第18話 湖畔の館にて

 俺が男爵に叙爵し、押しかけ配下や押し付け配下それに今回王太子一行が魔の森の中にある湖畔の館に来たため人が増えた。それで湖畔の館の施設等を大きくしたのだ。

 たとえば、柔剣道場やトレーニングルームが拡張されたのだ。

 夕方寝る前には柔剣道場で、全員で居合道や剣道をしてから寝るのだが総勢29名が居合の刀を抜くには安全性の問題で狭すぎるので柔剣道場を広くしたのだ。

 剣道をする時に着用していた、ユリアナの赤胴などの防具やセーラの白胴などの防具も人気で色々な色の防具を造らされた。


 それに俺とユリアナとセーラが、朝いつものとおり体育館付属のトレーニングルームでウェイトトレーニングマシンを使っていると、ウコンさんとサコンさんの義兄弟がやってきて見ているので、誘って一緒にトレーニングをやってみた。

 その日から二人ともトレーニングが気に入ったのか、朝トレーニングを一緒に始めた。

 ウコンさんはどちらかというと痩せたアポロンタイプだ。瞬発力はあるが、筋力が少なく、筋持久力もない。一発勝負タイプだ。近衛の団長の息子で大貴族の跡取り息子だから、実家の武道を教える師範が一発勝負に賭けさせたみたいだ。

 ウコンさん本人も、確かに勝負勘と瞬発力で冒険者予備校の予選の優勝者だが、乱戦になると勝率が落ちると言っていた。 

 ウコンさんには、軽いウエイトの俺の作った腕当てや膝当て、鎧を着けてランニングしてから、十回やっと上げれる重量でトレーニングさせる。トレーニングを開始してから三か月で劇的に筋持久力や筋力がついてきた。

 義弟のサコンさんは実家の武道師範とそりが合わず、家を継がないことから冒険者になったほどで、筋力や筋持久力の必要性を痛感していることから体を鍛えて俺と同じヘラクレスタイプである。

 俺のトレーニングパートナーとしてかなりの高重量をピラミッドスタイル方式でトレーニングをした。その結果サコンさんにはもっと凄まじい筋肉がついた。

 急激に筋肉質な体形になっていくウコンさんやサコンさんを見ていたベックさんやヤシキさん、ジロウさんが負けじとトレーニングを始めたので、トレーニングルームが手狭になってきたので広げることにしたのだ。

 二日おきに、むさくるしい男6人でベンチプレスやスクワットをしている。

 ユリアナとセーラの二人は、むさくるしい男達とトレーニングをするのを嫌って、俺達のトレーニング日の翌日に軽いトレーニングを行うようになった。


 この栄養状態があまりよろしくない世界では、成人の男性の平均身長が150センチ前後である。

 その世界で、俺の身長は現在185センチで、まだまだ伸びそうである。

 ちなみにウコンさん達の平均身長は170センチ前後で、この世界では大男に分類される。

 早朝から俺とサコンさん達がトレーニングをしていると、トレーニングルームの扉から頭が幾つも並んでいる。王太子達が覗いていたのだ。

 それで覗いていたベルゼさんやハラさん、十二歳以上の女官見習いの子供達は、ユリアナとセーラの二人が俺達のトレーニング日の翌日に軽量のウエイトでトレーニングをしているので一緒にさせるよにした。

 十二歳以下の王太子をはじめとする子供達にはウェイトトレーニングはまだ早いので、フリーウエイトでのトレーニング方法やトランポリン、スキーのパラレルのマシンを作って使い方を教えた。

 トランポリンとスキーのパラレルのマシンは好評で、ユリアナとセーラも面白がってやっていた。それでさらにトレーニングルームが広がった。


 スキーのパラレルマシンに乗っているユリアナとセーラの二人を見て思いついた。そうだスキーをするのだ!

 前世、俺が住んでいた北陸地方にあるⅠ県は冬季は雪が降り積り、県内にもスキー場が何か所かあったので、よく子供達を連れてスキーに行ったのだ。

 俺のすぐ目の前の小高い丘には、運動を兼ねて果樹園をつくろうと牛馬を放って魔獣植物を食べてもらっていたことから、ちょうど初心者向きのいいゲレンデが出来つつあった。

 小高い丘の麓にある温泉の源泉のそばにロッジを作り、天気の好い日にスキーをさせたい。

 この世界には『かんじき』はあるがスキーは無い!スキーの板は木魔法で形成して、エッジをつける。ビンディングは金属と当然、動物の革ベルトだ。スキー靴も金属と動物の革で作る。

 ロッジを造り、スキー板のビンディングに工夫を凝らしたりしているうちに山々が赤く色付き始めた。


 牛馬用のサイロの中に干し草を詰め込んだ。

 冬季を乗り切るために魔の森の外に出て、カナサキ村の付近で猟をした。

 魔の森では開墾時に、沢山の魔獣や魔獣植物、獣を狩ると、魔獣植物や魔獣に襲われて、開墾した田畑どころか、開墾している農民を殺してしまうようなことが起きる。猟をする時も、それと同様な事が起きるのを防ぐためだ。

 カナサキ村には村長と冒険者ギルドの支部長に狩りをするための入山手数料などの必要な手数料等を支払う。

 その後で皆を連れて、カナサキ村の付近で猟をして、カナサキ村で冬季を乗り切るための必要な物を購入する。

 カナサキ村の鍛冶屋の商品は俺達が作った物に比べると品質が悪いが購入して、俺達で打ち直して品質をあげて、湖畔の館の付近で使う。

 カナサキ村で俺の作った商品を売り出すと鍛冶屋が潰れてしまうからだ。


 そのうちに雪が降り始めた、温泉プールに二重のガラスや雪囲いをしている間にゲレンデに真白な雪が降り積もり始めた。かなりの量の雪が降ってスキーで滑れる状態になったので皆を連れてゲレンデにむかう。

 当然寒がりなユリアナとセーラは毛皮の重ね着で人か太った獣かわからない状態になっている。弟の王太子も姉に似て寒がりなので毛皮の重ね着をして、ころころに膨れ上がっている。

 俺達は皆と手を繋いで温泉の源泉横にあるロッジ内に転移した。室内は温泉の地下熱と達磨ストーブで暖かくなっている。

 スキー板を履かせて、山の中腹に皆で転移する。皆には安全な倒れ方を教えてから、ボーゲンを教えて山を滑っておりさせる。歓声がゲレンデに中に響き渡った。

 昨年の温泉プールもユリアナとセーラの二人には好評だったが、今回のスキーも大好評だった。

 俺はボーゲンからパラレルターンへと滑り方を変えて滑って見せる。

 プールに引き続き、今回もサコンさんやウコンさん達が俄然やる気を出してパラレルターンの練習を始めた。

 ところが今度も最初にパラレルターンを使って上手く滑れるようになったのが汚水三人組だった。女官見習いの女の子達からさらにモテ始めた。三人組は中々運動神経が良さそうで、掘り出し物かもしれない。


 雪まみれになってロッジにもどり、ロッジに造った温泉や露天風呂にゆっくり入る。前世では、スキー場の宿の露天風呂で冷えた日本酒の徳利と檜の升を入れた檜の桶を浮かべて一杯飲む。

 良いな!今度は日本酒でも作るか⁉一応この世界にも濁酒のようなものはあるのだが、ドブ臭くてとても飲めた品物ではない。


 皆が初心者向きのゲレンデで、ボーゲンからパラレルターンで滑れるようになってきたときに、雪が解け始めてきた。

 王太子が王城に戻る日が近づいて来たのだ。王太子だけでなく、ウコンさんやハラさんも何となく寂しそうにしている。

 湖畔の館に来てからも、元お目付け役の隊長や女官頭はいるが、夜こっそりと、俺とユリアナとセーラの三人でダンジョン攻略を行っていた。

 近くの中級のダンジョンは全て攻略踏破しているのだ。

 王太子を連れて王城に戻る日に、亜人のルウから

「お盛んなようで。」

等と言われた。そうだ彼女は勘違いしているが地獄耳だったのだ。


 王太子は俺がうった刀に自らが彫金した拵えを備え付けて守り刀にした。

 剣道の防具とトランポリンとスキーのパラレルマシン、スキーの用具一式を土産に持たせた。

 ウコンさんとハラさんも俺がうった刀を守り刀にして、剣道の防具とスキーの用具一式の他は、ウコンさんはトレーニングマシンをハラさんは水着を土産にして持って行った。

 王太子を連れて王城と湖畔の館を行き来する間、湖畔の館にはベックさん家族とルウが残って留守番をすることになった。

 王太子を連れて行くだけなので日程は往復としばらくの滞在を含めて15日間程の短いものだ。馬に乗って片道5日間だ。

 途中のカナサキ村に着いた時、王城から王太子の迎えの近衛の部隊百人が待っていた。


 王太子を連れて王城に戻った。

 頼まれていた日本刀を国王に渡すと、国王から全て他国への贈答品や部下への下賜品とするので、王侯貴族や商人から頼まれたものものも渡すように言われた。

 王侯貴族や商人には国王からキャンセルさせたそうだ。

 さすが絶対君主国家!あまりにも王侯貴族や商人達が気の毒だったので彫金での練習で作ったブレスレットやネックレスが魔法の袋の中に死蔵されていたので、それらを箱に入れて渡してあげた。

 これが大人気になった。あとでその噂を聞いた国王から彫金で作ったブレスレットやネックレスも他国への贈答品や部下への下賜品にするからと取り上げられた。

 さすが絶対君主国家、逆らえません!


 商人を呼んで日本酒だけでなく、ウイスキーやウオッカ等のお酒が出来ないか聞いてみる。

 この世界では15歳から酒が飲めるようだ。これも慣習的に15歳で大人の仲間になったというだけのものらしい。

 俺が酒について頼んだ時、商人達は後ろにいる丁稚から薄い木簡をもらって書いている。

 滝の裏の家の書斎や図書館に置いてある本が紙だったので紙の文化があるとばかり思っていた。紙はロストテクノロジーなのか?

 王室の図書館の書籍を確認すると全て木簡か動物の皮だった!

 紙の作り方、コウゾとかミツマタ等の木の皮を・・・?ここまでしか知らん!今度、滝の裏の家でクリフさんに聞いたり、書斎や図書館で調べてみよう。

 お酒については既に滝の裏の家の書斎や図書館で調べているので、ステータス画面を見ながら説明した。

 ところが商人達はお酒はお酒、飲めればよく、水で味が変わる等と思ってもいなかったようで、生活用水が流れ込むような川でも酒造りをしていたようだ。

 濁酒がドブ臭くてとても飲めた品物ではなかったのはこのためだ。これでは衛生状態も悪くなり食中毒が多いのもこのためか?良い製品が出来そうも無いので自分でもつくるか!


 そんなことをしているうちに、あっという間に王城に泊まっている予定の5日間が経過してしまい、湖畔の館に戻ることになった。

 王太子が姉のユリアナとセーラの二人に引っ付いてなかなか離れず。

 ユリアナとセーラの二人も後ろ髪を引かれる思いで湖畔の館に戻っていったのだった。

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