第10話 二人の同行者

 俺は二人を連れて冒険者予備校に戻った後、何度も転移魔法を使って滝の裏の家まで戻ることにした。

 俺は中級ダンジョンで攻略報酬が初級ダンジョンの比ではないことに味をしめ、途中で見つけた中級ダンジョンを攻略しまくった。

 そのうちに中級ダンジョン10回目の攻略報酬がついて、生命力と魔力が3万を超えた。

 それでカンザク王国の王都から湖畔の家までは15回の転移で到着できた。


 魔力量が3万を超えるとステータス画面の付近地図の一辺が30キロを越えるて広すぎてカーナビと同じで内容がよくわからん。

 滝の裏の家でステータス画面の地図を見て悩んでいたら、クリフさんに『魔力を流してみろ。』と言われて、ステータス画面に魔力を流すと詳細地図が現れた。縮尺が変えられて内容がよくわかるようになった。


 湖畔の館に鍛冶小屋を造る。

 土魔法を使って鉱物の中の鉄を抽出し、鍛冶の真似事をはじめた。

 鍋や釜、農具の鋤や鍬を造る。その後、日本刀をはじめ武器や防具も造ってみる。当然、滝の裏の家にある宝物庫内には付与魔法が付いた凄い武器や防具があるが、自分で打ったものは特別である。

 スキルに鍛冶師がついたので、スキルポイントを割り振って職業欄に鍛冶師が加わった。

 今回の日本刀は刃の肌が鮮明に現れ何とも言えない凄味がある。

 切れ味抜群で刃に紙を落とすだけでスッパリと切れる。刀装具まで手が回らなかったが、柄にサーベルタイガーの革を巻き、何の飾りもない丸形の鍔をつけた。


 今度は頑張って彫金師のスキルを身に付けよう!

 最近は付近にある中級ダンジョンの攻略をしている。

 スキルポイントやアイテムそれにこの世界の通貨のギリもたくさん溜まる。

 ギリの価値が分からない、当然使う場所がないからだ、いつかは使うときがあり価値がわかるだろう。

 ただ中級ダンジョンでも、アイテムについては滝の裏の家の宝物庫の方が断然良い物が多い。魔法の袋等の特に付与魔法の付いた特殊アイテムも豊富だ。宝物庫の中にはステータス画面を表示する基となるプラスチックの板が2枚、魔法の袋と魔法の水筒が二組ずつ置いてあった。

 今後は付与魔法の付いた特殊アイテムを作ってみたいものだ。


 俺は12歳になった。

 全く行かないが冒険者予備校に入校してから2年経過したことになる。

 今日は鉱物採集、特に日本刀用に良質な砂鉄を採集して魔力をほとんど使ってしまった。

 夕食の狩りでもしようかとステータス画面の動物感知の画像を見ていると、感知画面ギリギリのところで人間を表す白色の光点が3人光りながら走っている。

 しばらくすると、その後方から赤色の見知った光点が七個追いかけている。

 サーベルタイガーの光点だ、場所はここから距離約30キロ湖のそばだ。

 今日は鉱物採集等でかなりの魔力を使ってしまった。そこまでの距離を転移魔法を使って、さらにサーベルタイガーを倒すため1回雷神魔法を使うと魔力切れを起こしそうだ。魔力回復薬をあるだけ飲んでも焼け石に水だ!


 俺の逡巡が悲劇をうんだ。三人のうちの一人がサーベルタイガーに襲われて喉を食い千切られたのだ。

 俺は慌てて転移した。残り六頭のサーベルタイガーが前を走る、俺と同じ位の歳の女の子二人を追いかけている。

 俺は、そのサーベルタイガーと女の子二人の間に転移した。

 サーベルタイガーは群れで行動することは繁殖期以外ほとんどなく、これだけのサーベルタイガーが集まるのは珍しいことだ。

 女の子二人を追いかけていた六頭のサーベルタイガーは、いきなり現れた俺に驚いてスピードを緩めながら、俺達を包囲する。


 サーベルタイガーの一頭は男性を襲って離れているので、雷神魔法の効果外にいる。

 俺はこれで、雷神魔法でサーベルタイガーを一撃すると魔力切れで倒れてしまう、その間に襲われたら等と思っていたら。男をむさぼり食っていたサーベルタイガーも俺達に向かってきた。

 チャンスだ!俺は守り刀を抜いて雷神魔法でサーベルタイガー七頭を一網打尽にする。

 急激な魔力切れで昏倒する。

 俺が助けた女の子達が俺を抱きしめる。俺は魔力切れでうつらうつらしている。

 夢か現実かわからないが、月明かりの中、二人の白い裸体のニンフが湖で水浴びをしている。薪のパチパチとはぜる音が聞こえる。二人の裸体のニンフが俺に絡みつく。ニンフの髪の良い匂いに包まれる。


 朝日が昇る、太陽が顔を照らす、両手が重い夢に見た二人のニンフが俺の腕を枕にして体に絡みついている。裸体では・・・無い、残念だ!

 二人も目を覚ます。見知った顔だ!王女のユリアナと公爵令嬢のセーラだ‼

 二人とも恥ずかしそうにして俺から離れる。

 俺は薄く煙をあげる焚火の火をおこす。魔法の袋から魔法の水筒と俺が焼いたクッキー、俺が鍛冶仕事で作った薬缶、俺が陶芸で作ったティーセットを取り出す。

 薬缶の湯が沸いたので3人でお茶にする。

 二人は魔法の袋や水筒を驚いてみている。

 手渡されたティーセットも俺が作ったものだと聞いてもっと驚いている。陶芸や鍛冶師のスキルを最大に割振って、グランドマスターの資格にしてある。

 クッキーも美味しいと喜んでくれた。実は調理師もグランドマスターの資格にしてある。もっと美味しく喜んでもらう為パティシエの資格も付けるか!


 二人はお腹も膨れて人心地したのか、俺に口々に話し始めた。その内容は

 実は二人は双子で、双子はこの世界では忌み嫌われるので、子供のいない公爵家に妹のセーラが養女となった。

 冒険者予備校にいたベックさんは俺が滝の裏の家に逃げ出した後、大金持ちの子爵の若後家さんに見初められて、逆玉の輿で二人の護衛をやめて結婚式を挙げたそうだ。今では二人の子持ちだそうだ。


 俺が冒険者予備校に入った年に、隣国の大国ヤマト帝国の皇太子が同い年の10歳になりその嫁にと、カンザク王国で美人の誉れも高い王女のユリアナと公爵令嬢のセーラのうちどちらか一人出来れば二人ともと迫られたそうだ。

 ヤマト帝国の皇太子は俺にとっては月齢で義弟になるのだ。

 12歳になった皇太子がユリアナとセーラの二人との顔合わせと称して、カンザク王国に武力外交を仕掛けてきた。

 仕方が無いので、二人であったが、でかい豚のような皇太子が強引に関係を結ぼうとしたので魔法で眠らせて逃げ出してきたのだ。


 俺がこの辺に住んでいると聞いたので近衛10名に守られて探している時にサーベルタイガーの群れに出会い、襲われている所を俺に助けてもらったのだ。

 俺はこの国の守護者である黒龍様に認められるほどの人なので、豚皇太子と結婚したくないから、二人とも俺と婚約していることにして欲しいと頼み込んだ。

 さらに、黒龍のダンジョンにいって、黒龍様にカンザク王国の後押しをして欲しいということだ。

 俺は倒したサーベルタイガーを魔法の袋に放り込む、大きなサーベルタイガーが魔法の袋に入っていく。二人はそれを見てまた目を丸くしている。

 カンザク王国の至宝として魔法の袋はあるが、これほど無限大に入るものではないそうだ。


 3人で湖畔の館を目指して歩く、二人とも楽しそうだ。

 ステータス画面に『エルフ族の二代目皇帝クリフ・ハンガード』通称クリフさんが割り込む。

『二人も嫁候補が来たなら、滝の裏の家まで見せにこい!』

というものだ。それに、ステータス画面にはクリフさん骸骨の姿でなく生前の姿で写っている。

「冬になったら連れていく。」

と通話を切る、二人が変な目で俺を見ている。


 湖畔の館に着く、ここ十年近くの間に暇に飽かせて色々なものを造ってある。牛舎や厩、サイロ3棟、元日本人だから米が食いたくて田を作り、野菜もどきの畑、果樹園、陶芸の窯、炭焼き窯、鍛冶場、大きな石造りの館、図書館、付属の体育館、武道館に弓道場、露天風呂などである。

 二人がまた変な目で俺をみている。牛舎や厩には牛1頭、馬1頭も入っていないのだ、冬寒くなったら集まって来た牛馬が寒いと可哀そうだとオンドル風の暖房まで造り、干し草を入れるサイロ等も造ってあるからだ。

 冬には仔牛を連れた母牛や仔馬を連れた母馬が避難してくると説明しても微妙な目で見られた。


 二人に人気があったのは露天風呂だ。

 早速二人で入っていた。以前鞣したサーベルタイガーの革で貫頭衣風の衣装を作り渡してあげた。二人ともそれを着ると双子だ!どちらがどちらかわからない。それで、時々俺にいたずらを仕掛けて、すり替わって怒られないようにしている。

 そのうちに二人の後ろに立っている守護神が見え始めた。

 ユリアナの方は火の女神様が守護神で、セーラの方が水の女神様が守護神だ。それで、どちらがいたずらを仕掛けたか分かるようになった。

 俺が注意していれば引っ掛からない程度のいたずらなので大目に見よう。

 二人とも全魔法が使えるが、蝶よ花よと育てられたためなのだろう。魔力量が全くない!体力もない!

 俺と違って、この世界の普通の子供が魔法を使えるようになる6歳から魔法を使い始め、魔力量はこんなものだと思っている。

 早速、俺達三人で岩山に歩いて行き土魔法で岩を切り出し、いろいろな魔法で岩のレンガを切って見せる。

 二人とも色々魔法を試している。

 俺は別の岩を切り出し、岩のレンガを作っていく。

 小一時間レンガを作り二人の様子を見ると、二人とも魔力切れで目を回してひっくり返っている。二人を転移魔法で湖畔の家に転移してベットに寝かす。

 もう一度転移してレンガを作る。俺も魔力切れ寸前で湖畔の家に戻り、夕食を作り、二人を無理に起こして夕食を食べさせる。風呂にはいって寝る。


 朝起きると、いつものとおり道場内の打ち込み台に向かって打ち込みを行い、居合を抜く。

 道場の入り口から視線を感じる。頭が二つ縦に並んで見える。

 二人を呼んで木刀を振らせる。木刀の握り方が悪い、鍔に密着させ、強くいわゆる鷲掴みで握っている為、動きが固くなり公園の遊具のシーソーのような動きになってしまった。木刀も少し重すぎるのと柄の長さが長すぎるのも問題だ。


無駄話だが、子供の剣道を指導した時、親が自分の体に合わせて竹刀を買い与えるので、柄が長すぎ右手に力が入りすぎ打突が上手くいかない。子供の体に合わせて買ってあげないと。閑話休題。


 俺は翌日の朝までに、比較的細くて軽い木をつかい柄の長さを短くした二人の木刀を作った。

 二人にその木刀を渡しながら、木刀を持つときは鍔に密着させないで右手の人差し指が軽く鍔に触れるようにして振るように指導して、俺も木刀を持って振って見せてから、二人に木刀を振らせてみる。

 いわゆる手の内が柔らかくなり振りがスムーズになったら動きも良くなった。

 二人の頭を撫でる。二人がまた変な目で俺をみている。

 しまった!俺は今は二人と同じ12歳だ、前世からの実質年齢72歳で孫を見る目で頭を撫でてしまった。


 その後は、重い小手や脛当て鎧を付けて湖畔の家の周りを5周軽く走った。二人とも付いて来なくてもいいのに赤い顔をしてついて来た。

 一辺250メートル、一周1キロ、今まで御淑やかに生活してきたお姫様が2週も頑張って走った。

 偉い偉いと頭を撫でかけて、二人がまた変な目で俺をみている。

 軽く風呂で汗を流す。二人が風呂に乱入する。俺が逃げ出すと風呂場から黄色い嬌声が聞こえてきた。


 午前中鍛冶場に行き、二人のための守り刀を打つことにする。ユリアナの方は火の女神様が守護神で、セーラの方が水の女神様が守護神付にするつもりだ。

 鍛冶場の入り口から視線を感じる。頭が二つ縦に並んで見える。俺が怒っていると思ったのか、二人の目が捨てられた犬や猫のようにオドオドしている。

 丁度区切りが良いところで一服しようと思っていたので二人を呼ぶ。二人が喜んで鍛冶場に入ってくる。三人で丸く作った作業台でお茶にする。


 二人に何か作って欲しい物が無いか聞いてみる。「特にありません。」と言っていたが、長い髪を纏めるこうがいを作る。笄の頭をイチョウの葉の形で二本足にする。

 鉄の笄なので魔法も使ってすぐにできた。それを二人に一応渡した。二人は初めてのプレゼントだと喜んでいた。

 そんなにも喜ぶならと二人に隠れて銀製の笄を作り、イチョウ部分にユリアナには火の女神を、セーラには水の女神を彫金して金を埋める。

 一週間後、魔力切れで昏倒した二人のベットの枕元に銀の笄を箱に入れてそっと置いておいた。朝二人の歓声が聞こえ道場に来た時二人とも銀の笄を差していた。

 二人は鉄の笄はその箱の中に入れて大事に持っている。


 しばらくすると雪が降り始めた、二人には雪解け後に黒龍山に行き黒龍様に会う事にすると伝える。

 二人は雪が降ると本当に、仔馬や仔牛を連れた母馬や母牛が馬小屋や牛小屋に入っているのを見て驚いている。

 雪が降っている間に、二人の守り刀を作る。付与魔法を付けたものにする。刀身が出来たところで、クリフさんに付与魔法の付け方を教えてもらう為、二人を俺の最大の秘密である滝の裏の家に連れていく。俺の一生のパーティー、二人の同行者が出来たのだ。

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