物しながら行きましょうといって、時々邪魔をする始末だ。

 風魔法で空を飛び、支流の川沿いでテントを張る。


 そんな旅を続けて半月程経った、ある日の夕方、テントを張るための適当な位置を決めて、三人で優雅な夕食を取る。

 三人とも調理師やパティシエのスキルを身につけているので、夕食の良い香りが付近に漂った。

 カサコソと小さな草がすれる音がする。小さな淡い青色の光を身に纏った、薄い羽根を身に付けた女の子達が現れた。

 ユリアナとセーラの二人が恐れげもなく、その小さな淡い青色の光の子供達に近づくと、自分達の持つ魔法の袋から色々なクッキーを出して食べさせる。

 自分の体より大きなクッキーをもらって喜んで食べている。

 コーヒーカップの横にあるミルク入れにお茶を入れて、小さな淡い青色の光の子供達に渡す。

 小さな淡い青色の光の子供達から小鳥のさえずりの様な歌声が聞こえる。身体強化を使い聴力をあげて聞いてみると

「このお菓子美味しいね。」

と言っているように聞こえるが、俺にはやはり小鳥のさえずりだ⁉

 ユリアナとセーラの二人が、この子達は精霊で精霊言語を話しているというではないか。

 二人に精霊言語が分かるのかと聞くと。王家の門外不出の必須教養で子供のころに教わるそうだ。

 精霊言語は精霊魔法を使う為に勉強するそうだが、今まで精霊魔法を使えた人はいなかった。

 淡い青色の光を発する精霊達の言語は、二人が子供の頃に教わった精霊言語とはかなり違っているようだ、精霊言語習得の為、しばらくここで過ごすことにする。


 俺はかまどを作ってクッキーやケーキを作らされている。

 ケーキのクリームの中に精霊達が体を沈ませて喜んで食べている。

 俺達の作ったクッキーやケーキは大人気で、何体もの精霊が遊びに来て食べている。この小さな淡い青色の光の精霊達は水の精霊だそうだ。

 おかげで三日後、ユリアナとセーラの二人は精霊言語の教養もあってか流暢に精霊達と話せるようになった。その後は魔の森の帝王のもとに向かう事にした。

 俺は上手く出来ない。(そう言えば、前世の俺の英語の成績は最悪だった。)

 一週間後、ユリアナとセーラの二人は今度は精霊魔法を使えるようになった。

 俺は精霊言語すら上手く出来ない。(やっぱり語学の才能は無いのだ。)

 何となく二人の目が可哀想なものを見る目になっている。


 二人とも精霊魔法のスキルを身に付けたようだ。一匹というか一人の水の精霊が俺の肩に引っ付いて離れなくなった。

 よく見ると二人の肩にも水の精霊が乗っている。

 精霊の命は短い、長くて2年か3年程だそうだ。水の精霊三人が俺達を魔の森の帝王の所まで案内して連れて行ってくれると言う。(ユリアナとセーラの二人が通訳してくれたのだが、二人のどや顔が・・・!)

 水の精霊を連れた俺達が歩くと移動できないはずの魔獣植物がそそくさと動く?どうやら魔獣植物は全て動き回れるようなのだ!

 ユリアナとセーラの二人は何となく不服そうだ。

 二人とも俺が抱いて空を飛んでくれないので不服なのだろう。あれ?・・・今思ったのは俺ではない、肩に乗る精霊を見ると精霊がニッコリと微笑み

『貴方、愛されていますね。』

と言っている!言葉がわかる!

 よし、俺も精霊魔法を身に付けよう。その前に今ので、精霊言語というスキルがついた。スキル全部使ってマスターする。


 肩の水の精霊と話をしている俺にユリアナとセーラの二人が気が付く。

 その後は精霊達と話をしているうちに精霊魔法のスキルも身につけることが出来た。

 俺達三人の肩に精霊が乗るようになってから湖の支流を歩き2週間程すると、今度は淡く緑色に光る精霊達が夕食の時に集まり始めた。この精霊達にもクッキーやケーキを食べさせた。

 仲良くなった緑色の精霊は木の精霊で、水の精霊の反対側の俺達の肩に乗っかった。


 それから1週間も歩くと、とんでもない巨木が見えてきた。最初から見えていたのだが、山だとばかり思っていた。

 巨木の天辺には雪が帽子のように被っている。

 巨木の下には巨木の枝の影で出来た、薄暗い広々とした大地が広がる。俺達三人が巨木の枝の薄暗い広々とした大地の影の中にはいろうとすると、一人の真白なドレスを着て薄いショールを羽衣のような肩に掛けた綺麗な女性が目の前に現れた。

 俺達三人の肩に乗っていた水の精霊と木の精霊が集まって俺の後ろに隠れる。女性が水の精霊と木の精霊に向かって

「なぜこの者達を連れて来た。」

と精霊言語で叱る。

 俺の背中に隠れていた木の精霊が、木の精霊の上位種で魔の森の帝王の『門番』さんだと教えてくれる。


 その門番さんが

「ここを通りたくば、そこの男よ我と戦え!」

という、門番さんは両刃の剣を両手に持って優雅に構える。

 俺は守り刀を抜き出して正眼に構える。俺の構えを見て、門番さんの右眉が少し上がり、唇が嬉しそうに微笑むように口角があがる。

 それから三日三晩、一度も休まず俺と門番さんは踊るように戦いを繰り広げる。

 ユリアナとセーラの二人が、俺達の戦いに介入しようとしても、戦いの隙に魔の森の帝王のもとへ行こうとしても、結界のようなもので押し戻されてしまう。

 二人は、あきらめてテントを張りそこで休んだり、俺達の戦いを観戦しながら優雅にお茶を楽しんでいた。


 門番さんの踊るような剣が俺の喉を襲う、俺の守り刀も門番さんの喉を襲い、お互いの刃が肌に触れて止まる。

 お互いが剣をひく。

 門番さんが一旦休もうと剣を納める。

 門番さんが

『パチン』

と指を鳴らすと、木の枝から2個の瓢箪が降りてくる。門番さんが一個を俺に投げ与えて、中身を飲んだらそれを食べろという。

 瓢箪の中の液体は甘くとろみがある。体の隅々に力が湧いてくる。

 瓢箪の中身を飲み終えると、瓢箪も食べてみる。青臭さがあるが食べるたびに新たな細胞が活性化され筋肉が進化しているようだ。


 瓢箪を食べ終わると、門番さんと再戦だ、そのような事が後三度行われた。

 門番さんの白い美しい羽衣が翻る。俺の守り刀が一瞬早く門番さんの喉を征した。

 門番さんは美しい眉をあげて

「妾の負けの様じゃな!通過を許す。」

と言うと、

『パチン』

と指を鳴らす。瓢箪が三個が枝から降りてきた。

 門番さんは、瓢箪を俺と結界が解けて進むことが出来るようになったユリアナとセーラの二人に投げ渡す。

 俺達が瓢箪を飲み食べ終わると、門番さんがもう一度

『パチン』

と指を鳴らすと門番さんより幾分若い、よく似た女性が枝から降りてくる。

 門番さんはその幾分若い女性の額と額をあわせる、しばらくするとくたりと門番さんが倒れる。

 若い女が

「新たな門番です。これより貴方達を魔の森の帝王の所まで案内します。」

と告げる。

 今迄の門番さんの美しい体が崩れ縮み始める。


 何を思ったのか戦いの間、ユリアナとセーラの二人の背に張り付いて隠れていた、木の精霊3人が門番さんの身体にはいる。

 門番さんの身体は崩れ縮むのが止まり、わずかに胸のふくらみで女性体とわかるが特徴が無い、長い金髪も消え、目と鼻と口が顔に残った無表情な木のゴーレムが地に伏して倒れていた。

 崩壊が止まった元の門番さん、そのゴーレムが立ち上がりながら

「これより、私は貴方の下仕えです。『モン』と呼んで下さい。」

と言うではないか。

 下僕じゃ男で下仕えは女だから、女性でいいのかなど度と思っていると、新たな門番さんが

『パチン』

と指を鳴らし、瓢箪を降ろして「モン」に与えた。

 「モン」が瓢箪を飲み食べ終えると、顔の表情がもとに戻り始めて年相応の美少女になった。羽織っていた白い美しい羽衣が白いエプロンを着けたメイド服に変化しながらモンの体に纏わりついた。メイド服を着たモンが出来上がった。

 新たな門番さんがそれを見て満足そうにうなずくと、魔の森の帝王の所まで再度案内すると言って俺達の先を歩き始めた。

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