第13話 カンザク王城半壊 

 奴がカンザク王城の窓を打ち破って外に飛び出したので、俺は奴を追いかける。奴は広い庭園にとフラフラと泳ぐように歩いて向かっていく、俺も奴について庭園に向かっていく。

 ユリアナとセーラの二人が俺達を追ってくる。

 奴が庭園の真中で立ち止まって振り返る。立ち止まった奴の体の皮膚がもっと大きく崩れる。その崩れた皮膚から体の中にある禍々しい黒いウジのようなものが蠢きながら零れ落ちる。

 零れ落ちた黒いウジをユリアナが赤龍の炎の火で焼き払い、セーラが白龍の聖水で浄化していく。

 奴に俺は火魔法の火の玉をぶつける。奴が燃え上がりながら苦しみもがく。


 俺は奴に

「俺の母をどうした?」

と聞くが、奴は崩れた顔で

『ハッハッハッハッハ』

と笑うだけだ。俺は魔力を上げて奴を燃やす。

 奴は今度は、額の禍々しい気を放つ真黒な魔石を両手で押さえて苦しみ始めた。

 奴の魔力があがってくる。奴の魔力がどんどん上がると急激に額の禍々しい気を放つ真黒な魔石に魔力が吸い取られる始めた。


 奴の魔力どころか俺の火魔法も奴の額の禍々しい気を放つ真黒な魔石に食われるように吸い取られる。それどころか、零れ落ちた黒いウジをユリアナが赤龍の炎の火で焼き払う炎や、セーラが白龍の聖水で浄化している聖水さえも飲み込んでいくではないか。

 俺はそれを見た途端、危険を感じてユリアナとセーラの二人を抱きかかえると城内の謁見室に転移して戻った。

 謁見室内に残ったカンザク王国の国王やヤマト帝国の使節団を呼び集める。

 ユリアナとセーラの二人に聖魔法のドームを張らせてその中に国王や使節団員を入れる。俺も聖魔法のドームをその内側に張って強化する。

 ステータス画面に奴の様子がリアルタイムで送られてきた。


 奴の額の禍々しい気を放つ真黒な魔石に奴の魔力がドンドン吸い取られていく、禍々しい黒いウジのようなものも吸い取られるように細くなり、奴の衣服が脱げ落ち、奴がついには額に禍々しい気を放つ真黒な魔石を角のように生やした骸骨になってしまった。

 その骸骨の骨も禍々しい気を放つ真黒な魔石に吸い取られ、頭蓋骨も吸い取られるとついに魔石が爆発?した。

 禍々しい気を放つ真黒な魔石の爆発は音や炎、煙が出るものではなく、漆黒の闇が奴のいた、魔石のあった場所を中心として球状に拡大していくのだ。


 その漆黒の闇の広がりに、生のあるものが触れるとあっという間に死に絶え、白い灰となり、その灰も黒い闇に飲み込まれて消えていく。当然草木もその闇に草花の葉が触れただけで全体が白い灰となり漆黒の闇に食われていく。

 地面も当然半球状に漆黒の闇に食われて大穴が広がっていく。

 上空を飛ぶ何羽もの鳥が漆黒の闇に食われて白く灰になると落ちていく。

 その漆黒の闇がカンザク王城に食いつく。漆黒の闇により半球状に城が少しづつ消えていくのだ。


 漆黒の闇がセーラが張った一番外側の聖魔法のドームに届く、セーラの額に汗が滲む。セーラが張った聖魔法のドームの周りが漆黒の闇に食われていく。漆黒の闇に負けてセーラが張った聖魔法のドームがはじけて消える。セーラが魔力切れで糸が切れたように崩れて倒れる。

 今度はユリアナの顔がゆがむ、ユリアナの額にも汗が滲み出す。ユリアナの張った聖魔法のドームに漆黒の闇が食らいつく。セーラの時と同様にユリアナの張った聖魔法のドームの周りが漆黒の闇に食われていく。ついに漆黒の闇に負けてユリアナが張った聖魔法のドームがはじけて消える。セーラと同じようにユリアナも魔力切れで糸が切れたようにクタクタと崩れるように倒れてしまう。


 最後に俺の張った聖魔法のドームに漆黒の闇が食らいつく。重い!聖魔法のドームが漆黒の闇に食われていく、俺はそれに対抗するように聖魔法のドームに魔力を注ぎ込む。

 俺の張った聖魔法のドームの周りが漆黒の闇に食われていく、俺の周りにある城の壁が、床が、天井が漆黒の闇に食われて、どんどん消えていくのだ。

 ふっと聖魔法のドームにかかる漆黒の闇の重さと食われる感覚がなくなり、漆黒の闇が急激に奴のいた場所に目がけて収縮していくのだ。

「アブナイ、アブナイ!」

冷汗が背を伝う、俺は奴が消した半径1キロ、穴の最大深度1キロにも及ぶ半球体状にあいた大きな穴を見る。奴の放った闇魔法の死臭と瘴気が付近に漂っている。


 俺はヤマト帝国の使節団の皇太子から殺気を感じる。俺にはもうあまり魔力量が残っていない、咄嗟にユリアナとセーラを抱えて転移する。

 俺は咄嗟の事でカンザク王城の城下近くの青色の初級ダンジョンの中に転移して一番近い部屋の主を倒す。そこで完全に魔力切れでフラフラしながら、二人をサーベルタイガーの革に寝かせて・・・

 寝ていた。両腕が重いユリアナとセーラの二人が俺の腕を枕にして体に絡みついている。しばらくすると二人とも目を覚ます。俺が見ているの知ると二人とも恥ずかしそうにして俺から離れる(デジャヴュを感じる、彼女達と再会した時だな)。


 俺達は目覚めのお茶にする。魔法の袋からティーセットを置いた机と三人分の椅子、小型のコンロを出して魔法で火をおこす。魔法の水筒の水を俺が作った薬缶に入れて湯を沸かす。ティーセットでお茶を飲む、俺の作ったクッキーもつまむ。

 俺はユリアナとセーラの二人に

「俺はヤマト帝国の帝王とエルフ族の母親との間に生まれた。当初、帝王には男子が産まれていなかったので王太子として『ライジン(雷神)』を与えられたのだ。 その後、正妻の子である現在の豚皇太子が生まれた。それで俺は一旦王太子を廃嫡され御継様になったが『王太子』の象徴である守り刀『ライジン(雷神)』を取り上げらず、正妻の子を『皇太子』、俺は『王太子』になったのだ。

 その後、俺はさっきの奴に帝都から連れ去られたのだ。

 俺は、ヤマト帝国にいるであろう母親に会いたいのだ。」

と俺の身分と生い立ちを二人に話す。


 俺の話が終わると、ユリアナとセーラの二人は、それではヤマト帝国の使節団に三人でついて行くのは如何か?と言うが・・・悪手だ!

 豚皇太子がユリアナとセーラの二人の嫁をヤマト帝国に連れて来たと言って、既成事実にされてしまうからだ。

 また、豚皇太子の母親に俺が暗殺されてしまうかもしれない。されはさすがやらないとは思うが。

 俺一人で行くとユリアナとセーラの二人に告げると大反対されたのだ。

 理由としては、豚皇太子の一時婚約者にされかけた姉二人や、その後に生まれた妹に会いにいくのだろうとか。浮気するつもりだ等と言うものだ。

 結論としては、ヤマト帝国の使節団の豚皇太子には、黒龍、赤龍、白龍に認められた冒険者である俺がユリアナとセーラの二人の婚約者であると言うことであきらめてもらうことにした。

 ただ、魔王の存在が不気味であるが・・・!

 俺達はヤマト帝国には冒険者として行くことにした。

 しかしそれはもっと後の事だ。


 俺達は一度、カンザク王城に戻り奴の作った大穴を埋めることにする。転移して戻ると、ヤマト帝国の使節団が挨拶もせず帰国した後だった。

 結局、豚皇太子には二人が俺の婚約者になったと告げる事ができなかった。

 穴の中からは、奴の放った闇魔法の死臭と瘴気がいまだ色濃く残っている。

 漆黒の闇が奴のもといた場所に収縮した。奴が額につけていた禍々しい気を放つ真黒な魔石に漆黒の闇が集まったはずだ。

 魔石はどこだ?俺は身体強化魔法を使い視力をあげて穴の中を見るが⁉無い!禍々しい気を放つ真黒な魔石が無いのだ。

 ヤマト帝国の使節団の魔法使いの随行者がそれを遺品だと言って回収していったそうだ。

 そういえば、豚皇太子を聖魔法のドームで守っていた奴がいた。そいつだろう。


 ユリアナとセーラの二人の説明により、俺はユリアナの父カンザク王とセーラの父公爵から婚約を認められた。

 半壊して住めないカンザク王城ではなく公爵家の別宅に俺とユリアナとセーラの三人で住まわせてもらう事になった。

 ただし、俺がユリアナとセーラの二人に悪さをしないように、お目付け役兼護衛役の女官や近衛兵付ではあるが、おかげで三人とも魔力切れで爆睡していても大丈夫だったが⁉

 なんで魔力切れになるかというと、俺とユリアナとセーラの三人で聖魔法を使って穴の中を浄化しているのだ。さすがにでかい穴をあけてくれたので聖魔法で浄化するのに半月ほどかかった。この穴を聖水で満たそうかと思ったが、水深が1キロにも及ぶ大きな池は危険であり、シャレにならない。

 カンザク王国からは大きな穴をゴミ捨て場にしようと言う案が出たが!却下だ!


 俺はカンザク王城の田園地帯の真ん中にあり農作業の作業効率を落としている岩山を崩す許可をもらう。その岩山で、このでかい穴を塞ぎカンザク王城の復旧の資材にするのだ。

 俺とユリアナとセーラの三人でまずは、岩山の上の灌木や喬木を木魔法を使い伐採する。伐採した灌木や喬木は魔法の袋を使い、半壊したカンザク王城の建設用木材として城の庭に置く。

 灌木の中には何本か香木があったので、休みの日には部屋の中で香木の匂いを楽しむ。

 ユリアナとセーラの二人は香木の匂いに好き嫌いがあるようだ。ユリアナは上品ではあるが少しきつめの匂いを好み、セーラはあわく爽やかな匂いを好んだ。

 この後、香木の匂いに誘われて公爵夫婦が部屋に入って香木の匂いを楽しんだ。それによって、カンザク王国の王侯貴族の間で香木の文化が根付いたのだ。


 岩山の伐採は1週間程かかった。次は岩山の解体作業だ、湖畔の館の建築で散々な目にあっているユリアナとセーラの二人はうんざりとしながら、土魔法で岩を切り出している。

 ユリアナとセーラの二人が土魔法で岩山の岩を切り出した途端、おやと言う顔で俺を見る、それはそうだ、湖畔の館以降、初級ダンジョンどころか中級ダンジョンを何か所も踏破して、その後は毎日魔力切れを起こして倒れるような毎日を送っているので二人の魔力量が飛躍的に増えているのだ。

 最近ではユリアナとセーラの二人はステータス画面で魔力切れ寸前の一歩手前の状態で作業をやめる。

 何でも今までは魔力切れで何もわからないまま俺に転移で運ばれているのが面白くないと言うのだ。二人は恥ずかしそうであるが何となくうきうきした顔で俺に抱かれて転移するのだ。


 二人は俺が転移の魔力量を残して魔力切れ近くになるまでの間、二人で遊んでいたが、俺が作業の合間の一服する時に居合を教えてくれと言い始めた。

 ユリアナは真赤なリボンで長い髪を後ろで縛り、真赤な稽古着と俺が打った守り刀の日本刀を腰に差し、セーラも真白なリボンで長い髪を後ろで縛り、真白な稽古着に同じく俺が打った守り刀の日本刀を腰に差して居合を抜いた。美少女二人が並んで刀を見る姿は美しい‼ 

 当然のことながら、二人はこの国の王族の姫君だから転移先にも、お目付け役兼護衛役の女官や近衛兵達が配置されている。そのお目付け役兼護衛役の女官や近衛兵達は二人の居合を抜く艶やかな姿に見とれていた。


 特に近衛兵は、二人の姫君が片刃の細いが切れ味鋭い剣を腰の鞘から出し入れしているのに興味を持つた。この国では両刃の剣が主流で、どうしても剣を抜き出すときに抜き出す速度が遅れる、そのうえ剣を上から抜き出すような形になるので胴が、がら空きになる欠点がある。

 本当の意味での死活問題だ、近衛の隊長が俺に教えを乞いに来た。ユリアナとセーラの二人は、

「近衛の隊長ウコンさんは、近衛の団長、大貴族の嫡男で私達の遠い親戚にあたるから、どうか一緒に教えてあげられないか?」

と口添えしてきた。俺の作った魔法の袋の中に死蔵していた日本刀を渡してその日から居合の稽古を始めた。

 隊長がするのだからと、部下達も我も我もと始めた。それを見ていた女官達も始めたので、死蔵していた日本刀が一振り残らず無くなった。今度また作らなければならなくなった。

 後日談だが、近衛の隊長ウコンさんはカンザク王国の武道師範になって、カンザク王国を武道王国としての名を馳せさせた。


 土魔法で岩山の石材の切り出しや鉱物の分類をする。この岩山は鉱物をあまり含まないようだ。カットしても艶が無く見栄えの良くない大きいだけの岩は魔法の袋にそのまま入れていく。

 大きいだけの岩はその日の作業終わりに、城の隣に出来た大穴の中に落としていく。そんな作業だけでも半月かかった。

 カットすると艶がでて見栄えのいい岩については、色々な魔法を使って大きさをそろえてカットしていく。その作業は1ヶ月かかった。

 穴を一応塞ぎ、城の復旧工事用の木材や石材の建築資材も集まったところで、小雪が降り始めた。

 俺達三人とも湖畔の家や滝の裏の家からしばらく離れているので懐かしくなってきた。

 それに死蔵していた日本刀を、お付きの女官や近衛に渡して無くなった。

 日本刀を見た王侯貴族が立場を利用して彼らに売ってくれと言って迫ったりしているらしい。

 王侯貴族用に日本刀を造るということで王と公爵に雪の間、しばらくの間離れると言って、お付きの女官や近衛を付けられる前に半ば強引にカンザク王国を転移魔法で離れた。

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