第15話 冒険者予備校の卒業式 男爵に

 今春が冒険者予備校の卒業式なので、最初に冒険者予備校内にある冒険者ギルドにいき、いくつも並んでいる受付の窓口にDランクの冒険者カードを三人並んで渡す。

 受付のお姉さんは渡された冒険者カードを、前世のカード読み取り専用の機械とよく似た機械にカードを差しこむ。その冒険者カードには攻略踏破したダンジョンの数が初級、中級、上級別に自動的に書き込まれていくのだ。

 俺達は上級の数が2と打ち込まれるのを見たが、その2つのうちの1つが、白龍の転移に紛れこんで、白龍の上級ダンジョンの最深部まで行って倒しただけなのに、攻略踏破のカウントに入っているのには驚いてしまった。

 冒険者ギルドの受付嬢は、最初はにこやかにというか少し馬鹿にしたような顔をしていたが、カードの数字を見ていたお姉さんの顔がそのうち、赤くなり汗を流し始めたと思ったら、今度は青ざめ始めた。


 俺達三人のカードを持ったまま三人の受付のお姉さん達が、異口同音に

「しばらくお待ちくださいませ。」

と言って、後ろのギルド支部長の部屋に走る・・・走り方がバタバタして変だ!

 冒険者予備校の冒険者ギルド支部長が焦って部屋から出てくる。その後ろから以前世話になったことがあるカナサキ村の冒険者ギルドの支部長がついて出てきた。

 俺達三人は支部長の部屋の隣の応接室に連れてこられた。何でもAランクどころかSランクを越えてSS(2S)ランクになるそうだ。

 SSS(3S)ランクは、現在の魔王と呼ばれている人、一人だけで、SS(2S)ランクも国に一人いればよいと言われるほど稀少だ。


 冒険者予備校の冒険者ギルドの支部長は焦って俺達に上手く説明が出来ないようで、それを見かねたカナサキ村の冒険者ギルドの支部長が

「坊主と嬢ちゃん達、ギルドとしちゃ三人とも実力どうり2Sランクになってもらいたいが、他の長年冒険者としてやっていた者達がいい顔をしねい、下手すると闇討ちだの、決闘だのと言ってくる阿保な奴もでてくる。

 特に二人の嬢ちゃんは良い処どころか、王侯貴族の嬢ちゃんだ、誘拐だってされかねない。

 坊主と嬢ちゃん達、ここは相談だ、冒険者予備校の卒業とすれば今までBランクで卒業した奴が最高だ、Aランクで手を打ってもらえないかね?」

 三人で顔を見合わせていると、カナサキ村の冒険者ギルドの支部長が

「表向きはこのAランクのカードを渡して、冒険者ギルドにはこのゴールドの2Sランクのカードを預かっておくからな。」

とニヤリと笑った。


 その後は冒険者予備校に、その冒険者カードを持って行けば卒業の単位がもらえる。

 冒険者予備校の受付でもAランクの冒険者カードを見て、受付嬢が驚いて学校長を呼びに行ったが、王女と公爵令嬢の二人を見て卒業式で会いましょうと言って冒険者カードを返してくれた。

 その後、ギルド長、冒険者予備校の冒険者ギルドの支部長、カナサキ村の冒険者ギルドの支部長と冒険者予備校の校長が慌てて王城に向かって、国王と宰相それに近衛の団長を交えて何事か会議をしていた。


 冒険者予備校の卒業式といってもそんなにたいしたことは無い、冒険者カードを渡して式が終わる。

 卒業生の皆は流石に冒険者カードをAランクでもらう者などいないだろうと思っていたらしい。

 ところが蓋を開けるとあらビックリ剣士の部では俺が、魔法の部ではユリアナとセーラの二人がAランクになった。

 式が終わって、ユリアナとセーラの二人は護衛付の馬車で王城や公爵家に戻っていった。

 俺は王女ユリアナと公爵令嬢セーラのダンジョン攻略のパートナーではあるが、いまだ二人の許婚だとは公表されていないので、公の場で二人の馬車には乗れない俺一人で公爵家の離れに向かうことになった。


 それで俺一人が、嫉妬と不正をしたのではないかという猜疑心の的になり、俺を倒せばAランクどころかSランクも夢ではないと思って、卒業生どころか在校生まで俺を倒そうと襲いかかってきた。

 Aランクでもこれだけの騒ぎになるなら2Sランクをもらっておけばよかった。

 最初に向かってきたのが酔っ払いのベックさんだ。入校当初は俺の身長が140センチしかなくベックさんが170センチ、その時でもベックさんは今世の大人の平均身長150センチを超える大男だ。ただ、今の俺は身長185センチのヘラクレスタイプだ。

 さらに残念なことにベックさん、この5年間に育ったのはお腹周りだけで、酒焼けした赤ら顔で5年前の腕や脚の筋肉が衰えて見る影もない状態だ。

 両手に大斧を持って昔取った杵柄とばかり振り回しているが、大斧を振り回しているのか、振り回されているのか判らん。

 すぐバランスを崩したので足をかけて転がして頭を一発殴って倒す。


 次に出てきたのが冒険者予備校の予選に出てきた、剣術道場の次男で棒術を使う奴だ。名前を「ジロウ」さんと言い、翌年冒険者予備校に見事入校したそうだ。

 相手は以前はただ棒を振り回すだけで、隙が多かったが、右本手の構え、右手・右足が前でぴたりと杖寸4尺2寸1分(約128センチ)直径8分(約2,4センチ)の杖先が俺の右目を狙う。俺も守り刀を抜いて構える。

 ジロウさんは左手を引っ張って親指を外して、右本手打ち、頭部を目がけて打ってきた。打ってくる杖を摺り上げ面で、棒術男の面を切る。棒術男は右に体をさばき、右手が動き俺の左こめかみ目がけて杖先が飛んでくる。

 だがここまでだ、棒術男の身長150センチ、俺の身長185センチ、頭一個分だけ俺が高いため、奴の杖先は俺の左肩に向かってきた。

 杖をぶ厚い筋肉で受けるのは悪手だ!勢いを殺して止めたとしてもダメージが体に残る。戦いはこれだけではない!後続が何人も見える。

 俺は前に出ながら棒術男の腹部を蹴る。棒術男は後ろに吹き飛ぶ、俺の手には棒術男の杖が左手に残っている。


 次は、20歳位の超イケメンの男「ヤシキ」さんという、確か正妻の義妹の替え玉受験男だ。

 このヤシキさんも翌年冒険者予備校に再入校したらしい、ヤシキさんは両手に剣の柄に輪っかの付いた剣を持って現れ。両方の剣の輪っかに指をかけて回し始めた。

 回している剣で防御しながら近づいてくる。俺は守り刀を腰に差して戻す。

 俺は棒術男の杖を杖道の右引き落としで構える。

 その構えは、左足を前に、杖先を持った左手を左の乳の高さに持って行く。

 ヤシキさんは両剣をしっかり持つと、左剣で防御しながら右剣を俺の正面を打ち前に出てきた。

 俺は左前方に出て、右剣を体捌きで避け、左手を下げながら杖先をヤシキさんの鳩尾みぞおちに向けるとそのまま突く。

 ヤシキさんは左剣で杖を押さえるとそのまま滑らせながら持ち手を狙ってくる。

 俺は杖を押された瞬間一寸抗って力を入れると、ヤシキさんが力を入れ返したので、その力を使って右手を回して、左頬を杖先で殴ってヤシキさんを地面に沈める。


 今度は近衛の隊長のウコンさんとよく似た若い男が現れる。

 相手はベックさんと同じ位の身長でウコンさんよりも背が少し高くて若い。彼は両刃で刃渡り120センチはあろうかという大剣を持って向かって来た。

 出逢った頃のウコンさんはどちらかというと痩せたアポロンタイプが、俺とのトレーニングでしなやかで強靭な筋肉を身につけた。

 このウコンさん似は、更に鍛え筋肉が鋼のようだ、どっしりとした構えは重厚で威厳に満ちている。

 大男で大剣を持っているので間合いが遠い、俺は刃渡り2尺9寸7分(約90センチ)の守り刀に似せて打った日本刀を抜き出す。

 俺が日本刀を抜き出すとき、ウコンさん似の若い男は勝機とみて一足で俺に近づくと、大剣を顔面に・・・違う力が入りすぎて腕が縮んだのだ!

 大剣の重さで体が泳ぐ、俺は体を捌いて相手の首筋に峰打ちで倒す。


 後は乱戦になった、首筋にちくりと痛みが走る。若い女が吹き矢で狙ってきた。毒物それも即死するような猛毒だ、耐毒性のスキルを身につけていたから良かったものの、これでは戦えなくなるとこだった。

 若い女は、毒に耐えて戦う俺を化け物を見るように見ている。

 斧を持った男がいきなり横の路地から走り出して飛びかかって来た。その男がいきなり崩れる。首に矢が刺さり、絶命している。

 矢から腐臭が漂う、毒矢だ!近くの民家の屋根に少なくとも十人以上いる。

 事態が分からずまだ切りかかってくる奴がいるが、他の者が異変に気付き切りかかろうとする奴を止める。

 一応何でもありだが毒物は禁止されている。


 それと街の真中での弓矢の使用だ、不文律ではあるが街中での弓矢の使用は王家に対する謀反とみなされる。

 俺は王女ユリアナと公爵令嬢セーラのダンジョン攻略のパートナーで、公にはされていないが二人の許婚だ。

 これは謀反と疑われても、無理はない、それに人一人が亡くなっている。俺は守り刀の雷神を右手で抜き出し、高く掲げると雷神の力に乗せて俺も雷神魔法を広範囲に使う。

『バリ』『バリ』『バリ』『バリ』

と雷鳴が轟き雷光が煌めき稲妻が駆け廻る。

 雷神の力と雷神魔法により屋根の上、遠くで弓を構えていた者までも髪の毛をブスブスと焦がして気を失っている。


 近衛の団長さんをはじめとして近衛兵が200名程駆けつけてくる。

 俺は屋根の上で弓矢を使っていた者十数名の優先的に捕縛と、吹き矢を使った若い女の捕縛をお願いした。

 吹き矢の若い女は、捕縛のために髪の毛を掴むとずるりと禿げ頭になり、痩せたあまり特徴のない顔をした男の変装であった。

 その男の持ち物の吹き矢からも毒物が検知され、毒物を使った殺人未遂と言うことで、禁忌の魔法、精神に侵入し真実を探す精神感応を行った結果、各国で暗殺を生業とした男で魔王の手先あることが判明した。

 その男は現在の魔王の居場所等については強い暗示によるものか鼻血を出しながらも精神感応に耐えたそうだ。

 他の弓矢の男達はこの男の手下で、魔王については知らなかったようだ。

 この男達は反逆者として公開処刑された(目には目を、歯には歯をである)。

 その他の者達については、俺を倒して楽をしてランクアップしようとしただけだと判明した。


 近衛の団長さんがウコンさんとよく似た若い男を連れて来て

「こいつは、ウコンの一歳下の義理の弟でサコンという。家督の相続でごたごたするのが嫌で、冒険者になると言って飛び出して家により付かなかったのです。

 今回は貴方を倒して一旗揚げようと考えたのです。

 虫の良い話かもしれませんが一度使ってみて良いと思ったら部下にしてもらえないか?」

との話だ。

 次に、大男のベックさんを引っ張って、

『ちょっと年増だが震い付きたくなる良い女』

というセリフがぴったりな身なりの良い女性が

「私は子爵のベルゼと申します。

 子爵家を保つため、冒険者予備校にいたベックを有望と認めて再婚し二人の子をもうけたのですが・・・。

 今では飲む打つ買うの三拍子で、かなりの資産のあった我が子爵家を食いつぶしてしまったのです。とうとう立ち行かなくなり、ベックは貴方を倒して一旗揚げようと考えたらしいのです。

 恥ずかしい話ですが、明日の米もないという貧困状態にまでなってしまった今。貴方なら家族一同を救える、家族全員部下にしてもらえないでしょうか?」

と言う。

 まだ部下を雇えるような身分ではないがダンジョン踏破の資産なら山ほどある。


 そんな話を聞いているうちに、今回の事について聞きたいと城から呼び出しがあった。

 復旧建設途中の城に入り、出来上がった新しい謁見室に通される。

 王と宰相の公爵が並び立ち、ユリアナとセーラの二人は王侯貴族の席から離れて俺の近くの席に座る。二人の頭に王女や公女地位を示すティアラは着けていない。

 王が立ち上がると、王都の冒険者ギルドの支部長が三枚の「SSランク」の黄金のカードを捧げ持って横に立つ。

 王はユリアナとセーラの二人に順番に「SSランク」の黄金のカードを労いの言葉をかけながら渡す。

 俺の名前が呼ばれる。

 前世の「カミムロ スグル」ではなく「ヤマト スグル」と!

 謁見室内がざわめく、俺は内心動揺しているものの、俺も王も平然として式を行っていく。

 王は俺に「SSランク」の黄金のカードを渡しながら、

「男爵に叙爵し、領地を『魔の森』を与える。王都内に男爵邸を建てることを許可する。」

「ユリアナ王女とセーラ公爵令嬢の二人の婚約を許す。」

「ユリアナとセーラの二人に降嫁を許すことを前提に二人の身分を剥奪する。」

と言うものだった。


 魔の森は、何処の国にも所属していなかったはずだ。

 カナサキ村の冒険者ギルドの支部長が俺が魔の森から現れたのを聞きつけたので、魔の森を俺に与えられたのだろう。

 それにこれで広大な魔の森がカンザク王国のものになるのだ。

 これで公に魔の森近辺が、俺の統治下に入るのだから良しとしよう。


 本来ならユリアナとセーラの二人は、嫌だとはいえヤマト帝国との政略結婚の駒にされる予定で周りも、問題があったとはいえそうなると思っていた。

 ここに、ヤマト帝国の王太子しか持つことのできない守り刀を持った男の俺が現れたのだ。

 俺はユリアナとセーラの二人とも仲が良く、瞬く間に「SSランク」の黄金のカードを収得した。

 国王達はユリアナとセーラの二人が「SSランク」の黄金のカードをもらえたのは俺のお零れに与っただけだと思っているようだが、これは二人の努力の賜物なのだが。

 何はともあれこの勢いで、俺はすぐにも「SSSランク」のプラチナカードを収得するかもしれない人間国宝だ。国の中枢である国王や宰相そして近衛の団長達は、俺に二人を渡してカンザク王国にその綱で引き繋ごうと言う意見で一致した。

 これ以上他の冒険者達が暴走して、俺達三人が王都で襲われたりするのは大きな問題になってしまう。それが嫌だと、王国から馬車や荷馬車が与えられた。

 早く領地の魔の森に行けということらしい。俺達三人も国王達の意をくみ取り、魔の森の湖畔の館に向かう事にした。

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