第12話 白龍と昔懐かしい奴
王城の謁見室にはカンザク王国の王とヤマト帝国の皇太子の使節団と対峙しているところだった。
ヤマト帝国の使節団はユリアナとセーラが出奔した後、一度国に戻ったが再度来訪してきたらしい。
カンザク王国の王とヤマト帝国の使節団が対峙しているその中に俺とユリアナとセーラの三人が黒龍のダンジョンからいきなり転移で現れたのだ。
カンザク王国の王は王女のユリアナと公爵令嬢のセーラが見知らぬ男と現れたのには驚いた。俺の事は、一応冒険者予備校の試験で遠目で一度は見ているが、娘二人のこと以外は興味が無かったので全く知らないようだ。とにかく自分の二人の娘が無事に現れてほっとしている。
ヤマト帝国の豚皇太子は王女と公爵令嬢を見て、公衆の面前でもあるのにもかかわらずいきなり二人に抱き付こうとする。赤龍の加護か王女の怒りで体が燃え上がって見える。それを見て豚皇太子が慌てて後ろに下がる。
使節団の中で俺を見て変に動揺した者が二人いる。そのうちの一人、白いドレスの女が豚皇太子を守るように前に出てくる。その白いドレスの女からは黒龍や赤龍の持つ雰囲気と同じものを感じる。
俺は、それでドラゴンキラーを抜いて白いドレスの女に見せつける。
ドラゴンキラーを見て白いドレスの女が少し後退して逃げる。
『貴様、何故そのようなものを持っている。』
と言いながら、白いドレスの女は空間から3メートル程の長さの白龍の槍を取り出して脇に抱えて立つ。
俺はドラゴンキラーを魔法の袋に戻し、今度は俺の造った刃渡り3尺3寸(約1メートル)以上の大太刀を魔法の袋から抜きだす。
白いドレスの女は右手を前、左手を後ろにして白龍の槍を持ち左足を引いて構える、その足の位置を変えないで足首と膝の動きだけで突いてくる。
俺は引く勢いに合わせて前に出ると、女は白龍の槍を回して石突(槍の穂先の反対側)で股間を狙って振り上げてくる。
俺は柄頭で白龍の槍の石突を迎え撃つ
「ガツン」
という大きな音が響き渡る。
女は当たった勢いを利用して右足を引きながら白龍の槍の穂先を今度は俺の頭に振り下ろす。
俺は太刀の鎬を使って、白龍の槍を摺り上げて女の面をうつ『摺り上げ面』が決まったと思ったが、女は左に足を運んで体を開き、白龍の槍の石突を俺の右こめかみ目がけて振り込んでくる。
俺は八相に構えるようにして、白龍の槍の石突を受ける。
「バキーン」
という甲高い音と共に俺の造った太刀が中程から折れる。折れた刃が宙を舞う。
俺は体を沈めて白龍の槍の石突を避ける。女はこれ幸いと白龍の槍を回して、槍の穂先を俺の胴に向かって打ち込もうとする。
ところが折れた刃が変則な動きをしながら女に向かう、女は折れた刃を避けて大きく一歩さがって白龍の槍を構える。
俺は中程から折れた太刀を女に投げつけて、もう一振り刃渡り2尺9寸7分(約90センチ)ほどの俺の造った太刀を抜く。仕切り直しだ!
白いドレスの女は最初の構えとは逆に左手を前、右手を後ろにして頭上に白龍の槍を持ち右足を引いて構える、右手をス~ッと石突までさげる、最初と同じように足の位置を変えないで足首と膝の動きだけで頭上から突いてくる。
左手が右手のそばまでくる。槍の長さ最大限利用した突きだ。俺は体を開き白龍の槍の突きを避けると、槍の螻蛄首目がけて太刀を振り下ろし穂先を切り飛ばし、持っていた太刀を女の胸元に向かって投げつける。
女は俺が太刀を投げてくるとは思わず、白龍の槍を回して石突を俺に向けて構えているところだった。
少し対応が遅れる、女は慌てて飛んでくる太刀を石突で弾く。
その時は俺は、ドラゴンキラーを魔法の袋から出して女の胸元に飛び込んで、その勢いで右小手と左肘を切り飛ばす。
俺は女の首にドラゴンキラーを突き付ける。
首を突こうとしたところで
『白龍を殺さないで!』
と赤龍が人形で現れた。赤龍が白龍の切り飛ばした両手を取り上げ白龍に
『白龍降参しなさい。降参するなら、両手を貴方に返してあげる。ここで殺されたら貴方は再生しないのよ。どうするの?』
と尋ねると、白龍が黙ってうなずき赤龍から両手をもらい、両手を自分で繋げる。
白龍は繋げた腕から鱗を剥がしながら
『妾の降参の証として、そこなおなご、妾の力を与えよう。』
と公爵令嬢のセーラの額に鱗を投げるとその鱗が張り付き、鱗が輝きながら額の中に沈みこみ、セーラが崩れるように倒れる。
白龍が龍の姿に戻ると
『その者を起こしたければ、その者を連れて妾のダンジョンに来て妾を倒すのだ。時間は無いぞ。早く来なければ妾の鱗に取り込まれてその者は死ぬかもしれぬ、助けるにはお主が妾を倒すのじゃな。待っておるぞ。』
と言って後背にできた黒い渦に入っていく。
俺はセーラを抱くと、その黒い渦に飛び込む、俺の横をユリアナが続いて飛び込んできた。
黒い渦によって、俺はセーラを抱いたまま白龍のダンジョンの白龍の部屋に転移することができた。俺が横を見るとユリアナがいた。俺は二人の無事を確認する。
白龍が呆れたように俺達を見ている。
『無茶苦茶だな!次元の狭間に彷徨ったり、次元の
『まあ良い、ここまで来たのだ、さあ妾を殺せ。』
「その前に聞きたいことがある、12年程前に、これを持った王太子がヤマト帝国から消えた。」
と言って、俺は雷神を抜いて見せる
「本当の事を言わないなら、この雷神で貴方を真っ二つにする。これで切られると蘇るまで魂が痺れて震えるそうだ。
消えた王太子のエルフ族の母親がどこに居るのか知っているか?」
『知らぬ!本当に知らぬのじゃ!』
俺が雷神で切ろうとすると
『ま、待て、待ってくれ、実は14年程前に北の大地の魔王が妾のダンジョンにいきなり現れて、妾に勝負を挑んできたのじゃ。その時妾は魔王に破れてしまったのじゃ。命までは取られなかったが、傷を負ってしまい治るのに5年間ここで眠っていたのじゃ。それで、その間に何があったのかは何も知らないのじゃ。
ただ、今お主の持っているライジンはヤマト帝国の皇帝は盗まれたと言っていたのじゃ。
豚皇太子は、ライジンを持たなければ王太子になれないから皇太子になったと聞いている。
王太子とか皇太子とかいうが、最近はあの豚皇太子しか妾は知らないのじゃ。
当然その前にエルフ族の妃や、その子が産んだ子供がいたなど全く知らないのじゃ。信じてくれ、頼む信じて欲しいのじゃ。』
俺は雷神からドラゴンキラーに持ち替えて白龍の首を切る。白龍は泡となって消えていく、白龍の倒された跡には、白銀の鱗が二枚落ちていた。
宝箱が出現する。これも黒龍のダンジョンと同じく禍々しいものを感じる。ユリアナに開けると危険だからと言って、一晩ここで休む。
翌日セーラが目を覚ました。
俺がセーラを見ると、ユリアナの時と同様に守護神に白龍が加わり、白龍の上に立つ水の女神様が見えた。
すると今度もユリアナの時と同じで、不思議なことに、守り刀の刀装具や銀製の笄のモチーフが俺の見た白龍の上に乗る水の女神様に変わっていたのだ。
セーラが目覚めてから、セーラのステータス画面を見ると守護神の加護として「水龍の
ユリアナの守護神の加護「獄炎の輝き」やセーラの守護神の加護「水龍の顎」は戦略的な魔法で、魔力量が10億を越えると使えるようになっていた。
ユリアナとセーラの二人は、赤龍や白龍の分身を身につけ、加護をもらった事からか、以前とは全く違う雰囲気を身に纏っていた。
白龍の部屋の扉を開ける。俺達はカンザク王国の王城の謁見室にまたもや転移していた。
王城の謁見室には王とヤマト帝国の皇太子の使節団と未だに対峙しているところであった。
どうやら王城の謁見室内の時間と白龍のダンジョン内の時間とでは時間の経過が違ったようだ。白龍と俺達三人が消えてから半時も経っていないというのだ。
白龍と俺達が消えたあとに、赤龍も俺達を追うようにして消え去った。
ヤマト帝国の使節団から俺達だけが戻った事に動揺が走る。ヤマト帝国の守護龍である白龍が戻って来なかったからだ。当然白龍が倒されたと知ったからだ。
もっと動揺している奴がもう一人いる。
ヤマト帝国の使節団の中で俺を最初に見た時、変に動揺した者の二人のうちの一人、その男は俺を11年前に連れ去りボウガンで倒した正妻の弟。以前は宰相だったが、現在は副帝の五男だ⁉昔懐かしい奴だ!
奴の額には俺がボウガンで撃った穴が開いている。その穴に禍々しい気を放つ真黒な魔石が埋められているのが見える。
奴は俺を見てゾンビ化しているのがばれたと思ったのか、その場から逃げ出そうとする。俺は守り刀を抜いて奴の行く手を遮る。
奴の額の魔石が黒く輝き、俺に向けて何本もの黒い禍々しい槍が飛んでくる。
その槍を叩き落す。槍が床に落ちると
『ジュウ』『ジュ~ッ』
と石で出来た床が槍の形で溶けるではないか。
ユリアナがカンザク王国の人々を聖魔法のドームで守る。セーラが聖魔法と水魔法を合わせて聖水を創り床に落ちた槍や槍の跡を浄化していく。
セーラが聖水を奴にかける。奴が苦しみ悶える。
「グアッ、やめろ、何をするヤメロ!」
と喚きだした。奴の体が聖水で崩れ始める、崩れた皮膚から体の中の禍々しい黒いウジのようなものが何匹も蠢いているのが見える。
奴は苦し紛れに、いきなり四方八方に向けて黒い禍々しい槍を飛ばす。
カンザク王国の人々どころかヤマト帝国の使節団、誰彼問わないで攻撃をし始めた。
セーラがヤマト帝国の使節団の人々にも聖魔法のドームを創って守る。使節団の中の魔法使いの随行者が豚皇太子を聖魔法でドームを創り守っている。
黒い槍はユリアナとセーラの造った聖魔法のドームに当たると
『ジュ~ウ』『ジュ~ッ』
という音を立てて消えていく。
奴は黒い槍を放ち、城の守備兵を倒して窓を打ち砕いて、窓から城の外に飛び出した。
俺は昔懐かしい奴を追いかけて奴の破った窓から外に飛び出した。
奴の体からは黒いウジのようなものが点々と散らばって落ちている。それを浄化魔法で消し去りながら、その黒いウジを目印にして奴を城の外まで追いかけていくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます