第17話 領地

 カナサキ村を出ると俺達は全員が馬に乗って、乗れない子供達は皆馬に分乗して湖畔の館に向かう。馬に乗れるのは貴族の嗜みの一つである。

 俺のもとに推薦で近衛見習いと女官見習いに任命されたのは貴族の子弟とはいえ三男次女以下の子供がほとんどなので、長男長女や次男と扱いが違い馬に乗れる子は少なかったのだ。・・・馬の数はある何とかなるだろう。

 馬に乗ると言ってもあまり馬具類は進んでいない。

 くらあぶみしかない。くつわ手綱たづなは無く意志の伝達は魔法(テレパシー)を使うそうだ。

 俺は轡と手綱も用意した。


 湖畔の館に向かう一行の先頭はユリアナとセーラの二人が務め、俺は一番後で馬車や荷馬車を引く馬達を連れて行く、魔法の袋に馬車や荷馬車を入れるのは、人目につかない所でやらなければならない。

 何せ魔法の袋は持っているものが少なく、ユリアナとセーラの二人が持っている元の世界の大型トラック一台分が入るほどの魔法の袋が国宝級で、俺の持っている何でも入る魔法の袋は唯一無二の代物だそうだ。

 そんな魔法の袋を持っていると山賊や強盗に狙われると言われているのだ。

 それで、人目が無くなった魔の森の入り口の渓谷を出たところで俺が引っ張って来た馬車や荷馬車を魔法の袋に入れたのだ。

 ここで一服してから5時間ほどかけて宿泊地点の大きく改修したバンガローに着く予定だ。


 できるだけ、目を凝らして魔獣植物を避けながら、馬に乗って進むので時間がかかった。

 そのうち遠目で俺が設置したバンガローが見えてきた。

 それを見た全員が狭い中で雑魚寝したのを思い出したのか渋い顔になった。それが近づくにつれて大きく変貌しているバンガローを見て皆に笑顔が戻った。

 バンガローに着いてすぐに部屋割りをする。皆で思い思いの部屋を決めてから近衛見習いや女官見習いの子供達は元気一杯で外で遊び始めた。


 早速問題発生だ、汚水用に造った水溜に飛び込んだ近衛見習いの男の子達が三人いたようだ。高い塀で囲ってあったのに、その塀を乗り越えて飛び込んだのだ。

 この世界は風呂の習慣も水で泳ぐという習慣もなかったので、当然溺れている。

 俺は汚水の水溜りに飛び込んだ男の子達を風魔法で捕まえて、浅い小川の中に放り込む。

 驚いている男の子達の頭の上から水魔法の水をシャワーのようにかけて汚水を洗い流す。さすがに汚水の臭いで気が付いたのか三人とも黙って小川の水や俺の水魔法の水で体についた汚水を流している。

 三人はその後しばらく汚水三人組と呼ばれて腐っていたが、そのあだ名を振り払う程勉学や剣術に頑張って、魔の森の三羽烏と呼ばれるほどになった。


 翌日、バンガローを出て何とか無事に湖畔の館にたどり着いた。湖畔の館の部屋割りをしてから付属の施設等を案内をしてまわりその日は終了した。

 俺とユリアナとセーラは翌朝トレーニングや武道の稽古をしてから、湖畔の館の鍛冶場で俺は日本刀を打ち、ユリアナとセーラの二人は拵えの彫金を掘り始める。   

 鍛冶の槌の音を聞きつけたのか、ウコンさんとサコンさんの兄弟が現れて合い槌を打ってくれた。

 またその音を聞きつけたのか、ベックさんとヤシキさんとジロウさんが近衛見習いの男の子達を連れて来た。

 皆鍛冶仕事に興味を持ってくれたので、鍛冶仕事をさせようとしたが、これだけの人数では鍛冶場が手狭で危ないので、鍛冶場を広げて色々とやらせてみることにした。


 俺と一緒に行動しているユリアナとセーラが鍛冶場の一角で、日本刀の拵えの彫金を掘っていると、同じように槌の音を聞きつけた王太子に連れられてハラさんとルウがやってきた。

 王太子は鍛冶仕事よりも彫金の仕事をやりたいと姉二人の間に座って作業台に向かっている。

 ハラさんとルウも、ユリアナとセーラの二人に教えられながら作業台に向かって彫金を掘り始めた。

 その後、ベルゼ子爵夫人が女官見習いの女の子達を連れてきたので、近衛見習いの子供達と同じように彫金の仕事を色々とやらせてみた。

 俺達3人以外はステータス画面を持っていないので、スキルをつけることが出来ない事にも気が付いた。上手にできるのは個人の素質と努力の賜物だ。


 俺達が湖畔の館に着いた時は初夏、人員が増えたことから、今は備蓄の食料で何とかなるが、将来の食糧問題解決のために大きな田畑を造ることにした。

 田畑の開墾の場所は水回りの関係から、湖畔の館の隣で小川までの間に造ることにした。

 湖に近い場所は動物や魔獣が水を飲みに来て、地面を踏み荒らすためか魔獣植物がほとんど生えていない。

 生えていてもわずかで、土壌改良のために野生の牛や馬を放したところ魔獣植物を食べてくれた。クリスさんの言うとおり牛馬が魔獣植物を食べても魔獣や魔獣植物は集まらなかった。


 今まで馬に乗れなかったルウや女官見習いと近衛見習いの子供達も、集まった馬の中でもおとなしい馬に乗り、馬具類の問題点も解消されたのでそのうち馬に乗る事にもなれて湖畔の館の周りを馬に乗って競争したりして走り回って遊ぶようにもなった。

 牛馬が魔獣植物を食べた跡には指の先程の小さな魔石が吐き出されていた。ユリアナとセーラの二人にその小さな魔石を見せると、このようにあまりにも小さな魔石はくず魔石と言って利用価値が無いので捨てられていると言われた。

 何となく、このくず魔石を集めて大きな魔石に出来ないかと思い、牛馬用のサイロの隣にくず魔石用の大きなサイロを造って、くず魔石を放り込んで置いた。


 土壌改良を機会として牛馬も常時飼育することになった。

 牛からは牛乳やチーズなどの乳製品が大量に作れるようになった。

 食生活が豊かになったためか、全体的に湖畔の館までついて来たルウやベックさん一家の子供達、女官見習いと近衛見習いの子供達もこの世界の一般的な平均身長や体重よりも増加していた。


 湖の反対側の小高い丘の中腹付近、2キロ程先に温泉の源泉がある。その源泉から湖畔の館まで溝を造り温泉を通している。

 この溝が温泉の湯の花でよく詰まったりするので、転移魔法や風魔法でそこまで行って湯の花を取り除かなければいけない。

 点検整備の道をつくりるために、この溝に沿って牛馬を放して魔獣植物を食べてもらった。その結果、溝に沿って道が出来たので点検や整備がとても楽になった。

 源泉から上が小高い丘になっており、牛馬の足腰の鍛錬と果樹園栽培のために、その丘も牛馬に魔獣植物を食べてもらった。


 源泉からの温水を利用した温水プールや温泉は皆に非常に人気が高い。

 初夏で寒さも和らいだので雪囲いを温水プールから外して、二重のガラスの温室の温水プールにしたところ皆がワイワイ言いながら下着で泳ぎ始めた。

 皆で泳ごうとした時、ユリアナとセーラの二人が以前作ったビキニでは恥ずかしいというので、もっとおとなし気な水着を作ってあげた。

 ベルゼ子爵夫人とハラさんも同じような水着が出来ないかと言われたので作ってあげた。

 ベルゼ子爵夫人やハラさんの体形を測る時、ユリアナとセーラの二人からもの凄い顔で睨まれた。

 ルウや女官見習いの女の子達も泳いでみたいと水着を作ってくれとせがまれたので、色々の色のスクール水着を作ってあげた。

 男達はサーファーの穿くような水着にした。


 汚水三人組は汚水槽に飛び込んだのを思い出したのか神妙な顔でプールに入っていた。

 以前俺が作った木製のビート板を渡して近衛見習いと女官見習いの子供達に泳ぐ練習をさせた。

 水で泳ぐ習慣がなく水に対する恐怖心が強いのか、最初のうちは皆、水に顔を浸けるのを嫌がっていたが、慣れるにしたがって顔を水に浸けられるようになった。

 俺が平泳ぎやクロール等で泳ぐのを見て、サコンさんやウコンさん達が俄然やる気を出して泳ぐ練習を始めた。

 ところが最初に泳げるようになったのが汚水三人組だった。女官見習いの女の子達にモテ始めた。


 最初のうちは皆で泳いでいたが、ベック夫人が時間を決めて男と女の時間に分けてくれるように頼まれた。それで時間を分けたら、ベルゼさんとハラさんから今度はユリアナとセーラの二人が持っているようなビキニを作ってくれと頼まれた。

 今回は二人の体形をすでに測っているのでユリアナとセーラの二人からは変な顔をされたが、二人も手伝ってセクシーなビキニ等何点も作ってみた。

 ベックさんが、ベルゼさんのセクシーなビキニ姿を見て興奮していた。

 夏真っ盛りになると二重のガラスも取り外して温泉プールを楽しんだ。

 二重のガラスを取り外したときに牛や馬が入ってきてプールから出られないで溺れる事件があったので、牛小屋や厩舎の側に牛馬が歩いてでも出入りできる牛馬用の大きなプールを作った。


 遊んでばかりいたわけでは無い、鍛冶仕事や彫金の仕事は勿論の事、また鍛冶仕事が嫌な人は、木工芸品や陶芸、炭焼き等をしたり、食糧の問題で畑や田圃も広げるだけでなく果樹園等も作っていたのだ。

 牛馬を飼うようになったので多数のサイロも造ったのだ。

 ルウやベックさん一家の子供達や近衛見習いと女官見習いの子供達のためにも、教育を受けさせることにした。読み書きそろばんを中心とした寺子屋風の学校を作ってみたのだ。

 この世界の学校は冒険者予備校しかなく、そこである程度の読み書き算数を教えられるのだが、名前を書くのがやっとという程度だ。


 書籍は国宝で門外不出であり、王太子やユリアナとセーラの二人等の王侯貴族は別だが、それ以外の貴族は例外なく、文章は書記官が読み上げ、税収は徴税官が計算書を説明する。それで一般人を含めて学問をすることはほとんどないのだ。

 教育については手探り状態で、全く初めてのことなので、文字と絵を書いた積み木で文字を教えて見た。子供達には人気でベックさんやヤシキさん等の大人も文字を覚えるために使っていた。

 そのうち木のカルタも作って文字を覚えさせた。遊びの少ないこの世界は、これも人気で大人たちも授業に参加するようになった。


 数の概念もかなりいい加減で、一般的に万以上の単位は無く沢山で終わってしまうようだ。

 アラビア数字等は無くこれでは二桁の足し算、引き算もやっとという状況で、算盤を作って算数の計算をする授業を行ったところ、大人達も参加し始めた。

 一日2時間程度、国語と算数の授業をするようにした。


 ダンジョンの攻略は俺達とステータス画面を持っていない皆と入ると、俺達には魔力量が増えず攻略ポイントやスキルなどもやはり付かない。

 それでベックさん等が中心になり女官見習いと近衛見習いの子供達を連れて、時々初級ダンジョンを攻略に行っている。

 1ヶ月もすると王太子やルウ、女官見習いと近衛見習いの子供達に変化が現れた。子供達の魔力量や魔法の種類が増えているのだ。・・・慣れからくるのか魔力切れ寸前で昏倒する安全装置が外れて完全に魔力切れを起こすようになったのだ。

 ベルゼ子爵夫人等の大人は2ヶ月後に変化が現れたようだ。

 王太子は滞在期間の1年間で読み書きそろばんを身につけ、目に見えて魔力量や魔法の種類や精度をあげていった。

 それが自信になったのか、王太子は美少年に少し凛々しい顔つきが加わった。いい土産ができた。

 湖畔の館は、人が増えたのでかなり館の施設を大きくしていった。

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